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頑張れ、頑張れ、アスラン・ザラ!おまえはいつだってカガリ一筋の男ー!


と、自分への応援歌を作って心の中で励ます自分は滑稽だ。


そうでもしなければふらふらでその場に倒れ込んで通行人に迷惑をかけかねないと、
アスランは何とか自分の足で大地を踏みしめ、愛車のところまで歩ききった。
途中、壁に12回ぶつかったのは愛嬌で許してほしい。

車に乗り込んだ後は家に帰るだけだというのに、行きは13分だったにも関わらず帰りは3時間かかった。
一体自分でもなんでこんな時間がかかってしまったのかわからない。
パニック中の頭の中を整理することもできず、アスランは人生の絶望を生まれて初めて感じていた。
ただ、人間にも帰巣本能というものが備わっているのか、ちゃんと家に着くことができたことだけが唯一の救いである。
家の鍵をあけ扉を開け・・・我が家に戻って来た。
でも肝心のご主人様ならぬ、愛妻がいないのだから気分は忠犬ハチ公だ。

ハチ公は、今日はそのまま、まだ陽が高いというのに眠りにつこうとしたが、鍋の中に大量に残っているスープを思い出す。
テーブルの上には今朝自分が作ったオムレツが、ケチャップのハートとともに自分の目に飛び込んできた。
これを捨てるのはカガリに申し訳ない。
「勿体無い!」が合言葉のカガリの夫として、むやみやたらに食べ物を粗末にすることはいただけない。
それに何か食べないとカガリが怒るのだ。
カガリを、これ以上怒らせたくない。
1秒でも早く帰ってきてもらうには、大人しくいい子でいるべきだ!
などと、世間一般で言う夫の考えとは180度変わっていることを考えたり。
アスランは1人席について冷め切ったオムレツと温めなおしもしなかったスープで、朝食兼、昼食兼、夕食を開始した。

愛をこめて描いたオムレツのハートを崩すのになぜか可愛らしい小さな勇気が必要で、
スプーンを持つ手がわずかに震えていたが目を瞑って全部食べ切った。

きっと大して美味しくないのだが、美味しくないのかさえわからないほど味覚までもがおかしくなってしまっている。
空になった皿に使っていたスプーンを乱暴に置いた。
そしてその皿をテーブルに置いたまま、アスランはリビングのソファーに倒れ込むように早すぎる就寝に入った。

 

精神的疲労が肉体的疲労も伴ってくれたのか、疲れ切ってる体はすぐに眠りにつきそうで、
けれどアスランは、せめて夢の中ではカガリに会えるようにと祈りをこめて・・・
眠りにつく直前までまじないのような呪文を唱える。

 

「カガリに会える・・・会えない・・・会える・・・会いたい・・・会えれば・・・会うぞ・・・ははは」

 

脳内はもはや、医者も匙を投げる恋の病に侵されおかしくなっていた。

 

 


そんなアスランが翌朝目を覚ましたのは、いつもの出社時刻の45分前。
慣れというか習慣は恐ろしいもので、目覚ましさえかけていなかったのにしっかりその時間に起きることができた。
けれど、今日もカガリのおはようのキスがないので会社に行く気さえおこらない。
あのキスが自分に活力を与え、


よしっ今日も頑張るぞ!帰ったら思う存分いちゃいちゃしよう!


という気持ちにさせてくれるのだ。

 

「カガリ・・・キスしてくれ」

 

いつものお決まりの台詞を言ったところで、今は虚しい独り言。変人だ。
諦めてソファーから立ち上がり目を覚ます意味も含めて軽くシャワーを浴びにバスルームへ向かった。
シャワーの効果はあったのか、ばっちり目は覚めた。
が、シャワーのお湯如きでは心は晴れない。可愛い可愛い妻の姿が自分の目に入らないから。
裸のまま部屋へ行き真っ白なシャツを手にしてそれを身につける。
着替えて身支度を整えて・・・

アスランは背中を丸めたまま、まるで女房に逃げられた旦那のような雰囲気を醸し出したまま家を出た。


あながち間違っていないところが、アスランの気をさらに重くさせたのだった。

 

 

 

 

 

 

 


そんなアスランをすっかり忘れ去って、ヤマト家では楽しい朝食が始まっていた。
尤、忘れているのはいつでものほほんとマイペースなヤマト夫妻だけだが。
けれどカガリも、心の中にある暗い部分で心配をかけたくなくて、明るい笑顔を振り撒く。
それが例え、いつもの太陽のような笑顔じゃなくて無理をしてることがばれてしまっていても・・・。


キラもラクスも、カガリの気持ちを汲み取ってあえて何も言わなかった。

 

「キラ、お塩をとってくださいます?」
「うん・・・はい」
「ありがとうございますわ」

にっこり笑い合う可愛らしい夫婦を見て・・・これこそが理想の夫婦だとカガリは思った。

 

ゆっくりと食事をするキラは在宅ワーカーだ。
カガリに難しいことはわからないが、コンピューター関連の仕事をしているらしい。
ハッカーではないことを祈りつつも・・・深く聞くのが怖くて仕事の話にはあまり触れていない。


そんなキラは暢気に食後のコーヒーならぬカフェオレでほっと一息ついていた。
カガリはラクスといっしょに朝食の後片付けを手伝った後、キラと同じカフェオレに口をつけながらのんびりしていた。
けれど頭の中はやはり愛しい彼の事。
ちゃんとご飯を食べて仕事に行ったか、昨晩夜更かししてないか、靴下のある場所がわかったか…歯を磨いたか…
などと主婦らしい・・・というよりは母親のようなことを考えながら、カフェオレを口に含む。


キラ好みの甘さがなぜだかほろ苦く感じて、胸がきゅんとなる。
段々アスランへの慕情が大きくなっているのだ。もう、大きくなりすぎて愛しさで泣きそうだ。
たった1日会ってないだけでもこんなに苦しい。
明日まで耐えられるのだろうか・・・と、
そんなことを考えてしまったカガリは思いきりよく首をふって、カップに残っていたカフェオレを一気に飲み干す。

 


そんなカガリを見て・・・ラクスは言った。

 

「カガリさん、よければお昼に少し外に出てみません?」

「・・・え?」

「ね?天気もよいですし、気分転換にどうです?」

 

自分を気遣ってくれていることがすぐわかり、カガリは申し訳なくなるも嬉しくなる。
ラクスの優しさが心地よくて、気付かぬ間に首を縦に振っていた。
それを見てラクスがデートです!と嬉しそうに笑ったから、カガリも久しぶりに心から温かい気持ちになった。
ほろ苦く感じたカフェオレも、今やっと甘く感じるほどに。

 


大きな窓の外を見てみた。確かにラクスの言うとおりとてもいい天気だ。
その眩しい朝日の輝きに、自分の言葉ひとつで輝くような笑みを見せてくれるアスランを思い出す。


また、胸がきゅんとなった。会いたくて会いたくて・・・


にゃんにゃんだろうとわんわんだろうと、そんなこともうどうでもいいとさえ思うほどに。
会いたいという、ただそれだけの気持ちがもう抑え切れないことに気付きかけていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そのアスランはと言うと・・・

 

「会える・・・会えない・・・会える・・・会えない・・・会いたい・・・会えるよな・・・うん、会えるよ・・・」

 

「ちょっと〜、ザラさん何とかならないの〜?気持ち悪いー!」

 

会社の同僚達に鬱陶しがられていようと、カガリを想い病状を悪化させていたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

NEXT

物語は佳境へと・・・向かってるんでしょうか(笑)。
最終回はかなりのシリアスにしたいので(本当か!?(笑))、
次回からまとも路線に変更です。
アスランの誤解はとけるのか!?アスカガは仲直りできるのか!?
そしておはようのちゅうができるのか・・・っ!?
あと2話予定、どうぞお楽しみに〜。

「心の中で励ます自分は滑稽だ。」

一発変換、「心の中で禿げます自分は滑稽だ。」だった(爆)。

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