ルール:母親には頼らない


長男の贈り物

 

 

 

 

 

俺は母さん似だ。ちょうど今、母さんが15の頃の背丈らしく、雰囲気も似ているらしい。
最近では父さんから「まるで出会った頃のカガリだな〜」と、どこかセクハラめいた視線を浴びることもある。
そのたびに、実の父親はセクハラで訴えることができるんだろうか・・・
と頭を掠めることもあったりなかったり・・・。

父さんは本当は母さんに似た女の子が欲しかったらしく、それはなんとなくわかる。
母さんはすごく可愛いから母さんに似た女の子はきっとすごく可愛い。
見てみたいと思う。兄と姉はもう無理だから、妹が居たら楽しいと思う。

・・・でもほんとに母さん似の女の子が生まれてきたら、
嫁にも行けなくなると思うから俺たちが二人とも男でよかったのかもしれない・・・。


そんな、女の子が欲しかった父さんが1番喜ぶプレゼント・・・
実は俺は身をもって父さんのほしいものを知っている。


がちゃりと開けた俺専用のクローゼットの奥深く、2度と開けることはないはずだった箱を取り出す。
震えに震える手で開けるその箱の中身は・・・
12歳まで粘りに粘って購入されてしまった女の子の洋服一式。ご丁寧なことに髪をまとめるリボンまでついている。
俺が最初に女装を迫られたのは、俺の記憶さえないような幼い頃らしい。
それを母さんが必死に止めてくれたらしくて・・・母さんは俺の恩人だ。ありがとう。

とにかく父さんは昔から女の子が欲しくて欲しくて欲しくて欲しくて欲しくて・・・その話はすでに457回は聞いた。
もちろん俺たちが生まれてきた時は涙が零れてしまったくらい嬉しかったと、
言葉にはできないほどの感動だったと言ってくれた。
その話をしてくれる時の父さんの顔は温かくて優しいから、それはきっと真実だ。
けれどそれでも、やはり女の子の夢は諦められず・・・事あるごとに・・・その・・・
母さんに・・・せま・・・せまってたりする・・・・。
ま、まぁ・・・夫婦仲が良いのはとてもいい事だから・・・な。

でも残念ながらその願いはいまだに叶えられず、夢の矛先は俺に向けられていることを幼い頃から感じていた。
・・・実際に女物の服を贈られたらいやがうえにでも感じなくてはならないのが悲しいところだ・・・。

カガリにそっくりだ。というのが父さんの口癖。
母さんにそっくりだっていう髪質と金髪は認めよう。が、顔は似ていない。
だんだん男らしくなってきたと恥ずかしいけれど自負している。
これからはもっともっと男らしくなっていく予定だ。身長だって父さんを追い越す予定。
だから、もう「これ」、は一生お目にかからないと思っていた。
それこそ倉庫の奥深くに沈めて成人したくらいの忘れた頃にでもまた見つけ、
あぁ、こんなこともあったな〜懐かしいな〜あはは。と昔に浸るくらいの役割だったはずなんだ。


自分に言い聞かせる。男を捨てるわけではない!!と。
あくまでこれは、父さんを喜ばせるためのプレゼント・・・いや、出し物だ。そう、出し物!

箱の中からリボンを取り上げる。そしてその赤いリボンを自分の髪にくくりつけた。
うまい蝶々結びなんてできないから、どこか形が歪になってしまったが、これはこれで個性が出ていて可愛いと思う。
思わせてくれ!!と鏡にうつった自分を見て思った。・・・わかってる。やけになっただけだ。

今度は成長期には合わなくなったドレスを自分の身体にぴたりと合わせて鏡の前でポーズしてみる。


「・・・・・お、お、おめでとう、・・・・パ、パパ?」


これは出し物だ出し物だ出し物だ出し物だぁ・・・・っ!!!

心の中にいる、真実の俺が叫びをあげる。


「・・・・・・・パ、ぱぱぱぱ・・・っパパ、だ、だーいすきっ」


笑顔でいれば少しは可愛いかもしれない。しれない。しれな・・・

 

・・・・・・・・・ない!!!!

 

「ダメだぁぁぁぁぁああ!!!!!」

 


服を床に投げつけた。
鏡にうつったおぞましい自分の女装姿に鳥肌が立つ。
これでまたセクハラ視線を受けてはたまらない。
本当に父親を訴えるのは勘弁だ!!

・・・・・・・・・・・・ダメだ!俺は男だ!!!

やはり男を捨てることはできなかった。
髪にくくりつけたリボンを取ろうとしたらひっかかっていて上手くとれやしない。
「くそっ」
なんとかとれたリボンも床に放り投げた。
俺のバカヤロウ!!ここまで落ち切ったのか・・・!?そこまで悩んでるのか・・・!?
おまえはよくやったよ!!よくやった!!!
男を捨てかけた自分を罵倒しながらも慰める・・・。
自分でも馬鹿だと自覚している。
その昔、母さんが笑いながら言った。
「ハーフでも馬鹿は馬鹿だなぁ!」と・・・・。その通りだ・・・・。

「父さんの好きなもの・・・欲しいもの・・・」

実の息子だっていうのに、思いつかないのは悔しい。
歯軋りしそうなほど奥歯を噛み締めてみても、ダメだった。

 


「兄さん・・・」
突然かけられた声に俺は飛びあがりそうなほど驚く。
俺のことをそう呼ぶのは一人だけ。
「ライル・・・・」
振り向けば不安そうな目でこちらを見ていた。
「・・・・兄さん、プレゼント決まった・・・?」
弟からの問いかけに、俺は慌てて虚勢を張る。
「あ、あぁ!決まったぞ!」
「・・・・・・そう・・・」
「なんだ?降参しにきたのか?許してやってもいいぞ〜」
俺にわからないんだから、こいつにわかるわけないと、俺は考える。
ここで協力し合うのも悪くない。
どうかここで折れてくれ・・・!と願いをかけるもそれは叶ずライルは言った。
「・・・・・違う。もういい!負けないから・・・!」
「あ・・・ちょっと・・・!」
呼び止める声を無視して去っていった弟の後ろ姿を見ながら、俺は途方にくれる。


俺の父さんへのプレゼント選びは一からのやり直しだった。

 

 

 

 

 

 

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