俺は一面綺麗な綺麗なお花畑で天使と戯れていた。
温かな陽射しにキラキラと反射する、美しく清らかな川の水、その水面に映る飛び交う小鳥のさえずりも聞こえてくる。
「あぁ・・・あったかい・・・」
花の香りに包まれ、このまま昼寝で時間を過ごせばどれだけ幸せなんだろうと横になろうとすると・・・
ふと、川の向こうから誰かがこっちに向かって手を振っているではないか。
俺も手を振り返した。
すると相手は「こっちへおいで」と手招きをしてくる。
俺は立ちあがり、川へ近づいていく。
川の向こう側にいる相手に会うため、その水に足を入れると、
キラキラキラキラ・・・まるで自分が輝くかのように水面に映る俺の姿。
あぁ・・・ここは天国だ。
こんなに美しい場所はきっと天国に違いない・・・・
そう、この美しい川は、三途の川だ。
さんず・・・・・・・の・・・・・
・・・か、わ・・・・・・・・・・・・・・・・・
水面を見つめていた俺はばっと顔をあげた。
川の向こう側には、10年前になくなったうちのばーちゃんが微笑んでいた。
・・・・・・・・・・・・・・。
「いーやーーだぁぁぁあああぁぁぁぁあああぁぁああーーーーー!!!!!!」
※ザラ家族物語 第6話※
遠くから耳に届く、誰かの声。
「シン、シン・・・!シン・・・!!」
懐かしい声が聞こえてくる。
あれは大好きだったばーちゃんの声・・・じゃないや。
誰の声、だろう?
「シン!!!」
あぁ・・・これ、いつもなら煩くってイライラさせるものなのに、今は妙に温かくて、
きっと、天国よりずっと俺を安心させてくれるものだ・・・。
そんな声の持ち主、俺は一人しか知らない。
俺は俺の名を呼ぶそれに導かれるように、重い瞼をゆっくり開けた。
そこに居たのは、俺の目に映ったのは、青い頬に涙が伝う、兄貴の姿。
「シン・・・!やっと目が覚めた・・・!」
そう叫んでまた頬の流れにそって涙が零れている。
あ、泣くなよ・・・男のクセに。
次第に覚醒してくる頭ん中は、まだ完全に整理されてはおらず俺はなぜここにいるのか考え込んでしまいそうになったが、
辺りを見まわせばそこが俺の部屋のベッドの上だということに気付き、
さらに、ちょっとだけ左頬がジンと痛んだのと口の中のサビついたような味に・・・
全て思い出した。・・・・・カガリさん・・・・。
「ただ眠ってるだけだと思ってたからベッドまで運んだけど・・・おまえ1週間も目覚めなかったんだぞ・・・!?」
「い、い、いっしゅうか・・・んっ!?」
兄貴の言葉に俺の背中には冷や汗がたらりと流れ身体に寒気が襲いぞっとした。
もしかしたらこのまま、永遠の眠りについていたかもしれないと思うと・・・
「家にお医者様を呼んでも眠ってるだけって・・・でも今日目覚めなかったら病院へ運ぶつもりだったんだ・・・!よかった!」
「は、ははは・・・ほ、本当にそれはよかった・・・っ」
天国のばーちゃん、あと80年くらい待っててください・・・。
寝すぎのせいで頭痛がする上、冬休みをすでに1週間も予想外に無駄な睡眠につかってしまったことがさらに俺の頭を痛めつけたが、
腹が減ってるのと喉がカラカラになっているのに気付きとりあえず腹ごしらえと兄貴が泣きながら作ってくれたチャーハンを口にすると、
そのあまりのウマさに今度はこっちが泣きそうになってしまった。
生きてるって素晴らしい・・・。
一息ついて、俺は腹いっぱいのまま1度部屋に戻り電気カーペットの上に横になった。
ベッドの上はしばらく遠慮したい。
兄貴はいつものよーに赤エプロンに身を包み料理に使った皿を洗っているところだろう。
少しだけ携帯にたまってるメールをチェックしてみると、ヴィーノやヨウランからがほとんどで、やはりカガリさんからのメールはなかった。
こっちから「今どうしてますか?」なんてメールするのはおかしくて、俺は持ってた携帯電話を自分の腹の上に置いてぼうっと考えてみた。
正直もうあのことで頭を使うのはしんどいしめんどくさいし、いい加減どうでもいい。
どれだけこっちが頑張っても肝心の2人が素直にならなければいけないというのに、
お互い超絶頑固者だったせいで俺の努力は水の泡、空の彼方へ消え去ってしまうばかりなんだ。
それでも・・どうにしかしてやりたいという気持ちが完全に拭い切れないのは、
巻き込まれて困るから、じゃなくて、兄貴とカガリさんに幸せになってほしいから・・。
2人が互いを好きでメロメロだってわかった以上、障害は何1つないのだ。
でもこれ以上作戦も何一つない。
「はぁ・・・どーすればいーんだよ・・・」
横になったまま俺はため息ついて天井を睨みつけた。
腹いっぱいだと眠くなるはずなのに、あれだけ眠って眠って眠りまくったせいだろうか、今は睡眠をとるのが怖いし瞼は重くさえならない。
だから別にどんな声や音が俺を邪魔してもよかったんだ。
♪ちゃらら〜〜らららら〜〜
俺の腹の上で携帯が鳴った。この音は電話の着信音。
メールがほとんどの俺としては一体誰だろうと一瞬だけ思うも・・・
まず間違いなくあの人のような気がして携帯を手にする。
知らない番号がディスプレイに表示されて、間違いなく俺の感は当たりを告げた気がした。
「もしもし・・・」
『シン・・・!私だ!』
あ、やっぱりカガリさん。
文句のひとつでも言ってやろうかと思っていたら、カガリさんの様子がおかしいことに気付く。
『シン・・!助けてくれ・・・っ』
「え・・・!?」
切羽詰ったような彼女の声に、俺は慌てて起き上がり、あぐらをかき座ったまま電話をしっかり握り締める。
「ど、どうしたんですか・・・!?」
文句の一つも〜のことはすっかり忘れて、俺はカガリさんに尋ねた。
なんだかイヤな予感がしたんだ。
そしてこの感も、イヤなことに当たってしまうことになる。
『・・・セイラン家が・・・っ、無理やり今日、式を・・・!』
「え!?」
最悪の形で、俺の予感は大当たりしてしまった。
それでも信じがたい言葉にもう1度聞き返そうとするより先にカガリさんが事の始まりを教えてくれた。
『・・・おまえの存在に気付いたユウナが、私が皆におまえを紹介する前に式だけあげてしまおうと・・・っ
今、私はセイラン家の者によって監禁されてる・・・逃げようと思ったけど逃げ出せないんだ・・・!』
「なんてこと・・・!!」
年内までの約束には確かに時間がなかった。
それもこれも俺が眠ってしまったせい・・・いや、カガリさんが俺を殴ったせいだけど、今はそんなことで後悔してる場合じゃないぞ・・・!
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