ラクスに誘われたデートは、実に楽しく気分転換になった。
家で留守番のキラを思えば、ラクスを1人占めして申し訳ない気もあるが・・・
もやもやと曇り空だった自分の心は、今日の空のように晴れている。

カガリもラクスも、街にある巨大な看板に写っているモデルの女性達よりもずっと愛らしく美しいため、
1歩歩くたびに男性のみならず女性までもが振り返るが、
それにも気付かず二人は世間話に花を咲かせて足取りも軽く街中を歩いていた。

 

 

目に止まった大型スーパー店内に入り、夕食を何にするか2人して悩んでいた時、
「キラにお土産買わなくちゃな」
と、お菓子コーナーでカガリがチョコ菓子であるラッコのマーチを手に取りそう言うと、ラクスは笑い出した。
子供へのお土産みたいなそのお菓子も、キラが手にして喜ぶ姿が簡単に想像できたからだ。

「えと・・・それじゃアスランには・・・あ!」

お菓子コーナーを物色し始めたカガリが、今自分が口にした言葉を慌てて遮るように口元を抑えた。
そしてその手で抑え込んだまま、ちらりとラクスを見てみると、彼女はただ静かに微笑んでいる。

「アスランには、何にいたしましょう?」
「・・・」

なんともバツが悪いような雰囲気で、でもそんな風に感じてるのは自分だけだとカガリは思う。

 

「い、いいよ・・・!アスランには・・・っ。もう、行こう・・・!」

 

ラクスの華奢な手をとって引っ張り、お菓子コーナーから脱出した。

 

なんだかいつでも自分がアスランのことを考えているみたいで恥ずかしい。
いや、いつも考えてしまっているからそれがばれてしまうのが恥ずかしい。
その上自分から家を飛び出したくせに、もう彼に会いたくなってしまっていることに気付かれてしまうのが・・・
恥ずかしくて恥ずかしくてたまらないのだ。

「ゆ、夕食!な、何にする・・・!?」

「そうですわね〜・・・」

慌てて話題転換したのだが、ラクスは気にもとめずにカガリの言葉に今夜の食事を何にするかと思案し始める。
それにほっとしてカガリは、またいつも通りに他愛もない話をはじめるのだった。

 

そして夕食はビーフシチューに決定した。

会計を終えた後、2人で店のビニール袋につめた材料たち。
カガリは重い物をさっと自分が持って軽いものをカガリはラクスに手渡した。

「ありがとうございます」

こっちが軽いんだぞ、なんて言わなかったのにラクスはカガリに丁寧にお礼を述べる。
互いの優しさが心地よかった。

 

 

軽いほうのその買い物袋の中には、桃が2個入っている。
デザートにする果物は何がいいですか?とラクスに聞かれた時、カガリは迷わずこれを選んでしまった。
「何か」を考えていたわけでないのに、自然とそれを選んでしまったのだ。

 

アスランの、スキなもの。

 

はっとそれに気付いてしまった時、やはり違うのにしようとも言おうかと思ったが、
選んだ自分がそんなことを言ってしまうのも可笑しくて、
何よりそれをわざわざ言わなければばれないとばかり思い、あえて口を閉じた。

しかしカガリはふと気付く。
ラクスはアスランと婚約していたのだ。例えそこに男女の愛はなかったとしても、これくらい知っていて当然だったのかもしれない。
そんなことも思ってしまったが、この気持ちも秘密にする事でこの問題は自分の中で完結させておいた。

 

けれどそれも全てお見通しだったのか、帰り道、
すっかりオレンジに染まった歩道を歩き始めた時、ラクスはカガリに語りかけるように話し出した。

 

「ねぇ、カガリさん」

「ん、なんだ?」

「寂しくありませんか?」

「え!?」

 

ラクスの言葉にカガリは首を傾げた。
今、自分がラクスと話している時がとても楽しいからだ。
カガリがどういう意味かを尋ねるより先に、ラクスはそっと微笑んでまた話し始める。

 

「・・・離れてみて、寂しくありませんか?」

 

「!」

 

離れて、と言われて、それが誰と離れていて寂しいのかということに気付いた。
だからこそ何も言えなくなったカガリに、ラクスは笑みを絶やさず優しく、けれど厳しい言葉を続ける。

 


「所詮、夫婦と言えど元は他人です。違う人間であり、だからこそ話し合うべだと思いますの」

 


ラクスは決して人に「甘く」ない人だ。
それはカガリも彼女と友達として付き合っているうちに気付いていったこと。
そしてそんな彼女に憧れていた。

何より、まっすぐに前を向いてるような、そんな凛とした女性のほうがずっとお似合いのような気がしたからだ。
そう、少し後ろ向きで落ち込みやすいアスランとは。

結婚する前に思っていたことが、今更ふつふつとわきあがってきた。
カガリのそんな気持ちに気付いたラクスも微笑んだまま、
カガリが胸のうちを語り出してくれるのをじっと待った。


すると、カガリは息を吸い込んで、彼女には似合わない小さなか弱い声で喋り出す。

 


「私・・・本当は、ちゃんとわかってたような気がする・・・アスランがあんなこと・・・」

 


ラクスは尋ねることもなく、ただカガリの話を聞いていた。
それがカガリにとてつもない安心感をもたらしてくれて、カガリも穏やかに話すことができる。

 

「多分、私は・・・怖かったんだ」

 

ぽつり、ぽつりとではあるけれど、カガリが話しだす言葉はどれも偽りのない本当のものだった。

 

「アスランが別の誰かを選んでしまったらって、ずっと怖かったんだと思う」

 

あの名刺を見た時、ちゃんと自分の中にいる冷静な部分がこれはなにかの間違いだとわからせてくれたはずなのに、
それ以上に今まであった不安のせいで何も考えられなくなってしまったのだ。

 

「だから、あれを見た時、家をでちゃった」

 

ただの言い訳に過ぎないが、ずっと胸の中にあった不安がきっとあの時爆発してしまったのだ。

 

 


そう、全て事の発端は、あの名刺ではなくて、自分に自信がなかったせいなのだ。

 

 


なんて情けないことだろう。
そのせいできっとアスランを傷つけてしまっている。
アスランを信じている気持ちが何より強ければ、きっとこんな寂しい思いをせずにすんだのだ。

 

「ラクスは・・・アスランのことすごく信じてるんだな」

 

それがすごく羨ましい。
2人の間にある絆は、2人にしかわからない。
今、彼の妻をしている自分にも、それはわからないのだ。
しかし、カガリが地面にあった小さな石ころを蹴飛ばしながらそう言うと、ラクスは大きな声でそれを否定した。

「あら!違いますわ!ただ、アスランのことどうでもいいんですもの!」

カガリを元気付けるかのようにおどけてそう言った彼女に、
カガリはばっと顔をあげそんなことを言ったラクスの表情を確認した。
あまりにも堂々とそんなことをはっきり言い切った彼女のその清々したような表情に、
声をあげて笑い出したカガリに合わせて、今度は小鳥のような可愛らしいラクスの笑い声が重なる。


2人で道行く人も気にせず笑ったあとに、ラクスがまるで内緒話をするかのようにカガリの耳元へ・・・
「もう1つだけ・・・」
と、囁くかのようにカガリに言い聞かせ始めた。

 


「例えアスランの過去にアスランにとって大切な女性がいたとしても、それが例えわたくしだったとしても・・・

 

今のアスランが選んだのはカガリさんです」

 

 

微笑みながらそう言うラクスの言葉はまるで呪文のようだ。
きっとそうなんだと思わせてくれる。信じさせてくれる。
「にゃんにゃん如きに負けていてはいけませんわ!」
最後の最後に可愛らしい顔でそんなことを言い出すから、カガリはまた声を出して笑った。

 

そうだ、負けてなんていられない。
世界中で一番彼を思って愛せているのは自分なのだ!
どんな女性のどんな挑戦だって受けてたってやる!

 

だからカガリはいつもの太陽のような笑顔で答えた。

 

「うん!負けないぞ!」

 

帰ったらいっぱい愛してあげよう。カガリはそんな幸せな決意をして・・・。
眩しい夕日ではない何かが、2人を温かくしてくれた。

 

 

 

 

 

歩いて2人がヤマト家に帰ってきたのはそれから20分ほど後のこと。
キラは笑顔で玄関まで出迎える。

「うわぁ!ラッコのマーチだ!」

カガリが袋から取り出したお菓子の箱を見て園児並の喜び方をするキラに、2人は顔を見合わせて笑い出した。
自分の行動で笑われていることに気付いて、キラはカガリに似ている怒った表情を作り出すと、
大げさなまでに頬を膨らませる。
でもそれが余計に2人の笑いを大きくさせた。

あぁ、ここはとっても心地がいい。
大好きな弟と、大好きな親友がそばにいてくれる。
けれど・・・

「キラ・・・私、うちに帰ろうと思うんだ」

「え・・・!?」

突然カガリがふってきた話題に、キラは目を真ん丸くして驚く。
てっきり自分と同じように、カガリはまだアスランのことを怒っているとばかり思っていたから、
カガリがどんな気持ちでこの言葉を言ったのかキラにはわからなかった。

「・・・ア、アスランなんてほっとけばいいんだよ!」

だからやっと出てきた台詞が、これ、だ。
カガリがアスランのために心を痛めたり、苦しんだりすることなんてない、と、キラは声を荒げる。

そう、カガリが折れることはないのだ。
今回の件は100%あっちが悪い。・・・例え、その原因の奥底がわからなくたって・・・あっちが悪いのだ。


そんなキラの言葉に、カガリは静かに首を横に振った。


「違うよ、キラ。折れるとか折れない、とかじゃなくって・・・私が会いたいんだ」

「カガリ・・・」

「もう、限界みたい」


ぺろっと舌を出しておどけた様子のカガリを見て、キラはためらいがちに視線を泳がし自分の妻を見やる。
その妻であるラクスは穏やかに微笑んだまま、まるで全てをわかっているかのように瞳で訴える。


ラクスにまでそんな顔をされてしまっては、キラは自分の言い分を飲み込むしかな買った。

「わかったよ・・・」

「キラ・・・!」

「でも・・・っ!」

「え?」

でもアスランは許さない、とでも言われるのかとカガリは身構えた。
今回の件は自分とアスランとの問題であって迷惑をかけてしまったキラには申し訳ないが、
このことは全てもう忘れてほしいと言おうとした時・・・
「・・・でも今日は泊まっていってよね!」
カガリより先にキラが口にした言葉は、なんとも彼らしい可愛い最後の抵抗だった。

キラが出した条件に、カガリは一瞬目を点にしたが、暫くしてラクスとまた顔を見合わせくすっと笑った。
耳まで赤くした彼が出した最後の抵抗に、アスランに会いたくてしかたのなかったカガリも頷いて承知した。

 

「よーし!それじゃ夜中までカガリと遊ぶもんねー!」
「キラ・・・お仕事はどうされましたの?もう終わられまして?」
「あ!!」

妻らしい一言をびしっと言うラクスとそれに適わないちょっとだらしがない夫の姿を見ながら、
カガリは明日会える大好きな人に想いを馳せていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


アスランが会社から自宅へ強制帰宅させられたのは、カガリの幻覚を見る事15回、
そのカガリに抱きつこうとして壁と衝突する事10回目の時。
いい加減このうざったい男を社内から排除しようという意見が合致、
「体調が悪いようだからとっとと帰ってゆっくり休んでおけ」
という、優しいようで実は全然そうでない言葉を直属の上司からかけられて、それに従ったのだ。

いつもなら早く帰れるだけで心が踊ってしかたないのだが、今は違う。
帰ってきてもカガリはいないのだ。
家に戻っても、癖になっている「ただいま」を口にしても、誰も何も返してくれない静かな空間に滅入ってしまう。
まるで何かに追いたてられたかのように「何か食べなきゃ・・・」と、
大量に作っていたスープの残りを、やはり温めもせず飲んでから寝室へ。
もう着替える気力もなくて、そのままベッドにダイブして倒れ込むかのように眠りについた。

 

広いベッドが寂しくてたまらない。温もりがないだけで不安になる。
自分はいつからこんなに弱い人間になったのか。
孤独なんて、慣れていたはずなのに・・・

 

そんなことを考えながらもやはり疲れ切っていたのか、思っていたより早くに夢の世界へ行けたらしい。
けれどベッドに倒れ込んでから数時間、夜中に目が覚めた。

 

手には無意識にカガリのパジャマが。
これを抱きしめて眠るのも、そろそろ本当に馬鹿げていておかしいと気づき始めている。

何度ため息をついたって、どれだけカガリの夢を見たって、
現実世界に彼女が居なければなんにも意味をなさないのだから。

 


「だめ・・・だ、」

 


声が掠れた。

 

カガリの居ない家、カガリの居ない部屋、カガリの居ない世界・・・。

 

圧迫してくるような暗闇で、アスランは指1つ動かせずベッドに倒れ込んだままぼうっとしていた。


時計の針は0時を回ろうとしている。
カガリに会えなくなってちょうど46時間ほどたった頃、
アスランの中でカウントダウンが始まる。

限界というその時がやってきた。

 

 

 

 

 

 

あぁ、もう、本当に・・・

 

 

 

 

ダメだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


カウントダウンは彼の中で「0」を迎え、アスランは何かの想いに弾かれたように家を飛び出した。

 

 

 

 

 

 

 

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第7話、お待たせしてすみません・・・!
やっとこさシリアスに戻りました〜!わ〜!(笑)
最後にアスランがどんな行動に出るのか・・・!
それが書きたくて始めた短期連載なのです!

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