君の帰りなんて待っていられない。

 

戻ってこないなら、奪い返す。

 

 

 

 

 


俺から会いにいくだけだ。

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 


カガリは今日もキラとラクスの寝室のベッドを使っている。
毎日ここで2人が眠っていると思うと・・・なんだかそわそわしてしまってる自分が恥ずかしい。
キラは夜中までパソコンに向かっているし、ラクスも妻としてそれに付き合うらしい。
そんな2人を見て・・・カガリはアスランへの想いを強くしていた。
今から1人ででも帰ると言い張れば、キラは危ないからと言って許してくれないだろう。
かといって仕事中のキラの時間を「送ってくれ」と奪うのは申し訳ない。
やはり明日は早起きして自分の家に帰ろうと、カガリは決めたのだ。
そのためにもすぐに眠らないと・・と、2人の好意に甘えて大きなベッドを1人占めしている。

早く会いたいという気持ちが自分を急かして、それと同時に心臓の音が耳に煩いくらい響いていて・・・
眠りにつくのは難しそうだったが、カガリは目を閉じてリラックスするようにしていた。

 

 

 

そのカガリの耳には、寝室のバルコニーを繋ぐ大きな窓ガラスがガタガタと音をたてているのが聞こえてくる。
最初こそ夜風の仕業だと、カガリは気にも止めず眠りにつこうとしベッドの中で身体を丸めていたが、
その音が次第に大きくなり、終いにはどう聞いても原因が風とは思えないほどの音になっていく。

首を傾げながらベッドから抜け出し、部屋のセンスのよいカーテンをそっと開けてみた。

 

 

 

 

 

「・・・!」

 

 

 

 

 

開けたカーテンをほとんど無意識に、ばっと閉めなおしてしまった。
ガラス窓の向こう側にいた人物に驚いてしまったからだ。
今、見たのは夢だったのかもしれない。
だってここは3階だ。居るはずがない。
会いたくて会いたくて会いたくてたまらなかったせいで、こんな夢を見てしまったのかもしれない。
また鳴り始めた心臓の音と、窓ガラスを遠慮するように、けれど強く叩く音。

 

 

<カガリ・・・!>

 

 

「!」

 

 

 

カーテンと、ガラス越しから小さく自分の名前を呼ぶ声が聞こえた。
間違いない。彼だ。アスランなのだ。

 

 

・・・ど、うしよう・・・!

 

 

会えるのは明日だとばかり思っていたから、心の準備ができてなかった。
いきなり現れた彼を目の前にして、どういう態度をとればいいのかわからなくなっていたのだ。
パニック状態で、それでもここがマンションの3階ということと、
彼が冷たい夜風にあたっているということを思い出して・・・カガリは意を決してカーテンをもう1度開けて確認してみた。

 

 

<・・・カガリ!>

 

 

やはり、彼の声だ。彼だ。
例え彼のこの声が自分に届かなくたって、目に映った彼の口元が自分の名前を呼んでいることがわかる。
それが無性に愛しくて・・・。
きゅうっとこみ上げてくる不思議な涙を堪えながら、カガリは鍵を開け窓を開けた。

 

「アスラ・・・!」

 

開いた窓から伸びてくる腕。
大きくて温かな彼の手が伸びてきた、と思った瞬間に、自分の二の腕を掴まれた。
何か言う前に、今度はこの唇を塞がれる。


それはわずかに、まるで刹那の出来事。

 

「・・・ん!・・ぁ」

 

けれどその刹那は永遠かのように続く。
激しく唇を奪われ、深く舌が潜り込んできて、あまりの甘さに立ってなどいられなかった。
ふらふらしているカガリの背中と腰を、柔らかく抱くかのようにアスランは離してくれない。
男の強い力に流されるかのように後ずさりするも、唇が繋がったまま、
むしろ彼の力によって後退させられていると気付く。

そこにあるものが何か・・・気付きそうになったそれも束の間、思考は断ち切れてしまった。

ばたりとそこに押し倒されたのだ。
先ほどまでカガリが1人身体を丸めていたベッドに、だ。
そこでようやく唇が離される。

 

見上げれば、美しい碧の瞳。
それが潤んで見えるのは、きっと自分の瞳がそうなのだ。

 

言いたいことはたくさんあった。
まず「ごめんなさい」と伝えるつもりが、まだパニックを継続している頭からは
すらりと出てきてはくれなかった。

「な、んで・・・!ここに・・・っ」

やっと出てきてくれた言葉は、思っていた謝罪でも愛の言葉でもなく、
単純に今彼がここに来れた理由を尋ねる台詞だった。

「登ってきた・・・」
「えぇ!?の、登ってきた・・・って!」

さも平然に、当たり前かのように言うアスランに、カガリはまた混乱気味になる。
バルコニーに居たということで予想できたことなのだが、それでもやはり信じられないことでもあって・・・
カガリが目を見開いて驚きを表しているのを見たアスランは、押し倒したまま、
その柔らかな頬に触れてカガリに優しく言った。

「適当に、木と壁伝って・・・簡単だったから」

最後の台詞は危ないかったんじゃないかと心配させてはいけないと、特に優しく口にした。

 

 

「会いたかった・・・愛してる・・・」

 

 

同時にカガリにしか見せることのない甘い微笑を向けて・・・また唇をそっと近づけていく。

 

カガリは時が止まったかのようにその美しい微笑みに見惚れてしまっていたが、
彼が唇を自分のそれに近づけてくるということに気付いてはっとする。

 

甘い台詞を言われた後のこのコースは・・・

 

「ま、ま、待てって!こ、ここ、キラとラクスの・・・っ」


「構わない」


「な!?」

 

押しのけるようにしてアスランの唇を塞ぐも、すぐにその手をとられベッドに沈められてしまった。
そして小さな悲鳴をあげるよりも前に素早く口付けられる。
さっきは驚きのあまりしっかり感じる事のできなかった彼の唇が、温かさと柔らかさとともにはっきりわかる。
痛いくらいに強く押しつけられて、苦しいくらいに呼吸を吸い取られて・・・

先ほどの、いつもの彼の優しい微笑みとはギャップがありすぎて困惑してしまったが、
けれど、今、目の前にいる彼は間違いなく、自分の愛するアスランで、
そしてそんな彼の切羽詰ったような甘い声に高鳴りを覚えてしまう自分がいることを知る。

 


「説教でも罰でも何でも受ける。・・・でも俺の前から居なくなるなんて・・・それだけは、許さない」

 


許さない、だなんて高圧的な言葉、染めた頬で言われたらいかに自分が愛されているのか思い知らされる。

 


あぁ、私も、どんなアスランでも大好きだ・・・

 


キラとラクスに心の中で謝りながらも、彼の体温のせいで疼き出した体の熱を止める術など知らない。

けれど、カガリが目を瞑ろうとした時、扉がノックされたのだ。

 

「・・・!」

「・・・」

 

静かに動きを止めただけのアスランと、あまりのことでびくっと身体を震わせてしまったカガリ。
対称的な2人の動きは、けれど次に起こる出来事でぴたりと重なる。

「カガリさん、アスラン、開けますわよ?」

鈴を転がすような可愛らしい声が2人の耳に届く。
言われた通り、扉は静かに開けられた。


「あらあら、よかったですわ。まだ始まってなくって」

一体彼女は何を考えているのか。大胆な言葉を口にしてるにも関わらず
目の前にいるアスランに驚く様子もなく、変わらず穏やかに微笑むだけだ。
まるでこの出来事を全て見透かしていたかのように・・・

 

「・・・あ、あ、ああああ、ああの・・・っ!」

 

上擦った声でカガリが言い訳を考えていると、ラクスはまたにこりと微笑んだ。

 

「アスランがお迎えにいらっしゃったのならお帰りになられては?ここでは落ちつきませんでしょう…色々と」

 

含みを持たせた言い方をされて、カガリは赤くなってラクスの顔をまともに見ることができなかった。
が、ラクスは悪気はなさそうに続ける。

 

「ちょうどキラも眠りについたようですし・・・今ならばれませんわよ?わたくしが上手くごまかしておきますもの」

 

やっぱり彼女が何を思ってこんな提案してくれているのかはわからなかったが、
家のベッドで不埒な行為を始めてしまおうとしたことを咎められることもせず、アスランはほっとした。

そうしてカガリの身体を抱き上げる。

 

「うわ・・・!アスラン・・・っ!」

 

カガリが小さく抵抗して暴れようとしてしまったから少しバランスが崩れて危なかったのだが、
なんとか両足で持ち堪えた。
抱えあげた久しぶりの彼女の重さに、頬の筋肉が緩み切ってしまっていることを自覚しながら、
アスランは扉の前にいるラクスに目を向けて彼女に伝える。

 

「では、お言葉に甘えてカガリを連れて帰ります。カガリは俺のものですから」

 

腕の中のカガリが、小さく「馬鹿」と言ったのがアスランの耳にだけ届いた。
その声にアスランはまた頬を緩ませて・・・キラを起こさないためにも物音を立てないように部屋の外へ。
さすがにカガリを抱えあげたまま3階から飛び降りるのは不可能だ。
静かに細心の注意を払って部屋の外に出ると、キラが机にうつ伏せて眠りについてる姿が目に入る。

 

それにほっとしながら玄関ドアまで行くと、その後をラクスも静かに着いてきてくれた。
両手が塞がっているから鍵とドアが開けられないのだ。
それを見越してか、ラクスはさっと鍵をあけて次に扉を開けてくれた。
カガリは腕の中で顔を埋めたまま、ラクスを見ようとはしなかったが、
ラクスのその行動にまた腕の中で小さく「ありがとう」と言った。
いまだに大人しくしている理由は・・・よっぽど恥ずかしいのだろう。
お姫様抱っこが、ではなく、この家であんなことをしようとしてしまった自分が。
そしてまた小さく「ありがとう」と言った。
これはきっと、今までのことを感謝の言葉で表したのだろう。

全てわかりきっているラクスは小さく笑い、片手を軽く振りながら「それでは、また」とさよならの挨拶をする。

「暗いですし、帰りはお気をつけてくださいね・・・あ!アスラン」

ふと先ほどまで穏やかに微笑んでいたラクスがその微笑を保ちながらもアスランに鋭い視線を向ける。

「わたくしこの間素敵なお店を見つけまして・・・そこでとても素敵なバッグを見つけたのですわ」

「は、はぁ・・・」

いきなり始まった世間話にアスランはラクスが何を言いたいのかわからずただ相槌を打ってみた。

 

 

「カガリさんとお揃いのバッグが欲しいのです。でも少しお値段が・・・」

 

 

まさか、とは思った。が、この賢い歌姫のことだと、
キラよりもカガリよりも長い付き合いのあるアスランはすぐに次に言われるであろう台詞を予測してしまった。

 

 

鋭い視線は一転ふわりと柔らく愛らしい、けれどアスランにとっては冷や汗が流れる恐ろしい笑顔になって・・・

 

 

 

「アスランのお小遣い2ヶ月分もあれば十分なんですの」

 

 

「・・・・・・」

 

 

それは悲しいかなぴったり当たってしまった。

 

 

 

 

「・・・わかりました。何でも買ってください・・・」

「ありがとうございます!嬉しいですわ〜。お約束ですわよ?」

「はい・・・」

約束を破ってしまえばラクスだけでなくキラにまで何をされるかわかったもんじゃない。
口止め料だと思えば安い物だ・・・と言い聞かせて、アスランは何とか自分を納得させた。

 

そうだ、安いものだ。

カガリが自分の傍にいること以上に価値のあることなんてないのだから。

 

 

 

 

 

「では、今度こそお気をつけて〜」

ほんわりとしたラクスの声を合図に、アスランは歩き出す。
その一瞬前、カガリはそっとその腕の中からやっと顔をあげ、ラクスの表情を見た。
柔らかく温かく包み込んでくれているラクスの笑顔に、
カガリもアスランに抱きかかえられたまま、ラクスにありがとうを込めて笑ってみせた。

 


カガリを見送ったあと家の中にはいって扉を閉めたラクスは、
自分の背後に、愛しい人の足音を聞き振り返る。

 

「これでよかったのですか?・・・キラ」

「うん・・・寂しいけど、カガリが幸せそうだもん」

「ふふふ」

 

頭をかきながら、なぜだか照れくさそうに笑っているキラ。

 

「最後のあれにはびっくりしたけど」

あれ、というものが最初こそ何を指し示すのかわからなかったが、
すぐにアスランの小遣い2ヶ月分のあれ、だと気付いた。

 

「あら!だってお揃いの物が欲しかったんですもの!」

 

無邪気に笑いながら言うラクスに、キラも笑ってみせた。

 


「タダでは転びませんわよ。ちゃあんとアスランには反省してもらわなくては」

「ははは!そうだね」

「・・・したたかな女性は嫌いですか?」

「いいや」

キラは静かに首を振る。

「そんな君が昔と変わらず誰よりも大好きなんだよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アスランに抱きかかえられていたカガリは、車に乗り込むその時、初めて身体を降ろされた。
いつもの指定位置、運転席の隣の助手席に身体を預けると落ちついてくる。

 

「ここで抱いてもいいけど・・・激しくできないから」

 

耳元で囁かれてカガリの身体は跳ねあがる。
アスランはそう言った後すぐさま車のエンジンをかけた。
動き出す車。いつもならその走って変わる世界を窓ガラス越しに見つめているのに、
今はただ、今夜は眠れないなと幸せな覚悟を決めて・・・アスランだけを見つめていた。

 

 


深夜だということもあってか、驚くほどに家には早く着いた。
アスランを見つめている時間がまるで一瞬のできごとのように感じられただけかもしれない。

久しぶりに入る我が家に変な緊張感が襲ってきたが、アスランに優しく微笑まれてそれはすぐに消え去った。
鍵を開けて1歩家の中に足を踏み入れると、すぐさま抱きしめられる。

「ちょうど3日だ。溜まってる」

そして次にまた抱き上げられて・・・行く場所は決まっている。
今度は素直に、1度も暴れる事をせず身体を彼の腕に預けてみた。
そして何度も頬にキスを贈って・・・そのせいで、ベッドにつくころにはアスランには火が灯っていた。

 

互いの着ているシャツのボタンを引き千切るかのように外し、

息をする間もないほどのキスをして、

 

「論より証拠、だろ?証拠、見せてやるよ」

 

なんて腰が砕けるような甘い声で言われてしまった。

彼の手が滑るように身体に触れてくる。

 

 

 

うん、教えてほしい。

 

そう口には出せないままで、カガリはそっとアスランの首に腕を回す。

それに、アスランは微笑んで、また口付けて・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 


「俺がカガリしか愛せない体だってこと・・・教えてあげる」

 

 

 

 

 

 

それならば、私も。

アスランしか愛せない体だってこと、証明してみせるさ。

 

 

 

 

 

 

激しくなっていく口付けと身体に感じる甘い疼きに、頭の芯がぼうっとし始めた時、
残ってくれた思考回路が動き出す。
明日になったら・・・まずはお礼の電話だ。
バッグを何色にするか決めなくてはいけないと思うと、アスランには悪いが嬉しくなってしまう。

2つ購入したいと言ったラクスの、それだけではない優しさは、いつも温かい。
自分がちっぽけな人間だと思えてしまうほどだ。

 

けれどもう悩まない。苦しまない。

 

だって、例えどんなに自分以上に素敵な女性現れたとしても、にゃんにゃんだろうと何だろうと!
自分以上にアスランを想う女はいないから。

だから、誰だってどんとこい、なのだ。

 

 

 

 

 

 


・・・だって、私がアスランの奥さんなんだ!

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・あす・・ら・・・!あぁ・・・っ、あ!ん・・・っ」

「カガ・・リ・・・っ」

 


自分の中に彼を感じて・・・2人は互いの身体を貪りあう。
それは明け方までも、太陽が高い位置に上るまでも続けられて・・・

アスランがその日、有給を取ったということは言うまでもない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


そしてそんなアスランの働く会社では・・・


「ザラさん精神病院に入院だって!」

「えぇ!?やっぱり!」


などと噂が流れてしまっているなんて・・・さすがに予想はしていなかったけれど。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

HAPPY END!
 

 

長らくお待たせしました〜!元恋人最終話でございます!
これのどこが元恋人やねーん!というお叱りはごもっともで・・・!
でもちょこちょこ意味を含ませたのですよ。
わかっていただけたら嬉しいな・・・とゆーり、
もういいや、こんなもんだよね!ってくらいの気持ちででーんと構えてください(笑)
ギャグ色も薄れて最後はちゃあんとシリアスに戻れてよかったです!
ジャンルわけするなら「多分シリアス」です!(笑)
更新予定が大幅に狂ってしまいましたが、
最後までお読みくださった皆様へ。ありがとうございました〜!

・・・犬と戦いながら執筆がんばりました(笑)。

 

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