ありがとう

 

 

 

 

 

 

 


昼下がりの休日。


出された紅茶は絶品。ケーキも今話題の店の、TVでも紹介されたのことのあるイチゴのショートケーキ。
ほおばってみれば、上品な甘さのクリームで実に自分好みの味だった。
暖かい陽射しが眩しくて、ぽかぽかとした天気が心地よいから気分もよくなる。

・・・・・これで、目の前に真昼間からいちゃつく夫婦がいなければ、もっと最高だったに違いない。


「カガリ、口にクリームついてるぞ」
「え?どこ?」
「そっちじゃない、こっち」
「・・・・・・あ、もう!キスでとるなよぉ!」
「ごめんごめん。キスしたかったんだ」
「もう!恥ずかしいだろっ」
「いいだろう?夫婦なんだから」
「そ、そうだけど・・・っ」

 

・・・・・・目の前には、いちゃつくバカップルならぬバカ夫婦。

僕の向かいで隣同士に座っているのはいいとして、必要ないくらい近づき過ぎだ。
そんなにくっつく意味はあるのかと問いただしたい。きっとないんだろうけれど。
あるとしても、きっとくだらない理由だろう。だから聞くのも怖い。

耐え切れそうにもなくって、僕はこの場の空気をかえることを決意した。

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ごほん!!」
「あ、キラ。ごめん。おまえのこと忘れてた」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

すぐ目の前にいる人間を、どうやったら忘れられるのだろうか。
アスランの言った言葉に僕はわざとらしくため息をついてあげた。
それで少しは反省してくれればいいものの、1秒もしないうちにまたいちゃつき始める。

2人でいちゃつきたいだけならわざわざ僕を呼ばなかったらいいのに・・・!

 

今朝、大好きな妹から電話がかかってきて、美味しいケーキが手に入ったから食べにこいと言われた。
あいにく僕の恋人でもあるラクスは、雑誌のインタビューのせいでこちらに来る事ができず、
1人でザラ家へ向かったのだ。
ザラ家という響きに不思議な感覚をまだ持ちつつも、今日はこのザラ宅でケーキをごちそうになっている。
確かに、美味しい。このケーキはとても美味しい。
これだけなら、来てよかったと思わせてくれる。

 

「あ、カガリまた・・・クリーム」
「え?どこ?どこだ?」
「ここ」
「こ、こら!額にクリームがつくわけないだろう!」
「ごめんごめん。キスしたかったんだ」
「もう!恥ずかしいだろっ」
「いいだろう?夫婦なんだから」
「そ、そうだけど・・・っ」

 

どうして僕はこんなところに来てしまったんだろう・・・・。

カガリに会えるのは楽しみにしていた。
もちろん、アスランのことだって大好きだ。だから楽しみにしてたんだ。

 

けれど、けれど・・・

 

「カガリ、クリーム」
「え?どこ?」
「ここ」
「ば、ばか!耳にクリームがつくわけないだろう!」
「ごめんごめん。キスしたかったんだ」
「もう!恥ずかしいだろっ」
「いいだろう?夫婦なんだから」
「そ、そうだけど・・・っ」

 

・・・・・・・・僕は2人に会うのが楽しみなだけであって、
けっして、目の前でこの2人が延々といちゃつくところを楽しみにしていたわけではない。


 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・うおっっほん!!!」
「あ、キラ。ごめん。おまえのことまた忘れてた」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 

アスランの言葉に、自然に溢れそうになる涙を堪える僕は何て健気なのだろうか。

そんなことさえわかってくれないバカ夫婦は、まだ胸焼けしそうな会話を止める気配さえない。

 

「カガリ・・・クリーム・・・・」
「や!もう信じない!アスラン意地悪ばっかり!嘘つき!」
「ごめんごめん。カガリが可愛いから」
「ばかっ」

 

そっぽを向いてしまったカガリのご機嫌どりでわたわたし始めたアスラン。
けれどカガリが本気で怒ってないことを知っているのか、行動はあまりかわっていない。
ただカガリに甘えるようにいちゃついてるだけだ。

でれでれに下がった目尻、しまってない口元、セクハラと紙一重の手の動き。
これがプラントの英雄ですよ。ザフトの貴公子だった男ですよ。
レノアおばさん、これが貴方の息子ですよ・・・!

 

「カガリー。こっち向いて?」
「やだっ」

 

僕ももう何だかいやだよ。
カガリよりもずっと僕のほうがそっぽを向きたいよ。

 

「カガリー。愛してるよ」
「もう!恥ずかしいだろ!」

 

だから、僕が1番恥ずかしいんだってば。わかってるの?


 

いい加減、この2人に視線を合わせるのが恥ずかしくてしょうがなくて、僕は俯きがちにケーキをほお張り始めた。
口の中に広がる甘さがバカ夫婦を表しているようで、何だか虚しい。
上品な甘さだと思っていたのに、目の前の光景と合わせて胃もたれしそうだ。

だから珍しく砂糖を入れずに飲んでいる紅茶が僕の心の清涼剤。
なぜなら、甘さを中和してくれるから。
・・・どうせなら、この2人の甘さもとっぱらってほしい。

 


別に今いちゃつかなくたってさ、僕が帰ったあとに思う存分仲良くやればいいだけのことなのに、
アスランはそれをわかってるのだろうか。
アスランがカガリを1人占めしてて少し悔しい。
カガリだって、本当は久しぶりに会った僕と楽しくお喋りしたいはずだ。
そうだよ。キョウダイ水入らずの会話くらい楽しませてくれたっていいでしょ。
きっと、そうしたいからカガリも僕を呼んでくれたんだ。

それなのに、アスランってば、アスランってば・・・!

 

僕はイライラしながらケーキにフォークをつきたてた。
そんな、下を向きっぱなしの僕の耳に、先ほどまで拗ねていたはずの妹の声が聞こえてくる。

 

「・・・アスランこそ、クリームついてるぞ!」
「え?どこ?」
「ここ・・・!」

 

 

ちゅ、と、音がした。

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・ま、まさか・・・・・・・・・・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

その音に僕が慌ててばっと顔を上げたら、信じられない光景が目に飛び込んできた。
カガリがアスランの頬に・・・・・キスを・・・・・

 

キスを・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・!

 

 

 

「・・・・・・・・・・・カガリッッ」

 

 

思わず大声をあげてしまった。
キスされた途端にデレっとしたアスランはこの際放っておこう。
問題はカガリだ。

だって、あのカガリが、そんなはしたないことを・・・!!
僕の目の前でそんなことができる子じゃなかったのに、どうして、君は、一体・・・!?

 

「えぇ!?キラ!?」

 

肩を震わせて、目を見開いて、一瞬にして頬を紅潮させて驚く彼女。
その驚き方は・・・・・・まさか、まさかとは思うけれども・・・・・・っ

 

 

 

「ご、ごめん!おまえのこと、忘れてた!」

 

ガツンと、僕は頭をテーブルに埋めてしまった。

 

 

あぁ・・・・・やっぱり・・・・・
どこをどうやったら、目の前にいる僕が見えなくなるというのだろうか。
・・・・・・・・・僕は今すぐ白タオルを投げ入れて、この場を退場したい。

もう僕のギブアップで結構です。許してください。

 

テーブルで打った額をさすりながら今度はゆっくりと顔を上げると、
アスランがカガリの腰に手を回しているところだった。

君達は、反省して、成長するということを知らないのですか。

なんておめでたい頭の中だろうか。
一体どこをどうしたらそんなに2人だけの世界に浸れるのか。

 

とりあえずギブアップする前に・・・・・・・

「・・・・・・・・・きみたちに、オメデトウと言いたいよ」
「・・・どういう意味だ?」
「そのまんま」
「そっか。・・・・じゃ、ありがとう!」

 

 

何一つ理解せず素直に可愛らしくありがとうと返すカガリと、
そのカガリにぴったりくっついて離れ様ともしない、さっきのキスでデレデレ顔のセクハラアスラン。

 

 


・・・・・・・・・本当にオメデタイ。

 

 

 

 

 

 

 

END

以上、別名、キラの受難でした!・・・ありがとうってこんなふうに使っていいのかしら(笑)
今回ほんとにただのバカップル・・・・!(笑)

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