逃げ出せないって・・・アスハ家の周りの人たちはどうしてたんだ!!


「アンタの父親はどうしたんだ・・・!?」


そうだ、アスハコンツェルントップであるウズミ・ナラ・アスハの存在は、
他の何より大きいはず・・・!
いくら会議で決まったとはいえ、可愛い一人娘のいきなりの結婚式には賛同するはずがない・・・っ


俺の問いかけにカガリさんは・・・寂しそうに切り出した。

 

『・・・実はおまえと会った日にお父様はお倒れになって・・・っ』

 

「え・・・?」

 

『今は病院に居て身体が動かせないほど苦しんでいるんだ・・・っ』


カガリさんの声の静まり具合に、ウズミさんにどれだけ大変なことが怒ってるのか察する事ができた。

そうだ。ウズミ・ナラ・アスハだって、コンツェルンのこと、息子のこと、娘のこと、セイラン家のこと・・・全てに頭を抱えていたに違いない。

忙しい中、きっとどうすればいいのか最善の策を練って
俺以上にこの問題に取りかかって・・・心労がたまり、倒れてしまったのだ。

いや・・・もしかしたら何か重い病気さえ・・・・病床で苦しみながら、カガリさんの名を呟いてるに違いない・・・!


昔、俺の父親も仕事が大変で倒れてしまったことを思い出した。
あの時はウズミさんの動けないほどの症状ではなかったが、それでも俺は苦しかったんだ。

カガリさんはきっともっと苦しいに違いない・・・。
こんな問題かかえてる上に、父親が、今にも大変だっていうのに・・・!

 

「くそ・・・っ」

 

俺は悔しくて悲しくて・・目が熱くなった。電話でよかった。
泣かれてるところなんて見られたくない!!

 

「ウズミさんは・・・!大丈夫ですよっ、絶対、カガリさんのためにも死にませんから・・・っっ」

 

たかが17の俺。それでも精一杯、励ました。

 


『は!?』

 


「・・・え?」

 


『何を言ってる・・・?』

 


あれ・・・?カガリさんの反応が・・・思ってたのとちが・・う・・・?

俺は恐る恐る尋ねてみる。

 

「あ。あの・・・ウズミさんは今にも死にそうな病状では・・・?」

 

まさかとは思うが・・・

 

 

『違う!!・・・おまえと別れたあの日、部屋で寂しそうにしてた私を年甲斐もなく『高いたか〜い』しようとして・・・』

 

 


・・・・・・・・・・・・まさか・・・とは思うが・・・・・

 

 


『ぎっくり腰で病院行きになったんだ・・・っ』

 

 

やっぱりーーーーーーーー!!??


俺の涙かえしてーーーーー!!!!

 

 


「ちょ、諜報部はどうした!?ユウナの動きを掴めなかったのかよっ」


『それが・・・おまえの好きなものがウサギさんじゃないと知って、
諜報部は威信にかけても本当に好きなものを明かしてやろうとこの問題をすっかり忘れてたんだ・・・っ』


「役にたたなすぎーーーー!!!!!」


アスハ家はこんなヤツらばっかなのか!?

 


『とにかくシン!頼む、来てくれ・・・!』


「来てくれっつったって・・・!」


『諜報部のTOP、私の部下を一人そっちに向かわせた・・・!
頼む、そいつと・・・、・・・くそ、時間がない!頼むシン!来てく』


ガチャン、と、会話の途中、そこで電話がブチ切れた。

ツーツーという音が耳障りなほどに俺の携帯を通して聞こえてくる。
まるでカガリさんがもうお終いですというような電話の終わり方に、
俺は天国体験をして目覚めた時とは違った冷や汗が流れてきた。

 


「嘘だろ・・・おい」

 

俺の貞操、今日で終わりなのか?
い、いやいや、それもあるけど、そうじゃなくって・・・!

カガリさんを救うために迎えに行くのは構わない。というか、行ってやるさ!!

でも、もしセイラン家やアスハ家の人間に会ってしまったら・・・
俺がカガリさんの新たな婚約者候補として名乗りをあげるも同然なのだ。
セイラン家ならまだいい。俺を認めたくないと騒ぐだけだろう。

でもアスハ家なら・・・俺を祭り上げそのまますぐにでも婚姻届にサインさせられそうである・・・!

 

「と、とにかく兄貴に知らせなくちゃ・・・!」

 

俺は立ちあがり部屋を出ようと自室のドアノブに手をかけようとした。
すると、俺が開けるより先に、ノブが回り、がちゃっと音をたててドアが開いた。

 

兄貴か!?と思い、ドアノブから視線をあげ見上げると・・・

 

 

「はじめまして、アスハ家直属諜報部所属キサカと申します」

 

 

そう言いいながら、筋肉ムキムキマッチョマンが一人そこには立っていた。

 

 

か、カガリさん・・・!仕事が早い!!!
さっき部下を一人送りつけるとは言ってたけど・・・
胡散臭そうな男が来やがった!!
い、いや、そうじゃなくてこいつ・・・どうやってここに!?


「あ、アンタ・・・一体どうやってこのうちに入ってきたんだ・・・!?」


「ピッキングです」


軽く犯罪ーーー!!!!
いいのかアスハ家ーーー!!

俺が唖然呆然してると、筋肉マンは俺の腕を掴み、痛すぎるほど力任せに引っ張った。


「ムコ殿、こんなことをくっちゃべってる暇はないのです!早く・・早くしなければ・・・!」


「わ、わかってる!カガリさんがピンチなのはわかってるけど・・・!」


いきなりンなこと言われても一介の高校生男子に何ができるとゆーんだ!?つーか、腕、痛てぇ!!
それでも俺は冷静に、落ちついて話をしようと思った。


「あ、あの、俺まだ17ですし・・・っ結婚は・・・!」


「アスハ家ではカガリ様が法律です!」


「どーゆー理屈なんですか!!??」


「さぁ、急いで・・・!早くしなければ・・・!」


ぎりぎりと俺の腕を閉めつけながら筋肉マンが玄関へ引き摺ろうとした。
あぁ・・・俺もここまでか、と思っていれば・・・

 


「シン・・・さっきから騒いでどうしたんだ?」

 


と、天の救いならぬ、身内の救い。
兄貴が赤エプロンのままひょっこり俺のもとに舞い降りた・・・!
あぁ、舞い降りた、って、こういう時に使うんだな・・・!


兄貴の登場に、筋肉マンは俺の腕を離し兄貴に小さく一礼する。

 

「お兄様、初めまして。わたしはアスハ家諜報部のレドニル・キサカと申します。
本日、カガリ様のご命令により弟君をお迎えにあがりました」


「え・・!?」


兄貴の世界がまた凍り付こうとしていた。
俺は目を片手で覆い今見て聞いた事を全て忘れたくなったが・・・
だが兄貴は思っていたよりちゃんと言葉を発する事ができたようだ。


「し、し、シン・・・おまえはとうとう今日、嫁ぐんだな・・・っ」


「は!?」


「おめ・・・で、・・・とう・・っ!!うぅ・・!ぐすっ」


「おまえバカか!この前俺の話ちゃんと聞いてなかったのかよ!?ついでに泣くな!!」


あれほど俺はカガリさんを好きではなくて、本当にカガリさんを思ってるのはおまえだって話したのに・・・!
頭だけよくても学習能力はないアホなのか!!
どこをどうこの状況見て、俺がわーいって喜んでカガリさんのもとに行こうとしてると思えるんだ!?


「アホ兄貴!俺じゃなくておまえ」


「シン・・俺今日この日のために、てんとう虫のルンバを覚えたんだ、聞いてくれ・・っ」


「いや、そっちこそ人の話を聞け!!!」


「さぁムコ殿!!お急ぎください!!」


「おまえも聞けーーーーー!!!!!!」


またしても俺の腕を手加減なしに力いっぱい掴んだ筋肉マン。
振り払おうとしてもびくともしねぇ!い、痛いっつーの!!腕、血が止まるっっ


これじゃ迎えに来られた新郎っていうより、売られていく仔牛だ、ドナドナだ!

 

「わ、わかった!!行くから、行くから離せ・・・っ!!」

 

「ムコ殿・・・っ」

 

感激のあまりか俺が言ったことをちゃんと聞いてくれたのか・・・筋肉マンはやっと俺の腕を離してくれた。

言ったことは守る。俺はカガリさんのところへカガリさんを助けに行く!

 

でも・・・・・・

 

 

「・・・でも・・・兄貴をつれていく!!!!!」

 

 

それが俺がカガリさんのもとへ向かう最低条件!!
本当にカガリさんを救うのは、兄貴しかいないのだから・・・!!!


俺は兄貴に向かい合い、その肩を掴んで簡潔に今の状態を説明した。

 

「兄貴、カガリさんがピンチなんだ・・・!無理やり別の男と結婚させられそうなんだ!!」

 

「な、なんだって・・・!?」


振りつきでルンバを歌おうとしていた兄貴の顔面が一瞬で蒼白になり、
驚きと怒りで珍しく眉が釣りあがっている。


「し、シン・・・!急げ!こんなことをしてる場合じゃない!」


そう叫んで俺を押しのけるかのように先に玄関に向かい、置いてあった靴を履いた。
赤エプロンははずしていけ!と言ってやりたかったが、時間がないのも事実だ。

俺も筋肉マンも慌てて後を追う。
玄関を出ると兄貴はまだ青い顔のままだったが、その目はまっすぐに真剣で、りりしい表情になり男前に言い放つ。


「行きましょう、ターザンさん!!」


「キサカです!」


冷静に返した筋肉マンに同情しつつも、俺がちゃんと家の鍵をかけようとしてると
一人兄貴はエレベーターを待ちきれずにすでにマンションの階段を
「カガリかがりカガリィィイイイ!!!」と、ダッシュで降りていった。

 


「ムコ殿、ムコ殿も早くしてください!!下にタクシーを待たせてあるのです!!早くしなければ料金が・・・!」


「だから急がせてたのかよ!!??」


諜報部は車1台も持ってないのか!!


俺は鍵を閉めるとまたその腕を筋肉マンにとられ、引き摺られるようにしてマンションを降りていった。

あぁ・・・ドナドナが流れ出す。

 

 

 


「カガリ、カガリ・・・!カガリ、まっててくれぇぇぇえええ!!!!!!!」

 

兄貴の大声に、近所の人たちががやがやと姿を現してきた。

・・・これからカガリさんのもとに向かってどうこうするのはもう兄貴に任せよう。

 

 


だって俺は、帰ってきた後の謝罪行脚という重要な仕事が残されてるのだから・・。

 

 

 

 

 

END

 

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