勝利の褒美:一日何でも命令権。


次男の贈り物

 

 

 

 

 

 

僕は父上似だ。だから兄さんの発言は許せなかった。
多分母上のことだとしても許せなかったけれど・・・。

だから負けたくなかったんだ。
ルールは『母に父の欲しいものは聞かない』。
兄さんとプレゼント対決の唯一のルールだ。これを守らなくてはならない。
「これはアリ・・・だよね?」
要は母上に頼らなければそれでいいのだ。


そう自分に言い聞かせて僕はメモ帳片手に屋敷の中をうろつく。
まずは情報を集めることが勝利への第1歩だ。
成人男性の欲しいものを徹底的に調査して、その中でも僕が手を出せるものを選べばいい。
というのはタテマエで、手っ取り早く母上以外の人に聞いてしまおうと思ってたりする・・・。
ルールは破ってないから大丈夫。
ちなみにこのメモ帳は、母上が父上やマーナたちに内緒で屋敷を抜け出して100円ショップで買ってきたものだ。
危険なことをするんじゃないと怒り気味の父上に対して

「変装してたしばれてないから平気だぞ〜」と、
ほがらかというか・・・暢気に言い返していた母上。

でも、100円ショップの店長さんからただでさえ安い100円グッズを半額にしてもらったと言うのだから、
絶対、確実に、間違いなくばれていたはずだ。父上も何か言いたそうにしていたし・・・。
我が母親ながら、この天然さには脱帽だ。・・・でもそこが可愛いと思う。

そんな思い出がつまったこのメモ帳は母さんが家族全員分買ってくれていた。僕のは緑色だ。
ついでにこれまた100円ショップのボールペンを握り締め、早速調査に乗り出た。

 


「あー・・・すみません」
「はい?どうかされましたか?」
いつも美味しい料理を作ってくれるアスハ邸専属のコックさん56歳だ。
時々母上に料理を教えてくれている。それを父上がヤキモチを妬きながら見ていたりする。
休日や特別な日は母上が料理をしてくれるけれど、
それ以外の日は全てこの人が僕たちに美味しいものを提供してくれるんだ。
けれど昔、僕がまだ子供だった頃、「ははうえのほうがおいしい!」と面と向かってこの人に言ったことがあるらしい・・・。
覚えてないんだけれど大きくなってからその話を聞いて、あまりの失礼振りに僕は赤くなった。

でもこのコックさんはその時、微笑みながら「きっとそうですね」と答えてくれたらしい。
恥ずかしい思い出でもあるけど、それを聞いてから僕はこのコックさんが大好きになってしまった。

「えっとぉ・・・何か・・欲しいものはありますか?」
「え・・・!?」
「あの・・・だから・・・男の人が欲しいもの・・・・」

優しいこの人ならきっと父上の欲しいものがわかるかもしれない。
期待を込めて尋ねたあと、僕はじぃっとコックさんの瞳を覗きこんでみた。

「あぁ・・・」

何かに気付いたのか、微笑んでくれる。

「・・・・なんでもいいのですよ。例えば・・そうですね・・・カガリ様」
「母上?」
「そう、カガリ様は今、私にケーキの作り方を習ってますが?」
「そうなの?」
「えぇ」

母上が・・・知らなかった。

もしかしたら、父上や僕たちの誕生日には毎回ケーキ作りを教わってるのかな?
母上のケーキはとっても美味しいのに。これ以上美味しくするのかな?


「贈り物は愛情ですよ」


僕の心の内を見透かしたのか、また微笑んでそう言ってくれた。

 

 

 

「・・・・・・・愛情かぁ・・・」
言われた言葉を反芻しながら滑りそうなほどぴかぴかな廊下を僕は歩いてる。
愛情といっても形はそれぞれだし、何より<形>はないのかもしれない。
でももっとはっきりとわかるものでないと勝てないのだ。

「そうだ!キラ叔父さん・・・!」
叔父の顔を思い出す。
キラさんは母上のキョウダイにして父上の親友だ。
キラさんに聞けば間違いなく父上の欲しいものがわかるだろう。
どうして気付かなかったんだろうと、僕は電話機の置いてある部屋へ向かおうとした時、
コックさんの「愛情」という言葉が頭の中を駆け巡った。

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

愛情、って何だろう。難しい。
部屋に戻ってもう1度その言葉の意味を考えてみることにした。
自分の部屋に戻ろうとする前に、兄の部屋の前を通る。

「・・・・・・・・・・・・・」

兄さんは何を用意してあるんだろうか?
それとも僕のように躓いてしまっているのだろうか?
なんだかそれがすごく知りたくなって、どうか僕と同じでありますようにと、
身体が勝手に動いて部屋の扉をノックしてしまった。が、返事はない。

いつもなら失礼なことだと思うから絶対しないけど、今の僕はどうやら弱気で人恋しいらしい。
無断でドアを開けてしまった。
鍵がかかってないから、それほど気にしなくていいかもしれないけれど。
ドアを開けると、そこにちゃんと兄さんは居た。


「兄さん・・・」
僕が声をかけると、ぱっとこちらを振り向く。
「ライル・・・・」
振り向いた兄さんは、なんだか不安そうな顔をしていて・・・
もしかしたら・・・やっぱり僕と同じなのかなと、思い切って問い掛けてみた。
「・・・・兄さん、プレゼント決まった・・・?」
「あ、あぁ!決まったぞ!」
残念ながら、僕が思っていた答えは返ってこなかった。
「・・・・・・そう・・・」
「なんだ?降参しにきたのか?許してやってもいいぞ〜」
・・・・・・・・・・・むっ。
なんだよ、その鼻につくような言い方!
兄さんはこういうところがある。自分が兄だからって偉そうにすることが。
「・・・・・違う。もういい!負けないから・・・!」
できれば協力したかったけれど、こんな兄さんと協力なんて無理な話だったんだ!
「あ・・・ちょっと・・・!」
僕をひき止める声が聞こえたけど、聞こえないふりをした。


<愛情>という言葉をすっかり忘れてしまった僕は、自分の部屋に戻ってキラ叔父さんに電話をかけた。
でも、コックさんと同じ事を言われてしまいその言葉を思い出し・・・

僕の父上へのプレゼント選びは一からのやり直しだった。

 

 

 

 

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