主婦の井戸端会議とは、新しく出たという紅茶をすすりながら近所の奥さま方が他愛もない話で、
それはそれはおもしろおかしく盛り上る日。
ぴったりと時間を合わせて始まるところはまるで、アスハ家にいた時に経験してきた定例会議のようだが、
あんな堅苦しさはなく、賑やかにお菓子を頂きながらの会話はとても楽しい。

そしてここは、新婚およそ2ヶ月のまだまだ新米主婦のカガリにとって、勉強できる場所でもある。
初めこそ、アスハ家出身の姫君としてカガリの存在は遠目で見られていたのだが、
10日もしないうちにその見えない壁は消え去っていた。
それはカガリの明るい人柄と、近所の奥さま方の陽気な人柄がぴったり一致したからだろう。
見えない壁が消え去ったその日から、カガリは主婦の井戸端会議の参加権を得ることができた。
今日は2軒お隣のマクレーンさんのおうちが会議場だ。

 

 

「そうそう!思い出したんだけど・・・」
10歳と6歳の双子の子持ちの結婚歴12年目を迎えるマクレーンさんの奥さんが
1度お茶をすすったあと、今までの話題を無視するように声をあげた。

「なになに?」
「なんなのよ〜」
それに続けとばかりに周りの奥さま方も声をあげる。
カガリは新米なので、ここでは大人しく聞き手になっていた。

 

お喋りは好きだ。実際に、家に居る時は愛する旦那様にお喋りをして聞かせるし。
それを優しい旦那様はずっと笑顔で聞いていてくれるのだ。
しかし基本的にこの場でのお喋りは、新米主婦ということもあって遠慮していた。
実際は他の奥さまの圧倒的なパワーに押されてなかなか発言ができない。といったところか。
別にそれで不愉快な思いをしてるわけではないので気にすることでもなかったが。

 

「ニュースで見たんだけどさぁ!」

何を見たのだろうか、と思いながら、子供みたいにお喋りを続けるマクレーンさんの声に耳を傾け、
カガリは彼女がいれてくれた紅茶のカップを手にとって、いい香りのする紅茶を一口含んだ。

「最近、セックスレス夫婦が増えてるんだって!」
「!!??」

その瞬間、カガリは紅茶を少し吹き出してしまったかもしれない。

 

 


「あぁ〜!それ、知ってるわ!」
「ねぇ〜!本当に最近多いらしくて!」
「新婚当初から回数が減るのは仕方ないとしても・・・ねぇ!」

そこから先は、カガリの耳には入らない・・・・・・
というよりも、あまりに刺激の強い内容だったから、ただ先ほど以上に大人しくなってしまっただけかもしれない。
口を挟むこともできず、紅茶を飲みつづけた。
味が感じられなくなっているのに、動いてないと落ちつかないから、
年齢指定が必要そうな会話が飛び交う中で1人、お茶を飲みつづけた。

 

頼むから、こっちにまで話題ふらないでくれよ・・・!!

 

ハウメアに祈りを捧げる気分だ。
しかし悪夢は訪れる。
矛先は、新婚ほやほやのカガリに向けられた。

 

「カガリさんは新婚さんですもの!そのへんは大丈夫よね!?」

 

あぁ・・・

とうとう来たか・・・・・・

 

 

悪気はないのだろう。
悪気はないのだ。
しかし、カガリにとってこの手の質問は、最も苦手なものの一つであって
こういう時どう対処して切りぬけたらいいのかも全く知らない。
カップの底に残っていた最後の紅茶を飲み干すと、落ちつけと言い聞かせてカップを置く。

いくつもの好奇心の目がきらきら輝きながら、カガリの次の言葉を待っている。

 

悪気はないのだ。

だから困る。

 

 

「わ、私も最近ちょっとごぶさた・・・で・・・っ」

 

真っ赤な大嘘だ。

昨日の晩なんて、ダメだと言ったにも関わらず気付けばベッドに沈められていた。
しかしこの場で「私は毎日しています」なんてそんなことを言えば、先ほどの会話のように夜の中身、を根掘り葉掘り聞かれそうだ。
いや、絶対に聞かれる。
だからカガリは逃げた。
心の中でアスランに謝りつつも、あんなことを話す勇気はどこにも見つからない。

 

「えぇ!?もう!?こんな可愛い奥さんに手を出さないなんて・・・!」
「まだ2ヶ月ぐらいでしょ?」
「信じられない!」

もはや苦笑いを浮かべるしかできなくなってしまった。
こんな状況は一刻も早く終わらせたい。終わってほしい。終わってください。

 

「ダメねぇ〜。旦那さま」
「あれだけ素敵な旦那さまなのに、夜ちゃんとしてくれないなんて・・・」
「ほんと!ダメダメねぇ!」

奥さま方の不思議な怒りは当事者のアスランへと向けられていった。
この話は、最近ごぶさたということで、みなが驚いて終わるはずだったのに、
その驚きはなぜか、アスランへのお叱りの言葉へ。

 

「まったく!可愛い奥さん見て何も感じないのかしら!」
「本当に!」
「でも、最近の若い人って昔ほど求めないって聞いたことあるわぁ」
「えぇ?そうなの?若いのに勿体無い〜」
「あ・・・あの・・・・お茶のおかわりを・・・・これ美味しいですね」

 

なんとかこの話題をすりかえたくてカガリは必死だ。
とりあえず、今目に入ったお茶で話題の行き先をかえてみようとする。

「そうでしょ!いいお茶なのよ!」

よし!と心の中でカガリはガッツポーズした。
うまくいったのだ。作戦は成功した。
かに見えた。

「で、で!アスランさんとの初めてはいつ?どこで?」

白いポットからお茶をいれてくれたそのすぐ後に、こう聞かれた。
カガリの頭をフル回転させて考えた作戦は10秒ももたなかったのだ。

 

「ご、ご、ご想像におまかせします・・・っ」

 

2人の初めては結婚してからだ。
しかも初めて迎えた夜には何もなかった。
今思えば、たった2ヶ月前のできごとなのに初々しすぎる。
あれからアスランはどうしてああなってしまったのだろうか。

 

「あたしなんてねぇ、付き合って3日で手ぇ出されたのよぉ!」
「アスランさんは紳士だから、そんなことはないわよね!」

えぇ。そりゃもちろん。
なんせ初夜にさえ手を出してこなかったんですから。

「夜もお上手そうで、羨ましい!」
「きゃぁ!!もう!人の旦那様に何言ってるのよ!」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ははは」

 

もう愛想笑いで無言を貫き通すしかない。
何か言えばそれで終わりだ。
もはや自分にできることは、この手の会話が早く終わることを、豊穣の女神に祈るだけ。
・・・・・・ジャンルが違う神だということは、この際目をつぶってもらおう。

愛想笑いを浮かべたまま適当に話を流していたカガリ。
しかし、次の瞬間、もろくも無言を貫き通すという意志は崩れさった。

 

 

「あら、でも!案外、下手だったりして!」

 

 

何が?と聞かなくても、わかる。
だから、もっと深く考える前に身体が動いてしまった。

 

 

 

「ち、違う!!アスランは上手いぞ!!!」

 

バンと机を叩いて立ちあがる。
勢いで紅茶のカップが少し揺れた。
自分のことをどれだけ言われようが笑って見過ごすことはできる。
だがしかし、愛するアスランが誤解されたりするのだけはやっぱり我慢がならない。

下手、だなんて、そんなことあるはずがないのだ。

だったら昨日何度も意識を飛ばしかけた自分は一体なんなのか。
妻として、夫のあらぬ噂を消すことが使命だとばかりに燃えあがってしまう。
だから、周りの奥さまたちがカガリの発言を聞いて目がきらりと光ったことをカガリは気付かず言葉を続けた。

 

「昨日の夜だって本当はしたんです!いっぱいしたんです!」

 

そう。いっぱいされた。
今朝はアスランがいつもより早めの出社だというから、疲れを残さないように、
2人ともいつもより少し早めにベッドに行ったのに、結局2人仲良く寝たのは疲れた頃だ。

 

「すごく気持ちよくて・・・!だからアスランしか知らないけどアスランはきっとすごく上手で!!」

 

そう。気持ちがいい。
だからいやらしいことに本当はするのが好きになってしまって、心の底から拒む事はできなくなっている。
コーディネーターだからかどうかはわからないが、あれは絶対にうまい。

 

「私のほうが下手なんじゃないかと思うくらいで・・・・っ」

 

そう。いつも悩む。
ちゃんとできてるのかわからないのだ。
何もかもアスランが初めての相手で、して欲しいこと何一つもできてないんじゃないかと思ってしまう。
それが幸せな悩みの種だった。

 

興奮してしまったのか、荒く呼吸を繰り返す。一気に捲くし立てたせいで、息が続かない。
なので思いきり空気を吸い込んでわずかばかり落ちつきを取り戻した時、
爛々と輝く瞳がこちらを向いていることにやっと、気付いてしまった。

 

 

今、自分は何を発言したのだろう。

ゆっくりと思い出す。

 

 

アスランといっぱいえっちした、アスランはすごくえっちが上手い、それからそれから・・・・

 

 

 

 


「そ、・・・・・それ・・・で・・・・」

 

冷や汗がだらだらと両手に流れているのがわかった。
額やら頬にも流れているかもしれない。
さっきあれだけお茶を飲んだのに、もう喉が乾いてしまっている。
ごくりと、自分の息を飲みこんでみた。

「えっと・・・・・・・い、いいいい今・・・のは・・・っ」

 

言葉のアヤだ、とでも言えばいいのか。
あれだけ気合入れて話したどこが言葉のアヤと言うのだろう。
それともやっぱり今のは冗談で、アスランはあまり自分とはしてはくれない夫だと、また嘘をつけばいいのか。
どっちにしろ、自分の夫婦生活に話が向けられるのは確実で。

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・っ」

 

この場をうまく切り抜ける方法は、やっぱりカガリの中にはない。

あるとすれば一つだけ。

 

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・そ、そそそうだ!!!!」

両手を合わせてパンと音を鳴らしながら、あからさまにわざとらしい演技とわかるような台詞を言いを始めた。

「わ、私っ!!そう!鍋に火をかけっぱなしで出てきちゃったんで・・・か、帰ります・・・!!」

もちろんこちらも演技・・・ならぬ大嘘。カガリが知ってるこの場を切りぬける唯一の方法、それが嘘。
いくらドジでまぬけだろうと、そんな大きなミスはさすがにしない。
きっとそれもばれているんだろう。
けれど今は弁解するわずかな時間もここで過ごしたくはない。

「お、お邪魔しましたっっ」

脱兎の如く部屋を出た。
ごめんと何度も心の中で最愛の夫に謝りながら、一目散に逃げ帰る。
一瞬の間を置いて女性の高い黄色い声が部屋に飛び交うのが聞こえてきた。
恥ずかしさで頭はパニック中だ。1秒でも早くこの家から脱出したい。
冷や汗で滑る手で玄関のドアを開けた時、カガリは逃げ去る後ろで見事に綺麗にそろった声を聞いた。

 

 

「「「「若いっていいわねぇ〜〜〜!!!!」」」」

 

 


<どんなに夫を愛していても、奥さま方の前で興奮して夫婦生活を暴露してはいけない。>

 

こうしてカガリは、また一つ身をもって勉強した。

 

 

 

 

 

 

 

END

カガリさんのお昼でした。
夫が下手だと言われるのが我慢できない妻でした(爆)。

BACK

SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送