結婚記念日

 

 

 

 

 


玄関を開けたら、いつもの彼の優しい微笑みのかわりにカガリの目の前に広がったのは
オレンジなどの暖色系の色の花でまとめられた、花束。かすみ草の白さが愛らしい。
そしてその横からちらりと見えた彼の表情は、ほんのり赤くてそれがカガリにも伝染してしまう。
「本当は薔薇にしようか迷ったんだけど・・・」
真剣に悩んだだろう彼を見て、カガリは失礼ながら少し噴出してしまった。
オレンジはカガリの色、前にアスランがそう言った。
二人とも花の名前にちっとも詳しくなんてなくって、この花が何なのかさえわからない。
けれどたとえこれが野原で摘んできた小さな花だったとしても、嬉しさはかわらなかったんだろう。
花束を受け取ると甘い香りが身体を包み込んで、その次に自分を包み込んでくれるのは、彼の体温。

「ただいま」
「おかえり!」

今日は特別だから、いつもの赤いエプロンじゃなくって彼の選んだ真っ白なエプロンでお出迎え。
ちょっとだけ恥ずかしくて彼をじっと見ることができず俯けば、
それに気付いたアスランからすぐに甘い言葉とキスがともに降ってくる。

「可愛い、すごく可愛い。カガリ」
「・・・・・・ん、ありがと」

今日はなんだか素直になれる。魔法がかかったみたいだ。
大好きな人に、大好きだとか、可愛いとか、そう言ってもらえる幸せを大切にしたい。
花束の甘い香りに後押しされるように、おかえりのキスをもらったカガリは、ただいまのキスで愛を返した。

「・・・ん。今日はごちそうだな?」
「よくわかったな!」

何も見ていないアスランがぴたりと言い当てる。
それが嬉しかったのかカガリが片手で花束を抱え片手でアスランの手をひいて、温かい料理が待つ二人の食卓へと連れて行く。
二人分にしては多い料理がまっていてくれているのだろう。
そして今日テーブルの上を彩ってくれる料理の中には、ロールキャベツが必ずあるはず。
自分の誕生日や、二人の記念日には必ず出てくるのだ。
そしてアスランはいつもその日の食卓を楽しみにしている。

それは彼と彼女の優しさと、愛しさ。

1年前から変わることなく、いや、ずっとずっと深くなっていく互いの愛情。

 

 

1年前の今日この日、二人は新しい人生を歩み始めた。
ともに生きるという単純なことが男女の想いだけで成り立たないことを覚悟していたあの日々。
それでも諦めず、その想いを育んで大切に慈しんでいった。

 

ザラの名をもらった時のことを、カガリは一生忘れない。
自分の名前がこれほどまでに愛しくなるものだと、初めて知った瞬間なのだ。
忘れることなんてできやしない。
柔らかく微笑んでくれる彼の隣で、嬉しさに涙を零しながら、
彼と出会った過去の自分に心の中でたった一言、ありがとうと言った。

そしてそれはアスランも同じで……
出会った自分に感謝したくなる。愛してくれた彼女へ、我侭を通し背中を押してくれた全ての人へ・・・
感謝してもしたりない。
ふわふわした、甘く優しい気持ちでいっぱいになる。

 

きっと、この想いは1年後だって10年後だって、50年という年月を過ごしても変わらない。
そんなのあるわけないと、御伽噺だけの世界だという人間がいても構わない。
今、ここにある想いこそが全てだ。

 

 

「アスラン、アスラン。ご飯終わったら、いっしょにお風呂入ろうな?」
「あぁ」
ちょっとだけ大胆なこともさらりと言えるようになった彼女に寂しさを感じてしまうこともあるけれど、
それはなんて贅沢な寂しさなのだろうか。
できれば、人生を終えるその瞬間までこの贅沢を味わっていたい。

「カガリ」
「ん?」

名前を呼ぶと、大きな瞳が輝きを増してこちらをじっと見てくれる。
その瞳に映るのは、自分。
輝きを与えているのも自分だと、自惚れていいだろうか?

 

「ありがとう・・・・愛してる」

 

その頬が赤くなる理由も、永遠に自分だけだと、自惚れていたい。

そしてもう自惚れている。

 

1年後も、10年後も、50年たったって、
この甘く優しい気持ちをくれるのは、カガリ・ザラだけだと―――

 

 

 

 

 

 

 

 

END

1周年記念。

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