美しくも変態気味な王子様と、愛らしくも破天荒なお姫様が巡り会い、結ばれ、めでたしめでたし・・・とはいかず、
乗り越えなくてはならない大きな問題が発覚し2人の前に壁のように立ち塞がったのです。
それはお式の日からかぞえて5日、
新婚初夜はカガリ姫がお先にグースカピーと寝てしまい、
「そうか・・・いろいろあって疲れてるんだよな・・・」
と寛大な心で膨れ上がった下心を押し込め、「・・・おかわりぃ」と、寝言をいう可愛らしい唇に小さなキスを落として・・・
なんて夜を繰り返す事4度、
もはや寛大とゆーよりただのへタレなだけがしてきたそんな結婚5日目のことだったのです。
その日、昼食を取り終えた二人は広大な中庭を散策されておりました。
先に庭に出たいと仰ったのはカガリ姫のほうです。
こんな広い公園のような中庭は初めてで、そこはまるで彼女にとって子供の遊び場のような楽園でした。
幼子のようにくるくるとはしゃぎまわり、キラキラしたその瞳を、アスラン王子は愛しそうに見つめながら
・・・今夜こそは・・・!
と煮えたぎるご決意を固められたその時ーーー
「あ!おかーさんだ!!」
「え?」
カガリ姫がお母さん、と呼んだ先にいた女性は、王子の母親でも、ましてやカガリの母親でもありません。
そこにいたのは長年ザラ王族に仕えてきた侍女のエリカ・シモンズでした。
「あら、こんにちはアスラン王子、カガリ様」
かけよった王子と姫ににこやかに挨拶をするエリカ。
エリカの名誉のために言っておきますが、彼女がカガリ姫に「おかーさん」と呼ばれたその理由、
それはカガリ姫の母親くらいの年齢というわけでもなく、ましてや老けてるわけでもございません。
ではなぜカガリが「おかーさん!」と呼んだのか・・・それは・・・
「おっきなおなかだなぁ〜」
そう、彼女のお腹の中には小さな命が宿っていたのです。
男性であるアスラン王子はこの話題は気恥ずかしくもあり少し照れを感じながらも、
「も、もうすぐ生まれそうですね・・・」
なんてありきたりな会話で話題にのっかかろうと必死です。
さすがにそのお腹に触れることはできませんでしたが。
一方のカガリ様は遠慮なくエリカのふっくらしたお腹に嬉しそうに手を当てたり、耳を当てたりしていました。
そして何気なく一言、口にしたのです。
「いいな〜、私もいつか赤ちゃんとこんな大きな庭で遊びたいなぁ」
「!」
その言葉には、妊婦のエリカよりも彼女の夫であるアスラン王子のほうが先に反応してしまいました。
今、カガリは間違いなく子供がほしいと言ってくれたのです。
未だ手を繋ぐ事すらままならないというか、そういう雰囲気にさえならないことをほんのちょっぴり心配していた王子にとってこの発言は大歓迎すべきものでした。
「まぁ、でしたらアスラン王子、がんばらなくてはいけませんわね〜、ふふ」
含みをもたせ微笑むエリカに王子は頭をかきながら照れ笑いで答えます。
「では、わたしはお邪魔のようですので・・これで失礼しますわ」
「またなエリカー!」
元気よくお別れの挨拶をするカガリ様。
そんな愛らしい彼女を見てエリカは微笑み丁寧に頭をさげて2人のもとから去っていきました。
その場に残された、王子と姫。
二人きりになったことで、アスラン王子は少し勇気をだしてみることにしました。
その愛らしい小さな手を握ってみることにしたのです。
どんな大きな進歩だって、こんな小さな一歩から全てが始まるのです。
そうっと、そうっと・・・彼女の指先に、自分の指先が触れました。
「ん?なんだアスラン。」
イヤがる様子もなくニコニコと自然に受け入れてくれたカガリ姫にほっとしながら、絡めとるように・・・そっと優しく手をとります。
「子供みたいだなアスラン」
そう言い、まるで母親のようにカガリ姫はその手を握り返しました。
「カガリ・・・」
甘い甘い雰囲気です。
もう自分は、赤ん坊でもいい。
ーーー子供みたいだな、って君が言ったから七月×日は赤ちゃん記念日ーーー
王子の頭は例年の暑さにより沸騰中でした。
「でも、ほんっといいよな〜赤ちゃん!」
「あ、あ、あ、あ、あぁ・・・!」
先ほどから奥手なアスラン王子がドギマギしてしまうような話題が続いて、姫と目が合わせられません。
それはさり気ない夜のお誘いなのだろうか・・と年頃の王子は弥が上にも期待に満ちた瞳になってしまうので、
そんな煩悩を悟られたくないためにカガリ姫を直視することができないのです。
この国の王子様は、ほんのり愛らしい誘惑にも弱い純粋で可愛らしい方でした。
そして・・その妻となった姫君ももちろん、王子に負けず純粋で可愛らしい方なのです。
「赤ちゃん、作ろうな!」
「!!(キタ!!これは間違いない!!!)」
それはもう可愛くて可愛くてたまらないお誘い。王子はすっかりその気になりました。
さすがにこの場で押し倒す!なんて行為を紳士である王子がするはずもありませんが、
(少し考えてしまったのは許してあげてください)
お世継ぎは国民全てが待ち望んでいるものでもありますし・・・
いいえ、そんなことは関係なく、彼女との関係をさらに一歩進められることが、とても嬉しくてたまらなかったのです。
王子はそっと繋いでいた柔らかな手を、今度はしっかりと握り締めます。
「ふふふ」
可愛らしく笑ってくれたその唇を奪ってしまおうかと、一瞬考えたアスラン王子。
しかし・・・姫はその次に耳を疑いたくなるような一言を口にしたのです。
シンデレラ 番外編
〜めでたしめでたしのその後〜
ちょうどその頃・・・
カガリ姫の実兄キラとその妻ラクスは、午後のティータイムを優雅に過ごしているところでございました。
この2人はカガリ姫が嫁いだその日からまるで花嫁道具一式にまじるかのようにこの屋敷に乗り込んできたのです。
最初は姑のように2人の仲を邪魔されるのではないかと危惧していた王子でしたが、
この2人は邪魔するどころか、邪魔すんな、とばかりに屋敷の中でも大きな部屋を選んで住みつき、日々いちゃいちゃしていたのであります。
人畜無害でしたので、アスラン王子も2人には構わず近寄らず、触らぬ夫婦に祟りなしとばかりに距離を置いていたのですが・・・
「きぃぃいいぃぃらぁぁぁああああ!!!!!!」
今日だけは違いました。
2人のもとへ、先ほどの和やかな笑顔とは全く違う、鬼の形相をされたアスラン王子が突入してきたのです。
部屋の扉は大きな音をたてて開きました。
そんな王子を見て、突然のことであったものの驚く様子もなく、ラクスは彼に言い放ちました。
「ちょうどよかったですわ。お茶のおかわりお願いします」
王子は執事ですか。
このラクスという女性は美しく聡明ではありますが、何を考えているのかさっぱりわからない人でもあり、王子は苦手としていたのです。
しかし、今の王子はなんだかいつもと様子が違います。
つかつかと部屋の中へ入っていき、いきなりキラに掴みかかりました。
「ちょ、ちょ・・・!家賃なんて払わないからね!僕ニートだし!!」
どうやら家賃の取りたてと思われているようです。
いいえ・・・違います。アスラン王子はそんなことで怒っているのではありません。
けれどそんなことを知らないキラはわなわなと震えている手を払いのけました。生粋の女好きのキラにとって男に馴れ馴れしく触れられるのは気持ち悪いだけのです。
「もー意味わかんないよ!ちゃんと説明してよ!家賃はビタ一文払えないからね!ニートを舐めないで!」
どこからこの自信はでてくるのでしょうか。
アスラン王子は自分を落ちつかせるかのように、大きく深呼吸しました。そして・・・
先ほどおきた恐ろしいできごとを思いだしながら重々しくもゆっくりと口を開いたのです。
「・・・さっき、カガリと中庭を散歩していたんだ」
「あらまぁ、仲がおよろしいのですわね」
「・・・・・・そう、あの瞬間までは間違い無く俺とカガリの全てが順風満帆だったんだ・・・」
「「?」」
「早く子供がほしいね、ってそんな話をしてて・・・・・・」
〜王子の回想〜
王子はそっと繋いでいた柔らかな手を、今度はしっかりと握り締めます。
「ふふふ」
可愛らしく笑ってくれたその唇を奪ってしまおうかと、一瞬考えたアスラン王子。
しかし・・・姫はその次に耳を疑いたくなるような一言を口にしたのです。
「赤ちゃんできますよーに!サンタさんにお願いしなきゃな!」
「・・・・・ん?」
サンタさん?産婆さんならなんとなく意味がわかるんだが・・・なんて王子は頭の片隅で考えました。
まさか・・・ふっと涌き出た疑問、いいえ不安がいきなり胸につっかかります。
「か、カガリ・・・あのさ、まさかコウノトリが運んでくる・・・とか言わないよな?」
「おまえ私をバカにしてるのか!?コウノトリがどうやって運んでくるんだっ」
「・・・そ、そうだよな〜!」
少しほっとしました。さすがに今時、コウノトリが運んでくるなんて本気で信じてる人なんでいないでしょう。
でもまだ不安が取り除かれたわけではありません。
熱く甘い夜のためにも、こんなモヤモヤした気分はどこかに置いていかなければ。
王子は、カガリの知力(失礼)を確かめるため、少し乱暴ではありましたが彼女の両肩を両手で掴み、まるで襲いかからんばかりに彼女に問いました。
「カガリ・・・1+1は?」
「2だ!」
「3×5は?」
「じゅ、じゅうご!」
「太陽は東西南北どっちから昇る?」
「・・・・・・・・・・・・・・・に・・あ、いや・・ひ、ひがし・・・かな・・・?」
なんとか、生きてく上での知識は身につけているようです(失礼)。
さぁ本題はここからです。
「じゃあ・・・赤ん坊はどうやってできる?」
「そんなの決まってる!!!」
カガリ姫は王子の手を払いのけました。そしてふんぞり返るように大きな声で元気よく、
それはもう正しい答えはこれしかないと自信をもって答えたのです。
「ベッドに靴下ぶらせげておくんだ!サンタさんはなんでも叶えてくれるんだぞ!
子供たちをプレゼントしてくれるって言うじゃないか!!」
姫、それを言うなら子供たちへ、ですよ。
「う、うそだろ・・・」
「ほんとだ!ふふふ、アスラン知らなかったんだな〜!」
王子を絶望に落としたことも気付かず、姫はいつもの笑顔に戻っていました。
「・・・そ、そ、そ、そんな・・・まさか・・・・・・」
はい。その、まさかです。
「さいしょは男のコかなぁ〜!いっぺんに5人くらいお願いしてみるか〜!あはははは!!!」
カガリ姫は子供の作り方をまっっっっっっっっっったく、これっっっっっっっっっっっっっぽっちも知らなかったのでした。
「う、う、うそだーーーーーーーーー!!!!!!!!」
〜王子の回想、おわり。〜
「ということがあってだな・・・」
「あ、ラクス、そのお菓子おいしそー」
「はいはい、キラ、あーんしてくださいませ」
「あーん」
「聞けよおまえら!!!!!」
いちゃいちゃし始めた夫婦2人の間にはいって王子は叫びました。
本当は王子だって・・・今頃こうだったのです。
お部屋でおやつを食べさせあいっこしながら時折ちゅっちゅちゅっちゅして、抱きしめまたちゅっちゅちゅっちゅちゅして・・・
そんな淡くてもはっきりくっきり鮮明なビジョンを思い浮かべていたのに、どうしたことでしょう。
カガリ姫の一言によって、彼女がまだとてつもなく子供だったことに気付いたのです。
「あぁ・・・これじゃ、なんにも知らない少女を、財力と家柄とルックスと性格のよさで無理やり嫁にしたみたいじゃないか!!」
「自意識過剰な男って鬱陶しいですわね、うふふ」
ラクスは微笑みましたが、どこか恐ろしい笑顔でした。
落ち込んでるアスラン王子を気遣うでもなくキラはタルトを食べるのに使っていたフォークを手で弄びながら呟きました。
「だから僕、言ったでしょー。カガリに結婚はまだ早いって」
たしかに実兄であるキラはそう言っていたのです。
カガリはまだまだ子供で、結婚など早すぎると。
しかしキラも、可愛いカガリの子供、カガリ似の姪っこ(希望)を見るために王子との結婚を許した一人でもあります。
ふと、気になりました。
「というか・・・さ・・・君、あんな可愛い子といっしょに寝ておきながら、なんにも進展してなかったの・・・?」
「う・・・っっ」
図星をさされ返す言葉がありません。
結婚して早5日。もう、とっくに可愛い妹は一人前の女になったとばかり思っていたキラは若干青褪めながら、信じられないといったような軽蔑したようなそんな視線を彼に向けました。
「まさか・・びょ」
「いたって正常だ!!!!!!」
力強く言い返します。
今度はラクスが眉をひそめました。
「アスラン王子・・・わたくし同性愛者はいてもいいと思ってますの。でも偽装結婚はよくないですわ」
「違う!!!!!!!!」
愛ある結婚だ、とばかりに王子は一層力強く言い返しました。
「そもそも!キラ、君はカガリの保護者だったんだろう!?」
「そうだけど・・・」
責任転嫁、ではありませんが、やはり今までカガリ姫に人生の全てを教えるべきたった人物はこの人しかいないのです。
ひょうひょうとおちゃらけてばかりいても彼も保護者であるとして自負しているのならば、それなりの責任があるはずです。
「だったら君が、責任をもって生命の神秘とその過程を教えるべきでないのかッ!?」
「あんなアホなコがそんなものを理解できると君は思っているの!!??」
「思わないさ!!!!!!!!」
カガリ姫、ひどい言われようであります。
「王子、キラは無類の女好き。女性に教える時は実地訓練のみですわ」
こちらも容赦ないです。
ある意味、こちらの夫婦のほうが愛があるのか疑問に思ってしまうほどであります。
夫婦の形は色々あるのだと、王子はまた1つどうでもいいことを学びました。
・・・いいえ・・・今は他所の夫婦のことなどどうでもいいのです。
問題は、大問題はこっちなのですから。
「あぁ・・どうすればいいんだ・・どうすれば・・っ」
経験値のない優しい王子は、なんにも知らない少女を押し倒して無理やり事に及ぶなんてことできませんでした。
キラはタルトを食べながら言います。
「べっつにいいじゃないの〜。ヤッちゃえば」
可愛い妹を守るためなら害虫は駆除すべきではありますが、大きな屋敷の大きな部屋の住み心地が最高だったため、
何より可愛いカガリの子供、カガリ似の姪っこ(希望)に少しでも早く出会いたいキラは、今はアスランの味方。
「ダメですわ、キラ。最初は優しくしてあげなければ」
強引な展開をオススメする夫に、ラクスは穏やかに反論します。
キラがしゅんとして反省したのを確認してから、ラクスはアスラン王子に向き直りました。
「アスラン王子・・・2人の間に真実の愛があるのならば、どんなことも乗り越えられるはずです」
「乗り越えられる・・・?」
「えぇ」
ラクスは聖母のように頷きます。
その姿は、いままで彼女は何を考えているかわからない美しいけど恐ろしい女性だと思っていたアスラン王子の彼女に対する考えを改めさせたほどです。
「カガリさんだって、もう立派なステキな女性なのですから、王子、2人の愛が本物かどうか確かめるチャンスと思えばいいのですわ」
「2人の、愛・・・」
愛を問われ、アスラン王子はカガリ姫を思い浮かべました。
彼の頭の、心の中で、いつも姫は太陽のように笑っていました。
怒ったり泣いたり、思いっきり笑ったり、いつも中庭を走りまわって、とてもお姫様と呼べるような言動の女性ではなくても・・・
王子にとって唯一の姫君だったのです。
アスラン王子はカガリ姫を誰よりも愛していました。
愛がある。だからこそ我慢した夜もあり、結ばれたいと願う気持ちがあるのです。
「わかりました・・・ありがとうございます、ラクス!」
王子は、勇気を振り絞りこの問題を乗り越えることにしたのです。
そうです、何事も一歩から。その一歩を踏み出せなければ永遠に2人の絆が深くなることなどないのです。
カガリも、もしかしたら・・・もしかしたら、ただ恥ずかしがってあんなことを言っただけなのかも、と。
もちろんもしかしたら、もしかしたらの話ではありますが、カガリ姫のことですから、そんなことは絶対ありえないとも思うのですが、
とにかくもしかしたら、と淡い期待だけは持っておくことにしたのです。
たとえ・・・彼女がなにも知らない子供であったとしても、
ラクスが言った通り、愛し合っているのなら2人力を合わせ乗り越えてくれるのだと信じてみることにしました。
「カガリ・・・待っていてくれ・・・!!」
決戦は今夜。
はたして、王子と姫は一歩を踏みだし、真の夫婦となられるのでしょうか・・・?
マリュ−さんに読んでもらってください。↓
予告
アスランはついに自らの意思でカガリを襲う。
だが彼の思惑も知らない天然のカガリが次の惨劇を生むのだった。
次回 『男の戦い』
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