シンデレラのおうちの一騒動から、一ヶ月と何日もたったように思えて実はたったの1時間後、
キラとラクスは可愛い(義)妹のことでまた揉めておりました。
それもこれも、可愛い(義)妹にどのドレスを着せるか、なんて些細なことでです。
海に溶け込むかのようなエメラルドグリーンの清楚なドレスを用意したラクスと、大人っぽいシックな黒の、胸と背中とお尻を強調させた男の欲丸出しのキラが選んだドレス。

どっちのドレスもカガリは怪訝な顔をして不機嫌になりました。

ネコのように気まぐれ気分屋のカガリがいつ心変わりしてもおかしくない状態だったため、
もめにもめた結果・・・・・・・・・・・いつの時代も男は弱いもの。
結局カガリ(シンデレラ)のドレスは、義姉の見たてたエメラルドグリーンの美しいドレスに決定しました。
肩までの、寝癖ではねた美しい金色の髪はしっかりと結い上げられ、
うなじが色っぽいどこからどう見ても愛らしく美しい麗嬢が誕生しました。

これで笑顔があれば完璧だったのですが・・・カガリはぶすっとした表情のままです。
機嫌が悪いせい+お腹がすいたようです。
はだしのまま今にも横に寝転がりぼりぼりポテチを食べ出しそうな義妹のためにもと、ラクスは夫に声をかけます。

「キラ、そろそろ出発しなければカガリさんが暴れ出してしまいますわ」

「そうだね。あ・・・忘れるところだった」

キラはがそごそとあるものを取り出しました。

「カガリ、これつけてね」

「えーーーなんでだよぉ。いやだっ」

それは目元だけを隠す黒く縁取られたちょっとダサい仮面。
手渡されたカガリはうっとうしそうにてのひらでつっかえしました。
しかしキラはカガリの手を引っ張りその愛らしい手のひらに無理やり仮面を置きました。

「だーめ。これつけないと可愛いカガリに一目ボレしちゃった無駄に顔だけいいヤツが
君のストーカーになって家までつきとめて結婚してくれってうるさいでしょ?」

多分そんな展開です。

「だからね、僕は少しでも予防線をはっておきたいんだ」

「だったら行かなくていいんじゃないのか?」

「それはそれ、これはこれ。どこの馬の骨だか牛の骨だかわからない男は近づけたくないってだけなの」

万が一もしそんな男が現れても、この夫妻によってその骨は出汁にされそうですが。

「あ、そうですわ、カガリさん。靴はこちらで・・・」

そう言い、いつまでも裸足のままのカガリに今度はラクスが1足の靴を差し出しました。
それはそれは美しい、透明なガラスの靴。ラクスがこんな時のために用意していたものです。
女性ならば誰もが一目みて虜になりうっとりしてこの足に身につけてみたいと願うような、美しいガラスの靴。

「歩きにくそー・・・」

・・・・この子は例外のようです。

「この仮面もさー、ダサいぞ。レシーブbPのこづえのお面でいい?」

「そんな対象年齢3歳のおもちゃのお面つけないで!!!君はバカ!?」

「キラ、そこがカガリさんのアホで可愛いところですのよ!」

いつもの漫才を終え、とにもかくにも、3人はお城へと出発しました。

 

 

 

 

〜世界迷作劇場〜

シンデレラ・後編

 

 

 

 

 

今日は出会いに恵まれない・・・
まぁ要は単に女運のないアスラン王子のために開かれたダンスパーティ。
煌びやかな衣装の貴婦人たち、目もくらむようなシャンデリアの輝き、軽やかに鳴り出す音楽。

けれど一番喜ぶはずの王子の心だけが明るくはありませんでした。

それもそのはず。

実は王子は女性が苦手なのです。でも決して一部の婦女子の方々が喜びそうな設定ではありません。
そこのあなた、残念がらないでください。


彼はただ、生まれて此の方【ときめく】というものを体験したことがなかっただけなのです。

「俺の・・・奥さん、か」

それはせめて自分がときめく相手であってほしいと、王子は祈りました。
ついでにいうならとても可愛い子がいいとも思いました。
さらについでに言わせてもらえるならスタイルのいい子だと嬉しいとも・・・・
あ、もちろん性格がいいのが重要です。王子はとても暗いので、太陽のような明るい子がいいです。
そしてウジウジしてる自分をさり気ない優しさで叱責してくれるような母性も必須条件です。
料理上手ならいうことありませんが、ヘタでもこれから頑張ってくれればそれでOK。
ちょっぴりお馬鹿さんでも器量よしならばそれでいいです。

「笑顔の可愛い子がいいな・・・。髪は長い・・・いや、短くても・・・うん、イイな」

王子も年頃の男の子ですので、ストイックに見せかけて頭ん中の理想だけは立派なものであります。

けれど、そんな理想通りの、可愛く美しく抜群のスタイルに加え元気で明るく母性本能に溢れた優しい子なんてそうは居ません。
いるとしたら二次元くらいです。

王子の願いは叶うのでしょうか・・・。
それともそれは叶わず二次元の女性に夢中になる、いわゆるアキバ系になってしまうのでしょうか?

 

先程からたくさんの婦女子たちが王子をハートの瞳で見つめ、隙あらば声をかけようとしているのですが・・・
当の本人はそれを知ることもなく王子が本日327度目のため息をついたところで、
バイキングの肉料理が並ぶテーブルあたりがざわざわと騒がしいことに気付いたのです。

「おぉ!嬢ちゃん、いい食いっぷりだねぇ!」

あれはお城の護衛隊の隊長を務めるムゥ・ラ・フラガです。
美しい妻を持ちながら軽い性格のためよく女性にその気をもたせ勘違いさせてしまう、王子とは違った意味で罪作りな男です。
彼が話し掛けているのは女性のようですが、どうもナンパしてるわけではないようです。


好奇心が涌き出た王子はひょいっと背伸びをしてムゥが声をかけた女性を覗き見ました。

するとそこに居たのは・・・

まるでひまわりの種を独り占めするハムスターのように、その可愛らしい口の中に料理を詰め込むだけ詰め込んだ、
それはそれは可愛らしい女性が1人いるではありませんか。
そのぷっくりした思わずちゅーしてしまいたくなりそうな愛らしい頬。

ハムスター・・・いいえ、彼女はひまわりだったのです・・・!


仮面ではっきり顔がわからないものの王子はその可愛らしい見た目とは裏腹な豪快な食いっぷりに一目で心奪われたのです。


なんとか話しかけたい・・・・
生まれて初めて女性へ対してほのかな愛情が芽生えました。

うろちょろその辺を歩き回り、なんとか話すきっかけを・・・と探っていると、彼女の口元に赤いソースが・・・

アスラン王子はさっと綺麗に折りたたまれアイロンの行き届いたハンカチを取り出すとその女性に近づいてゆきました。

「そ、そ、そ、そんなに急いで食べても、り、りょ、料理は逃げないよ」

「ほへ?」

なんとも素っ頓狂な声で答え返す女性。振り向いてくれて気付きます。
キラキラした太陽の色をした髪はこのお城のシャンデリアよりも美しく輝き、
仮面の向こう側から覗く好奇心旺盛を現したようなぱっちりした瞳は王子の心を一瞬で射抜きました。


アスラン王子はあくまで紳士的に彼女の口元についてソースを自分のハンカチを使い震えるその手でそっとぬぐってやりました。
その瞬間、僅かに触れる、初めて触れた柔らかな女性の頬・・・

ぷるぷるぷるぷるしているのは彼女の柔らかさか、それとも自分の指の震えなのか・・・

どちらにせよそれは、原始人がはじめて火を見た瞬間のような衝撃とほぼ同じでした。

 

「あ、ありがとなー。この料理おいしくって。
あんまりたべすぎると行儀が悪って怒られちゃうんだけどさー」

それはいつも兄に叱られている事。
もちろんフォークもナイフも使い方はばっちり兄であるキラに教えてもらっていますが、
今は食べ放題パーティ(と思っているのです)。
そんなおしとやかなことなんてやっていたら負けです。元はとらなくてはいけないのです。

幸いキラとラクスは会場に着くとすぐに手を取り合い見詰め合い恋人モードに突入して2人の世界に入り
今もまだ軽やかにダンスを踊っているためここにはいません。お叱りを受けることもないのです。

でも実はいつもキラとラクスは自分を叱りながらもばくばくたべている姿を見て勝手に萌えていることは知りませんが。


もちろん王子も萌えました。

・・・なんて可愛い子なんだろう!なんてステキな子なんだろう!

目元を隠す仮面も今はミステリアスなチャームポイントに思えます。
それはアスラン王子に芽生えた初めての感情でした。


しかもよくよく見ればこの女性は、先ほど王子が妄想していた
二次元にしかいないだろう女性像にぴたりと当てはまるのです。

これは夢か・・・?

そう思いアスラン王子は右頬を思いきりつねりました。痛いです。

でももう1度確認しようと今度は左頬をつねりました。やっぱり痛いです。

でもやっぱりもう1度確認しようと右頬を殴りました。やっぱり痛いだけです。

でもやっぱり最後にもう1度確認しようと左頬を・・・・・・

殴ろうとした瞬間、カガリがそっとその腕をつかみました。

「こら!おまえバカか!自分で傷つけるな!」

「そ、それは・・・!それはまさしく!!!」

自分の恋の相手の必須条件の1つ、
ウジウジしてる自分をさり気ない優しさで叱責してくれるような母性でした。
アスランに稲妻のような衝撃がビビビと身体を駆け巡りました。

もう、アスランはこの子しか見えていません。一目見た瞬間から運命だったのです。

「おまえアニメだといっつも準主役で自爆ばっかりするようなキャラだろっ」

的確な性格判断です。彼女は頭までいい、とアスランは盲目的に思い込みました。
もうこうなったら、即決断。こんなに可愛い可愛い可愛い彼女を手放してはいけません。

「き、君・・・っ」

「ん?」

さぁ、言うのです。アスラン王子。
この最初にして最後、最大のチャンス逃せばあなたは一生後悔するとともに結婚できない男で終わります。

 


さぁ、言うのです。

 

 


「君・・・!よければ俺と・・・っっっっっっっっっっ」

 

 

 

その時でした。

 


リーンゴーン・・・リーンゴーン・・・

 


あぁ、なんということでしょうか!お城の0時を知らせる鐘が鳴ってしまったのです。
別にカガリには0時にとける魔法がかかっているわけではありません。

けれども、

「うわーーーーーー!!!!やば!!!!レシーブNo1が始まる!!!!」

そう、彼女にとって大切なアニメがもうすぐ始まってしまうのです。なんていうことでしょう。

可哀想な王子、アニメに負ける可哀想な王子。

 

カガリは慌てて足元に投げ出していたナップサックの中から持ち出してきたタッパを取りだし、
手当たり次第に目に付いた料理をつめこみました。
そして蓋をしめるのがやっとなくらい料理がつめ込まれたタッパをまたナップサックに戻し、
ナップサックごと抱え込みます。

その間十数秒、とてつもなくものすごい素早さでした。

「帰らなくちゃ!!!」

「えぇ!?」

あっけにとられぼーっと行動を見ていたアスラン王子は彼女の発した言葉にはっと我に返ります。

「ちょ、ちょっと待って・・・まだ・・何も・・・!」

「すまん!また今度な!じゃあっ」

アスラン王子の必死のひきとめに振り向きもせずカガリは走り出しました。

王子はわかっていました。これを逃せば彼女と2度と会うことはないと・・・。

名前さえ聞いていない。

年齢も、住んでるところも、好きなたべもの嫌いな食べ物、身長体重3サイズバストカップ―――

王子は何一つ彼女を知らないのです―――

 


「ま、待ってくれ!!!!」

 

王子の身体は自然に彼女の後を追いました。必死に必死に追いました。
逃げないでくれ、俺から逃げないでくれ・・・!!叫びにも似た祈りを胸に必死に走りました。
けれど彼女は王子のその声にも気付きません。

今の彼女はアニメ>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>王子だったのです。

可哀想な王子、アニメに負ける可哀想な王子。

一方カガリはひたすら走りました。広いロビーをぬけ、これまた広い庭へ続く広い階段を駆け下りて・・・

「あぁ、もう!!こんな靴履いてられっかーー!!」

走りにくさにカガリはガラスの靴を脱ぎ捨て、怒りにまかせて階段に投げつけました。
乱暴な行動ではありますが、短気な彼女にしては今までよく耐えたものです。
力任せに投げつけられたガラスの靴は片方が運悪くこなごなになり、片方だけが階段上に残りました。


裸足になったカガリはチーターのような速さです。女性とは思えないスピードで去ってゆくのです。
けれどアスラン王子だって負けてられません。
ここで彼女を失ったら、自分は一生独身です。

それはそれで気楽ですが、両親が許してくれるはずもなく、
ツ○ァイに登録されるのも時間の問題となってしまいます。
そうなるのだけは何としてでも避けたい。

何よりも・・・ただ心底惚れ込んでしまった、彼女を愛してしまった―――

アスラン王子は必死に彼女の後を追います。


「まってくれ・・・!」


そんな男の切ない事情も想いも知らず、
ガラスの靴を脱ぎ捨てたカガリは今度はエメラルド色のドレスの裾を両手で捲り上げました。

すると彼女の美しい白い脚が丸見えではないですか。

「う・・・ッ!眩しい・・・!!」

白く細い脚・・・・・王子はその美しさに目が眩み、その場で蹲ってしまいました。
そうしてる間にカガリはものの見事なまでの速さで去っていったのです。

「ま・・・まって・・・!まってくれ・・・!う・・・目が・・・っ」

へタレすぎたために女性に免疫のなかった可哀想過ぎるアスラン王子はとうとう彼女を見失ってしまいました。

なんて可哀想な王子様、なんて可哀想なアニメに負ける王子。

 

 

 

 

暫くすると目のくらみがおさまりました。ちかちか舞っていた☆たちも消えてくれたようです。
アスラン王子は立ちあがり、まだ興奮によりふらつく体をなんとかしようと頭を振りました。
冷静になればなるほど、彼女を帰してしまったことを悔やみ胸が苦しくなります。

「あの子は・・・一体誰だったんだろう?」

ふと、王子の目にキラキラ光るガラスの靴が映りました。それは彼女が投げ捨てた彼女のもの。
王子はその場にぽつんと残されたガラスの靴を拾い上げました。

そしてそっと匂いをかぎます。・・・ほのかなフローラルの香りでした。

 


「恋」と「変」の字は、ほんのちょっぴり違うだけなのです。

 

 

 

 

 

 

 

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