幸せ

 

 

 

 

 

特別な日のロールキャベツは、いつもより各段に美味しくしたい。
どんなものを食べても美味しいと言って笑ってくれる旦那様だし、
いつだって彼のために作る料理は手抜きなどせず頑張って作るのだけれど、今日はより気合をいれて。

「・・・・ん、よし!」
ロールキャベツを美味しく煮込んでくれているスープを味見したところで、カガリは鍋の火を止めた。
時刻はもうすぐ17時。
アスランは昨日の朝から帰ってきていない。

それはもちろん夫の浮気疑惑や夫婦の危機などではなく、
昨日の夕方、急遽泊まり込みの仕事が入ってしまったからだ。
仕事関係の事は悔しいことにカガリには全然わからないのだが、
電話の向こう側のアスランの慌てぶりからして何か重大な事があったらしい。
寂しいから帰ってきてなんて言えるはずもなく、カガリは努めて明るく振舞った。


何も土曜日まで仕事に駆り出されることもないのに・・・何より今日この日に呼び出されるなんて・・・。

そう、大好きなアスランの誕生日に、だ。

今更愚痴を言ってもしょうがないのだが、妻として言いたいことはたくさんある。
でも言えない・・・それもやっぱり、妻として。
我慢しなくちゃいけないこともあるのだと、結婚してから知った。


仕事の邪魔をしてはいけないからと、電話は手短に、用件だけの寂しいものになってしまった。
本当は昨日の夜、ちょうど0時を見計らって「おめでとう」と伝えて抱きしめて・・・
自分から誘惑を仕掛けるつもりだったのだ。
こういう時のために用意しておいた下着も無駄になってしまい恥ずかしさと切なさだけが残ってしまう。
こんな寂しい時間を紛らわせるために、自分も何か手に職を持つべきかと真剣に悩んだりもしたが、
彼が帰ってくるこの家で、温かい料理を用意して待っていたい気持ちのほうが強いのだ。

何よりも、そんな自分を見て喜んで微笑んでくれる彼が見たくてしょうがない。
結局は自分の我侭だな、と答えをだしてカガリはエプロンを外した。

 

外したエプロンのせいで少し身体が軽くなった気がする。
それとも、この感覚は「これ」のせいか・・・・と、カガリは短いスカートの裾を摘んでみる。
カガリが身につけていたものは、シンプルなデニムのミニスカートだった。
1週間前、下着と一緒に通信販売で購入したものである。
自分で自分の腰を触りながら手を下げていく。ラインがはっきりしてるのが恥ずかしい。
スカートをはいたことはないわけではない。
首長家に居た時にはドレスのひらひらした裾を軽やかに翻して歩いていた。
でもこんなに短いスカートは初めてだ。
足元がスースーするし、自意識過剰なまでに誰かに見られてる気がする。
こんな格好で外を歩いてる女性は恥ずかしくないのだろうかとも思ってしまうほどだ。

「外では無理だな・・・」

可愛い格好をしてアスランと隣同士並んで歩きたい気もするけれど、
このスカートだけはアスラン限定にしておこうとカガリは決める。
カガリの行動全てが彼のためのものだということには自分で気付いてはいないけれど。
もちろん、今日の下着もアスランが好きそうな可愛いものを選んだのだ。
本当は、裸エプロンなんてものとどちらにしようか悩んだのだが、
帰る時間がはっきりしないのに裸で待っているなんて、
もし他の誰かがやってきたらと考えるとカガリにはどうしても挑戦できなかったのだ。

でもいつか必ずやってあげようと心に決めているあたり、やはり彼女は彼に甘かった。

 

 


時刻が18時に近づいてくるほどに、カガリはそわそわしてきた。
料理は温めるだけだし、自分の心構えはできている。
あとは旦那様の帰りを待つだけなのだ。
まだ少しだけ短いスカートが恥ずかしいけれど、今はもうその恥ずかしさのせいで心臓が鳴ってるんじゃなく、
大好きなアスランのことを思い出してはドキドキさせてしまっている。

そんな時、玄関のチャイムが鳴った。
「・・・・・・アスランだ!」
ドキドキしていた心臓が、彼の帰りを知らせる音で一段と大きく鳴る。
外で待っているはずのアスランのもとへ、
カガリは無用心なことにチャイムを鳴らした相手を確かめさえもせずに飛び出すように玄関へ向かった。

「お疲れ様アスラン!おかえり!」
「ただいま、カガリ・・・!」

扉を開けて目の前に居たのはやはり首を長くして待ち焦がれていた、アスラン。
カガリの顔が嬉しさでさらに明るさを増す。そしてアスランもカガリを見て頬を緩める。
お帰りとただいまを言いながら抱きしめ合うのが二人の日課。
勢いよく飛びついてくるカガリを足元を踏みしめて受け止めるアスランも慣れたものだ。
ちょっと苦しいくらいに自分の身体をぎゅっと抱きしめてくれるこの瞬間が互いに一番安らげる。
そして今日はカガリにはもう1つ言わなくてはいけないことがある。

「アスラン、お誕生日おめでとう!」

飛びついて彼の首にぎゅっと回していた腕を離すと、アスランの顔を見て言った。
「ありがとう」
それにアスランは笑顔とキスといっしょに言葉を返す。
いつもはここで玄関先の戯れは終わりなのに、今日は特別な日だからとカガリも踵を上げてアスランにキスをした。
カガリがアスランの唇へ重ねていた自分の唇を離す時にちゅ、と小さな可愛らしい音が鳴る。

「・・・・・・カガリ・・・」
「まずは最初のプレゼント!」
「・・・・・・もう一回・・・ね?」

突然の小さくて嬉しいプレゼントにアスランはもう1度とねだってみる。
滅多にこんな事をしてくれない妻だから、少し怒られたりするかなともアスランは思ったが、
カガリは頬を染めながら上目遣いにアスランに言う。
「・・・・まず、玄関のドアを閉めたらなっ」
「わかった」
怒られはしなかったけれど、意地っ張りで照れ屋な部分は見せてくれた。
アスランはドアを閉めて鍵をかけると、カガリがキスしやすいように顔を近づける。
そして瞳を瞑った。

「・・・・・ほら。閉めたよ?」
「ん」

こくりとカガリは頷いて、近づけてくれたアスランの両頬に自分の両手を添えた。
長い睫が綺麗で、うっとりとずっと見つめていたいけれど、やっぱりキスがしたい。
カガリは桃色の唇をアスランの唇へ寄せた。

「・・・・・ん・・」

重ね合わせていると、アスランが小さく唇を開いてくれているのに気付く。
まるで、舌をいれてと言わんばかりのように。
だからカガリは迷うことなく、アスランの唇を割って自分の小さな舌を彼の口内へ差し込んだ。
アスランの舌を自分の舌で覆ってみる。
恥ずかしさはある。けれどもっともっと繋がっていたいと、カガリ自身が強く感じたのだ。
舌を伝ってアスランの唾液がこちら側へ流れ込んできた。それも飲み干して・・・カガリはキスに溺れた。
いつのまにかアスランに唇を奪われているということには気付かないまま、唇を重ね合わせ続ける。
少し離れても、また奪い返される。甘くてこのまま溶けてしまいそうだ。

アスランは身体が熱くなるのを感じ、自分からそっと唇を離した。

「・・・・はぁ・・・」

長く甘いキスが終わった。とろんとした瞳でこちらを見ているカガリ。
そんな表情を見せられていると、また奪いたくなるがぐっと堪える。
「カガリ・・・息の仕方うまくなったね」
「・・・・・・お、おまえが教えるから・・・っ」
真っ赤になった頬に、わずかな涙が流れている。
その涙を拭ってあげようとアスランが頬に触れようした時、手が止まってしまった。

「・・・・アスラン・・・?」

彼の不思議な行動にカガリは首を傾げる。
どうしたんだと聞く前に、彼が自分の脚を見ていることに気付いて・・・カガリは自分の今の格好を思い出した。
「わ、わわ!」
慌てて両手を使って裾を下に引っ張る。
デニム生地のせいもあり引っ張ったところで伸びやしないからそれは無意味な行動に終わるのだが、
なんとなく隠せている気分だ。でも恥ずかしい。
自分から着ておきながら、しかも見られることをわかっていながらミニスカートをはいているというのに、
いざアスランを前にすると、どうしようもないほどの羞恥心がカガリを襲う。


「どうしたの・・・これ?」
愛妻の珍しい格好に、アスランも次第に赤くなっていく。
「・・・・・・着てみた。似合わない・・か・・・?」
脚を自分の手で隠したまま、前屈みの上目遣い。潤んだ瞳に赤い頬。
あぁ、もうダメだ。とアスランは自分の手で額を覆い瞳を瞑る。
「・・・・・・・・かわいすぎ・・・」
「へ?」
カガリがまぬけ声を返すのと同時に、アスランの腕がカガリに伸びてきた。

「きゃ・・・!」

小さな鳴き声も気にせずそのままその腕と手を腰にまわし、引き寄せる。
片手だけ背中に回してバランスを取った。
「・・・・可愛い・・・」
「あ、アスラン・・・!」
「これ・・・誘ってる・・・?」
「ひゃ・・!」
アスランの、カガリの腰に回していた手が、すっとスカートから伸びている足へ降りた。
素肌を大きな手に触れられる感覚に、カガリは甘い声をあげ肩を震わせたが、
その間もずっと、アスランは太ももを撫で続けている。
「ねぇ・・・カガリ・・・誘ってるのか?」
「・・・・・あ・・・や・・・そのぉ・・!ちが・・んっ」
違う、と言おうとしたカガリの唇を、アスランは塞いで先ほどの口付け以上の激しい時間を与える。
唇はもちろん、太ももを摩り続けるアスランの手に思いきり感じてしまっているカガリは、抵抗する気さえ起こらない。
されるがままにその身を委ねていた。
それに気をよくしたアスランも、先ほどのカガリのように舌をねじ込ませて全て奪う。
いったいどれくらいそのキスに溺れていたのか・・・。


「・・・・・・・っ・・・。気持ちいいね」

「バ、バカ・・・・っ」


濡れた唇のままアスランが言った言葉に、カガリはどきりとする。
本当は私も気持ちよかったと伝えることができたら1番なのだが・・・
・・・生憎こういう事に関しては素直になれない意地っ張りなのだ。
それでも最後の勇気を振り絞って、正直な気持ちを暴露してみる。

「あの・・さ・・・」
「ん?」
アスランの瞳が優しくなって、カガリを温かく熱い視線で包み込む。
「その・・・」
「何?」
どこまでも自分には優しい彼に、カガリは甘い視線を受け止めながら言った。

「・・・・・・ホントは・・・ちょっとだけ・・その・・・・誘ってる・・・っ」

言うだけ言うと、ぱっと顔を逸らす。
あぁ、きっと耳まで赤い。どうしよう。恥ずかしい。


「カガリ・・・・」
「・・・!」
耳に唇が触れるか触れないかの距離で、カガリの苦手な大好きな声で囁かれ、
ぴくりと身体が反応してしまった。
そのまま耳朶を甘く噛まれてまた震える。
アスランの舌が耳を捉えたまま、囁く。


「・・・・・シャワー浴びたいんだ。一緒に入ってくれるよね?」


拒否の言葉なんてあるわけない。


「・・・・・・・・うん・・・」


その言葉が合図で、カガリの身体が宙に浮いた。アスランが横向きに抱き上げたのだ。
このアスランの行動はいつもの事で、それはアスランが玄関先で彼女を受け止めるのと同じくらいカガリにも慣れたもの。
お返しとばかりに、抱き上げられたままシャワールームに連れていかれるカガリは素敵な旦那様の耳元に唇を寄せる。

「・・・今日はアスランがしたいこと、いっぱいしような?」

特別な日は喜んでもらいたい。愛してあげたい。
いつも恥ずかしがり屋で照れ屋な可愛い妻も、旦那様の腕の中で素直になる日。


「それじゃ、まずはこの格好で、1度、ね?」

「えぇ!?」


驚きながらも、彼の真剣で甘い眼差しにカガリは観念して首を縦に降った。
どうやら誘惑は効いたようだ。それが嬉しくて顔がにやけてしまう。

 

そんな真っ赤な顔に何度も口付けを受けて、今日最初のカガリ自身という贈り物はバスルームの脱衣所で。
その後は甘い嬌声がシャワールームから響くのだった。

 

 

 

 

 

 

 

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