兄貴を−127℃くらいの世界で凍らせ動けなくさせたカガリさんは、

「それでは、私は時間がないので失礼させていただく」

という一言とともに俺たちの前から去っていった。





あ、嵐と共に去りぬ・・・!!


 







※ザラ家族物語 第4話※












こ、この状況・・・どうすればいいんだ・・・!?


目の前にいる兄貴は固まったままぴくりとも動かず放心状態。
俺だって頭ん中ぐちゃぐちゃでどうしたらいいのかわかんないけど・・・


「お、おーい・・・」


まずはこのマネキンのように固まってる兄貴を玄関からどかせないとと目の前で手のひらをぷらぷら動かしてみたが・・・
反応がなくちゃんと息してるのかさえ心配になる。
俺は最後の手段とばかりに兄貴の両肩を掴むと力任せに思いきりその身体を揺すった。


「おーーーい!!目ェ、覚ませ!バカ兄貴!!」


「・・・はっ!」


やっとのことで兄貴が現実へ引き戻されたらしい。
脳みそはまだどこかにトリップしてそうな状態ではあったが
・・・生きてるし大丈夫だろう。


「俺は・・・一体、何を・・・していたんだ・・・!?お、俺、俺・・・!」


・・・あまりのショックで一部記憶が飛んだらしい。

どうせならこのまま忘れてくれればいいのだが・・・
しかし残念なことに、カガリさんと再会できたことについては
兄貴の記憶に鮮明に残っているということが興奮気味な兄貴を見るだけではっきりわかる。



「あ・・・!ま、ま、マーガレットさんが・・・い、今、この家に舞い降りて・・・!!」



あの人は天使扱いなのか!?


こんなに彼女を崇拝・・いや、好きなくせに、いまだに彼女の本当の名前を知らない兄貴が不憫になる。




「・・・あの人はマーガレットじゃなくて・・・カガリ!さん!」



「か、カガリ・・・さん・・・カガリ、さん・・・カガリ・・・さん・・・あぁカガリ・・・」



俺が教えてやった初めて知った想い人の名前。

それを早速何度も感慨深げにその名を口にする兄貴。

 



嬉しそうに大切そうに、

たかが名前一つでそんなに幸せそうな顔するなよな・・・くそ!




「でもシン・・・どうしておまえが、彼女と・・・」




恋に溶けてる兄貴のいきなりの問いにぎくりとした。
このまま兄貴はあの場面だけ綺麗すっかり頭から抜け落ちてくれていれば・・・何とかなると思ったのだ。

カガリさんと話し合う時間があれば、この問題だって解決する糸口はいくらでも見つけられると。




「そう・・だ!確かカガリ、さんは・・・おまえと・・・!」




・・・こういう時だけ勘がよく、記憶力がいい男。
どうやら完璧に思い出してしまったようだ。

いいからそのまま忘れとけっつーの!

さっきまで俺が兄貴の肩を掴んでいたけど、今度は兄貴が俺の肩に手を置き、


「どういうことなんだ、シン!!」


と、鬼のような形相で俺に襲いかかってきた・・・。
穏やかな兄貴にしては珍しいその顔に1歩だけ怯むも、事実を話さなくては何も進まないと思い立ち向かう。



「あのさ・・だから偶然、」



「俺を騙してたんだな!?心の底で笑っていたんだな!?」



俺の言葉を遠慮なく遮る兄貴。いいから聞けよ。



「だ、だからさ・・・!そうじゃなくて・・・街で、」



「おまえは知ってるんだろう!?俺がどれだけ彼女を想い夜空に祈りを捧げていたのか・・・!」



そうなの!?かなり気持ち悪いんだけど!!


「兄貴・・・だ、だからな・・・俺、彼女と街で会っ」


「逢引き自慢なんて聞きたくない!!」


「いや聞けよ!!!ちゃんと聞けしっかり聞け!!!街で偶」


「カガリ・・・さんがおまえと愛し合っていたなんて・・・っ」


「・・・」



俺の肩を掴む兄貴の手が力なく滑り落ちる。そのまま項垂れた俯いた。

・・・ダメだこりゃ。

 




あぁ・・・
どうして俺の周りにはこんな勘違いヤローばっかりなんだろう・・・。




兄貴に全てを話す・・というより理解してもらうには、今はまだ早すぎるのか?
少し時間を置いて落ちつかせてからのほうがうまくいくのかもしれない。

今日のところは諦めて、一晩待ってみよう。

うん、そうしよう。



「ほ、ほら兄貴!今日は俺が夕食作ってやるから、さ!卵使おう!もったいないもんな!」




俺が玄関に落ちている兄貴が持ってて落としてしまったスーパーのビニール袋を拾い上げようとすると・・・



兄貴が項垂れたままぼそりと呟く声が聞こえてきた。



 




「シン・・・俺はおまえが生まれてからずっと、おまえが一番大切だった・・・」





「な、なんだよ急に・・・っ」





スーパーの袋にいっていた視線を兄貴へと移動させる。
床にひれ伏す哀愁漂わせたその姿が、切なそうに語り始めた。




「・・・そりゃ中学生の頃クマのプー助さんのほうが好きだった時期もあったけど!」




「俺、プーに負けてたの!?俺<プー!?」




「それでも、それでもおまえを憎んだりしたことなんて1度もなかったさ・・・!」



いや、憎む憎まないより、俺<プーのほうがずっとショックなんですけどーー!?




「・・・どうせ俺は会うことさえできない相手へこっそりラブレターを書き続けていたダメ男さ!!」



プー問題未解決のまま兄貴の悲痛な叫び声。
・・・あ、ダメ男ってことは自覚してたのか。


「そうさ!ポエムだって100作超えたさ!!!」


そんなに!?
い、いや、数が問題じゃなくて・・・19の男がポエムって・・・!


「こんな俺に彼女のような眩しい女性が似合うはずなんてないってこと・・わかってる・・!」


わかってるならポエムやめろよ!!!


兄貴の趣味は理解しがたい・・・
運動神経いいくせに、部屋に閉じこもってそんなことばっかやってるから女々しくなるんだ!



そんな俺の心の叫びが届いたのか届いてないのか・・・いや、届いてないんだろうけど、ようやく兄貴はのろのろ立ち上がる。






「シン・・・俺はまだおまえを応援することはできない・・・」




「あ、兄貴・・・」






その顔は俯いたままで、どんな様子か覗い知ることはできなかった。



「すまない・・・ダメな兄貴で・・・それと、俺は夕食いらないから」



「ちょ、兄貴・・・!」




おぼつかない足元、酔っ払いのようなふらふらした動き、
足を引き摺るようにして兄貴は自分の部屋へと消えて行った。



り、リストラ宣告されたリーマン並に背中が泣いていた・・・!



俺はそっと兄貴の後を追い部屋に近づき、様子を覗うつもりでドアに耳をたててみる。




「・・・・うぅ・・ぐすっ、うぅ・・・ぅ・・・!」



な、泣いてる・・・!すすり泣いてる・・・!
ドア越しから聞こえてくる亡霊のうめき声のようなその泣き声に俺は今聞いたことを忘れることにした。


俺は何も聞いてない聞いてない!



と自己暗示をかけながら玄関に戻り落ちていたスーパーのビニール袋を拾い上げる。

やはり中身は卵・・・ぐしゃぐしゃになった。
そして大きな有頭エビも入っていたので、エビフライもつけてくれるはずだったんだろう。


「・・・・・」


割れてしまっている卵になぜか兄貴の泣き顔が重なって来る。


「た、卵焼き作るぞ〜!!!エビフライも作っちゃうぞ〜!!」


部屋に閉じこもった兄貴にも聞こえるよう大声で、
空元気気味に高らかに宣言しても兄貴は部屋からでてくる気配はない。

いつもなら手伝うとものすごく喜んで十八番を歌い出すのに・・・
部屋の前を通るとまたすすり泣く声が聞こえてくる。


あぁ・・・くそっ!男のクセに・・・!誤解だって言ってんのに!!




「俺が全部エビ食ってやるからな!!!!」




兄貴が帰ってきたらヤツ当たりする予定だった。
ウサギハンカチのことで怒ってやるつもりだったのだ。




・・・でも、こんな事で、こんな予定でははなかったのに・・・!




「バカ兄貴っっ!!!」





叫んでから兄貴の部屋の扉を蹴りあげた。
大きな音がたっても、行儀が悪いぞ!なんていつものお叱りの声は聞こえてこない。



「くそ・・・っ!」



俺はイライラしたままキッチンに行き袋の中の材料を全て取り出すと宣言した通り調理にとりかかった。


「え、エビフライって何につけるんだっけ?パン粉と・・・片栗粉と牛乳と卵と塩こしょう砂糖みりん?
あぁ、くそっ!わかんねーよ!!全部いれてやる!!」


いつも兄貴が美味しい夕食を作ってくれていて、任せ切りだったからわかるはずもない。



その晩できあがった何とも言えぬ不味さのエビフライは、俺の心をさらに傷つける味だった。


 

 

 









それでも俺はやっぱり実によくできた弟だった。

昨日のイライラとムカムカを何とか心の奥底へ押し込めた次の日の夜、
学校から帰ってくるとすぐさまキッチンに向かいフライパンで料理を始めた。


できあがった料理を見て・・・
俺はまだ部屋に閉じこもったままの兄貴のところへ行き扉越しに声をかけた。
早く兄貴には出てきてもらわないと・・・。

決してあのマズいエビフライに懲りたわけではない。



「兄貴ー、今日の夕飯はスクランブルエッグだぞー、カラは少ないぞー」


けれど兄貴が出て来る事はなかった。



2日が過ぎた晩、俺はいまだに部屋に閉じこもったままの兄貴にまた声をかけた。


「兄貴ーっ、今日の夕飯は目玉焼きだぞー、カラは全部とったぞー!」


やはり兄貴が出て来る事はなかった。



3日が過ぎた晩、俺は一体いつ出て来るのかもわからない兄貴にまたまた声をかけた。


「兄貴ー!!!今日の夕飯はゆで卵だぞ!!!カラは自分で剥けるんだぞ!!!!」


・・・・・・それでも兄貴は出てこなかった!!



お、俺がここまでしてやってんのに〜〜!!!




それにあいつ3日間どうやって過ごしてるんだ!?
俺が学校に行ってる間に風呂とかトイレとか済ませてるんだろうけどさ・・・!

冷蔵庫を開けた形跡はないし・・・今度こそちゃんと生きてるのかさえ怪しいぞ!?
部屋ん中でばたんきゅーとかなってんじゃねーのか!?


もう、知らねーからっ!!




「くそ・・・っ、明日は何作ればいいんだよっ」


1パックLサイズ10個いり卵をすべてゆで卵にしたせいで、今日も食卓には卵が並んだ。
俺はその4つ目を食い始めながらメモ片手に新しい料理を考える。

俺の料理のレパートリーはすでに全部使い終わった。
卵焼き・スクランブルエッグ・目玉焼き・ゆで卵・・・これ以上レシピは何もない。

何も思い浮かばない。


「あぁ・・・もう!卵は飽きたんだよ!!」


オムライス、オムレツは形が崩れるから作らない。
でも他に卵料理なんて思いつかない・・・
そろそろ別のもんが食いたい・・・!

そう思いながらも勿体無いからという理由で本日5つ目のゆで卵に手を伸ばした時・・・

テーブルの上に置いてあった携帯からメールの着信音が流れてきた。



「誰だよ、ヴィーノか?」


よくメールを送ってくるお調子者の友人を思い出し携帯を開くと・・・
見た事のないアドレスからメールが来ていた。
時々やってくる、必要のないどうでもいいメールだと思い興味なくすぐさま削除しようと思いキーを押そうとした。



けれど、消そうとしたその瞬間、このメールのタイトルに気付く。



 




『件:カガリだ』




「・・・え!?」






あまりの驚きに携帯を落としてしまいそうになる。
しっかり両手で握り直して件名を確認した。
確かに何度見ても、カガリ、と書かれてある。


周りをきょろきょろ見まわす。あ、兄貴はいない・・・!

よし!今なら大丈夫だ!!



俺はそのメールを開封してみた。

 






『シン。先日はいきなり押しかけてすまなかった。
明日遊びに行ってもいいか?やっと時間がとれて・・・おまえに話したいことがあるんだ。』


 




「・・・間違いない。・・・でもなんで俺の携帯アドレス・・・」



教えた覚えはない。一体どこから・・・

・・・って、そうだ。諜報部だ。

い、一体俺のプライベート、どこまで暴かれてんだろうか・・・?



しかし悩んでる暇はない!
俺はすぐさま返信した。



『件名:Re:シンです

本文:こんばんは、カガリさん。いいですよ。俺も話したいことがありますし・・・。
明日夜6時には家に帰るようにしますんで、ぜひ来てください』




「送信、と・・・」


よし!これで明日の晩、カガリさんがやってくる・・・!
なんとか3人で真剣に話し合う場を設けなくてはならない。


「いや・・・まず、2人で話し合うべきか・・・?」


これからどうするのか、どうしていけばいいのか俺はちゃんと考えなくてはならなかった。
やはり最初は結婚話をきちんと断り、その後でカガリさんを救う方法を見つけなくてはならないだろう。


・・・しかし、2人で話すのを兄貴に知られてしまえば・・・


またもや逢引きだとか思われてしまうはず・・・。
となると・・・最初から兄貴を交えて3人で事の顛末とこれからの話をすべきか。


「兄貴もカガリさんがいれば暴れないだろうしな・・・よし!それでいこう!」


明確なプロットができあがった。
これが失敗すれば今度こそホントにホントにホントに終わりだろう。
いや、成功する!こんなに頑張ってる俺を神様が見捨てるはずないのだ!!


神様・・・頼みます!!

 

 

 

 

 

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