贈り物対決の、行方。

 

 

 

 

 

KISS   KISS 

 

 

 

 

ハッピーバースデーの合唱は歌が得意なカガリを筆頭に奏でられ、
その歌が終わると同時に暗闇の中で揺らめき燃えていたろうそくの火が消される。

「おめでとう!アスラン!」

ろうそくが消えたのを確認して、拍手とともにカガリのいつもと変わらない明るい声が部屋に響いた。
部屋の灯りもつけ、眩しさに目を細めそうになるそれとは正反対に、むっとした表情のままの子供たち。
温度差がありそうなその世界も、可愛い妻の笑顔ですぐに気にならなくなったアスランは、
「ありがとう」とそう言いながらカガリの頬にキスをした。
キスをされたカガリは、子供達をそっと盗み見る。
それに気付いた双子はぱっとそっぽを向くのだ。
子供の様子を気にしだす母親の次の行動は、毎回決まって父親へキスを贈ること。
14年間ほぼ毎日のように繰り返されてきたもはや習慣のようなもので、
それを気付かないふりをするのも随分うまくなったなと二人はしみじみと思う。
ついでに言うと振り向くタイミングももう身体が自然と覚えてしまっているのだ。
今日は父親の誕生日だ。だからいつもより10秒は長いだろうと、
わざとらしく余所見をしながらこの照れてしまいそうな静寂の時間を乗り切る。
3、2、1・・・・
カウントが0になったところで、両親のほうをちらりと見れば、
キスの後の余韻でうっとりと見詰め合ってるところではないか。


・・・・またか・・・・


と、二人同時にそう思い、顔を見合せて苦笑する。
が、喧嘩中のことを思い出し慌てて気を引き締めた。

 

「あ、二人はアスランに何かプレゼント用意してるんだろう?」
カガリが子供達のほうへ振り向き、問い掛ける。
いきなりのことで二人とも驚きを隠せなかった。
そういえば・・・あの時、二人がプレゼント対決を決めた時、母親もそばでのんびりと見ていたはずだ。
父親以上に期待の目をキラキラさせてプレゼントが何かを知りたがっている母。

「へぇ〜・・・楽しみだな」

そのアスランの一言で、冷や汗が流れた。
ウィルもライルも・・・実はまだ何も用意してなかったのだ。
いや、1つだけ、最終手段として選んだものがある。
それは父親が本当に必要なものだろう・・・多分。けれどなるべく、この最終手段は使いたくない。
未だに期待の目を向けられたまま、二人は後ずさる。

「えっとぉ・・・・あの・・・・」

二人とも相手のプレゼントを見てから、自分のものを贈ろうという魂胆だ。
つまり、相手のプレゼントを見るまでは自分が贈るものを明かすことはできない。

「えっと・・・!その・・・・!お、俺!ここに置いてないからとってくる・・・!」
「ちょ・・・!兄さん!」

駆け出し部屋を飛び出していったウィルの背中を呼び止めるが、遅かった。
ばたばたと勢いのいいその姿はやっぱりカガリに似たよな〜と、アスランはのんびりとそんなことを思う。
そして結果的に、母親の期待の目が向けられるのはその場に取り残された弟となった。

「なぁなぁ、ライルは何選んだんだ?」

もはやカガリへの贈り物をカガリが楽しみにしているような様子だ。
そういう母親の姿を見るのは嫌いではない。むしろ大好きだ。可愛い。
でも今この状況はいただけない。

「ぼ、僕も・・・とってくる・・・!!」

何とかこの場を切り抜けようと、先ほどの兄のように部屋を飛び出した。

「・・・・・二人とも、カガリそっくり」
「いーや!おまえに似てるぞ、危なっかしいとことか!」

小さく笑いながら言ったアスランの言葉に、カガリは頬を膨らませて可愛く反論した。

 

 

 

 

「やっぱり・・・女装しか残されてないのか・・・」
びらびらのフリルのスカートを天井へと翳して気分が滅入る。
自分の中にあるまともな考えが拒否反応を示して、化けた姿を何度も想像してもやっぱり鳥肌が立ってしまう。
こればっかりは慣れることはないし、慣れたくもない。
「はぁ・・・・」
ため息をつきながらスカートを床に落とし、自分のジーパンの後ろのポケットに手を突っ込んだ。
そしてそこに入れてあった、少しくしゃくしゃになった紙を取り出す。
それをまた、スカートの時と同じように天井に翳してみた。

「最終手段よ・・・」
「それ、なぁに?」
「!!」

後ろから聞こえてきた声に、飛びあがりそうになる。
この声は、喧嘩中の弟だ。
どうしてこいつはいつも俺を驚かしてばかりなのだろうと、
憎まれ口の1つでも叩いてやろうかと振り向けば、ライルの視線は自分の手元の紙にある。

「・・・・・・『何でも言う事聞きます券』・・・?」
「・・・・・!!」

しまった・・・!
ウィルはただでさえ形が崩れた紙を慌てて丸めてポケットにしまい込む。
見られたくないものを見られてしまった。
ウィルの最終手段、何でも言う事聞きます券、は、去年の反省を活かしきれてない変わらず幼稚なものだった。
それを自覚してるからこそ、本当に最後の最後の手段にしたかったのだ。

「・・・・・・・・・」
「な、なんだよ・・・ッ」

その瞳が哀れみの瞳のような気がして・・・兄としてのプライドがずたずたになっていくのを感じたウィルは、
せめてもの反抗としていつものように強がった物言いをしてみせる。
それに怯むことなく、ライルはふっと笑った。

「・・・こら!笑うなよ!」
「ごめんごめん」

笑いは止まらないまま、大きくなっていく。
まるで馬鹿にされてる気分だと思っていれば、笑っていた弟はすっと自分のポケットを探り出している。
そうして、紙を取り出した。

「やっぱり僕たち、双子だね」

ぺらりとした紙が、彼の手元に。
ウィルのよりもずっと丁寧に折りたたまれているそれには、やっぱりこう書かれてある。

『何でも言う事聞きます券』

「ね?」
「・・・・・・・っく!・・・あははははは!」

その文字を見て、今度笑うのはウィルの番だった。
二人とも虚勢を張ってのことで、結局贈り物を何にしていいのかわらかなくなって、
最後にはこんな幼稚なものに頼ってしまう。
本当に、自分達は間違いなく双子である。

「なんだよ〜!おまえ、決まってないならそう言えよ!」
「兄さんこそ・・・!ずるい!」
「悪い悪い!」

喧嘩はいつのまにか終わりを告げた。
そんなところもアスランとカガリとそっくりだと言う事には二人は気付かなかったけれども、
大きな声で笑っていれば、ぎくしゃくしていた空気なんてあったことさえ忘れてしまう。
一通り笑って落ちついたら、ライルが言った。

「とりあえず・・・プレゼントはないって正直に言おうよ」
「・・・・そうだな。謝るか!正直が一番!」
「うん」

仲直りを終えた二人に残された最後の試練は、きちんと謝ることだった。
もちろん、プレゼントを用意してないからと言って怒られるわけではないし、
やっぱり「おめでとう!」の一言で喜んでくれる父親だから怖くも何でもないけれど・・・。
ちょっぴり大好きな母親の寂しそうな、つまらなさそうな顔を見るのを我慢すればいいだけのことだ。
実はそれが一番辛かったりもするのは、父親には内緒だ。

 

 

二人で両親の待つ部屋へ戻り、扉を開けようとする。
忙しなく出て行ったせいか、ドキドキしながらライルがその扉をゆっくり開けようとしたが・・・

「・・・ダメだ」
「へ?」

ほんの少しだけ開いた扉を静かにぱたりと閉めた。
一体どうしたんだと、ウィルが尋ねようとするとなぜか赤くなっているライルは小声で耳打ちする。

「・・・キス中」
「えぇ・・・!?」
「しっ!」

大声を出しそうになった兄の口を塞いだ。
二人の声は自然に小さな囁くようなほどで喋り出す。

「・・・・・・ったく・・・またかよ・・・」

呆れ顔で言いながらも、両親の仲のよさに幸せそうなウィル。

「・・・・・何分かかると思う?」
「・・・・・今回ばっかはわかんないなぁ〜」

腕組みをして、部屋の中でキスを繰り返しているだろう両親を思い浮かべ、
顔が赤くなりながらも考え込む。が、明確な答えは出てこない。

「そうだ・・・、これ使う?」

何かを思いついたように、ポケットに突っ込んでいたお手製の『何でも言う事聞きます券』を取り出して、
にやりといたずらっ子のように笑ったライル。

「・・・・・・・・いいな、それ」
それに頷く、ウィル。

「ついでだから、『愛情』も込めてみようよ?」
「・・・・・・・いいぞ!」

双子だから分かり合えたのかどうかはわからないけれど、どうも両親のこととなると
二人の意見はぴったり一致するようだ。
『愛情』の意味を尋ねなくても、愛情たっぷりの両親たちを見ていれば自ずと答えは導き出される。

そして二人、扉に手をかけた。

 


「「せーの・・・!」」

 


バタンと大きな音を立てて、開いた扉から駆け出して父親のもとへ。
驚いて赤くなりぱっとその身を引き離した両親二人が目に飛び込んできて、双子は笑い出しそうになった。

「おめでとう、父さん!」
「おめでとう、父上!」
「へ!?」

先ほどまで母を抱いていた右手をウィルが、左手をライルが引っ張り前のめりになった
ほうけたままの父親の両頬にそれぞれキスを贈った。

そして片手に持っていた券をちぎって空に舞わせると、大きな声で叫ぶ。

 

「僕たちからのプレゼント!母上との二人きりの時間!」

 

「母さんといつまでも仲良くね!」

 

空に舞った券がふわふわひらひらと落ちてくるより先に、また慌ただしく駆けだし部屋を飛び出した。
呆然とその場に、残された二人。
暫くそのまま呆けていたけれど、舞い落ちた紙に『何でも言う事聞きます』なんて書いてあったから、
アスランもカガリもお腹を抱えて大笑いした。

 

 

 

 

 

 

ばたばたと二人の足音が鳴る。
気分が高揚していて、互いに無意味なくらい大きな声で笑い、大きな声で話し合う。
「やったな!」
「うん!」
いつも余裕たっぷりの父親のあんな姿、もう一生見られないかもしれない。
そしていつかあの素敵な父親の背中を追いぬこうと、二人とも心に決めている。
あの男は、自分達の目標なのだ。

走ってるせいで荒くなる呼吸も気にせず、二人は話し続ける。
時間が少し経って、やってみた後で無性に恥ずかしくなってきたのを隠せてるような気がするからだ。
14歳になって父親にキスをする男なんていないだろう。
それでも不快な気分は微塵もなかった。

 

「この年で兄弟ができたらどうする?」
ライルが笑いながら言った。
「せめて母さん似の男の子は産まれてこないことを祈る!」
俺に降りかかってきたのと同じ悲劇を繰り返してはいけない、とウィルが。

 

「じゃあ、やっぱり女の子?」

「それも大変だろう!あの父さんだし!」

「あはは!」

「でも、そうなったら嬉しいな!」

「・・・うん!嬉しいね!」

 

駆け出す二人は誰も知らない未来に思いを馳せて。
アスランとカガリの愛する可愛い子供達の、大胆で可愛い予想。

 

そして、二人のこの予想がぴったり当たることになったのを知るのは、10ヶ月ほど後の未来。

 

 

 

 

 

 

END

 

子供達からの贈り物は甘い時間でした!

 

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