ハツカネズミ男 13話

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふん!なんで俺がおまえと一緒に行かなきゃならんのだ!?」
「それはこっちの台詞だよ・・・」

アスランとイザ−クが取引先で行われる会議に参加することが決まったのはついこの間のことだった。
今、2人はそれを終え、帰社の途についている。

車ではなく電車を使っての移動は不便もあったが、重要な仕事を任せられていることは誇らしい。
が、男2人並んで歩くのはなんだか物悲しい。何よりこの2人の仲の悪さは社内では有名だ。
それなのになぜこの2人を選んだのかというと、
アスランとイザ−クが仲が悪いのが知れ渡ってるのと同じくらいに、2人とも有能であることが知られているからだ。
確かな人材を、と今回選ばれたのは二人だった。

「でもまぁ、なんとかうまくいってよかったよ」
「当たり前だ!!」

穏やかなアスランとは正反対のイザ−クの叫びも、アスランには慣れたことで、
同じように怒鳴り声をあげることもなく、苦笑してそれを受け止める。
それがまた、イザークには腹立たしいことでもあったのだが、
1番アスランの優秀さをわかっているのも、これまた腹立たしいことに自分自身なのである。
これをライバルだというのかわからないが、どっちにしろ親友というにはむず痒いしお断りだ。
2人ともそんな感情を相手に抱いているから不思議な感覚で付き合っている。

アスランが本日何度めかの苦笑まじりのため息をついたその時だった。

 

「あれ・・・?アスラン?」

 

少し低めの女性の声が聞こえた。
その声に、アスランは笑顔になり、イザ−クは訝しげなまま振りかえる。

「・・・カガリ!」

目の前に現れた女性に、アスランが喜びの声をあげ彼女へ駆け寄る。
イザークのみがその場に取り残されて、2人の様子をただ眺めていた。
カガリ、と呼ばれた女性に駆け寄ったアスランは、まるで子犬のように彼女にじゃれ、
子供のように瞳を輝かせている。
どちらもうっすらと頬が赤く恋仲であるだろうことは、こういうことに滅法苦手なイザークにでもすぐにわかった。

金髪に琥珀の瞳、短めの髪が少しはねていて、けれどそれがどこか愛らしい。

・・・・・・・ん?どこかで見たことある・・・?

ふとイザークの頭の中にそんな疑問が思い浮かんだが、
思いだそうとしてもなかなか思い出せず、とりあえずこの問題は後回しにすることにする。

 

 


「仕事中なのか?」
「あぁ。カガリは今、大学の帰り?」
「うん、そうだ!ちょこっとだけ遊んでたけどなっ」

親しそうに会話をすすめている2人から離れて、その場を見ていただけのイザークは近づいていく。

アスラン・ザラが、女にこんな顔をするなど見たことがない。
女どころか同僚たちにも無愛想なやつだ。
ディアッカという同期入社の男とは少し世間話を楽しんでいたり、
年下のニコルという後輩にだけは甲斐甲斐しく世話をやいているくらいで・・・
あぁ、それと・・・シンとかいう新入社員にも何かしら気にかけてやっていたな。

それでもこれほどまでに優しい視線で誰かを見つめているなど、イザークには想像したこともなかったことだ。

「アスラン、誰だ、その女は」
一定距離を保ちながらも2人に近づいたイザークは尋ねてみる。
アスランの頬がまた少し染まったことを見逃さなかった。
そしてそんな彼の反応に、眉を寄せた。

「えっと・・・彼女はカガリ・ユラ・アスハさん」
「はじめまして!」

元気よく頭を下げた彼女に、イザークも悪い気はしない。

「俺はイザーク・ジュールだ。こいつとは職場が一緒なだけで友人ではない」
「・・・・・おまえな・・・」

わざわざ言わなくてもいいのに、友人ではないと言うのを強調させるイザークはおかしい。
この一言で、カガリは2人の関係を理解した。
ライバル、とでもいうのだろうか?
どちらにしても、友人ではなくとも本当の意味で仲が悪いわけではなさそうだ。
そして少しだけ仕事場でのアスランが想像できて、カガリは笑い声をあげた。

「ほ、ほら!笑われただろう!」
アスランが必死になっている。それがまたおかしい。
カガリは暫く笑っていたが、イザークの言葉でそれがぴたりと止まる事になる。

「ところで・・・この子はおまえの恋人なのか?」
「え・・・!?」

イザークが口にした、カガリが自分の恋人という言葉に、アスランはひどく動揺してしまう。
「あ、あぁ・・・」
どう言えばいいのかわからなかった。

告白するとは決めたものの、まだ何も伝えてはいない。
想いはいっしょだとは思うが、ここでカガリが恋人だなんて言ってしまうのはできればやめておきたい。
最初にカガリに自分の胸の中にあるものを伝えるときは、二人きりで、だ。

「恋人じゃないんだな?」
「いや・・・!」
恋人だ、と言いそうになってアスランは慌てて口を噤んだ。
イザ−クが尋ね返す。
「なんだ?」
「え・・・!あ・・・その・・・っ」
友人だと伝えなくてはならない。
心の中では彼女をただの友人だなんて思ったこと1度もなかったが、この場で1番良い紹介だろう。
けれど、アスランが言葉にする前に、イザ−クが何かに気付き、口を開く。

 

「恋人なんだな。おまえ達のその態度でわかるぞ」

 

瞬間、アスランとカガリの顔は同時に先程よりももっと赤くそまった。
その反応だと、どう見てもイザ−クの言葉を肯定している。
カガリは赤くなったまま黙り込んでしまった。言葉を出せないのだ。
そんなカガリを見て、アスランはカガリの気分を損ねてしまったと1人慌てる。
カガリとて、この場で初めて想いを耳にするなんてしたくないだろう。

だからこそ、彼女のためにと、アスランは微塵にも思っていないことを叫んでしまった。

 

「ち、違う・・・!カガリはただの友人だ・・・!恋人なんかじゃない・・・!!」

「・・・・・え・・・?」

 

その言葉に、悲しみの表情を浮かべたカガリに気付くこともなく、続ける。

 

「なんとも思ってないのに・・・し、失礼だろう!?」

 

 

それはアスランがカガリに贈った言葉のつもりだった。
自分がどれだけカガリを好きでいても、カガリも同じとは限らない・・・
実際には、そんなことはもうないとわかっているけれど、カガリを気遣っての言葉だった。
けれど、カガリには、まるでアスラン自身への言葉に聞こえた。

アスランは、自分なんて好きでもなんでもないと、そう聞こえたのだ。

 

「・・・・・うん。・・・・彼女じゃない・・・ぞ」

やっとのことで一言搾り出したカガリの言葉に、アスランはイザークに向けていた視線をカガリへと向き直した。
そこには、先ほどまで元気よく笑っていたカガリの姿はない。視線を下げ俯いてる、カガリ。
俯いた彼女の顔がわからなかった。
「カガ・・・リ?」
覗きこもうとしたアスランの手を振り解く。

 

カガリの瞳には涙が溢れそうになった。
彼と出会って過ごしたのは、18年生きてきた人生の中でほんの短い間の出来事だった。
けれど、時間なんて関係ないと思わせてくれたのは初めてだった。
一目惚れだったのかもわからない。
けれど、その短い時間の中で彼がくれたもの、彼にあげたものは、全て自分にとっては初めての気持ちで・・・

 

 

大切だった。

 

 

 


彼が大切だった。

 

 

 

 

 

大好きだったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 


けれど、それは自分だけの想いだと・・・・・・今頃わかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


「ごめ・・・!アスラン・・・!わたし、急いでるから・・・!帰る・・・ッ!」
「カガリ!!」

アスランが引きとめようと彼女の名を叫んだ。
けれど、止まる事なく、走り出すカガリ。

走り去って行くカガリの背中に不安を覚え、また大きな声をあげた。

「カガリッッ!!!」

振りかえることもなかった。その場で呆然と立ち尽す。
彼女は泣いていた。間違いなく。
一体、何がいけなかったのか・・・。
誰かを好きになるというのも女性と向き合うというのも、
何もかもが初めてのアスランにとっては情けない事にその理由がまったくわからなかった。

 

「・・・・・違うのか。・・・悪かったな・・・」

去っていったカガリの背中をただじっと見ていたアスランに、イザークが小さく言った。
彼が謝るのは珍しい。余程自分は青い顔をしているのだろう。
「あぁ・・・・・いや・・・・・」
「追いかけないのか・・・?」
「・・・・・・あ、あぁ。でも1度戻らないと・・・」
イザークのさり気ない気遣いを、アスランはやんわりと断った。
今、行ったところで、彼女をあんなふうにさせてしまった理由がわからないうちは、どうにもならない。
まずはそれをちゃんと考えようと、アスランは心に決めた。

 


この選択が、間違っていたなんて、知りもせずに。

 


 

 

 

 

 

 

 

 

 

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