約束の、決戦の日がやってきた。

 

 

 


※ザラ家族物語 第5話※

 

 

 

その日は終業式で、これからやってくる連休に胸を躍らせる友人の放課後の誘いもきっぱりと断り、
たいして確認もしてない2学期の成績表を鞄の奥に押し込め俺は走って帰ってきた。

うちに着いたのは1時を少し過ぎたくらいだった。
これなら約束の時間はもっと早くてもよかったかもしれない。
しかし、なんとゆーか、心の準備が必要だったのだ。


いつもの赤エプロンで出迎えてくれた兄貴が、昼食を用意していてくれた。
このコンソメの香りは、兄貴特製ロールキャベツに間違いない。


「おかえり、シン。もうすぐ出きるから手、洗っておいで」


いつもの兄貴だ。

どうやら一晩たって兄貴は少しは冷静になったらしい。
まだ十八番を歌わないでいるのが気にはなるが、少しずついつもの気持ち悪い男に戻っていくのだろう。

・・・それはそれで迷惑なんだけど。

 

でもま、この様子だとカガリさんがうちにやってくることもサラリと告げられそうだ。
チャンスはいつだ、と俺がタイミングを見計らっていると、鍋の火をとめた兄貴が先に切り出してきた。


「そういえば、バルトフェルトさんから何か送られてきてたぞ」


「え・・・?」


一瞬、何を送ってきたのか疑問に思うも、すぐに生徒手帳のことを思い出した。

そういえばあれから3日過ぎてる。
どたばたしてたから俺も兄貴もすっかり忘れて、ポストさえもチェックしていなかった。
不在連絡表でも入っていたのかもしれない。

今日この瞬間まで、事の始まりとなった存在のことを忘れていたのだ。


「はい、これ」


兄貴がキッチンから出てきて、サイドボードの上に置いてあった小包を手渡す。

それを見て・・・俺は不思議に思った。

なぜならその小包の大きさが、どう見ても生徒手帳サイズではなかったからだ。
クリスマスプレゼントに新作ゲームでも贈ってくれたのか、と、その包みを開封してみると・・・


「な、な、なんだよ・・・!これ!?」


見なれた生徒手帳は予想通り、その他に入っていたのはトラが書いたと思われる手紙一枚、

そして、一枚のディスク。

ただのディスクならいい。
けれどこのディスクのジャケ写はピンク色の髪した上半身裸の女性が
手で胸を隠しウインクして挑発している、刺激的なものである・・・って

 

こ、こ、これは・・・!まさしく大人向けの映像が流れる、アレ!?

 

興奮して鼻息が荒くなってしまってるだろう俺の横からひょっこり覗き込んできた兄貴が嫌悪感たっぷりの表情で言った。


「イヤだな・・・また俺に送ってきたのか」


ま、まままままた!?
これ、兄貴に送られてきたのか!?

俺は慌てて同封してあったメモの切れ端に書いてあった文面を確認する。

そこにはトラの文字で

『生徒手帳はシンぼっちゃまに、パフパフはアスランぼっちゃまに』

と書かれてあった。


「・・・俺が誰とも付き合わないから、女性に興味がない身体なんじゃないかって心配して、
よく父上や母上がこういうの送りつけてくるんだ・・・」


兄貴がため息混じりに言う。・・・と、父さんと母さんまで!?
認めたくはないけど、絶対赤くなってしまってる自分の横で兄貴は平然とした顔のままだった。

・・・2つ年上の余裕か、はたまた男としてダメなのか。
後者でないことを祈りつつ俺は恐る恐る尋ねてみる。


「興味・・ないの?」


「ない」


潔い即答である。妙にそれが男らしかった。


兄貴・・・カガリさんと結婚できなかったらぜっっっっっっっったい嫁げない・・・。

 

<ミーアのおいろけパフパフ大作戦>は俺にそれを再確認させてくれた。

俺は決意を新たに兄貴とカガリさんとこの結婚問題に立ち向かうことを天に誓う。

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・。

・・・・・・・・・・ついでにこれは後でこっそり見てみよう。


ところでこのミーア、どっかで見たことあるような・・・。
前見たえっちな本に出てたか?・・・ま、いっか。

 

 

 

 

 

 

 

 

前向きに、男らしく立ち向かうと決めた俺は早速難関である兄貴に取りかかることにした。

 

「兄貴・・・今日、カガリさんが来るんだ」

 

ガシャーン。


ストレートに言いすぎてしまったためか、キッチンに戻ってロールキャベツを盛ろうとしていた皿を兄貴は落とす。
それは床の上に勢いよく落下し哀れな音をたてて無残に散った。

 

「は、はは・・・はは!や、や、だな・・・し、しししん・・・!
お、お、俺、おれっ、が、ど、どどどどど動揺す、するっと、でも・・・っ!?」


してるだろ。

だけどここまでは予想範囲内だ。
・・・皿持ってないときに言えばよかったと少しだけ反省したけど。


「はは、は・・は!べ、べべべべベットメイキング・・・はひ、っひ、必要かな!?」


「いらねーよ!!」


「は、ははは!そ、そそそうだ、よな・・・!まだ、こ、こここ婚前交渉なんて・・っ!」


婚前交渉って・・・一体いつの時代の人間だっ


「そうじゃなくて、兄貴、聞け!!!」


俺の言葉に兄貴が身体を震わせ怯えたような瞳で俺を見つめてくる。。
まるで仔リスのように・・・・・・・・・って何で兄貴をリスに例えなきゃなんねーんだよ!?

つーかこの姿は小動物がぴったり当てはまる。
可愛いものが大好きな女子あたりだと、きゃーきゃー騒ぎ出すんだろう。


とりあえずなんとか話はできるようで、俺は遠慮することなく兄貴に向かって・・・

 

 

 

1度大きく、息を吸って、から、

 

 

 

 

 

「俺はカガリさんとは結婚しない!!!」

 

 

 

 

 

と・・・言ってやった・・・!!!

 

 


「・・・・あ」


兄貴が困惑の瞳で返す言葉につまっていた。
カガリさんと俺の結婚話はすでにまとまっていると思い込んでいたに違いない。
暫くしてから、ゆっくりと口を開く。


「・・・・・・・・・ま、マリッジ、ブルー・・・・?」


「ちげーーーよ!!!!!」


どうあっても俺とカガリさんの結婚をすすめていきたいらしい。違うだろッ!
それともいきなりやってきた自分に都合のいい展開が夢だとでも思ってるんだろうか?


「俺は兄貴みたいにカガリさん好きってわけじゃねーんだ!」


初めて、やっとのことで、正直な気持ちを暴露すると、口を開けながら呆けた兄貴の表情が、目に飛びこんでくる。
言葉を失っているんだろうな。
こんな兄貴は嘘で騙されてしまった時・・・信じられない時の目だ。

でもこれは嘘なんかじゃない・・・!俺は兄貴みたいにカガリさんを思ってはいない。
ほんとうに、カガリさんを大切に愛することができるのは兄貴だけなのに・・・!!

 


暫く沈黙が続いた。それは重く、切なく、俺の心を締めつける。


何か言ってくれと願うも、兄貴は黙り込んだままその場から立ち去っていった。

 

「・・・くそっ」

 

その場に座り込んで床を叩いた。手が熱くて痛くて泣きたくなる。
なんでこううまくいかないんだろう。全部兄貴を思ってやってんのに・・・!
俯いて、男のくせに泣きそうになった目のあたりを平手で強く叩いて涙を自制した。


 

 

 

 

 

 

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