料理

 

 

 

 

 

 

 

 

 


今日の夕食を何にするか考えるのが好きだ。
なぜならばその夕食を食卓に並べた時のアスランの顔も思い浮かべることができるから。
その顔は本人には言えないがとてもとても可愛い。

 

「可愛いんだけど・・・・かっこいいんだよなぁ〜・・・」

 

今日の夕食を、昨日テレビで見たものにしようか迷っていた時、
アスランがこの場にいたらまず間違いなく押し倒されていただろう台詞をぼそりと呟いたカガリ。
今フローリングの床を滑る掃除機の音で、自分がどれほど大胆な発言をしたか気付いてはいない。

 

 

一通り床の上を掃除したあと、掃除機のスイッチを切った。
時刻は4時。もうそろそろ夕方だ。

 

夕方の番組はおもしろいものが多い。
主婦ならのめり込むと言う昼ドラとやらも、カガリにしてみれば何があんなに人の不幸が楽しいのかわからない。
どうせやるなら、もっとこう、身体が思わず動いてしまうようなアクションを使ったドラマのほうがずっといい。
それでなければ熱血スポーツドラマでも。

でも、全国の主婦はカガリと趣味が合わないらしく、そんな番組は昼にはなかなかやってくれなかった。
たまに始まる大家族シリーズのドラマだけが唯一のお気に入りだ。
けれど残念ながら今はそれも放送されていない。
なのでお昼は専ら家事で時間を潰している。
冷蔵庫のあまり物で適当にお昼を作って食べたら、部屋の中を掃除機をかけて、気になるところは徹底的に大掃除。

それが終わると買い物へ。
買い物はカガリが1番好きな家事だ。

 

理由はひとつだけ。

アスランに何を食べてもらおうか、考える時間があることがとても幸せだからだ。

 

掃除機を片付けると、いつも持ち歩いてる鞄の中に財布を入れて家を出る。
近くのスーパーへと向かうのだ。

店についたら特売品をチェックしつつ、店内をぐるりと回る。
お目当てのものを買い終えると、うきうきした気分で家に帰ってきた。

 

家についたら真っ先にテレビをつける。
ちょうどこの時間は、夕方の番組で夕食のおすすめレシピを紹介してくれるのだ。
ちなみに今日の夕食は、昨日この番組で紹介されたレシピ。
100円で買ったメモ帳には、びっしり料理のいろはが書きこまれている。

今日はなんだろうと、興味津々に番組に集中していたら、アシスタントの女性アナウンサーが声高らかに言った。

『今日はいくらをたっぷり使った料理を紹介いたします!』

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。

 

これはダメだ。

 

 

 

 

広げていたメモ帳をぱたりと閉じて、ボールペンのキャップを閉めた。

そのいくらの料理とやらが絶品だったとしても、愛する夫に食べさせるわけにはいかない。
繊細な肌のせいか、ある特定の食材を口にすると蕁麻疹が出てしまうと聞いたことがある。
実際そんな姿を見た事ないし、見せてもらうつもりもないのだが、
その特定の食材の一つがいくら、なのだから、どれほどに頑張って作ろうとも食べてもらうわけにはいかない。

アスランなら、自分が作ったものは何であろうと食べてくれそうだから、尚更だ。

 

気を取り直して、今日の夕食作りに励むことにした。

キッチンにエプロンをつけて立つ。
赤いエプロンはポケットがついているものの、その他には飾りもなく至ってシンプル。
本当は白いフリルのレース付きエプロンも、アスランのごり押しで購入しているのだが、
アスランの居ない時に着けたって意味はない。
なので今は赤いエプロン。正直、カガリはこっちのほうがずっと好きだったりする。

 

赤いエプロンをつけたカガリが今日作るのは、パスタを入れたミネストローネと、チキンソテー。
もちろん健康面を考えて、サラダも付ける。
昨日テレビで見た時から美味しそうで、魚よりは肉料理派の彼はきっと喜んでくれるはず。

先ほど閉じたメモ帳を開けて、昨日メモしていたレシピを声に出し読みながら手を動かし始めた。

 

 

 

ミネストローネに入れる野菜を切ってトマトの皮を剥いているところに、電話が鳴る。
慌てて手を洗って拭き、キッチンを出て受話器をとった。

「はい。もしもし」
「カガリ、俺だよ」
「アスラン!」

受話器の向こうから聞こえてくるのは、大好きな彼の声。
カガリの声が嬉しさで弾んだ。

「今日、帰るの7時過ぎそうなんだ」
「そっか。仕方ないよ」
「ごめんな。終わったら急いで帰るから」
「ばか。ゆっくりでいいから気をつけて帰ってこいよ」
「ありがとう。愛してるよ」
「も、もう!ばか!」

 

恥ずかしげもなくあのとろけるような声で愛を囁かれては、ちょっと意地っぱりな言葉を口にして真っ赤になるしかない。
アスランがそばにいなくてよかった。
自分ばかりがアスランの言葉一つに心揺さぶられるなんてちょっとだけ悔しいから。

 

本当は大声で、私も世界一愛してるんだ!と叫びたいけれども。

 

「それじゃ。夕食楽しみにしてるよ」
「うん!」

 

そう言ってカガリは電話を切った。もうちょっとアスランと話していたいが、我侭も言ってはいられない。
こちらにはこちらの仕事、も残っているのだし。
夕食を楽しみにしてると言ってくれたアスラン。

 

「頑張らないと・・・!」

 

奮起させるように自分に声をかけるとキッチンへ戻り調理を再開した。
ミネストローネ用のトマトと野菜の下ごしらえを終えると茹でたパスタとともに煮込む。
チキンも下味をつけてオーブンに入れた。
あとは成功することを祈るだけ。しっかりレシピ通りに調理したから、失敗することはないだろう。
何度もオーブンの中を覗いてみる、本当にこの時間がカガリは楽しくてしょうがなかった。

今日はどんなふうにアスランは喜んでくれるか、どんな言葉をくれるか、考えたら身体と心が騒ぎ出すのだ。

 

 

トマトを煮込んだミネストローネも調理を終え、サラダの準備もばっちりだ。
ちょっとだけ味見したら、最高に美味しかった。
我ながら天才だ。

 

 

最後は大好きな旦那様の帰りを待つだけ。
今日もキスしてくれるだろうか。ぎゅっと抱きしめ返してくれるだろうか。

 

カガリの胸の鼓動は増した。

料理ができあがるまでの時間を、そんな甘い想像で過ごしていた。

 

 

 

 

 

 

 


そろそろ出来あがるだろうと、オーブンに焼かれてるチキンをじっと見ていた時、インターホンが鳴った。

ぱっと時計を見ると7時15分。きっとアスランだ。
いつものようにドキドキしながら、インターホン超しの声が誰なのか確かめてみる。

「はい。もしもし・・・?」
「俺だよ、ただいま」

やっぱりアスランだ!

ぱたぱたとスリッパの音を鳴らしながら玄関先へ出迎えに行く。
出迎える前に、エプロンを赤から白にかえるべきか少しだけ迷ったが、
なんだかそれも恥ずかしくて何でもなかったふりをして玄関に向かった。

ドキドキしながら鍵を開けて扉を開けると、そこには微笑むアスランが居た。

「ただいま」
「おかえり、アスラン!お疲れ様!」
「遅くなってごめんな」

アスランがその言葉を言い終わるとすぐに、カガリはアスランに飛びついた。
そのまま軽く抱きしめられて、その後すぐにキスをしてくれる。
結婚した当初こそ、恥ずかしくて嫌がる素振りを見せてはいたものの、
意地を張るのが勿体無いくらい素敵なことだと気付いて、それからはずっと瞳を瞑ってキスを受けてきた。

未だに赤くなってしまうのは、アスランを好きで好きでたまらないのだから、仕方のないことだ。

 

玄関の扉を閉めると、ぴたりとアスランが寄り添ってくる。

 

「先、お風呂入るか?」
「いや、食事にするよ。その後いっしょに入ろう」
「バ、バカッ」

 

相変らずの反応に、笑みがもれる。
まだ少しだけ素直になるのが苦手な妻にもう1度キスをすると、2人で部屋の中へと向かった。
オーブンがチキンを焼く時間の終了を知らせる音を鳴らして、カガリが慌て
てキッチンへ戻っていくのを、嬉しそうにアスランは見ていた。

料理中の妻の邪魔をしないようにアスランは部屋で着替えを終えて出てくると、何も言っていないのにテーブルを拭き始める。
仕事から帰ってきたばかりで疲れているだろうに、本当によくできた夫だとカガリは思う。

「すぐご飯だから!」
「うん」

綺麗な笑顔を見せたアスランにドキドキしたカガリは、それを悟られまいと慌ててアスランから視線を外し、
オーブンから取り出したチキンを皿に盛り付けていった。
さり気なく視線をはずしたつもりだが、もちろん、今のがただの照れ隠しだってことを、アスランはちゃんとわかっている。
それが可愛くて仕方なくて、キッチンに行くと盛り付け中のカガリの左の頬に軽くキスをした。
キスを受けるのを、何でもないようなふりをしながらもその頬が真っ赤なカガリ。
アスランはその可愛らしい姿に小さく笑うと、すでに出来上がっているサラダが入った器に手を伸ばす。

「これ、テーブルに運ぶな」

運んでくれなんて一言も言っていないのだが、これまた何も言わなくてもアスランは手伝ってくれるのだ。
時折、こちらに向き直ってスキを見せるカガリの唇を奪ったりして。それをカガリが恥ずかしがる。
そんな変わらない光景に、いつもアスランは嬉しそうに微笑んでいた。

 

 

 

全ての料理をテーブルに運び終わったあと、向かい合わせに席に着く。

「「いただきます」」

手を合わせて食事の挨拶をすませると、アスランは早速チキンソテーにナイフを入れた。
それをカガリはじっと見ている。
口にいれたのとほぼ同時に、カガリがいつもの台詞を口にした。

「・・・・・美味しいか?」
「うん。すごく美味しい!」

そしてアスランはいつもと同じ言葉を返してくれる。

 

美味しい、と言ってくれる。

それだけでまた明日も、頑張って美味しいものを作ろうと思える。
今から自分が口にするこの料理がとても美味しいものになる。
自分の作った料理を食べてくれて、美味しいって言ってくれて、笑ってくれるアスランがいるから、頑張ってる自分がいる。

 

 

アスランがくれる言葉は全部優しくてほかほかしてて、甘くて、胸がどきどきして、嬉しくなる。
料理を作ってよかったと思わせてくれる。

 

本当に世界一素敵な旦那様なのだ。

 

 

「じゃ、明日も頑張るな!」
「うん。ありがとう」

 

アスランが誉めてくれたチキンソテーを食べてみた。
やっぱりすごく美味しい。

 

 

 

きっと、おいしい料理の最大の隠し味が愛だというのならば、
それはアスランから贈られた隠しきれない大きな愛のことなんだ。


だから、私は世界一料理上手な妻なのかもしれないな。

 

 

 


「カガリは本当に料理がうまいよな」

 

 

 

 

そうだろ?


 

だって私もアスランへの隠し切れない世界一大きな愛を込めてるんだから!

 

 

 

 

 

 

 

END

家の中でアスラン愛を叫ぶ。カガリ。
カガリのアスラン愛を主張したかったのです。アスランが好きで好きでたまらない。
・・・ところで新婚部屋のアスラン君の仕事は何でしょうかね(考えてない(笑))。

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