喧嘩

 

 

 

 

 

 

 

 

まさか、と思った。


カガリが外出する前にテレビで見た天気予報では、降水確率20%。
だから、まさか雨が降るなんて。

 

近所の大型スーパーの自動扉を出たら、買い物中の夫婦を襲った悲劇。

 

こういう時に限って車を使わず徒歩なのだから、本当に運がない。
別に傘を購入すればいいだけのことなのだが、たった1度の雨でお金を遣うのは
家庭の財布を預かる妻としてはなんとしてでも避けたい。
今日のような日があってつい購入してしまった傘が数本、
玄関の傘立てを占領していることを思い出せばさらにその思いは強くなる。

カガリがため息をつくと、アスランはそれを見て鞄を探り始めた。
何をしているのかとカガリが思えば、にやりと笑って折りたたまれた傘を取り出す。

「なんでおまえは持ってきてるんだ」

珍しく大きめのトートバックを持ち歩いてると思ったらこういうことだったのだろうか。
てっきり、スーパーのレジ袋削減運動に協力するためだと思っていたのに。

 

「あの天気予報当たらないから。今日曇ってたし。カガリ、天気よくなると思ったの?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 

別にアスランは何気なく言った言葉なのだろう。
それでもカガリにしてみれば、何だかバカにされた物言いに聞こえた。
アスランが自分に対してバカにするなんて、そんな事ないとわかっているのだが、
しっかり者の妻、を目指す者としてはちょっとだけ悔しい事件だ。

 

傘は一本。

ここでカガリの意地っ張りが爆発する。

 

「それ、おまえが使ったらいいだろう」
「え?」
「じゃ、先行くな」

 

突然のことで呆けるアスランを置いて降りしきる雨の中を歩きだす。
スーパーを出るずっと前から雨は振り出していたみたいだ。
カガリの足元には小さな水溜りができていて、
歩けば歩くほど空から降る雨粒とともに、カガリの足元を濡らしていく。

10mもアスランの先を行ったカガリを見た時、アスランは事の重大さにやっと気付いた。

「こら・・・!カガリ・・・ッ」

 

早歩きの妻にすぐに追いつくために、傘を広げずに追いかける。
カガリは振り向きもしないまま、アスランのことを無視して歩き続けた。

雨が強くなっていく。
カガリの綺麗な金色の髪がどんどん濡れていった。

 

「カガリ・・・!傘、俺はいいから・・・!」

 

いくら体力には自信があると宣言していても、彼女はナチュラルだ。
コーディネーターの自分よりずっと身体を壊しやすい。
風邪をひいて辛い思いなんてさせたくないのだ。

 

「いいよ!私が濡れて帰るから!」
「ダメだ!それなら俺が濡れて帰る!」
「おまえの傘だろう!?」
「いいから!!」

 

押し問答を繰り返す間に、歩きながらアスランは傘を開ける。
雨粒を弾きながら開いた傘は、すぐにカガリの頭上へと掲げられた。
カガリを濡らさないために。

 

「いいってば!!」

 

それなのにカガリは可愛くない意地を張りつづける。
いや、アスランにとってみればどんな彼女も可愛くて仕方ないのだが、
今回ばかりは違う。
カガリの身体を思うが故に、知らずに言葉もきつくなってしまう。

 

「意地っ張り!」

「わからずや!!」

 

軽く睨み合いながら降りしきる雨の中、互いに大声で叫ぶ。
どうあっても自分のために傘を使わない相手を見て、カガリがもう1度、アスランに向かって怒鳴りつけようとした時だった。

 

 

「ままぁ!あの人たち、けんかしてるよぉ!いけないよね!」

 

 

2人の耳に突然聞こえてきた声は、小さな子供の声。

振り向くと、赤い傘を差して、指先はアスランとカガリを指して、母親らしき女性に小さな声で怒られている女の子。
多分、怒られた内容は、さっきの台詞を口にしてしまったことだろう。
子供は純粋だ。思ったことは考えることもなく言葉になる。

ばつの悪そうに母親は軽く会釈すると、子供の手を引っ張って早足で駆け去っていった。

 

 

 


「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 


2人の間に沈黙だけが流れていく。
この空気に居たたまれなくなくなって、カガリは無言のまま、また歩き始めた。
アスランは慌ててついていく。

もちろん傘はカガリの頭の上だ。

それを見て、今度は、歩くスピードを早めてみた。
合わせてアスランも足を速める。
カガリを濡らすまいと、傘もカガリの動くほうへと、スピードを合わせてついてゆく。
カガリは駆け足なのに、アスランの足の長さだと、少しだけ速度を速めればいいのだ。
そんな些細な事実がやっぱりちょっとだけ悔しくて、カガリは急に立ち止まってみた。
アスランも傘も、ぴたりとカガリのすぐそばで止まる。

その動きがあまりにもシンクロしていたから、少しだけおかしくなって、振り向いて彼を見た。

 

その瞬間カガリの瞳に映ったのは、肩も、髪も、雨でひどく濡れるアスランの姿。

 

カガリを濡らすまいと必死で、自分の事なんてどうでもよかったのだろう。
綺麗な黒髪から雨の雫が止めどなく伝って、頬に流れて肩に落ちている。
着ていたシャツなんか水に浸って重そうで冷たそうで・・・
それなのに、カガリが振り向いてくれたことが嬉しかったのか、碧の瞳は笑っていた。

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・〜〜〜もうッ!バカっ!!」

 

今回は、意地っ張りがおれた。

彼の優しさの前では、つまらない意地なんて貫きとおせるはずがないのだ。
カガリはアスランにぴたりと寄り添う。
アスランの瞳は、もっと嬉しそうに微笑んだ。
だからカガリも微笑み返した。

 

傘はまだカガリの頭の上だけれど、そのカガリはアスランに寄り添っているから、
こうすれば2人とも濡れることなんて、ない。

 

「・・・・・・・・・・・・・・冷たいか?」
「いや・・・・・・・・・カガリが居るから温かいよ」
「そっか。・・・・・私もだ!」

 

 


家までの距離、数百メートル。
2人の距離は、雨と喧嘩を超えて0センチ。

 

降りしきる冷たいはずの雨も、2人だと温かかった。

 

 

 

 

 

 

END

 

ラブラブな新婚アスカガ第1弾。
いっしょに買い物・・・!!喧嘩してもすぐに仲直り・・・!!
まだまだ甘さが足りないので頑張ってゆきます・・・!(笑)

 

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