こども

 

 

 

 

 

 


「可愛いな」
「うん」

 

何が可愛いなんて聞き返さなくてもわかった。

 

いつものように、休みの日の2人での買い物。
今日はデートも兼ねて近くの公園を2人で歩いていた。
お昼の公園は、親子連れが多い。
ベビーカーにちょこんと乗っているまだ小さい赤ん坊もいれば、
元気にサッカーボールを蹴っている小学生くらいの男の子も。
母親に抱かれながら泣き始めた赤ん坊を見て、カガリは可愛いと言い、アスランも答えを返したのだ。


「元気な泣き声だなぁ。子供ってすごいよな」
「うん。・・・カガリも負けないくらい元気で泣き虫だけどね」
「こら!どういう意味だよ!」

笑いながら言ったアスランの言葉に頬を膨らませつつも、幼い子供たちの姿を見て微笑んでいると、
2人のところへころころとサッカーボールが転がってきた。


それはアスランの足に当たって動きを止める。

 

「すみませーん!」

やんちゃそうな男の子がこちらに向かって手を振っている。
このボールをとってほしいみたいだ。

アスランは力を入れ過ぎないようにそれを軽く蹴ると、見事にその男の子のもとへボールは返っていった。

 

「ナイスキック!サッカー選手になれそうだな」

拍手を送りながらカガリがボールを蹴ったアスランに声をかける。
そのすぐ後に、ボールを受け取った男の子がありがとうございますと叫んだ。
元気もいいが、ちゃんと礼儀もしってる子だ。
きっと親の教育がいいんだろうとカガリが思った時、
近くにいたその子供の母親だろう女性も、頭を下げているのが見えた。

綺麗なお母さんだなとカガリが思いながらアスランを見れば

 

・・・・・・・タイミングが悪かった。

 

「・・・・・・・・・・・・・なんでおまえにやけてるんだよ・・・っ」
「え!?」

 

ポーカーフェイスなはずの彼の口元は緩み切って、どこからどう見ても顔の形がかわっている。

さっきの綺麗なお母さんだろうか。
あの母親が頭を下げた時からだろう、アスランがこんな顔したのは。

 

「あ、そう!綺麗な人だったもんなぁ!」
「え?え?」
「アスランは!綺麗な!年上の人が好きだったんだな!」
「ちょ・・・カガリ・・・」

 

先に歩き出したカガリを駆け足で追いかける。
意地っ張りなカガリはよく些細なことで怒り出す。
そんなところまで可愛くて仕方ないことを、知っていてやってるのかはわからないけれど。
でもできれば、デート中はずっと笑顔でいたい。

 


そんなアスランの思いを無視してか、カガリの早足は止まる事はなかった。

 

「カガリ・・・!」

 

気付けば先程まで晴れの空だと思っていたのに、雲行きが怪しくなってきているではないか。

 

まるで今の自分たちの状況だ。と足を止めないままカガリは思った。
自分の背後からは、アスランが必死に自分の名を呼んでいる。
そういえば以前にもこれと似たようなことがあったような気がする。


意地をはって彼を置いていく自分と、そんな自分を追いかけてきてくれる彼。

 

「カガリ・・・・・ッ」

 

献身的なほどに自分のあとをついてくる彼が少し気になり、振り向こうと踵を返した時、
自分の身体がぐらりと揺れたことに気付く。

「カガリ・・・!」

アスランが慌ててその身体を受けとめようとしたが間に合わずに
バランスを崩した身体は公園の土の上へと倒れこんだ。

 

「・・・・・・・・った!」
「カガリ・・・!ごめん!」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 

なんでおまえが謝るんだと言ってやりたかった。
こけた身体を受けとめられなかったことに彼は頭を下げているのだろう。

けれど、実際に彼には何一つも不注意なところがあったわけではない。
今のは誰がどう見ても、自分が勝手に転げただけなのだから。
むしろ石ころが転がってるわけでもない平地ですっころんだ恥ずかしさでカガリはこの場に居たたまれない。


 

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 

恥ずかしさのせいで顔も合わせられないカガリが、1人で立ちあがろうとした時、
「・・・・・・・・・っ」
振り向いた時に、軸足になっていた右の足首が痛むことに気付いた。

「カガリ・・・・?」

手を差し出したアスランも、彼女の異変に気付く。

 

 

「・・・・・足・・・・くじいたのか?」


「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 


恥ずかしさで爆発しそうだ。
1人で勝手に怒って突っ走って挙句の果てに転んで足をくじくだなんて、
ドジだからなんて一言で済ませられそうもない。

彼もきっと大声で笑いだすに違いない。

 

 

 

「・・・・・・ごめんな。・・・・・・・・ほら」

 

 

笑われるのを覚悟していたのに、返ってきた言葉は優しい謝罪だった。
見れば自分の前で腰を低くかがめていてくれている。
これは、おぶされ、という事だ。

「・・・・・・え?」
「お姫様だっこはイヤだろう?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・」
「ほら」

優しく促すアスラン。

腰をかがめて、乗り易いようにその背中をそっと突き出してくれている。
彼はきっとそこから動かないだろう。自分がこの背中に全てを預けるまでは。
くじいてしまった足は痛い。意地を張りつづける自分の心も痛い。
曇り空から降り始めた小雨は、やっぱり以前にも同じような光景があったことを思い出させてくれた。
あの時も、喧嘩の発端は自分だったのだ。

 

「・・・・・・・・わるい」

 

それだけ言うとアスランの背中にそっと身を預ける。
なんて可愛くない妻なのだろうか。
ここでもっと可愛らしく、ごめんなさいとか、大好き、とか、
そんなことを言って甘えることができればいいのに。
本当に自分がイヤになる。

言葉にするのがニガテだから、せめて、想いが伝わってほしいと彼の首へと両腕を優しく絡める。
自分の胸が彼の背中にぴたりとくっついて、心臓の音が、絶対に聞こえている。
結婚しても、身体を重ね合わせても、たったこれだけのことが幸せで、ドキドキして苦しくなる。

 

アスランが立ちあがるのと同時に、カガリは目を瞑りさっきの綺麗な人の穏やかな微笑みを思い出す。
つまらないことで怒って意地っぱりで迷惑をかけて、いつも喧嘩越しで、
あんなふうに微笑むことだって上手くなんてない。綺麗でもなんでもないけれど。

 

けれど、

 

「・・・・・・・・・私だって、ちょっとだけ年上、だぞ・・・」

そう呟いたら、彼が吹き出す声が聞こえた。

「笑うなよ!」
「ごめんごめん!」

なんだか嬉しそうに謝る彼。

「やきもち・・・・やいてくれたんだ?」

そうだと、たった一言さえ言葉にできずに、悔しくてカガリは両腕に力をこめる。

好きなのは、私ばかりだ。

 

 

 

 

「さっき、にやけてたっていうのは・・・・」

 

アスランの声が、もっと優しくなった。

 

「・・・・・・なに?」

 

棒読みになってしまったかもしれない。

なぜなら、これから言われるだろうことをなんとなくわかっている自分がいるから。
今から彼が言ってくれる言葉が、自分にとってどれほどに胸を揺さぶる言葉だということが、
わかっているから。
ドキドキする音が、頭の中でより一層響き始めた。

 

 

 

「・・・・カガリとの間に子供できたら、きっと楽しいだろうなぁってそう思ったんだ」

 

 

その声を聞いた瞬間に、ぎゅっと力強く回していた両腕の力が揺るんでしまった。

 

 

 

 

それは、カガリの思っていた通りのことで、

カガリが思っていた以上の揺さぶりで、

不覚にも泣きそうになってしまう自分がいる。

 

 

 

 

「毎日が賑やかで、今よりももっと笑顔でいられて・・・すごく幸せだ。家族がいてくれるなんて・・・」

 

 

あぁ、そうだ。
彼は、1人ぼっちの時が多かったのだ。
結婚した彼は毎日すぐにうちに帰ってきてくれる。扉を開けたら、いつも微笑んで抱きしめてくれる。
当たり前のことなのに、その一瞬を大切にしてくれる。

いつか、自分と言う存在が大好きなアスランとの間に新しい命を生み出すというのなら、
その新しい命は、きっと彼に素敵な感情ばかりプレゼントしてくれるんだろう。

 

カガリも想像してみた。
大好きな彼が、まだ小さな幼い自分の子供とサッカーボールを蹴る姿を。
それをベンチに腰掛けて見ているのだ。
いや、自分の事だからいっしょにボールを蹴ってるかもしれない。
どちらにしても、それはなんて素敵なことなのだろうか。
とても幸せなことで、カガリの顔も緩んでしまう。
アスランの言った通りだ。

 

 

「・・・こども、たくさん欲しいな」
「・・・うん!元気な男の子がいい!」

 

彼に似た男の子が、元気にボールを蹴っているのだ。
天気がいい日なら、お弁当も持っていこう。
家族3人で寝転がって、ごろごろして、お腹が空いたら手作りのお弁当を食べて。
そのあとは、やっぱり自分もボールを蹴るんだ。

 

「名前は?」
「んーーー、かっこいい名前かな」
「それじゃ、今からちゃんと考えないと」

 

いつのまにか仲直りしているのなんていつものことだ。
喧嘩しても、いつもアスランの優しさで気付かぬうちに温かく包まれて、笑顔になっている。
アスランがコーディネーターである以上、子供が出来にくい身体だということも2人ともわかっている。

けれど、2人で話す未来図は、必ず叶いそうな気がして温かかった。

 

「アスランは?男の子がいいか?」
「俺は・・・・・どっちもいいけど、カガリに似た女の子、ほしいな」

互いに似た子供が欲しいなんて、似た者夫婦だ。
それとも自分が好きで好きでたまらないのといっしょで、彼は自分を想っていてくれているのかもしれない。
いつもなら、それだけのことでも照れてしまってバカと返してしまうのに、
それが嬉しくて嬉しくて、カガリは言った。

「1番可愛い名前つけてあげろよ」
「それは無理だな・・・・」
「なんでだよ?」
「世界中で1番可愛い名前、カガリ、だし」

 

 

おぶってもらっているカガリからは、アスランの赤くなった耳元がよく見える。
彼には、自分の姿は見えないだろうけど、
この腕の熱で、どんな状態かはばれてしまっているはず。
自分と同じように、想っていてくれる彼。

だから、もう隠すことなんてやめた。

 

「バカ・・・・それなら1番かっこいい名前も・・・・・・」
「ん?」
「・・・・・・・・・アスラン・・・だ」

 

どれだけ自分が彼を好きなのか、隠すことなんて最初からできやしないことだったのだから。

 

出会って、気付けば惹かれあい、互い以外が見えなくなって結ばれた。
その幸せの先に見える幼い命。
いつかやってくる、もうひとつの幸せ。
まだ、欠片さえその姿を見せてくれない子供たちへ。

やがて出会えるのなら、きっと世界一幸せな子になるだろう。

こんなにも、深く愛して愛されて生まれてくるのだから―――

 

 

 

 

 

「今日はこのまま帰るか」
「買い物は?」
「いいよ、カガリのほうが大切。うちに帰って手当てしよう」
「でも・・・・・」
「未来のお母さんの身体は大切にしないといけないだろ?」


 

やっぱり彼の耳は赤かった。

 

カガリが笑い始めると、アスランも自分の赤さを笑われていることに気付いて黙り込む。
ますます赤くなっていることを、気付いているのかはわからないけれど、
カガリはその耳元へ唇を寄せた。

 

 

 

 

 

「・・・・・・頼りにしてるぞ。未来のお父さん」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


雨の冷たさなんて、気にならないくらいに2人とも真っ赤だ。
ばしゃばしゃと小雨を弾いて走りだした彼にその身をまかせた。

 

 


自分という存在を預けている背中は広くて優しくて頼りになる。
お父さん、なんて呼ぶ日がくるのはいつのことだろうか。

いつか、この広い背中も子供たちに譲ってしまわなくてはいけないのだろうなんて、
まだその姿さえ見えない子供たちに妬いてしまっている。

 


ヤキモチ焼きなお母さんでごめんな―――

 


でも、それまでは、この背中は私だけのものと
カガリは身体の全てを、アスランのその背にまかせ、溢れる幸せの中でまた瞳を瞑った。

 

 

 

 

 

 

 

END

 

久々更新でございます。
最近カガリのアスラン愛作品が多くなった気がします。
人様で読むのはザラの愛が好きなんですが、自分で描くのはカガリの愛のほうが好きですね。
ここらへんがザラ好き・・・?(笑)
多分、いやきっと、カガリもアスランを愛してんだぞー!!ってのを叫びたいのは私なんだと(笑)

 

BACK

SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送