仕方ない・・・こうなったら・・・!


最後の手段とばかりに俺は兄貴に向かって言ってやった!

 


「いい加減素直にならねーと、兄貴がいつも抱いて寝てる寝室の巨大プー助ぬいぐるみ、燃えるゴミの日に出してやるぞ!!!」


兄貴の顔色が、さっと変わった。
コイツの寝室のでっかいベッド上の主でもあるクマのプー助のぬいぐるみ。
それは子供の頃から大切にしていた兄貴1番のお気に入りのお友達のクマさん。

 

「な、なんてことを!!そ、それは・・・!酷すぎるぞシン・・!拷問だ・・・っ!」


こいつにしちゃホントに拷問なんだろう・・・。

毎晩おやすみの挨拶をしてからじゃないと寝る事ができないんだ、と言っていたことを思い出し、その気色の悪さに身震いしてしまう。
いい加減一人でも眠れるようにならなきゃいけないんだと思うが・・・

それはもうカガリさんにどうにかしてもらうしかない!!!

 


「だったらそれ着て彼女を迎えに行け!!」

 

「・・・無理だ、俺には・・・っ、彼女を幸せにできるのは、おまえしかいないんだ!」

 


やっぱりネガティブアスランに戻ってるし!!!
なんでこんなに俺をイライラさせるんだ・・・!!このアホ!!!!

 

「いいから着ろって!!」


「イヤだ、離せシン!!」


「着ろって!!あぁもう!エプロン、それと上、脱げ!!」


あんまりにもむしゃくしゃして着ているエプロンと服を破れてしまってもかまわないとばかりに無理やり引っ張る。
兄貴はそれに抵抗して両手で自分の身体を女のように隠す仕草をした。


こいつ・・・!俺の善意に抵抗する気だな・・!


それならこっちだって遠慮なく身ぐるみはいでやるさ!!!
負けるもんか!!!

 

「脱げ!!!」


「や、やめてくれ・・・!」


「るさい!脱げっっっ!!」


「あぁ、シン・・!こんなところで・・!あぁ・・っ・・あっあぁつ」


「変な声だすなぁぁああぁぁぁああああ!!!!!」


このアホ男ーーーーー!!!!!

誰が男の喘ぎ声で興奮すると思うのか!?えぇ!?

 

 

そのあまりの気持ち悪さにヤツのエプロンに左手をかけたまま、
右手だけゲンコツを作り兄貴の頭を一発殴ろうとしたが、上手い具合にさっと交わされた。

くそ・・・っ、素早い男だな・・・!!このイライラをどうすれば!?殴らせろよ!!!

何度も何度も拳を振り下ろすもすべて絶妙なタイミングで交わされてしまう。


「こ、こいつ・・・っ」


カガリさん問題から毎日のように続くイライラも限界点さえ通り越し
遥か遠いところで爆発しそうである。


すると、殴る事さえ叶わないそんな俺の繊細な耳に、どこかからか甲高い声のひそひそ話しが聞こえてきた。

 


「・・・・・イヤだわ〜・・・男同士で真昼間からいちゃいちゃと・・・」

 

最初は誰のことを言ってるんだろうと思った。
けれど次第にまさか・・という思いが強くなり・・・
俺は脱がそうとしていた兄貴のエプロンからは手を離さずにそうっと振り向けば・・・

数人のおばさんの集団が群がりこっちをじろじろじろじろ観察しているではないか。

 

「し、シン・・・やめてくれ・・・っ」

 

俺はおばさんにやっていた視線をまた兄貴のほうへと移動させる。
「あ、あぁ・・・っ」と、子犬の切ない鳴き声に似た・・・

いや、そんな可愛いもんじゃない奇声を発した兄貴のほうへ視線をやり冷静に観察すると・・・
そこには地面になだれ込むようにして座り込み涙目になって・・

そう、小型犬のように身を震わせ俺にか細く訴える男が一人居て、

そしてそれに襲いかかるようにして覆い被さろうとしてる俺が一人いた。

 

 

・・・・。

 

 


「ち・・・ちがうーーーーーーー!!!!!!」

 


俺は慌ててエプロンを掴んでいた手を離した。

するとじっと観察していたおばさんたちは何事もなかったかのようにばらばらに散り始める。
その姿はまるで「わたしたち、何も見てませんわよ」と言うばかりに・・・。


あ、あ、あ、あ、兄貴のせいだ〜〜〜〜〜〜!!!!!

 


アホ!アホバカまぬけ兄貴のせいだ!!!
俺ノーマルだぞ!!!!好きなタイプはミステリアスで可愛い子なんだ!!
誰が変態乙女の男を好きになると思ってんだよ!?

くそ・・・っ!!


「アホ兄貴!!おまえのせいだ!!!」


「し、シン・・・?」


そうだ、全て、全部、まとめて兄貴のせいだ・・・!
俺がどんだけ苦労して、1週間地獄(天国)を見て、それでもやっぱり兄貴のために頑張って・・・


それなのに、それなのに・・・!!

 


「なんで素直になれねーんだよっっっっっっっっっ!!!!!!!!!」

 


あまりの苛立ちに、脳天は突き抜け喉が裂けるほどの大声で言い放つ。
いつもは俺に素直になれって言うくせに、おまえが一番意地っ張りなんじゃねーのか!?


なんでそこまでして、自分の気持ちを口にすることさえできないんだ!!
好きだって認めないんだ・・・!?

なんだか悔しくて悲しくて・・・

なんでこんな・・・俺がこんな思いしてるんだろう・・・!?
そう思うと、自然に涙腺が緩んできた。

くそ・・・っ、なんで・・・俺が泣かなきゃいけねーんだよ・・・っ!!

 

しかもきっかけが道ならぬ恋という誤解だなんてーーー!!

 

 

 

 

下を向き目を擦り続けていると兄貴が心配して俺の顔を覗き込んでくる。

まるで、幼い日々、友達とケンカして負けて泣いて帰ってくる俺をなぐさめていたあの頃のように・・・


「シン・・・シン、大丈夫か・・・?」


あぁ、おまえのせいなのに・・・!


兄貴のせいなのに、兄貴が昔と変わらず優しい目をするから、ついずっと胸にあった想いが自然に口にでてきてしまう。


「・・・俺はさ・・・っ、兄貴と違って子供だから・・・、世間のこと何も知らないかもしれない・・・けどっ」


結婚と恋愛は違うって・・・
好きだけで結婚できないって、クラスの女子たちが言ってたことを偶然聞いたことがあった。
俺、その意味も全然わかんなかったし・・・わかるつもりもなかったけど・・・

今はわかるんだ。


兄貴を見て・・・・

カガリさんを好きな兄貴を見て、

どれだけ相手を好きだっていうことが大切か・・・・それがわかるんだ!

 

「・・・・好きって気持ちがあればいいだろう!?」

 

「・・・!」

 

兄貴が言葉を返せず戸惑った顔を見せたのがわかったが、言葉が、止まらない。


「好きだけじゃダメなのか!?それ以上、何が必要なんだ!?素直になりやがれ!アホ!!」


「・・・シ、シ・・ン・・・!」


涙声の俺の言葉に、ようやく兄貴が俯きがちだったその顔を空へとまっすぐ向ける。
優しい瞳は変わらない。

けれど、その瞳の、何かがかわったこと、それが俺にはわかった。

 

まっすぐなその視線、それはまるでその空の向こうにカガリさんがいるかのように

・・・兄貴はその空に向かって叫んだのだ。

 

 

「俺・・・俺、やっぱりカガリが好きだーーーー!!!!!!」

 

 

「あ、兄貴・・・!!」

 

 

兄貴の叫びと同じに俺の目から予想もしてなかった涙が零れてしまった。


・・・よく言った!!!やっと言った!!!!!

俺の苦労もすべてこの一言で、兄貴の叫びとともに涙となって・・・
いや、空の彼方へ吹っ飛んでくれた!!
外でこんな大声だすな!とも言ってやりたいが俺も叫びまくったし、これでアイコのはず。


あ・・・今度は、違う涙が・・・っ、くそ!

 

 

俺は何度も鼻をすすった後、皺がよったスーツに手を伸ばす。
後はこれを兄貴に着せるだけなのだ!


「よし!それじゃ、これ着ろ!!」


これでもう迷いはないはずなのだ。
しっかりとスーツを握り締め、着替えの時間1秒でも惜しいと俺は右手でまた兄貴の赤エプロンを引っ張った。


「あ・・・シン、やっぱりいきなりは・・・っ、あ・・・あぁ・・・んっ」


「だから変な声だすなぁああああぁぁぁーーーー!!!!」


カガリさんへの想いも素直に解決することができたとゆーのに、人間というものは根本的なとこは変わらないらしい。
「あ、あ・・・!」と声をあげるそいつに、またもや消えたはずのイライラが復活してくる。

 


そして今度こそホントに爆発しそうな俺のガラスのように繊細な耳に、どこかからか甲高い声のひそひそ話しが聞こえてくる。


また・・・聞こえてきたのだ。


まさか・・・

 

まさか・・・・・!?

 


と思って脱がそうとしていた兄貴のエプロンからは手を離さずにそうっと振り向けば・・・

やっぱりまたしても!

あの数人のおばさんの集団が群がりこっちをじろじろじろじろ観察しているではないか!

 

こ、この人たち帰ったんじゃ・・・!!!


しかもさっきは居なかった若い女の人たちまでもが群がっていて、きゃーきゃー騒いでる。
美少年よ!美少年!なんてわけのわからんきゃぴきゃぴした声が耳に劈く。


どうやら俺が兄貴に道端で襲いかかってる姿にしかとられていないようで、
こっちがよくよく見てみれば、携帯電話を取り出して警察を呼ぼうとしてる人までいるではないか!!!

 

こ、このままではいけない!兄貴思いの素晴らしい弟から路上で男を襲う犯罪者に格下げされる・・・!?


早いとこ真実を話してわかってもらわなくては!!と、
俺は慌てて女性軍団に向かい直り、首を振りながら、状況説明に追われた。


「だ、だから、その!!ち、違うんです・・・っ、あのーーー、そ、そう!俺たち兄弟で・・・!!」


「「まぁ〜兄弟で、ですって!!」」


「だ、だ、だから違うんですってば!!!」


俺の説明もわざとらしい言い訳にしか聞こえないのか、それとも兄弟でしかも男同士で道ならぬ恋に走る姿に燃えるのか・・・
女って怖えーー!!!
どっちにしろ俺にとっては至上最大のピンチである・・・!!

 

どーすればいいんだよーーー!!!

 


俺の心の叫びに気付いたのか、さっきまで地面に座り込んで震えながら自分の身体を両手で隠していた兄貴も
さすがにこのままではいけないと感じたのか、勇ましく立ちあがりおばさんたちに向き合った。


「み、皆さん誤解しないでください!」


あ、兄貴ーーー!俺を擁護してくれるんだな・・・!?
持つべきものは兄弟!そうだ、兄貴ってなんだかんだ言ってもしっかり者なんだ!


「あ、兄貴・・・!」


俺の呼びかけに優しい笑顔で頷く。

そのしっかり者の兄貴は、必要ないんじゃないかと思うくらいの大声で、
きゃーきゃー黄色い声で騒ぐ女の人たちに向かって叫んでくれたのだ・・・!


俺のために――!!

 


「ただ服脱げって脅されて拷問を受けてただけなんですっっっ!!!」

 

「アホーーー!!!それじゃ余計誤解されるだろうがぁぁぁあ!!!!」

 

「「「まぁ、拷問ですって・・・いやらしい!何プレイかしら?」」」

 

「「「兄弟なのに・・・!まぁ!!」」」

 

やっぱり余計誤解されたーーーー!!!!

 

「ち、ち違うんです!!!」

 

両手を大げさなくらいに振りまわしNOをアピールしている俺の横で、兄貴はさらに追い討ちをかける。

 

「でもシンは言ってくれたんです・・っ『好きって気持ちがあればいいだろう?』って!!」


「そこで俺の名台詞をつかうんじゃねぇえええ!!!!!」


「「「きゃぁ〜〜!!ステキ〜!!」」」


誤解修復不可能ーーーー??!!
兄貴は自分の言葉によ素晴らしく誤解がとけていると勘違いし、さも俺のため!って感じに言い放つ。

その表情はうっとりと、まるで、俺っていいお兄ちゃんだろう?とばかりに自分に酔ってる顔だ・・・っ

 


「でも俺、ちゃんと答えたんです!『やっぱり好きだーーー!!』って!」

 

「「「きゃーーーー!!!!」」」

 

こ〜の〜ア〜ホーーーーーー!!!!!


きゃーきゃー騒ぎだした女の人たちを止めることはもうできそうになかった。
せめて・・・せめてこの事態をこれ以上大きくしてはいけな・・・


「だから俺ッ、嫁になるって決心を・・・っ」


「だからおまえが黙ればいいんだよッ!!!???」


こいつはやっぱりただのアホだったのだ!!!!!

俺は兄貴のシャツの襟元を掴んでおばさんおねーさんたちから逃げるようにして走り出した。
女の人たちが去り行く俺たちに大きな声援をかける。「お幸せに〜!頑張って!!」。


「違う!違う違う違う違う〜〜〜〜!!!!!」


体育祭のリレーでアンカーを任されたときより本気で走った。
走って走って力の限り走りまくった。
俺より足速いくせに首もとをつかまれて苦しいのか兄貴は身をよじる。


「し・・・シン・・・っ、う・・・っ、くるし・・・っ、はぁ・・・んっ」


「ぎゃーーー!!!だまれぇぇぇええええ!!!!!ぎゃーーー!!!!」


どこか隠れることができる場所・・・!隠れる事のできる・・・!
目の前の建物に向かい、


「誰にも見つからないとこぉぉおおーーーーー!!!」


・・・そう叫びながら黒服の男の存在も忘れて
大声で叫びながらホテルに突入してしまっていた俺も相当アホだと思う。

 

 

 

 


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