新婚旅行

 

 

 

 

 

「うっわぁ・・・!!」
少し子供っぽいくらいに感嘆の声をあげた彼女。
そんな姿を予想していて、そして何よりそんな姿を見たかったアスランは、
カガリと同じように心がはしゃぐのを感じていた。

「アスラン!雪だぞ!雪、雪!」
シャトルのタラップを降りながらも、彼女の視線は空から降り注ぐ真っ白な冷たい雪へと注がれる。
降り始めたばかりの雪は今はまだ積もるほどのものではないが、
それでも、いつカガリが足元を滑らせて盛大にこけるかもしれないと思うと、
少しだけハラハラしながら、けれどいつでもそうなっていいように、彼女の傍から離れないように気をつける。
アスランのそんな気苦労というか、彼だけの小さな幸せに気付かないまま、
タラップを下りきったカガリは案の定、雪に気をとらわれて足を滑らせた。

「わ!」
「・・・・・っと!」
地面へ転びそうになったその身体を支えるのはアスランの腕。
まるで待ってましたとでも言わんばかりにその行動はすばらしく完璧だった。

「こーら、カガリ。しっかり前を向け」
「へへ、ごめん〜」

舌をだして軽く謝るカガリ。
アスランが本気で怒ってないのを知っているからだ。
なにせ、思い切り甘く微笑まれながらそんなことを言われても、説得力にかける。
むしろ、また転んでも俺が受け止めてあげると言われてるも同然だ。

この雪に感謝したいと、きっとアスランは思っただろう。
何より、こんなにも幸せそうな彼女に触れることができて・・・・。
アスランは心から、雪の降る自分の故郷のプラントに感謝した。

 

 

 

 

事の始まりはアスランの一言からだった。

「どこに行きたい?」
旦那様にいきなりそう聞かれて何のことだかカガリはわからず答え返すことができなかった。
そんなカガリを見て、アスランも今の自分の言葉に
重要な部分が足りず抜けていたことに気付き、慌てて言葉を付け足す。
「次の休み祝日重なって4連休になるだろう?足りなければ有給とるし、どこか遠出しよう」
「えぇ!?」
驚きと嬉しさが合わさって、カガリの声は大きく響いた。
アスランの仕事の次の休みが4連休になることはわかっていたが、
まさかこんなに素敵な提案をしてくれるだなんてことは思ってさえいなかった。

カガリがアスランと結婚してから数ヶ月、結婚当初はとても旅行に行ける状態ではなかった。
2人が結ばれるために奔走してくれた一部の首長や議員たちへのお礼と挨拶回り。
そして何より2人の立場もあって結婚してからも遠くへの旅行は控えていたのだ。
それでも2人にとって一緒に過ごせるようになったのは幸せなことだったし、旅行に行かなくても楽しい日々だった。
互いが居れば、それこそこれ以上ない楽園だったのだ。
けれど、旅行に行きたくなかったかと言われれば答えはNOだ。
心の奥底で、カガリはいつかアスランとの2人きりの旅行を待ち望んでいた。

「い、いいのか・・・!?」

本当はもう楽しみで、行くつもりでいるのに、他人のことを優先してしまうカガリは癖で確認をとってしまう。
けれども、そんなカガリの瞳が輝いていることにアスランは気付いて笑いそうになる。
そして金色の髪を愛しそうに撫でながら答えた。

「もちろん。2人きりで旅行、ずっと行きたかったんだ」
「うん!私も!!」

カガリの喜ぶ声で、この旅行は決定した。

 

急がなければいいホテルもとれないだろうと、アスランが持ちかえってきた旅行パンフレットをカガリに手渡してから数日、
カガリがアスランの思っていた場所とは全然違う場所を口にした。

「プラントに行きたい!」

本当に、それは予想していなかった。
プラントといっても彼女の指定したのは、アスランが過ごしてきたところだという。
そこは観光地でもなんでもないし、特に珍しいものがあるわけでもない。

行ってもカガリは楽しめないんじゃないかと、アスランが考え込んでいると、
「・・・・ごめん、おまえが行っても楽しめないよな?」
としょげながら言葉を返された。

そんなことあるわけがない。
カガリが行きたい場所が自分の行きたい場所だ。
カガリがいる場所こそが自分の幸せの場所だ。

「・・・・・・よし。プラントにしよう」
「・・・・え?い、いいのか・・・?」
「もちろん」

迷いなくそう答えれば、カガリの表情は輝きに満ちて、それと比例してアスランの心も輝きを増した。

 

 

 

 

 

 

「ゆーき、ゆーき!」
1度足を滑らせたにも関わらず、カガリはかわらずにはしゃいで元気だ。
そういうところが可愛い。
そう思ってしまい、自分の考えが甘いものだと気付き恥ずかしくなってくる。

それにしても・・・この時期を選んで正解だったとアスランは思う。
ちょうどプラントが雪の季節に入ったからだ。
今はまだパラパラと、まるで小雨のようにしか降っていない雪も、今晩から今朝にかけて降り積もると予報で聞いた。
雪とは無縁で過ごしてきたカガリにとってそれはなんとも嬉しいことで、
アスランもプラントが天気管理局の決定したこの予報に感謝したのだった。

 

アスランは降り立った駅で手続きを済ませレンタカーを借り、それに手荷物を詰め込んで運転席に座る。
カガリも助手席に座ってシートベルトをしめたのを見てからアスランは言った。
「ごめんな?」
「へ?何が?」
「その・・・ホテル・・・・」
「あぁ!もう気にするなってば!」

どうしてもアスランの住んでいたところを見てみたいと言ったカガリのために、ホテルを必死に探したのだが、
唯一近場にあったホテルはその日は満室で最初の日だけそこを予約することができなかった。
仕方なくアスランが選んだのは、日貸しのワンルームマンション。
ビジネスホテルのようなもので、出張中の人間や、このあたりの学校を受けにきた受験生がよく利用するような部屋だ。
そこしか見つからなかった時もアスランは本当に申し訳なさそうに謝っていた。

「私の我侭でこうなったんだぞ?」
「でも・・・・」
「もういいから。せっかくの旅行なんだ、楽しもう?」
「・・・・・あぁ。そうだな」

本当に気にしてなさそうな彼女の笑顔を見て、アスランもやっと心の底から安堵し、自分もシートベルトをしめると車を発進させる。
運転中もカガリの視線は雪へ。
それがちょっとだけ妬けてしまって、アスランは1人苦笑した。

 

 

 


車を走らせて1時間。

今日泊まることになったマンションへ辿りついた。
2人で荷物を車から降ろす。少しでも重いと感じるようなものは、何も言わなくてもカガリがそれに触れる前にアスランが手にとる。
カガリはそんな優しさに気付いて、素直に甘えていた。
新婚当初の荷降ろしに似ているかもしれない。
ほんの少し前の幸せな出来事を思い出して、アスランもカガリも互いに微笑を交わした。

前もって教えられていた部屋の扉の暗証番号を入力すると、鍵があく音がして扉が開くようになる。
中に入れば本当に小さな部屋で、総面積も2人の家のリビングより広いと感じるくらい。
けれどそれが反対になんだか2人の距離をぴたりとくっつけてるような気がするから不思議なものだ。
アスランは電気をつけ、次に暖房をつけて部屋を暖めはじめる。

小さな部屋だが、今晩のために『防音』はしっかりしたところを選んだつもりだ。
「ベッド、シングルだな」
部屋の隅に置かれてるベッドを見てカガリが言った。
今、心の中にあった思いを見透かされたかと思いどきりとしたアスランも、
カガリが思ったことを口にしただけだとわかり、落ちついて言葉を返す。
「もともと1人用のための部屋だからね」
「そっかぁ」
「落ちそうで心配?」
「もう!私、寝相わるくないってば!」
アスランがからかうようそう言えば、カガリは頬を膨らませて拗ねたように怒る。
そんなカガリも可愛いけれど、機嫌を悪くさせたままじゃせっかくの旅行が台無しだ。
ちゃんとフォローも忘れない。
「大丈夫、俺がカガリ落ちないようにぎゅってしてあげるから」
「・・・・・ん」

そのフォローは、愛ゆえの甘いもの。
嬉しそうにはにかんだカガリの唇へアスランは甘い雰囲気のままキスをした。

何度もキスを繰り返し、そのままシングルベッドにその身を沈めそうなほどに身体が熱くなった時、
カガリがアスランの胸板を押し返して言う。
「か、かいもの!いこう!」
カガリの言葉を無視してキスを続けようと思っていたアスランも、現実的なその言葉に動きを止める。
このワンルームマンションには冷蔵庫がついているが、中には何も入ってないからだ。
今晩や明日の朝のためにも何か買っておかなければならない。
このままこの小さなベッドでカガリの可愛い姿を見たかったのだが、今回は大人しく諦めてアスランもカガリの言うことに従うことにした。

そうして2人で近くのスーパーに買いだしに行く。
トートバッグに財布をいれ、迷わないように一応用意していた地図もつめこむ。
この辺りは、昔アスランがよく来ていた場所でもあり、迷う事はないと自分でも思っているが。

雪が少しずつではあるが本格的に降り出していて、ワンルームマンションに置いてあった傘を一本使用した。
雪のおかげで近づいた二人の距離。
先ほどの熱く甘いキスの余韻も冷めぬのか、カガリは大胆にも腕を絡めてくる。
珍しいことだ。でも嬉しいから、アスランは照れやな彼女のためにも何も言わないでいた。

「・・・・・ここ、アスランきたことある?」
少し歩いたところでカガリが尋ねてきた。
「あぁ。14の頃かな?軍に入る前くらいにはよく・・・でも今、新鮮に思える」
「え?」
「カガリがいるだけで、また新しい世界に思えるよ」
アスランのその言葉に、カガリは頬を赤らめて、また腕を深く絡ませてくる。
2人きりの道のり、アスランのそんな昔話に花を咲かせて歩き続けた。


スーパーでの買い物を終え部屋に戻ると、カガリはさっそく調理を始めた。
これでは家にいる時とかわりがない。
せっかくなんだからゆっくりしてほしいと思ったアスランも、大好きなカガリの大好きな手料理を食べることができると思えば、
強くその行動を制することができなかったりする。
結局、1番甘やかしてるのはカガリを大好きでしかたない自分自身なのかもしれない。

いつもと違うキッチンでカガリが調理を終え、2人で食事が始まった。
小さなテーブルに並ぶカガリの手料理。
寒くなってきた外の温度とはぜんぜん違う、温かい時間。
2人はグラスに注いだシャンパンで乾杯し、カガリはアスランに明日積もるはずの雪で、雪投げ合戦の試合を申し込む。
もちろんアスランは受けてたった。
明日はカガリが喜んでくれることを何でもするつもりだ。

「楽しみだな!負けないぞっ」

そう言ったカガリのその笑顔にすでに負けていることを自覚しつつ、アスランは微笑み返してシャンパンをまた口に含んだ。

 

 


後片付けはアスランが担当した。
「先にお風呂入っておいで」
じっと窓の外の雪を眺めていたカガリを見て声をかけた。
このまま声をかけなければ、きっとカガリは飽きることなく雪をじっと見ていたのだろう。
小さく頷いたカガリはカーテンをしめ、鞄から着替えと今日のために持ってきていたバスタオルを一枚、
それと旅行用の小さな入浴セットを取り出して風呂場へ向かった。
それを確認するとアスランはまた洗っていた途中の皿にスポンジをあて汚れを落とし始める。

・・・・ふと気付いた。一緒に入ればよかったと。
「・・・・・・・・・・・・」
後悔しても遅かった。
途中から参戦するという手段もあったのだが、まだまだアスランにそんな勇気はなく、
そしてそんな考えも思いつかず、今は皿洗いに集中することにした。
皿洗いが終了すると、アスランは受験生のために用意されてあるだろう机の椅子に腰掛けて
明日見てまわる場所を地図でしっかりとチェックしていた。
何分くらいそうしていただろうか。

「アスラーン、あがったぞぉ。次、アスラン」

髪をタオルで拭きながらカガリが風呂場から出てきた。

「シャンプーとかそのまま中に置いてあるから」
「あぁ、わかった」
そう答えてカガリと入れ違いで風呂場へ入る。
すれ違いざま、淡いいい香りがしてアスランは頬を赤らめた。
どうして彼女はこんなにも自分とは全然違う甘い香りがするのだろうか。
そんなことを思ってるのがばれたくなくて、そそくさと隠れるように風呂場の扉を閉めた。

そしてカガリはアスランが風呂場に入ったのを目で確認すると、悪巧みを考え付いた子供のように目を輝かせたのだった。

 

 

 

 

 


シャワーを浴びて、身体を温めて出てきたアスランが、目の前に見たのはベランダに出てカガリが雪を眺めているところだ。
その光景にただ驚く。

外はもう雪が本格的に降り出していて、部屋の中から見ていても寒いと感じる。
彼女はお気に入りのパジャマしか身につけてない状態で、ただ降ってくる雪を見ていたのだ。
アスランは慌ててカガリのもとへ、ガラス戸をあけてベランダに出た。

「・・・・カガリ!」
「あ、アスラン」
「風呂上りに寒いだろう?」
「ん・・・ちょっと寒いかな?えへへ」
「こら・・・!」
アスランはカガリを後ろから抱きしめる。
やはり冷え切っているではないか。
「あ、アスランあったかい」
温かいのも当前。たった今風呂から上がったばかりなのだ。
でもこのままここにいては自分の身体も冷えるだけだと、アスランはカガリに言った。

「部屋に入ろう」
「・・・・・・・・・」
「カガリ」
「・・・・・・わかった」
名残惜しそうに頷く彼女に、よくできましたと言わんばかりに額に小さなキスをする。
ベランダから抜け出して、ガラス戸を閉めカーテンも閉めた。

もう1度カガリの身体を抱きしめるとやはり冷たい。
「寒いの、苦手だろう?」
「今まで寒いの経験したことなかったから、わかんないよ」
あっけらかんと言うカガリ。
これだけ冷えていて少し震えてるような気さえするのに、どこまでも彼女は彼女だ。
そのうち、やっぱり雪が見たいと言い出してまたベランダにでも出てしまうんじゃないだろうか。

そうなる前にと、アスランはカガリの瞳を覗きこんでそのまま唇を奪った。
「・・・・・・・ふぁ・・・んぅ」
反論も言い訳も全部飲みこむように、そんな暇さえ与えられないくらいに、

「・・・俺が温めてあげるから・・・」

1度離れた唇の隙間から聞こえた甘い声に、カガリの身体は温まるどころか急速に熱を帯びた。
それでも無理をさせるな、と最後の抵抗を。
「・・・明日、雪投げだぞ?」
「・・・カガリの楽しみ、奪うわけないよ」

そう言った唇にまた唇を奪われ、気付けばシングルベッドに2人の身体は沈んでいた。

 

 

 

 

 

 


行為を終えた後、カガリがキスをねだってきたので、
またその身体をこちらに向かせてアスランはキスを贈った。

繰り返すキスが終わりカガリが微笑むと、アスランもカガリの隣へとそっと横になる。
シングルベッドはやはり2人で寝転がると狭かった。
カガリが不安そうに、アスランに寄り添ってくる。

「大丈夫、ぎゅってしてあげるって約束しただろう?」

そう言って、約束通りアスランはカガリを抱きしめて、2人は眠りについた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

NEXT

 

1日だけ貸してくれるワンルームマンションなんてあるのか!?
というツッコミはやめておいてくださいませ〜っ(笑)
普通の生活とかわらない、どこが旅行か。プラントはこんなんじゃないってツッコミも・・・なしでっ
雪ではしゃいでほしかったのです。
オーブに住んでる設定なのでそこにいる限りは無理かなぁと思いまして・・・。
そしてこの続きは第二裏。
そしてそして2日目は・・・今執筆中ですが書き終えるかわかりません(笑)。


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