「ここらへんかな?」

明るい陽射しが差し込むリビングの中でも、1番いい場所を選んで飾ったのは、
大切な甥っ子たちが贈ってくれた素敵な素敵なプレゼント。
買ってきたばかりの額縁に入れられたこの絵は、今日からここで二人の心を潤してくれるのだ。

 

 

 

 

 

 


Be Happy

 

 

 

 

 

 


先ほど電話をかけたら、涙声なのに嬉しそうな妹がはしゃいでいた。
受話器の向こうからは幼い子供の声。
おめでとう、と、週末の食事会兼2回目の誕生日会の約束を取り付けたところで電話を切った。

 

「キラ、チョコレートと生クリーム、どちらがよろしいですか?」

キラが受話器を置いて数秒、今度は甘い、香りが漂うキッチンから声をかけられた。
キラが振り向くと、エプロン姿の大好きな自分の奥さんが微笑んでいる。
手にはボウルとクリームを作るためか、泡だて器を持っていた。

「・・・生クリームかな?」
「ふふふ。では、生クリームで」

可愛らしく笑うと、用意してあったボウルでクリームを作る準備を始める。
今、彼女が作ろうとしているのは今日のキラの誕生日用のケーキだ。
「手伝うよ」
生クリームを泡立てるのは意外にも、彼女のか細い腕では可哀想なくらいの結構な重労働。
何度かいっしょにお菓子作りをしたことのあるキラはそれをよくわかっている。
けれどキラが手伝うと言った言葉はやんわりと否定された。

「いいえ。キラは本日の主役なんですから!」

嬉しそうに、ボウルの中の生クリームを泡立て始めた。
その姿を見て、キラはソファーに自分の身体を沈める。
キッチンから流れる、愛らしい歌声と、いい香りがキラを包む。

甘い香りは、ケーキの香りだけじゃないということを、キラは知っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

アスランとカガリが結婚してから数ヶ月後に、2人も夫婦となった。
幸せそうな二人の姿に後押しされたのかもしれない。
けれど、不安のほうがずっと大きかった。

結婚する前、キラはラクスに言ったことがある。

「僕は子供ができない身体かもしれない」

出生の秘密を初めて自分から話したのは親友のアスランでも、同じ血の流れるカガリでもなく、
自分が心から好きになった女性だった。


コーディネーターが子供ができにくい身体だということ、それは誰しもが知っている。
身体のいたる部分を優良化したせいでそんなことになったというのなら、
最高のコーディネーターだなんてふざけた目的のために生まれてきた自分の身体は、
子供ができにくい、なんてものではなく、できない、身体かもしれない。

 

調べることはいくらでもできた。
けれど、怖くてできなかった。

 

もし自分が彼女に新たな命を贈ることができないのなら、きっぱりと縁を切るつもりだったからだ。
それが彼女のためだと言い聞かせ様とするのに、怖くて仕方なかった。
目を閉じて、耳を塞げば何も見えないし聞こえない。
そうして何も知らないふりをして逃げることもできたのに、
彼女の事を愛すれば愛するほどにどうしていいのかわからなくなる。

 

いっしょになりたい、
けれど、いっしょになってはいけない。

 

相反する想いの葛藤で苦しみ続けた。


それは彼女にさえ伝えていなかったことなのに、けれど彼女にはわかりきっていたことで、
ある日、キラは予告もなく言われたのだ。

 

「子供が欲しいだけならば、わたくしはアスランを選んでいますわ」

 

その時の彼女の表情を、キラは一生忘れることはないだろう。

 

寂しそうに、悲しそうに、けれど、その時向けられた視線は全てが愛しさだった。
そう言い切った彼女の言葉に、泣いてしまった。
また、彼女の前で泣いてしまったのだ。

 

 

こんな弱ささえ、彼女は愛しいと想っていてくれている。

それならば、怖いものなんてない。

 

 

例え、もし、
本当に自分が彼女に命を贈ることのできない身体だったとしても、
二人が同じ道を選ぶことを、後悔することはないと、気付いた瞬間だったから。

 

 

 

 

 

 

 

 


「・・・・・・キ、ラ?」
「・・・・・・・・ん」
「ソファーで寝てしまってはお身体が痛くなってしまいますわよ?」
「あ、いや・・・ごめん。大丈夫。目が覚めたよ」

ソファーでうたた寝をしてしまっていた。
エプロンをつけたままのラクスが心配したのかキッチンから出てきて起こしてくれたようだ。
微笑む彼女からは、甘い香り。
クリームの甘さなんかじゃない、彼女の甘い香り。

「・・・・・・・・・懐かしい夢、見てた」
「なんでしょうか?」
「・・・・・・・・・・秘密かな?」
「まぁ!ずるいですわ、キラ」

少しだけ頬を膨らませ、怒ったふりをする彼女が可愛い。
その頬を優しくつついてみたら、今度は赤くなる。
可愛くて、キスをした。
唇がそっと離れると、視線が合い、まだほんのり赤いラクスが尋ねてきた。

「カガリさんにはお電話をおかけしましたか?」
「うん。ちょうどパーティーの真っ最中で大喜びしてたよ」

自分の生まれた日は、大切なたった1人の妹の生まれた日でもある。
おめでとうと祝いの言葉をかければ、受話器越しに賑やかなはしゃぐ声が聞こえてきて、
自分のことのように嬉しくなった。

「今週末、アスランたちと食事しようって約束したからね」
「楽しみですわね・・・!」

けれど今日は家族水入らず、で。
それはヤマト家も同じだ。
今日は、大切な奥さんと二人きりのお祝い。

 

 

寝転がってしまったソファーから立ちあがろうとした時、リビングに飾った絵が目に入る。
幼子が描いたちぎり絵の中にいるのは、二人。
その絵には、永遠に幼い子供の姿は映らないかもしれない。

 

けれど、

「僕とラクスは・・・・ずっと、一緒なんだって」
「はい!」


 

そう、ずっと一緒なのだ。

 

健やかなる日も、病める日も、喧嘩してしまうようなそんな日でも、
永遠に、同じ道を共に歩んでいくのだ。

 

ふわふわのその髪は、触れるととても柔らかくて心地が良い。
自分が手に入れたのは、永遠の幸せ。
この先、遠い未来、その瞬間も彼女がこうやって微笑んでくれることを祈る。


「ラクスに追いついた」

 

それは、単に年齢だけじゃなかった。
泣き虫で弱虫な自分は、彼女に頼られるほど大きな存在なんかじゃなかった。
弱さばかり見せつけて、どうして自分を好きでいてくれているのかさえわからない。
ただ、彼女はいつ振り向いても自分に向けて変わらない笑顔を向けていてくれた。
あの時から、何か変わったというのなら、
今の自分は彼女のその手を引っ張って行っている。
小さな、柔らかい華奢なその手を、離さないように握り締めているのだ。

 

 

でも、たった1つだけ、すでに追い越していたものがあるとしたら、
それは相手を思う気持ち―――
どれだけ自分がラクスを愛しているのか、伝え切れないほどの大きな気持ち。

 

考えると恥ずかしい。
好きだという気持ちが溢れて照れてしまう。
余裕のない男だなんて思われたくなくて、なんとか違う話題を探してみたら、
1つだけ、笑えるような事を思いだしてしまった。
それは、
「・・・これでアスランだけになったね、年下は」
「まぁ!キラってば!」

暫くはこのネタでからかってあげようかなと、
悪戯を思いついた子供のように笑うキラの頬に、柔らかな唇が触れる。
それは大好きな、歌姫からの贈り物。

 

「お誕生日、おめでとうございます。キラ」

 

お返しにとキラはその唇へ、自分の唇を寄せた。

 

やっぱり、すごく甘く、愛しい香りがした。

 

 

 

 

 

 

 

 

END

 

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