もしも

 

 

 

 

 

 


もしも未来が見えたなら、それは誰もが思うこと。けれど・・・

「え?」

アスランは状況を飲みこめないままでいた。
先ほどまでカガリと隣に並んでソファーに腰掛けていたはず。
テレビに夢中な妻の横顔を見ながら幸せな気持ちに浸っていたはず。
それなのに、今どうしてこんなところにいるのかが思い出せない。

「え?ここ・・・?」

人が行き交う交差点のど真ん中だった。
信号が青から赤に点滅しはじめたのが目に入ったが、
どうしてここにいるのかが思い出せずその場に固まってしまったままでいる自分。

「ちちうえ、あぶないです」

ふいに小さな手が自分の手に触れてきて、アスランはその小さな手の小さな力に引っ張られる。
「え?」
されるがままのアスランは、その手に引っ張られたまま交差点を渡り切った。
信号の青色が点滅を終え、赤にかわる。
そこで初めて自分の手を握ってる小さな手の持ち主の顔を見て驚いたのだ。

「お、俺・・・!?」

アスランの目に映っているのは、まだ幼い頃の自分だ。多分5歳くらいだろう。
母譲りの蒼い髪、碧の瞳、自分の過去なんてよく覚えてなんていないが、
写真で見たことのある自分自身の幼い頃がそのまま飛び出てきている。

「あぶなかったぁ〜」

ほうっと小さなため息をついたこの少年のこの仕草が、自分ではなく誰かに似ていたのだが、
今はそれが誰かを思い出すよりも、この少年が誰なのかということのほうが重要だ。

「き、君・・・・っ」
「ダメですよ。あぶないですよ」

くりくりとした小さくて大きな碧の瞳がこちらをじっと見ている。
自分そのものの姿のはずなのに、それがとても可愛くて、アスランの胸は温かくなった。
けれど、1番知りたいこのコが一体誰なのかという疑問が拭いきれたわけではない。

「あ・・・の・・・・・・君は・・・?その・・・・」
「どうしたんですか?」
「え・・・・と・・・・・」

言葉につまってしまう。
一体どうやって聞き出せばいいのか全くわからない。
自分はいつだって冷静な男だと思ってはいたが、こういう経験はどう対処していいのかはさっぱりだ。
彼女が言うところのハツカネズミ状態に陥った時、
小さなアクセサリーショップのウィンドウガラスに自分自身が映し出されていることに気付く。
少しだけ背が伸びていて、がっしりした感じがしていて、ほんのわずかに違っている感じもしたが、
間違いなく、アスラン・ザラだ。
ますます頭は混乱してくる。
今、自分は自分で、そしてこの自分にそっくりな男のコは自分を父上と呼んだ・・・・・・

「・・・・・・あの・・」
「さ、いきましょう。ははうえがまってますよ」
「え、えぇ?」
「ほら」

小さな手がまたアスランの手を引いた。
アスランは、もうどうにでもなれとばかりにその力に身をまかせる。
どうせ夢なのだ。
目覚めればカガリが笑顔でおはようと言ってくれるはず。
それまではこの夢に浸るのも悪くはないかもしれない。

 

けれど・・・・・・

1つだけ気になっていることがある。


「ははうえ、どこにいるのかなぁ」

小さな瞳がきょろきょろと辺りを見回している。
その言葉から、母親と待ち合わせでもしてるようだ。


この子供の母親、それはつまり自分の奥さんだ。

 

・・・・・カガリ・・・だよな・・・?

 

急にアスランの心臓がどくどくと鳴り始めた。
不思議な緊張感だ。
この子供はあまりにも自分そっくりで、母親が誰なのかが想像もつかない。

もし、カガリでなかったら・・・?
これは夢だ。たとえカガリでなくても何も問題なんてない。
それでも、アスランは祈るような気持ちで小さな男の子に尋ねてみた。

「・・・・・君・・のお母さん、は?」
「もうここにきてるとおもいますよ」
「えっと・・そうじゃなくて・・・」
「?」

聞きたいのはそういうことじゃなかった。
君の母親は一体誰なんだ、とアスランは尋ねたつもりだったが、
小さな子供がそれを理解することもできるはずなく、アスランは自分の口下手さと勇気のなさに苦笑した。

 

そう、勇気がないのだ。
真実を知るのが怖い自分がいる。

 

もし、カガリでなかったら、


もし、他の誰かと結ばれていたら、


もし、本当に別の誰かで、


もし、これが未来の姿だというのなら・・・・


考えれば嫌な『もしも』はありすぎて、またパニックになりそうだ。

 

 

孤独感に苛まれそうになった時、小さな男の子が大きな声をあげる。

「あ!」

びくりとして、その子をみた。
目をきらきら輝かせて、ウィンドウガラスの向こう側のエメラルドの宝石を指差してこう言う。

 

「ちちうえのひとみと、おんなじいろですね!」

 

『アスランの瞳と、おんなじ色だ!』

 

アスランの耳に、愛しい彼女の声が響いた。
小さな男の子のキラキラした瞳は、好奇心旺盛な彼女の瞳だ。
何か楽しいこと面白いことを見つけた時彼女の瞳は輝いて、その声は幸せそうにアスランの名を呼ぶのだ。

 

嬉しくなる。
嬉しくて嬉しくてたまらなくなる。

 

頬が赤いかもしれない。
ガラスに映る自分の顔を確認することができない。
けれど、今の自分は緩み切った幸せな顔をしていることだけはわかる。

「ぼくがおおきくなったらははうえにプレゼントしよう!」

赤くなってるアスランに気付かないまま、男の子は元気よく言った。
可愛い男の決意に今度は微笑んでしまう。
こういうところは、もしかしたらやっぱり自分にそっくりなのかもしれない。

 

 

 

だからこれは未来なのだろうか?

いや、きっと違う。自分は未来をもう見ている。

彼女と友に生き続ける、それこそが未来の全て。
彼女を愛して求めてやまないこの身体は、いつだって2人の未来を描いていたのだ。
未来が見えたんじゃない。

 

 

未来は、もう、俺のそばにいた。

 

 

「・・・・・・・似合いそうだな。・・・・カガリに」


「はい!!」

 

カガリ、の名前が出た途端に頬を染めて喜ぶこの子は、間違いなく自分の子供だろう。
今更ながら愛しくてたまらなくなる。
彼女に、会いたい。


俺の未来に会いたい。

 

 

「アスラン!!」


その時、背後から自分の名が呼ばれた。
少し低めで元気な可愛いその声に振り向けば、綺麗な長い金の髪をした女性が立っている。
その女性は同じ金色の髪の元気そうな男のコを連れていて、にこやかに朗らかに笑っている。
大人っぽい感じがして、どきりとしてしまった。
けれど変わらない元気で可愛い綺麗な笑顔。

あぁ、間違いない。カガリなんだ。

夢だろうと彼女が自分の1番大切な位置にいると知る。

アスランの瞳に映る女性はだんだん滲んでいって、潤んでいって、その女性の長かった髪は短くなり跳ねて、


気付けばアスランの大好きなカガリがそこに居た。

「おはよう」
「・・・・・・・ん」

上から覗きこむようにカガリがその瞳を大きく見開いてこちらを見ている。
目をキラキラ輝かせて、カガリがアスランをじっと見ていた。

「あーーー・・・俺・・・寝て、た?」
「うん。ぐっすり」

カガリが笑い出したところで、自分の枕がカガリの柔らかな膝だと気付く。
すぐに置きあがらずにその柔らかさに溺れてみた。

「こ、こら!変なとこ触るなよ・・・っ」
「ん」

甘い香りがする彼女にドキドキしながら、滑らかな肌が夢でも現実でも自分のものだということに安心した。
なんてヤキモチ妬きなのだろうか。
けれど誰だろうと渡したくなんてない。


・・・・俺の『未来』を渡すものか―――


カガリの膝に頭を預けたまま、先ほどの夢を回想してみた。
薄れていく夢ははっきりとは思い出せないが、
自分の夢を彩ってくれた小さな子は、カガリが望む自分にそっくりの元気で優しそうな男の子だった。
そしてもう1人。
俺が望む、カガリそっくりの元気な・・・女のコじゃなかったけどすごくすごく可愛い男のコだった。

 

「・・・・俺、がんばろう!」

 

そう言いながら、いきなり起きあがったアスランにカガリは唇を奪われて・・・
「何を?」と聞き返す間もなく深い口付けと、甘い時間がカガリには与えられた。

 

 

 

 

 

 

END

 


家族部屋とどっちにしようか迷いましたが、いちゃいちゃ新婚さんです。
家族部屋でもいちゃいちゃですが・・・(笑)。
さていきなり問題です。
アスランの最後の台詞「・・・・俺、がんばろう!」は、一体何を頑張ろうとしているのでしょうか。
1.2人の父親として精一杯仕事を頑張ろう。
2.いっぱいいちゃいちゃ頑張って子供を授かろう。
え?2ですか?ファイナルアンサー?
・・・・・・正解!!(笑)
実際はどっちも正解ですよー。

 

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