第8.5話:親友討論会

 

 

 

 

 

「まぁったーく!カガリってばホント鈍感ねぇ!」

尋ねられたわけではないのに、その言葉はどこか同意を促すようなものだった。
ミリアリアは苦笑しながら1度頷く。
その点に関しては彼女と意見が一致しているのだ。

 

カガリと別れたあと、二人はやけ食いならぬやけ買いに走っている。
買ったばかりの化粧品があるというのに、フレイは店員に奨められるがまま新しいものをどんどん購入していった。
もちろんそれはフレイだけのことで、ミリアリアはその後ろをついて回るといったほうが正しい。
3店目を出た瞬間、フレイが叫んだ。

「あの顔、見た?!そのうち幸せ太りでもするんじゃないの!」

それが別にこの店の店員のことではないことをわかっているミリアリアは答えを返す。

「まだ付き合ってないのにね」
「ほんと!」

フレイが声高らかに興奮気味に話す言葉にミリアリアがまた頷けば、
フレイのマシンガントークは止まるところをしらない。
女の子特有のお喋りが得意なフレイに付き合って数年、ミリアリアは慣れたものだ。

けれど二人ともその顔はなんとも嬉しそうだった。
可愛い親友の初めての恋は、こんなに遅くにやってきた。
やってきたことを、友人としては心から喜んでいる。
あの子のことだから、このチャンスを逃せば確実に一生1人身でいそうだし・・・
なんて友人たちの心優しい心配に気付かないままカガリの頬は幸せで緩みっぱなしだった。
こっちは気付いていたというのに・・・

「どうせ今日も会う約束してたんでしょうね!」

あれだけ当てつけられていたら、気付きたくなくても気付いてしまう。
でも二人の邪魔をしないようにと精一杯の優しさを見せたつもりなのに、
今思えば無理やりにでもデートについていって邪魔してやればよかったとフレイは思った。

「まったく!ほんとにカガリってば・・・!女の子らしさの欠片もないってくせに・・・!」
自分だけ好きな人さっさと見つけちゃってさ!と。

さっきから彼女の声色はどこか怒気も含まれている。
まぁ、彼女に対して愛しさをこめた陰口はいつものことだとしても・・・
嬉しいのはきっと嬉しいのだろう。けれど、この感じは・・・

「フレイ・・・ちょっと寂しいの?」
「だ、誰が・・・っ!」

紅くなったフレイの顔がその言葉を肯定してるということを、ミリアリアは告げないことにした。

「二人とも可愛いんだから」
「ど、どーいう意味よッ!」

くすくすと笑い出したミリアリアを横目に、フレイは反論するのを諦めた。
仲良し三人組みの中で、実は一番大人なのは彼女だということを知っているからだ。
下手な反論ならば墓穴を掘るだけだろうと、フレイはわかっているのだ。

「あーあ・・・!運命の人いないのかしら!」
「運命の人ねぇ・・・」

運命という言葉を、ミリアリアは先日聞いたことがあった。
ミリィは俺の運命だ!なんて本気か嘘かわからないような口調である男に言われたのだ。
その男と知り合ったのはけっこう最近のことで、あまりにも軽そうな男のその顔を見て、
あんたバカでしょ、とばっさり切り返し呆れたのはついこの間のこと。

「あたしの運命〜!どっかに転がってないかしら〜!」
「・・・・・・転がるって・・・」

フレイの言葉に、ミリアリアは頭の中で坂道を転がって行く男性を思い浮かべる。
その男性は坂道を転げ切ると、坂の下で待っていたフレイにがっちり受け止められ連行された。

・・・なんだか本当にこんなイメージだわ・・・

笑いたいのに笑えず、それでもやっぱり笑ってしまう。
笑い出したその顔を訝しげにフレイは見つめていると、いきなりミリアリアがフレイの顔を覗きこんでこう言った。

 

「まぁ、フレイにもいつか見つかるわよ。運命の人が!」

 

でも連行はやめてね、と笑いながら付け加えたミリアリアの言葉に、フレイはまた訝しげな表情をしてみせた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第9話:二人の体温

 

 

 

 

 

 

今日は絶対、絶対、ぜーーーったい!遅刻しないぞ!!
と意気込んで約束の時間の1時間前に私は待ち合わせ場所にやってきた。
さすがにこの時間には来てないだろうと思っていたけど、やっぱり居なくてほっとした。
今日はスニーカーだ。
いつものお洒落はあんまりしてないけれど、心持ラフな服装の中でも可愛らしいものを選んだつもりだ。
アスランの好みじゃなかったらどうしようって気持ちはまだあるけれど、心の中できっと大丈夫と言い聞かせる。
そうしていたら安心したのか落ちついてきた。

1人で時間を潰すのは苦手だけれど、なぜだか今はウキウキしてしまってすぐに時間が過ぎそうだ。
私は携帯の彼からのメールや時間を何度もチェックしながら約束の時間がやってくるのを待っていた。


そして、約束の時間、17分前。


「すみません!今日はアスハさん早かったですね」

アスランだ。アスランが来たのだ。
びっくりした。だってまだ早い時間だったから。
もしかしていつもこんなに早く来て待っていてくれたのだろうか・・・?
あぁ、もう!ほんと、遅刻なんて2度とするんじゃないぞ、私のバカ!!
・・・今日、早めに待っててよかった・・・。
そう思いながらアスランを見れば私に向かって頭を下げているところ。
もう、バカ!遅刻もしてないのにそんな風にするなよなっ

「私のことは名前で呼べって言っただろ?あと敬語もなし、な!」

礼儀正しいアスランはまだ遠慮してるのか私のこと名前で呼ばなかった・・・。
けれど・・・

「あ、あぁ。ごめんな、カガリ・・・」

すぐに頭をかきながら私の名前を呼ぶ。
その時も小さなお辞儀をしてて、あまりに彼らしい可愛い行動に私は微笑んでしまった。
よかった、どうやら名前を呼ぶのがイヤなわけではなさそうだ。
やっぱり苗字で呼ばせてくださいなんて言われたら、立ち直れそうになかったけれど。

「もういいから。そろそろ行こう!アスラン!」
「あぁ」

その言葉が合図で私たちは隣同士歩き出す。


込み合う平日の街。
仕事帰りのサラリーマンやOL、学生たちが賑わって騒がしい。
「やっぱり今日も人が多いなぁ〜」
賑やかな世界は大好きだけれど、これだけの人の波だとどこか息苦しくも感じてしまう。
きょろきょろ回りを見渡せば180度人だらけの世界だ。
何かイベントがあるのかと思わせるくらいに。
迷うと大変だと思ったその時だった。


「・・・・え?」


私の手首が誰かに触れられた。暖かい大きな手。
その大きな手がそっと掴まれたのだ。ぱっと、私は掴まれた自分の手首を見た。

「・・・・だ、大丈夫。俺、ちゃんと掴んでるから・・・っ」

次に、この言葉を言ってくれた相手の顔を見る。
そこには・・・真っ赤な顔をして微笑んでるアスランがいた。

「・・・・う、うん!」

私の熱は手首から急激に上昇した。身体が熱い。手首が熱い。
アスランが見つめる私の顔が熱くてたまらない。
柔らかく包まれるように掴まれている手首。それを引いて私の歩幅に合わせてアスランが歩き始める。


目の前の信号が赤になって二人、同時に立ち止まる。
車が走り出してその、流れていく景色をじっと見つめているのに気になるのは私に触れている彼の手。


あぁ、ハウメアさま・・・!どうか勇気を与えてください・・・!!


私はアスランの手首を振り払う。
恥ずかしくて彼の表情を覗うことはできなかった。
小さく彼の口から「え?」と驚きの声が聞こえてきた。
ただ俯いて目をぎゅっと1度閉じる。
呼吸が深く浅くなって・・・そしてすぐに彼の手に触れ指に絡ませて握り返した。

「こ、このほうが・・・、自然だぞ・・・?」

もう心臓が限界まで鳴っていた。苦しくて嬉しくて幸せで・・・
もし嫌がられたらと思うとそれは恐怖でもあったけれど、本当は頭の中、なんにも考えられない。


彼が好きということしかわからない。


ぎゅっと、私の絡めた指が優しく握り返された。
包まれた温かな感触に、私は俯いていた顔をばっとあげる。
彼が真っ赤な顔で私に向かって恥ずかしそうに微笑んだ。
それを見て、あまりの嬉しさに私の熱い目から涙が零れそうになって・・・
でもその涙は、彼の微笑みのおかげで私も微笑みにかわっていった。

「あ、青だ」
「う、うん・・・!」
信号が青になったことを、周りにいた人たちが横断歩道を渡り始めたことで知った。
それがなければ、きっと、ずっと彼のこと見つめていたと思う。
手首じゃなくって、指先と手のひらで伝わる彼の熱に、泣きたくなるほどの幸せを感じてしまった。


私たちって、他の人から見たらどんな存在なんだろう?
友達?兄弟?それとも・・・恋人・・・?
そうだったら嬉しい。すごくすごく嬉しい。

お店につくまで二人、ずっと繋いだ手を握り締めあって歩いていった。

 


今日来たお店は雑誌に載っていた最近できたばかりのちょっと風変わりなお店。
外観も面白そうで1歩店内に入れば元気な店員さんの声が聞こえてきた。
1人の店員さんに通された個室に辿りつくと、さすがにここでは手を離さなくちゃとぱっと離す。
急に冷たさを感じた私の右手。
彼もそうだったのか、嬉しい事にちょっと残念そうな顔をしている。
でも店員さんに手を繋いでるところを見られたと思うと・・・だんだん恥ずかしくなってきた。
またアスランの顔を見れば、やっぱり同じようにほんのりと紅くなっている。
なんだか似たもの同士。それが嬉しくて・・・冷たいその手の分、たくさんお喋りしようと決めた。

今日はそれぞれ好きなものを注文してみる。
アスランって、ロールキャベツが好きなんだって。
魚より肉のほうが好きなのかな?

「カガリは辛いもの、本当に好きだよね?」
「うん!あ、でも甘いのも嫌いじゃないぞ?」
私が頼んだ激辛キムチを見てアスランがそう言った。
でも甘いものも好きだってこと、ちゃんと知らせておかないと・・・!私だって年頃の女の子なんだもん!
「でもフレイたちには負けちゃうけどな」
「フレイ?」
「あ、友達!仲いい子なんだ」
「へ〜。カガリは友達多そう」
「そんなことないよ」
アスランが私の話す言葉一つ一つに優しい微笑みで言葉をくれる。
優しい彼の眼差しが大好き。ドキドキする。
口にいれた激辛キムチもなんとなーく甘く感じてしまう。もう、アスランのせいだからっ!
なんて、彼に非のないことで心の中で怒ってみたり・・・
そんな自分の乙女思考がやっぱり恥ずかしくって、頼んでいたウーロン茶をぐっと飲み干した。

 


いろんなことを話しながら過ごしてお腹がいっぱいになった頃、混み出した店内を見て二人ともそろそろ時間だと気付く。
席を立ちあがると、さっと伝票を取るのはアスラン。
あまりに素早いその行動に私は驚いた。
レジまでその伝票を持っていき、私がレジ前で財布を取り出そうとすると
「そろそろご馳走させてくれないかな?」
とアスランが言い出した。
ご馳走だなんて・・・、昨日だってキラの分と私の分だしてくれたのに・・・!
「だーめーだ!私も払うぞ!」
いくら社会人とはいえ、昨日のことを考えると甘えることはできない。
昨日のことがなくっても私はきっと甘えるのが下手だけれど・・・。
私が財布の中からお札を数枚出そうとした時アスランが言った。
「いいから、俺を頼って?」
その言い方があんまりにも優しくってステキでかっこよくって・・・
私の顔から火が吹きでたかもしれない・・・!あぁ、もう!アスランってホントずるい!!
ドキドキしてしまっていて、今日は私の中にあるほんの少しの素直な部分が私を助けてくれる。
「・・・ありがとな・・・えへへ」
財布を鞄にしまいこんで、お礼を言った。
紅い顔をばっちり見られてしまって恥ずかしかったから、笑い方が変だったかもしれない。
ぜーんぶ、アスランが素敵すぎるせいなんだからな・・・もうっ!

 

お店を出た時私は気付く。
そうだ、今から家へ帰るんだ。
急激に私を襲う寂しさに耐え切れず私は彼の手に触れまたぎゅっと繋いでみる。
突然の私の行動にも、アスランは優しく応え返してくれた。
繋ぎ返された手が暖かくて、寂しさを包み隠してくれた。

けれど歩いていくたび、駅に近づくたび寂しさはこみ上げてゆく。
電車に乗り込んでまた気付くのだ。二人の別れの時間が近づいているということに。
時間を引き返すのなんて無理なことだ。動き出した電車を止めることも無理で・・・。
まだ一緒にいたいと言えば、仕事で疲れた彼の迷惑になるかもしれない。
私はお気楽な学生だ。アスランの気持ちをわかっているつもりでも絶対にわかってなんていない。
一緒にいたいなんて、私の我侭なんだ。


「・・・・大丈夫、か?」

ずっと俯きっぱなしの私に、アスランが声をかけてくれた。
心配させてしまった。でも元気よく大丈夫と返すことはできずに、私は頷くことしかできなかった。
「本当に・・・?」
何度も優しく尋ねてくれる彼の顔を見ることができない。
だって、ここでアスランの顔を見ちゃったら、「いっしょにいて」なんて言葉がぽろりと出てきそう。
私の想いを知らないアスランが、屈んで私の瞳を覗きこんでくれた。
その行動にドキリとした。優しい瞳のせいでまた泣きたくなって必死に飲みこむ涙。
「・・・ん、なんでもないぞ?ふふ」
小さな嘘は自分の胸をきゅっと締めつけた。
まだ心配そうな彼を安心させるため、今できる精一杯の笑顔をしてみせた。

車内アナウンスが流れる。次の次の駅が私の降りなくちゃいけない場所だ。
楽しい時間はもう終わりなんだ・・・そう思っていた私にアスランが尋ねてくる。

「駅から家まで、どのくらい歩くんだ?」
「ん・・・、歩いて・・・15分くらいかな?」
「それじゃ送っていくよ」
「え!?・・・いいよ!悪いし・・・」

彼の優しさがすごく嬉しかったのに、やっぱり素直じゃない私のせいでそれに頷くことができなかった。
本当は・・・本当はすごくすごく嬉しかったのに・・・!私って何でこうなんだろう・・・?

車内アナウンスがまた流れた。私が電車を降りる時間がやってきた。

 

「じゃあ、またメールするから・・・おやすみカガリ」

 

電車が減速して完全に停止すると、音をたててドアが開く。
脚が、身体が一本の棒のようだった。
もう少し・・・もう少しだけいっしょに居たい。
私の、棒のような身体がそんな想いでいっぱいになった時、身体は勝手に動いた。

アスランの手を掴む。

強引だってことは頭の片隅でわかった。怒られるかも、とも。でも止まらなかった。
そのまま彼を引っ張って、駅のホームに降り立つ。
電車のドアが閉まる音が鳴って、それが耳に煩い。
ガタンとドアが閉まった。そして動き出す。突っ立ったままの私とアスラン。
ごめん。我侭な女で。でもいっしょに居たかったんだ。

 


「・・・やっぱり・・家まで・・・お願い・・・っ」

 


まだ、もう少しだけ、アスランの温もりで包まれていたいんだ。

 

「は、はい・・・!」

怒られると覚悟していたのに、アスランはやっぱりすごく優しい・・・
今度はその優しさに、素直に甘えることができた。
それとも・・・彼もまだ、私といっしょにいたいって思ってくれたのかな?なんて自惚れてみた。

 

改札を出てから、私はアスランの指に自分の指を絡める。
アスランも自然に手のひらを合わせて重ねてくれた。
帰る道は私しか知らないから、私がアスランの手を引っ張って歩くような形になる。
電灯の明かりに照らされて・・・暗がりの道を二人で歩く。
「・・・これからは送るから」
アスランがそう言った。私は嬉しすぎる言葉にただ頷くしかできなかった。

いつもより時間をかけて家に辿りつく。
どうやら私の心が少しでもアスランといっしょに居たいと思っていたのだろう。
それは家についてもかわらずに・・・私はその手を離せなかった。
そうしたらアスラン、何も問い掛けずに私の手を握ってくれたままだった。

「今日は・・・ありがと。奢ってもらったり、送ってもらったり・・・」
「俺のほうこそ、すごく楽しめた。また会ってもらえる?」
「もちろん!」
「よかった・・・!」
「もう、そんなの当たり前だろう〜」

私のほうこそ、またこんな我侭で可愛くない女と会ってくれるか?って聞きたいくらいなのに!
アスランみたいな素敵な人、私が1人占めなんてしちゃダメなんだろうし・・・。
沈みそうな私の考え。もう!ダメだな・・・アスランのことになるとネガティブになってしまう。

スキって、みんな誰かを好きになるとこんなふうになるのかな・・・?

 

 

カチカチと時計が時間を刻んでるような音が頭の中から聞こえてきて、私ははっとする。

「あ、アスラン・・・、終電が近いぞ」
「え?そ、そうか・・・それじゃ・・・」
「う、うん・・・」

そう言って、ゆっくり手を離した。
寂しさに耐え切れるかな、と思ったけれど、今まで私の手を温めてくれていた彼の手のおかげで、
寂しさは微塵も感じなかった。彼の温もりが残っている。

「おやすみ・・・カガリ」

「おやすみなさい」

歩き始めた彼の背中をいつまでもじっと見ていた。
1度だけ、彼が振り返る。私は大きく手を振り返した。
アスランが私の子供っぽい行動に笑って手を降り返してくれる。そしてまた背中を向けて歩き出した。
その背中が見えなくなるまで、私はじっとその場に居た。

 

彼と繋ぎあっていた右手の手のひらを見た。
そこからぽかぽかと、春の陽射しのような温かさが身体全体へ。


今日はきっと最高に素敵な夢が見られると、また自分に似合わないような恥ずかしいことを考えてしまった。

 

 

 

 

 

 

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