♪ドナドナ    作曲:誰か  編詞:俺

 

 

ある晴れた昼下がり 結婚式場へ続く道

タクシーはガタガタ 俺と兄貴と筋肉マンを乗せて行く。


「可愛い俺のカガリがぁぁあああ・・・ッ!!!」


(運転手さんに)うざがられているよ。

 

 

 

 

可哀想な瞳で俺見るな。

 

 

 

 

 


※ザラ家族物語 最終話※

 

 

 

 

 


俺と兄貴と筋肉マンの3人は待たせてあったタクシーに乗り込み、
カガリさんが幽閉されているという結婚式場であるホテルへ向かうこととなった。
タクシーの中が異様に狭かったのは、暑苦しい筋肉マンが一人いたせいだろう・・・。

そして鼻息荒く、

「急いでください・・・ッ!!俺のカガリがっ、カガリがぁぁぁぁ!!!!」

と身を乗り出してタクシーの運転手さんを半ば脅していた兄貴のせいでもあると思う。

つーか、いつからおまえのカガリさんなんだ!?

 

俺はこれ以上運転の迷惑にならないよう一人だけ大人しく
冷や汗を流している運転手のおじさんを心の中で精一杯応援しながら
およそ20分間、タクシーに乗り目的地へ到着した。

・・・2週間もタクシーに乗ってた気分なのは何故だろう。

 


時間がないのにおつりはちゃんと受け取ろうとする筋肉マンにイライラさせられつつ、
俺は目の色かえて今にも飛び出しそうな兄貴を引き止めておくので精一杯。

筋肉マンはおつりをコイン一枚まで正確に数え、それからタクシーを降りた。


「まずここで様子を覗いましょう!」


その後に続きタクシーを飛び出した俺と兄貴は
筋肉マンの言った通りホテルの正面玄関から少し離れた石垣から顔を出すようにして中の様子を覗う。


隠れながらも時折ホテルの中を覗き込んだ俺の目に映ったのは、
セイラン家のSPとおぼしき屈強そうな黒服の人物たちが、何人たりとも1歩さえ近づけはさせない!
と威圧的な態度でうろうろ辺りを見まわしている姿だ。


まずい・・・。人数とその体格差では勝ち目がないぞ・・・!

一人筋肉マッチョマンがいるとしても俺と兄貴は善良でいたいけな一般市民だ。
あの人数で襲いかかられたら一たまりもないだろう。


「・・・式が始まる時間まではまだ大丈夫ですが、セイラン家の見張りの者たちが・・・っ」


俺の気持ちを代弁するかのように筋肉マンは苦そうな表情で呟く。
その横で兄貴は、

「死なない程度にぶっとばしましょう!」

とさらりとスゴイ恐ろしい事を言ってのけた。恋は盲目とはこういうことを言うんだな・・・。

でも俺はまだ死にたくないとげっそりしてるだろうそんな俺の横で、
今にも飛び出してSPたちをボコボコにしそうな兄貴の片腕を掴みながら筋肉マンは言った。


「ダメです!貴方たちのような顔がいいだけの優男がいってもオーブ湾に沈められるだけです・・・!」


俺たちさり気なくけなされてる・・・!?

なんだか余計に心労で痩せ細ってしまったかもしれない・・・。

 


「では私がセイラン家の見張りを死なない程度にぶっとばしてきますから。その間にムコ殿、これを・・・」


「なんだ・・・?」


戦いはこれからだというのにすでに疲れきってしまっていた俺に、どこから取り出したのかいきなり白い箱を手渡してくる。


「貴方の本日の衣装です」


俺がその箱を開ける前に筋肉マンはそう伝えると戦闘態勢にスイッチオンしたのか、
これまたどこから取り出したのかわからないヌンチャクを某映画の主人公のように構えたではないか。
衣装がどうとか気にする前にホテルの中が戦争になることを怖れた俺。


「で、できたら穏便にな・・・!」


「ムコ殿がそう言うなら・・・穏便にわたしはあいつ等を縛ってきます・・・!」


そう言いながらさらにこれまたどこに隠していたのか細めの縄をさっと取り出した。
こいつの身体は四次元ポケットか!?


「縛るって、だ、大丈夫なのか・・・っ!?」


こいつ一人であの大人数の男を退治できると言うのだろうか。
いっくらムキムキマッチョマンだとは言え心配になり、SPへ向かって突進しようとしたその前にそう声をかけると


「大丈夫です、任せてください!」


と、筋肉マンは白い歯を光らせ右手の親指をたて頷いた。


「こう見えても縛り方は昔SMクラブでかじったことがあるんですよ!」


「聞いてねーし!!つーかそういう大丈夫じゃねーよ!!!」


俺の叫びを耳に入れたのかいれてないのか、妙な雄叫び


「ほわぁほぉ!!」


をあげながら筋肉マンは駆け出した。


そのマヌケな気合の入れ方に脱力しそうになるも、後は筋肉マンに任せるしかないと、
俺は石垣を上手く利用してホテルから死角となるよう身を隠す。


けれど大人しくしていられない人物がここにはもう一人いたのだ。

 

「俺も行かなくては・・・!」


「え・・・!?ちょ、ま、ままままま待てって!!」


俺は預かっていた白い箱を投げ出して体当たりするかのように兄貴の腰に抱きついてその動きをギリギリのところで止める事に成功する。 兄貴と一緒になってコンクリートの地面に倒れ込んでしまったが、こいつは痛みを感じないのか、痛がることも忘れたのか暴れ出す。


「離せシン!こんなことをしてる間にも・・・俺の、俺のカガリが・・・っ」


だからいつからおまえのカガリさんになったんだよーーー!!!!
下敷きにされながらもなお1歩でも前に進もうとする兄貴を全体重をかけるようにして阻止しようと頑張る俺。

が、健気な俺の気持ちを振り払うかのように、俺をのっけたまま匍匐前進を始めやがった!


「アホ!待て!・・・んなこと言ってもっ、今はあの筋肉マンを信じるしかねーだろ・・・っ。少し、落ーちーつーけーよ!」


暴れだした兄貴を体重と力と言葉で説得しようと必死になる。
ここにいることがあの黒服の男たちにばれてしまったら、俺たち捕まってしまうだろーが!


なんとかして兄貴の行動を制止させようと、ここから進ませまいと俺は声を荒げた。

 

「おまえの敵は、あの黒づくめの男じゃなくって、カガリさんの嫌いな結婚相手、ユウナ・ロバ・セイランって男だ!!」

 

何かが違う気がしたが、今は気にしてる暇もない。
武器も何ももってないくせに立ち向かおうとしてる
勇気があるんだかアホなんだかわからない男一人をこの場に止めておくことが今の俺の使命なのだ。

俺はまだ生きていたい!!

 

 


すると兄貴の動きがぴたりと止まったのだ。

俺の誠意ある呼びかけが通じたのだろうか?

そっと腰に抱き付いていた腕を離し、兄貴の背中の上から起き上がりその様子を伺う。
兄貴はなぜか狼狽しているようだった。


「・・・そ、そうだな・・・っ、そうだ・・・カガリ・・・・・・さんは、シンと結婚するために・・・だからここに来たっていうのに!」


「はぁ!?」


一体どうしたかと思えばこいつ、また被害妄想に突入してるじゃないか・・・!


「俺・・・、ホントはいつかカガリ・・・さんと結婚できるとばっかり思ってて・・・、俺、なんて馬鹿なんだ・・・!」


た、たしかにおまえは馬鹿だと思うが・・・!い、いや、そうじゃない・・・!
なんでこいつまたネガティブ思考に戻ってやがんだ!?

せっかくうっとうしいけど少しは男らしく変わってくれたんじゃないかと思ったアレは、俺が見ていた都合のいい夢だったのか・・・!?


「バカァ!馬鹿馬鹿!俺の意気地なし!!もう、知らないぞ・・・っ!?」


1人アルプスごっこーーー!!??

完璧、元の兄貴だーーーーー!!!!

 

「ちょ、兄貴・・・っ」


「気休めはよしてくれ!!・・・・・・・・・俺は馬鹿だから・・・ッ」


確かにおまえはバカだ!!!!

世界一の大アホ人間だ!!!


そう言って一発殴って目を覚まさせてやろうとも項垂れて立ち直れそうもないバカにはかける言葉をなくしてしまった・・・。

 

ど、どうしてくれよう・・・コイツ・・・。

 

 

 

ふと、途方に暮れた俺の目に止まった、地面に投げ出された白い箱。


それを拾い上げ中身を見てみると、以前カガリさんが言っていたと思われる結婚式用のスーツが積め込まれている。

折りたたまれて皺になってんじゃねーのかという疑問はさて置き、
ブランド物とか全然わかんねーし、高い物安い物の区別もつかない俺だけど、
このスーツがどこからどう見ても高そうな代物だってことだけははっきりわかった。


確かに、今日この日が俺の結婚式なら、これは俺の衣装ということになるだろう・・・。


俺は箱からそれを引っ張り出して、カラになった白箱はまた地面に投げ捨て兄貴に向かって言ってやった。


「兄貴・・・おまえが着ろ!」


「え・・・!?」


取り出したスーツをくしゃくしゃになるのも構わず俺は丸めて兄貴の手の中へ収めようとする。

兄貴はいつもの几帳面な性格が出てきてしまったのか、
丸められたスーツを丁寧に広げ、今度はそれを俺の身体に合わせるようにして押しつけてくる。


「そ、そんな・・・無理だ・・・!俺はシンより脚が長いのに・・・っ」


「背が違うと言えっっ!!!!!」


俺は落とした箱を兄貴にむかって力の限り投げつけてやりたいのを堪えて、冷静になれと自分に言い聞かせ兄貴に語りかける。


「おまえが着て、おまえがカガリさんと結婚するんだっ」


「!!」


兄貴の目は驚きで見開かれた。
けれどそれは何処か嬉しそうで幸せそうで気持ち悪いくらい頬をうっすら染めて言った。


「・・・お、俺がカガリの花嫁になるだなんて・・・!!」


それ違うけどツッこんでいいのか!!??
いや、もうどっちでもいい!!!!!

 


「そうだ!!おまえがカガリさんの嫁になればいいんだ!!!」

 


兄貴から突き返されたスーツをボールのように丸めてまた投げつけた。

ヤツは見事にキャッチすると少し戸惑いながらも今度は自分の身体に合わせるかのようにして広げ、
鏡もないのにうっとりとそれを手にしながらポーズをとってみている。

気持ち悪いがそれを口にしたらこいつはゼッタイ2度と立ち直れないだろうし、
何も言わないよう心がける俺は、本当によくできた弟だと思う。


これで兄貴はカガリさんの元に向かう決心がついただろうと思っていたのだ。

何度も何度もポーズをとる兄貴の口からはきっと、「俺が迎えに行く!」と、
その気持ち悪い仕草からは不似合いでいて男らしい一言が聞けると思ったのだ。


思ったのに!!!


「俺が・・・でも・・・でも・・・・いや、でも・・・いや、でも・・・いや、でも!!・・・いや・・・」


なんか煮え切らないアホ兄貴の態度。
俺、このカガリさん問題が勃発してから何度兄貴をアホだと思ったのだろうか・・・。

多分それはとてつもない数だと思うので潔くさっぱりすっきり忘れておくことにした。


「俺が・・・でも、でも・・・!」


さっきまであれほど勇ましく

カガリさんかがりさん!俺のカガリさん!

と叫んでいた男は、今、ダメ男に戻りジレンマの渦に飲み込まれ溺れている。

 

 

 

 

 

NEXT

 

 

 

 

 

  

 

SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送