※ザラ家族物語※

 

 

 

 

 

俺の名前はシン・ザラ。


父さんはザラコーポレーション敏腕社長パトリック・ザラ。
母さんは世界的デザイナーと主婦の2つの顔を持つレノア・ザラ。

そんな2人はよく海外へ出張という名の夫婦水入らず旅行に出かけるのが趣味で、
よくもまぁこんな感じで甘く会社を経営してるものだと俺は呆れつつも感心してきた。

 

裕福と言う言葉を形にしたようなだだっ広い屋敷で暮らしていたものの、
高校進学を機に今の家じゃ通学が不便だということで気ままな一人暮しが始まった。

一人で住むにはこれまただだっ広いマンションの一室を借りて(実際は一括購入)、
自由な時間が始まるのだと意気込んでいれば、それを邪魔するヤツ一人。

 

2つ年上の兄貴である。


そう、俺には兄弟が一人いる。兄貴は気ままな大学生。
高校は飛び級で1年しか通っておらず、50年に一人の天才だと言われてきた。
別に将来遺産目当てで邪魔だとか、兄貴と比べられるからとか・・・そういう意味ではなく、
ただ純粋に俺をイライラさせてくれる、憎らしいくらい何でもできるくせに女々しい男。


その兄貴が、せっかく一人暮しだというのに、

「シンだけじゃ心配だ・・・俺もいっしょに住むよ」

なんて言い出して、父母が賛成してしまったために
あれよあれよと話が進んでいってしまったのだ。


ヤツが言うにはちゃんとまともな食生生活を送れそうにないからだというが、
宅配サービスだって充実してる現代においてひどく子供扱いされてる気がしてならなかった。
それでも実際にまだまだ子供だといえる年齢の俺は、父母に逆らう事ができるはずもなく、
泣く泣く兄貴との新共同生活を始めることとなったのだ。


けれど暮らしてみれば案外気楽なものだった。

なんせ炊事から掃除洗濯その他雑用。全て器用にこなすのである。
そのうち育児まで完璧にこなしそうだ・・・。
しかも料理は上手い。

だから俺も憧れの夜遊びも程ほどにマンションに帰る日々なのだ。

 

今もそう。

学校に教科書全て置いてきた軽い鞄片手にマンションに戻ってきたところだ。
ドアを空ければ空腹を助長させるような、いい香り。

 

そして・・・


「あ、おかえりシン〜。ちょうど今ご飯できたぞ〜!」


真っ赤なエプロンをひらひら靡かせて笑顔で出迎える、俺の兄貴、アスラン・ザラ。
フリルエプロンじゃないことだけが救いの、世界一男らしくない男である。


くそっ!!
その恰好に今日も怒鳴ってやりたいが、夕飯のカレーらしき匂いで油断してしまった・・・!


特に今日の俺はいつもよりさらにイライラしている。
理由というか諸悪の根源はもちろん一つ。

俺は持っていた高校指定鞄をソファーに投げつけるかのように置くと
ポケットにくしゃくしゃに突っ込んでいた一枚のハンカチを取り出し、今度はそれを兄貴に投げつけた。


「これ!!!」


兄貴はびっくりしたかのように、それでもいつもの笑みをすぐにその顔に浮かべ聞き返す。


「ハンカチだけど・・・どうしたんだ?」


「わかんないのかよ!!」


それは昨日の晩、「新しいハンカチを買っておいた」という兄貴が、
そのハンカチを無断で俺の鞄の中にしまっておいたことから始まったのだ。
別に勝手に鞄を開けられたことに腹がたってるんじゃない。


「なんでいい年した男のハンカチがウサギなんだよ!?」


知らずに鞄から取り出した時のクラスメイトの視線が痛かった。
一部の友人たちはわーわー騒ぎ出すし、
女子には「かわいい!」と誉め言葉なのかわからない言葉をかけられる。

その恥ずかしさと言ったら、
1年前の体育祭でアニキがビデオカメラと重箱のお弁当片手にやってきたあの時と同じくらいだ。
高校生にもなって走る姿を見られることの何が嬉しいというのか。
しかもこの時もまた女子たちに「お兄さんを紹介して!」などしつこく迫られて・・・
普段女の子と話すことなんて殆どない俺にとって、あの事態を収拾させるのがどれほど大変だったか・・・。

兄貴はわかっていない。
投げつけたハンカチを寂しそうに広げている。
目がちょっと潤んでいるのがさらにイライラする。男のクセに〜〜!!


「・・・お弁当箱をキテーちゃんにした時怒ってたから・・・だから・・・っ」


「だから何だよっ!?」


「だから・・・!だから猫嫌いなのかなって思ったんだ・・・ッ!!」


「そーゆー意味じゃなくって!!!」


「・・・そうか・・・クマがよかったんだな・・・」


「だからちがぁぁう!!果てしなく違う!!!!話を聞けェ!!!」


「リラクマ・・・か・・・」


「だから人の話を聞けぇぇぇぇ!!!」


喉が裂けるんじゃないかと思うほどの大声で意を唱えた。
兄貴は頭がいい。くせに変なところでアホだ。

昔の偉人は言ったそうだ。


バカと天才は紙一重、だと。


全くその通りである。
これで本人に欠片も悪気があるわけではないから余計に達が悪い。

そう、きっと善意だと思ったのだ。


「・・・ついでに俺の物に名前書くのやめろ!」


渡されたウサギハンカチにはしっかり黒の油性マジックで

『2年B組 シン・ザラ』

と書かれてあった。

もうどうしていいかわからず俺はクラスメイトのからかう視線を払いのけることもできずに
そのハンカチをポケットにぐしゃぐしゃのまま突っ込んで一日を過ごしたのだ。


「でもシン・・・よく物をなくすから・・・」


「高校生にもなって名前かくヤツがどこにいる!?」


「そう・・・か・・・」


しゅんとなりハンカチを綺麗に畳み直している。

 

少し、言いすぎたか・・・

何度も言うが、兄貴に悪気はない。全くない。さっぱりない。
きっと俺のためにやってくれたことだろう。
・・・全然俺のためになんてなってないが。


でも恥をかいたのは事実だし・・・謝るのもなんか癪だ。

そうだ、謝るのは兄貴のほうだ。悪いのはすべてこいつなんだから。
俺は絶対に謝らないし許さない!


兄貴はというと・・・
いつまでもぐずった顔してるかと思いきや、急に笑顔になって言った。


「あ、今日はシンの大好きなカレーライスだぞ」


「話を逸らすなっ!」


「カレー・・・嫌いじゃないだろう?」


「あのな!俺もうガキじゃないんだ・・・っカレーで喜ぶ年かよっ」


「そうか・・・じゃあシンは何が好きなんだ・・・?」


「俺はもう17だ!カレーじゃなくてハンバーグなんだよ!」


「そうか。じゃあ明日はハンバーグだな!」


「・・・・・・・・・・・・・・・そ、そうしてくれ」


俺はハンバーグに負けた。くそっ!!

 

 

 

 

 

 

 

 


「♪おっかのうーえ〜ひっなげしの〜はぁなでぇ〜〜」

夕食後、蛇口から水が流れる音と、美声なくせしてずれまくっている耳障りな兄貴の十八番が流れてくる。
いいかげん家事しながら歌うクセ、どうにしかしてもらえないだろうか。

いや、その選曲をどうにかしてほしい。

 

「あ、シン」


いきなり兄貴がソファーで食後のごろ寝+テレビ鑑賞をしている俺にキッチンから声をかける。


「何だよ」


寝っころがったまま俺は返事を返した。
ほんとはテレビに夢中であんまり会話で遮りたくないのだが。


「明日買い物につきあってくれ。シンの好きなハンカチ買いにいこう」


「・・・・」


なんで休日までおまえといっしょに仲良く過ごさなきゃならないんだ、
と言ってやろうと思ったが、よくよく考えてみればたしかに兄貴に任せ切りで俺のものを買ってきてもらうとなると・・・

イヤな予感がする。
次はほんとうにクマさんあたりか・・・?
だらしないクマの姿が頭に思い浮かんだ。

それは困る。

うちは財布の紐は兄貴が締めている。
俺は月に一度小遣いをもらうだけで、普段は兄貴手製の弁当だ。
(カニさんウインナーなんてものが入って大喧嘩したあの頃が懐かしい)


「・・・わかったよ!1時間だけだぞ!」


今回は俺が妥協した。

それに上手くいけば欲しかったゲームソフトを買ってもらえるかもしれない!
そんな淡い期待をこめて・・・


「ありがとう」


俺の胸のうちを知らずに兄貴は礼を述べた。
ちょっとだけ罪悪感が胸を過ったが、発売されたばかりのRPGゲームのことを思い出し俺もわざとらしく微笑み返した。


「いいよ、兄貴のお願いだもんな!」


わざとらしすぎたか・・・!?と心配したが、どうやら鈍感兄貴は気付いてない様子。


「シン・・・!」


いかにも感動してます!という表情で、兄貴がキッチンから飛び出してきた。
イヤな予感がして俺は慌ててソファーから立ちあがろうとするが遅し。


「シーーーン!!!」


「ギャーーー!!抱き付くなーーー!!!」


今宵も俺の叫び声がマンションに響き渡ったのだ。

 

 

 

 

 

 

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