今日は嫌な事があったり、いい事があったり、本当に不思議な1日で・・・
そんな日に、私はあいつに出会ったんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ハツカネズミ男番外編―HAUMEA―

 

 

 

 

 

 

 

 

第1話:2人の出会い

 

 


今日は大学がお休みで、だから以前から約束していた弟とのスポーツジム巡りを楽しむはずだった。
けれど今回、どうしてもその弟…キラが外す事のできない用事ができてしまって、
仕方なしに私は1人でお気に入りのジムへとやってきた。
仕方ないと割り切りつつも、ひとりぼっちの寂しさと、
部屋にこもりがちなキラを思い切り鍛えてやろう!という気持ちが削がれてしまって、
いい気分…というわけではなく、不機嫌な表情を隠さずに私はジムにむかった。


それでもいつものようにお気に入りのマシンやプールで汗を流した後はすっきりして、
今日は<いい1日>としてその日を終えるはずだったのだ。

 

今、帰宅途中の電車の中で、紫髪のモミアゲ男が奇声を発している。

 


誰に声をかけるでもなく、電車の中にいる人間全員にむかってわけのわからないことを言い続けているのだ。

「んもう!ほんとうに心配したんだよぉ〜」

一体何がだ。
どうやら酔っ払っているらしい。
みんな大人しくしてるのは怖いからじゃなく、本当にどうでもいいみたいだな。

 

私もどうでもいいと思いながらも、その変なくねり方が嫌でも目に付いてしまう。
そしてそのモミアゲ男はにやにやしながら桃色の髪の可愛い女の子に近づいていった。


「君、いいねぇ!髪長い子すきなんだよぉ〜」
桃色の女の子の眉がぴくりと動いたのを、多分電車にいた人間全員が気付いただろう。
さすがにまずいかと思って私が立ちあがろうとした時より先に、
「あらあら。身の程知らずのお馬鹿さんですわね。ふふふ」
と言いながらその女の子は次の駅で降りていった。
ヤブ蚊が出てきたくらいの対応しかしていない。

 

それでもめげずに紫男は身体をくねらせながら
「携帯でボクの写真を美しく撮ってくれてもいいんだよ〜。ほぉら〜」
とかなんとか言っている。
けれどみんな無視、だ。ここにいる全員がどうでもいいみたいだ。みんな利口だな。
……まぁ、変な動き方してるが害はなさそうだし、血を吸わない分、ヤブ蚊よりはましかもしれん。

 

私も無視を決め込んで目的駅につくまで一眠りしようとした。と、

「ボクの美しさがわからないってのかい!?」

興奮してしまったのか周りの無視に耐えられなかったのか、明らかに声が大きくなった。
その声に、閉じていた目を開けてみる。
紫男は1人に狙いを定めたようで、身体をさらにくねらせながら1人の客の前に立ちはだかった。
相手が女の子だったらまずいよなと確認してみる。

すると、女の子のような綺麗な顔立ちをしたした、男、だった。

 

……なんだよ…男なら大丈夫だよな。

さっきのすごく可愛い子でさえはっきりと振り払うことができたのだ。
あいつも大丈夫だろうと私が思ったら、絡まれている男の瞳が揺れたのが見えた。

海のように深く力強い、綺麗な綺麗な碧の瞳が揺れたのだ。
その男に、紫男が手を伸ばす。
気持ち悪さで怯えてるような男は、穏やかで艶のある黒髪、男のくせに陶磁器のような白い肌…

紫男がその白い、綺麗な顎を掴んだ瞬間、私の中で何かが弾けた。

 

「おい!やめろよ!!」

 

そこからの私の行動は、まさにK-1チャンプ並のものだった。
立ちあがって軽く助走をつけて最近覚えた飛びげりを紫男にヒットさせる。
「ごふぅっ?!」
ばたりと倒れた紫男の動きを封じるように押さえつけた。

「私が押さえてるから、おまえは別車両にでも逃げろ!」

そう叫んだのに、その綺麗な男はただおろおろしてるだけ。
なんだ…イライラするな。男だったらもっとしゃきっとしろ!

私がそんなことを考えてる間に車掌さんがきて、次の駅で他の客といっしょに降りることになった。
正直、書類とかどうでもいいし、早く帰ってスポーツニュース見たかったんだけど…
なぜだかこの男を1人にできなくて、私は大人しく交番についていった。

「俺のせいで大変なことに巻きこんですいません」

申し訳なさそうに男が謝る。
イライラしてたけど、そいつのその態度に嫌な気分は吹き飛んでしまう。
礼儀正しいやつだな。そういうの嫌いじゃないぞ、うん。

「いいよ、気にするなよ!」

こいつが悪いわけじゃないんだし、イライラしてるのも私の勝手だ。
まだ不安そうなこいつを安心させるためにも、私は笑ってみせた。

書類を書いてる最中も、ずっとこいつは私のほうを心配そうに見ていた。
だから私も時折顔をあげて笑ってあげる。
そうすると、嬉しそうにはにかむようにそいつも笑うんだ。

 

その笑顔がとても綺麗で、私ももっと笑いたくなる。
ふんわりとした気持ちになってしまった。

なんだろう……この、気持ち……
ずっと感じたことがあるようで…ないようで……

 

あぁ、そうだ……
昔飼ってたハツカネズミのチュー太にそっくりなんだ。

チュー太はまぬけで、滑車をぐるぐる回っては滑るような可愛いやつで、
私がエサをあげるとにこにこ(してるように見えるんだ!)しながら近づいてくる。
オスのくせに、メスに押されるようなちょっと情けないやつで…
でもすごく可愛かった。大好きだった。

 

書類を書き終えたあと私はこいつに言ってみた。
「おまえ、良かったら名前と連絡先を教えてくれないか?」

男は最初、目を点にしていたけれど、私が鞄からメモ帳とペンを取りだし差し出すと
慌てた様子でそれを受け取り、名前と住所を書いてくれた。

「軟弱そうなおまえにいい物送ってやるよ!」

ちょっとした冗談のような、本気。
そう言ったら、こいつはさっきよりももっと慌てて、

「いや、いいです、いいです」

って両手を振って拒否をした。
ちょっと、むっとして私はつい思ったことを口にしてしまう。

「遠慮するな!そんなんだからハツカネズミっぽいんだ!」

私の口から出た言葉に、そいつは真っ赤になって、小さな声で「すみませんでした…っ」
とだけ言って逃げるように去っていった。
なんだよ……
もうちょっと…喋りたかったのに…。

私の胸がちくりと痛んだ。


 

「綺麗な男の子だったわね〜」
電車にのってたおばさんが一言そう言った。
「でも最近の男ってダメダメですよね!」
私が笑いながら言うと、おばさんも笑い出す。

そして、そいつが書いてくれたメモ帳を見てみる。
男にしちゃ綺麗な字。ほんとうになんでも綺麗な男だな。
メモ帳に書かれてある黒い文字を指先でなぞる。

 

「………アスラン・ザラ……」

 

アスラン。
それがこの綺麗な男の名前。

 

私の胸の小さな痛みは、いつのまにか消えていて、
どうしてかわからないけれど、その日は幸せないい日になったんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第2話:初めての贈り物

 

 

 

 

 

私が送ったものは、ハウメアのペンダント。
ハウメアっていうのはオーブにある火山の名前だ。
そして同時に豊穣の女神の名前でもある。

私はこの家の実の子ではないけれど、父はけっこうなお金持ちで、仕事上宝石関係のお店にも繋がりがある。
だから私のもとにはけっこうな額の石がついた指輪やピアスや…
そんなものが贈られてくることもしょっちゅうだ。
けれど私はあんまり興味がない。キラキラしたものがニガテだし…。
そんな中でハウメアのペンダントだけは一目見た時から私の心を掴んだ。
真っ赤な石は幸運を運び、身につけた者を護ってくれるらしい。

送る前に私は祈りをこめたんだ。

どうか…アスランに幸せが訪れますように…って。

会ったばかりの人間に対してこんなこと思うのって変かな?
でも本当にそう思ったんだ。幸せになってほしいって。
なんなら私が護ってやってもいい!…なんてこれはムリだろうけどな。

でも嘘なんかじゃない。
だから私は手紙でありったけの思いをぶつけた。

『アスランへ
あの時おまえを助けた者だ!あの後、ちゃんと家に帰れたか?
道に迷わなかったか?道草くわなかったか?1人で泣かなかったか?
私が言ったいい物、大切にしてくれると嬉しいな。
幸せを運んでくれるんだ。…おまえにご加護がありますように…ついでにおまえ、すこしは鍛えろよ!』

私の思いを綴った手紙は、女の子にしちゃ飾り気のないだろう封筒につめこんで
ハウメアのペンダントとともに送った。

 

 


それから2日。

そろそろあいつにペンダントが届いた頃だ。
受けとってどうしてるだろう?男にペンダントって、喜ばれないのかもしれない…。
私、余計なお世話だったかな…?

なんだか怖くなってきて、ベッドにごろんと横になった。
そのままごろごろしつづける。

 

………これで…終わりなんだ…。

贈り物は終えた。
もう2度と会う事もないだろう。
私の胸が、あの時のように痛みだす。
ちくりちくりと、音を立てるように痛みだす。
どうしてこんな気分なんだろう。寂しいのか?
大好きだったチュー太にそっくりなあいつに会えなくなるのが寂しい・・・そうかもしれない。

「……でも…諦めなくちゃ…な」

いつか運命なら、道端でばったり出会うこともあるだろう。
私は着替えずに、少しだけベッドで眠りにつくことにした。

せめて……夢の中では…
チュー太とアスランに出会えますように……

「……ん」

私は気付かなかった。
携帯電話が鳴っていることに。
あいつが、アスランが、
私に電話をかけてきてくれてることに、気付かず寝てしまったんだ。

 

 


「……あ…すら…」


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 


 

第3話:ちいさなすれ違い

 

 

 

 

 


朝の音が聞こえる。
少し前までは、お手伝いさんであるマーナが私を起こしてくれていた。
でも私が「もう子供じゃないんだから!」と、そう言ったときから早起きは私の仕事になった。

今日も、もちろん、自分で、早起き、だ。
できるはずだったのだ。

「・・・・・・や、やばい!寝坊!!」

朝日の眩しさと雀の泣き声、何気なくチェックした時計の時間に驚愕し、がばりとベッドから飛び起きる。
ちょっと居眠りするだけのつもりだったから目覚し時計をセットなんてしていなかった。
私は大急ぎで支度をはじめる。

今日は1時間目に大事な講義があるんだ!
なんとしてでも間に合わなくてはいけない。

私とおなじ年齢でも、コーディネーターはみな成人してて働いてる人のほうが多いけど、
私はナチュラルで、学生だ。たまにアルバイトでお小遣いを稼いでるくらい。
どっちにしろ学業優先。
私の選んだ大学は厳しいところでもなんでもないけれど、それでも遅刻はご免だ。

鞄の中に必要なものを詰め込んで、テーブルの上に置いてあった携帯電話を掴む。
着信も、メール受信も確認しないまま、ポケットにつっこんだ。

ばたばたと階段を駆け下りれば、マーナがのんびりとした笑顔を向けていた。
「おはようございます」
「おはよ!」
「朝食はどうなされますか?」
「・・・・・・食べたいけど時間がない・・・!あとでパン買って食べるから!だいじょうぶ!」
たたみ掛ける様に喋る私に慣れっこの様子でマーナはグラスに注いだ冷たいアイスティーを差し出した。
私はそれを受け取り一気に飲み干す。

「・・・・・ごちそうさまっ!じゃ、いってきまーす!」
「はいはい。いってらっしゃいませ〜」

のんびりとしたマーナの声を背中に、私はお気に入りのスニーカーで駆け出す。
朝の匂いを身体中にあびて、気持ちが良かった。
そして大学の講義にはなんとか間に合った。本当に間に合ってよかった。

 

 

 

 

「でもカガリが遅刻なんて珍しいわね〜。というより来ないなんて。」
お昼になり仲良しのフレイとミリィと昼食をとっていたら、フレイがそんなことを言い出す。

「遅刻してないぞ!しかけたんだ!講義はちゃんと受けたぞ!」
私自身をかばうために声を荒げる。だって遅刻なんてしていない。
私の足は間に合うようにと頑張ったんだぞ!
「講義のことじゃないわよ〜。あんたにメールしたでしょ?朝いっしょにカフェで朝食とらない?って」
「え!?」
メール?なんの事だ?
私がわけのわからないという顔でもしていたのだろうか、ミリィが助け舟を出してくれる。
「・・・・・・・・昨日の夜、メール送ったんだけど・・・もしかして見てなかったの?」
「えぇ!?」
ミリィの言葉に私は慌てて携帯を探り出す。
そういえば昨日の晩は早くに寝てしまって、今朝は携帯を覗く時間さえもなくて、そのあとは講義続きで・・・・
いつも必ずやってるメールチェックのことなんてすっかり忘れてしまっていた。
「ご、ごめん!」
携帯を開くと、やっぱり2人からおんなじ内容のメールがきている。ついでにキラからおやすみメールもきている。
「わ、わ!ほんとごめん!昨日気付かなくって・・・!」
「いいわよ、私たちも遅い時間に送っちゃたし」
「返事なかったから、どうせアンタのことだからこんなことと思ってたしね」
ミリィはともかく、フレイのその口調にはちょっとだけむっとする。
でも、フレイも本気で怒る子じゃないんだ。本当はすごく優しい。
それを私はちゃんと知ってるから怒る気にはならないんだ。

 

「・・・・・・あれ・・・?」
メール3件のほかに、1件着信が入っていた。
「どうしたの?」
ミリィが尋ねてくる。
「・・・・・・・知らない番号から電話がはいってる」
「え?」
「危ないんじゃない?かけなおさないほうがいいって」
「うん・・・・・あ、でも、留守電入ってる。聞いてみるな」

私はその謎の着信の留守電を流すためにキーを押して、右耳にあてて内容を確認した。
一体誰なんだろうか。

不思議に思いながら私の耳に届く声は・・・ふんわりとした優しい男の声だった。

 

『あ・・・・・や、夜分遅くに・・・すみませ・・ん・・っ
アスラン・ザラ・・・です・・・!こんばんは・・・・・・っっ
ペンダント、届きました。本当にありがとうございます・・・!
大切にしますね・・・・・。あ・・・の・・・・その・・・・えっと・・・・俺っ』

 

ピー・・・・・・

 

っとここで電話は切れた。
あいつ、何を言いたかったんだろうか?

 

「カガリ、誰だった?知り合い?」
「ん・・・まぁ、ちょっと」
「あやしい!男!?」
「・・・・・・ん・・まぁ・・・」
「「えぇぇぇぇ!!!??」」
「な、なんだよ・・・私が男と電話って変かよ・・・!」
「だ、だって・・アンタが・・・!アンタが男って・・・今まで色気のいの字もなかったアンタが・・・!」
「悪かったな!」

そう言って私はかかってきていた番号にかけなおす。
2人は興味津々にこちらをじっと見ている。
別に2人に内緒の恋人にかけるってわけじゃないんだから、逃げずに堂々としていた。

「・・・・・・・・・でない」
「あらら。ふられた?」
「バカ。だから違うって」

フレイが笑いながらからかってくる。私は頬を膨らませて否定した。
そろそろ出ないと次の講義に間に合わないとミリィが言ったので、私たちは席を立ち店をでた。
店を出たあとも、2人は私の謎の恋人の話をしている。
恋人じゃないって何度も言ってるのに・・・・!まったくもう!

私は自分の携帯を見てみた。
忙しいんだろうか?タイミングが悪いよな。また後でかけ直すことにしよう。

「あぁ〜、アンタやっぱり気になるんでしょう!?」
「もう!ラブラブじゃないの!」
「・・・・・・・・・・・・・・・」

 

・・・・・・・・かけなおすの、今度は2人がいないところで、な。

 

 

 

 

 

 

 

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