あれよあれよと、あっという間に噂は流れて、
拒否権もいつのまにか消えてしまったみたいだ。

 

 

 

 

 

 

愛は真夏の......

 

 

 

 

 

 

品位を汚す、とか、そういう声が聞こえてこないところが、
本当に父さんと母さんが国民に愛されてる証拠だ。

番組の内容は、ひたすら父さんと母さんを祝福するものだけど、
その中で本人たちの普段の姿をドラマ仕立てに撮影するらしい。

 

あれから、新聞や雑誌を賑わす
「カガリ様・アスラン様、ご結婚10周年記念ご本人ご出演ドラマ〜愛は真夏のハイビスカス〜」
に出演する母さんは頭を抱えて本気で悩んでいた。
・・・・・オレとしてはその変なタイトルに頭をかかえるんだけど・・・。
今からノリ気のマーナを説得したところで、国民の期待の目を裏切ることになるって、
母さんはサービス精神旺盛な人だから、期待されると裏切る事ができない。

 

今日も一面でとりあげられてしまった新聞を見ながらウーウー唸っている。

 

「・・・・・・・・・・・・よし!」

何かを決意したのか、新聞をテーブルの上に置いて立ちあがる。
オレとライルは100%のオレンジジュースを飲んでいたけど、そんな母さんを見て、ストローから口を離す。

 

何か、くる。

 

そんな予感は父さんもしていたみたいで、ウーウー唸ってる母さんの横で大人しくコーヒーをすすっていたけど
カップをテーブルに置いて母さんの次の言動を大人しく待った。
そして母さんはみんなに言った。

「家族会議だ!!」

その言葉を聞くと、まるで飼いならされた犬のように母さんの言葉に従いピンと背中を張る父さんと双子の弟。
オレはそんな2人を見て、そっくりだなぁと思いながら2人に遅れて背を伸ばす。

「大変なことになった・・・!」
「楽しそうじゃないか」
「バカ!」

母さんの大声が響いた。
母さんのバカって言葉はほとんど父さんに向けられている。
それは愛の証だよ、って前に父さんがこっそり教えてくれた。
どう言い返したらいいかわかんなかったけど、父さんは母さんがそばに居る限り一生平和でいられると思った。

 

「いいか、アスラン!」
「なんだ?」
「キスは禁止だぞ!」
「・・・・・・・・・・・・・・・・はい」
「その間はなんだ!?」
「自信のなさ」
「しっかりしろ!」
「・・・・・・・・・・・・・・・・はい」
「その間はなんだ!?」

まるでこの間テレビでやってたコントのようだ。
母さん、テレビ出演はイヤだって言ってるわりにけっこうお笑いなら様になるかもしれない。
メオトマンザイ、だっけな?
頭の中で父さんと母さんがマンザイを始めた。
けど頭の中でも、マンザイ中の父さんはお客さんを見ずに母さんだけを見てにこにこにこにこしてるんで、
オレはおかしくなってしまって・・・・・・・・笑いを必死でこらえてみせた。

 

そんな間も父さんと母さんの交渉は続いている。
キスしたくてたまらないという父さんに、母さんが妥協案を持ち出してきた。

「それじゃ、頬。頬にキスは許す!」

その言葉に父さんは反対の声をあげたそうにしていたけど、
母さんがものすごい形相で父さんを見ていたから、諦めたのか小さく頷いた。
すごく寂しいのだろう。
この間庭先に迷い込んでやってきた子犬のシロ(母さん命名・白いからシロ)が、
オレたちが遊んでくれなかった時に見せるしょげた表情とそっくりだった。
父さんのことだから、この機会にいまだに母さんに言い寄ってくるお偉いさんたちに
2人がいかにラブラブかを見せつけて牽制したいのだろう。
でも母さんにとって、そんなラブラブを見せつけてしまうのは恥ずかしいものでしかなくて・・・
だから続けて父さんにとっては無理難題を要求する。

「でも1秒で終わりだ。1.5秒は許さないぞ!」

その0.5秒はどうやったらわかるのとすごく言いたい。けどガマンする。
今のオレ、さっきの父さんみたいだ。
ちらっとライルを見てみたら、おんなじように何かガマンしてるような顔をしていた。
やっぱりオレたち双子だ。

「もう逃げられないんだからな・・・!変なことするなよな!」

恥ずかしがりやの母さんはやっぱりこういうことはちょっと苦手みたいだ。
父さんもどちらかと言えば苦手ジャンルのはずなのに・・・・
きっと2人のラブラブをよほど見せつけたいのだろう。

「マーナは新しいドレス用意するって言ってるし・・・」
「ドレス?」

母さんの「ドレス」というその言葉に、父さんの目が輝いた。
まさかと思って弟の姿を見れば、やっぱり目が輝いていた。
この親子は似てると思う。オレもおんなじ血をわけてもらってるはずなんだけど・・・なんだか少し寂しい。

でも口元が緩んでしまりのない笑顔を見せてる父さんの、その姿だけは似なくてよかったと本気で思う。

 

母さんもそんな父さんに気付いたらしい。
駄目押しの念押し。

 

「ほんとに変なことするなよな・・・!」
「大丈夫。俺を信じて?」

 

口元が緩みきったままそう言う父さんに、
オレも含めて3人同時に「信じられない」と思ったと思う。

 

 

 

 

 

 

V
 

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