携帯に、新しい名前が加わった。

アスラン・ザラ。

名前も綺麗だな、こいつは。

 

 

 

 

 

 

第4話:1分+5分の奇跡

 

 

 

 

 

家に帰ったあとも、2度ほど電話をかけてみた。けれどやっぱり繋がらず・・・・。
「・・・・・・話したくないのかよ!」
罪のない自分の携帯にむかって怒鳴ってしまう。
何度も何度もかけなおしてるのに、あいつは電話にでてくれない。
だから少しは愚痴も言いたくなるぞ。

それなのに私はずっと、アスラン・ザラの電話番号が出てくる画面を何度も見ていた。

「・・・・・・・アスラン・・・」

話したい。もっと話したい。
あいつのこと色々知りたい。
なんだろう、どうしてこんな気持ちになってるんだろう。

私の中で芽生えた感じた事のない気持ち。

「なんて言うんだろうな・・・この気持ちって・・・」
私が私に問い掛けたその時だった。

♪〜....

「わ!」

ずっと見ていた携帯がいきなり鳴り始めた。電話がかかってきたのだ。
相手は・・・・・

「ア、アスランだ!」

アスランがかけてきてくれたのだ!
嬉しさに興奮しながら私は受話ボタンを押した。

『・・・すいません、アスラン・ザラですがアスハさんですか?』
「あ!やっと繋がったな!」

本当に、やっと声が聞けた。
ずっと話したくてしかたなかったんだぞ!

『なかなか繋がらなくてすみません。何度もかけてくださってありがとうございました』
「いいよ!気にするなよなっ」

本当はちょーっとだけ怒ってたけど。秘密にしといてやるよ。
だって、今かけてきてくれたから!それだけですごく嬉しいから!全部許してやるな?

『ペンダント昨日届きました。良い物をありがとうございます』
「おう!」

相変わらずすごく礼儀正しいアスラン。
電話の向こう側で頭を下げてる姿を思い浮かべてしまって笑いそうになってしまった。

『あの時は本当にすみませんでした。俺へたれすぎて・・・』
「あはは!本当にな!」
『・・・・・・・その上、先に帰ってしまったし・・・』
「あぁ、あの後すぐに私も帰ったぞ?あと、そばにいたおばさん達と少しおまえのこと話してたんだ!」
『え!?』
「おばさんが綺麗な子って言ったんだけどさ、私は最近の男はダメダメだな!って言ったんだぞ〜」
『・・・・・・・・・・』

今度は電話の向こうのアスランが、ショックな顔をして呆然としてる様子が思い浮かぶ。
なんてわかりやすいんだろう。可愛いな。
でも悲しい顔をさせたいわけじゃないから、ちゃんとフォローもしてあげなきゃ。
そう思って、何か言葉にしようとした時、

『き、昨日は遅い時間にかけてすみません!今日も遅くなってすみません・・・!
いっぱい電話いただいたのに出ることができずすみません・・・!
あんな素敵な物までいただいてすみません・・・!あの時はへタレですみません・・・・っ』

次々とアスランの口からすみませんの言葉が出てくる。
どうやったらそんなに謝ることが思いつくんだと思えるくらいに。
私はこっそり笑ってしまった。なんて真面目なヤツなんだろう。必死に頭を下げてるはずだ。
私の心があったかくなる。

そんなおまえが可愛いぞって言おうとしたら、部屋の外からマーナの声が聞こえてきた。

「お風呂入らないんですかー?」

そういえば・・・。マーナにお風呂沸かしておいてって頼んでたんだ。
でも今は・・・・

「あ、ちょっとごめん」
アスランに謝ると、部屋の外から声をかけたマーナに大きな声で返事をする。
「あとで入るよー、マーナ!」
ちゃんと聞きとってくれたようで、マーナのわかりました、という小さな声が聞こえてきた。
それを確認すると、携帯をまた耳にあてた。
そして、アスランの第一声。
『またあとでもいいですよ・・・』

なぜだか寂しそうにそう言う。
ほっとけないんだけどな・・・・。でもここで大丈夫なんて言ったらこいつのことだ。
また申し訳なさそうに謝るんだろうな。

「・・・そうか?じゃあまた後でかけ直すからな!」
『はい、わかりました・・・っ』

そう言って、互いに電話を切った。
そっと、携帯を閉じて、私はそのままぎゅっと抱きしめた。
心がふわふわしてるのは何故だろう?
アスランと話してると、何故なのかって疑問がたくさん溢れてくる。
その答えを導き出すのは難しそうだ。

でも、とりあえず今は・・・・

「お風呂・・・いそがなきゃ!」

私は飛び跳ねるように下着とパジャマを用意して風呂場へと向かったんだ。

 

 

 

 

 


シャワーで身体と髪を洗うと、湯船には浸からずにすぐに風呂場から出た。
ふわふわのバスタオルで身体を拭くと、急いでパジャマに着替える。
髪は小さなタオルでパジャマがぬれないようにした。

「食事はどうなさいます?」
「ごめん!あとで!」

風呂場から出たところでマーナに声をかけられたが、夕食を後回しにすることにした。
階段を駆け上がって、自分の部屋の扉をあける。
紅潮してるはずの顔・・・ただでさえ熱い体がドキドキしはじめる。
きっと風呂上りだからだと、そう理由をつけてから机に置いていた携帯を手に取った。

電話をかける相手は1人だけ。

「・・・・・・・よし!」

登録してあるアスラン・ザラの番号を呼び出した。
3回ほどコール音が鳴ったところで、電話が繋がる音が聞こえる。
私はすぐに声をだした。
「ごめんごめん。待たせたな!」
『すごく早いですね』
「私お風呂早いんだ!」
ちょっとムリがあるかなと思ったら、やっぱり彼は私が急いだことに気付いてくれたみたいだ。
『急がせてしまってすみません』
丁寧にまた謝る。それにしても、気遣いができる本当にいいやつだなぁ。
「平気だって!」
だって私が勝手に急いだだけなんだぞ?おまえと話がしたかったんだ。
これは言わないでおいたけれど・・・。

ちょっとだけ互いに無言になったあと、彼が口を開いた。
『頂いたペンダント、すごく高価なものですよね。気を遣わせてしまってすみませんでした』
また、謝ってる。ほんとにこいつってばおかしなやつだ。
そろそろ笑いをこらえるのが難しいんだけど。
「お父様の仕事で安く手に入るんだ!あんまり気にするなよ」
そう伝えると安心したのか、小さな安堵のため息が聞こえてくる。
そして、アスランが思い切り息を吸いこんだような声も聞こえてきた。何だろうと疑問に思う間もなく、
『ぺ、ぺ、ペンダントのお礼と言ってはなんですが・・・、よかったら、食事にいhjcせp!』
「は?」

今なんて言ったんだ?

『え、え、ええ、えっと・・・!食事はどうでしょうか?ご馳走させてください!』
「食事・・・?」
『はい。もし良かったら・・・・っ』

なぜだか必死なアスラン。
・・・・・・もしかしたら・・・、ペンダントのお礼、絶対に何かしなくちゃって思ってるのかも・・・。
なんだか悪いな。私が勝手にしたことなんだから、気を遣わなくていいのに・・・。

「気を遣うなよ〜。本当にたいしたことじゃないしさ!」
切羽つまったようなアスランに悪いと思って、できるだけ明るく断りをいれるようにした。
これでアスランがほっとしてくれればいい。

・・・・・本当は、本当はきっと、私・・・・アスランと食事したいんだろうけど・・・我慢しよう。

もう2度と話すことさえもできないと思ってたんだから、
今、こうやって喋っていられるだけでも奇跡のようなんだから、
だから、自分の想いなんて、我慢しなくちゃ・・・・!
アスラン、安心しろよな。

『そ、うですか・・・』

アスランの声が、安堵ではなく寂しさに染まっていた。


「・・・・・・・・・・・・」


もしかしたら・・・・本当に、もしかしたら・・・・・
気を遣う、とかじゃなくて私と食事をしにいきたかっただけなんだろうか?
私とおんなじ気持ちなんだろうか?

トクトクと心臓が早くなり始めた。
なんだろう。なんだろう。いっぱいなんだろうって思わせる気持ちがもう止まらない。

また話せたことが軌跡?
ううん。もっと話したい。もっともっとアスランのこと知りたい。

アスランに会いたい。

「・・・・・・・よし!割り勘にしよう!」
『・・・・・・・・・へ?』

発言を撤回するのは恥ずかしくって、私は割り勘なら・・・って提案してみせた。
アスランに全額払わせるのは悪いしな。
本当は今、ちょっと財布の中身はピンチだけど、いいや。貯金おろそう!

 

だから・・・・だから断らないで・・・・。
私の精一杯の勇気なんだ・・・・

 

『・・・・本当ですか?!』
アスランの声が弾んだ。それが嬉しくて嬉しくて、でもその嬉しさをなんとか抑えるようにして
「割り勘だぞ?」
って可愛くない答えをかえした。
でもこうやって念を推さないと、なんだか全額支払いそうな勢いだったし。

『ありがおがlっかふぃ!!ありがろがうございます・・・っ!!!!』

すごい早口でアスランがお礼の言葉を言う。
聞き取りにくかったけれど、ありがとうって言葉なのはわかった。
私はアスランのその慌て方にまた小さく笑いつつ、部屋のカレンダーをチェックする。

「明後日の日曜日、大丈夫か?」
『は、はい!』
「それじゃ、どこで食事にするんだ?」
『えーと・・・』
「こっちはどこでもいいぞ!」
『あ、はい!えーと・・・それじゃ・・・』
「うん」

何かを探しているようなアスランの声。
美味しいお店でも思い出してるんだろうか。

『えっと・・・・その・・・・あ!!・・す、好きなものとか、嫌いなものありますか?』
「すごい辛いのが大好きだ!」
『えーと・・じゃあ辛いところ探しておきます!』
「頼むぞ!」

食事の日にちだけを先に決めた。
そして他愛もない世間話を少しだけしたあと、電話は終わる。

「おやすみ、アスラン!」
『おやすみなさい・・・!』

本当は、まだちょっとだけおやすみの時間には早いんだけど・・・でもいいや!
おやすみって言ってくれたアスラン。なんだかいい夢が見られそうだ!

携帯を握り締めたままベッドにダイブする。
ふわふわのベッドと、ふわふわの私の心。
ただの食事会がこんなにも楽しみだなんて・・・!

「えへへ!楽しみだなぁ!」

ベッドの上をごろごろ寝転がる。
またアスランに会えるのだ。嬉しくて嬉しくてたまらない。
その嬉しさに頬が緩んでしまう。

その時、お腹がぐぅっと鳴った。

「・・・・・・・・・・・・・」

まずは、アスランとの食事よりも、マーナの美味しい夕食で空腹を満たそうと、
私は緩んだ頬のままマーナの待つ1階へ降りていった。

 

 

 

 

 

次の日の夜、アスランから電話がかかってきた。
待ち合わせ時間と場所を聞いて、今日は電話を切ったけれど・・・

「おめかし、かぁ・・・」

彼がおめかしをしてくると言った。
だから私もつい、おんなじようにおめかしをすると宣言してしまったのだ。

「うーん・・・・・」

電話を切ったあと、私は妙な焦りで手のひらが滲んでくる。
女だけれどこういうことはニガテなんだ。
フレイやミリィみたいに可愛くないから、女の子らしい服なんて似合わないし・・・・。

「はぁ・・・・どうしよう・・・」

ため息をついても状況は打開されない。
とりあえず、と私は部屋の中のクローゼットをあけてみる。
「おめかし、おめかし・・・・」
あんなに綺麗な男なんだから、きっとおめかしも気合入ってるんだろうな。

クローゼットをあけた私の目に、少し前にキラからプレゼントされた淡いグリーンのワンピースが飛びこんできた。
こういうのって私に似合わないと思って、申し訳ないけど今まで着ないでいたけれど・・・

「・・・・・・・・・・・・・・・よし!決めた!」

これを着る!!
私はワンピースを手に取り、身体に合わせて姿見で自分を確認してみた。
その場で一回転してみる。
ちょっとだけ女の子らしい動きをしてみたあと、1人でバカみたいだと恥ずかしくなってしまった。

「似合う・・・かな?」

ドキドキする。
似合うねって言われたい。

あぁ、なんだろう。もうこの気持ちが心の中いっぱいで幸せで・・・。

「明日・・・・・会えるんだ・・・・!」

会いたい、アスランに、会いたい。
どんなことを話そうか?友達になれるかな?
そんな幸せな願いに浸ったまま眠りについた。

 

 

・・・・そして、私が待ち望んでいたその日がやってきたんだ。

 

 

 

 

 

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