第7話:芽生え

 

 

 

 

 


「服よし!髪型よし!気合よしっ!!」

姿見の前でくるりと一回転してみせた。
その後急に恥ずかしくなってきて私はバッグを手にしてそそくさと部屋を出る。
別に誰が見てるというわけでもないというのに・・・。
階段を降りてマーナと顔を合わせると彼女は一言。
「あらあらまぁまぁ、デートですか?」
「・・・・ち、が、う!」
全く。
どうしてキラと同じことしか言わないんだろうか。
うきうきした様子で私の表情を覗うマーナに私が膨れていると
少し笑いながらいつものグラスに入ったアイスティーを差し出してきた。
からんと中にある氷の音をたてながら私は飲み干した。
「今日は・・・キラとご飯だから・・・夕食はいらない」
視線を外してそう伝えた。嘘は言ってないぞ。
キラといっしょに食事をするのは本当だもん。
「わかりましたわ。うふふふ」
「・・・・・・・・・・・・・・」
その笑い方が、本当に何があるかってことをわかっているようで、私はまた膨れた。
次第に恥ずかしさが増してきて、私はもう家を出ることにした。
今から出ると時間には15分ほど早く着きそうな気もするが、まぁこの間遅刻しちゃったし・・・待たせるのも悪いし。
玄関までマーナがまるで幼稚園児につきそう保護者のようについてきた。
今日履いていく靴は、マーナがプレゼントしてくれたものだ。
おしゃれは足元からですよ、とマーナが渡してくれたサンダル・・・もといミュールとやらに足を入れる。
サンダルか?と言った時マーナが頭を抱えながら「ミュールです・・・」と呟いたのが妙に印象に残ってるが・・・
どう違うのかがいまいちよくわからない。
その時にこうも言われた。
「スリッパと言わないだけましだと思っておきますね・・・」
どういう意味だよ、それは。


ミュールを履くと足元がふらつく感覚がする。早くこういうのに慣れていこう。
「お似合いですわ、よかった」
「うん、可愛いな。ありがと!」
私のことを思って購入してくれたマーナに礼を言い、その場で足元をチェックしてみた。
今日着ている友人がコーディネートしてくれた服装とぴったりだ。
街行く着飾った子たちの仲間入りをしたような気がしてまた恥ずかしくもなったが。
「いってきまーす!」
「はいはい。いってらっしゃいませ〜」
カツン、と歩くたびに音を鳴らすこの靴は、自分を大人の女にしてくれたような気がした。

 

 


「う・・・歩きにくい・・・」
この間アスランと会った時のサンダルよりもこのサンダル・・じゃなかった、ミュールは歩きづらい。
サンダルはまだスニーカーのような感覚も残っていてくれたので歩くたびに足に馴染んでいったけれど、
これはどうも慣れるまでには時間がかかりそうだ。
これとおんなじタイプの靴で颯爽と歩く女性とすれ違って、尊敬の眼差しを送った。
また別の女性とすれ違った時、携帯が鳴る。
電話の着信音で、ディスプレイに映った文字は『キラ』。私は慌てて受話ボタンを押した。
『ごめん!遅れそう!』
何を言い出すかと思えば、繋がった瞬間彼は大きな声で謝罪する。
「まだ時間あるぞー?」
『今起きたばっかりなんだ!用意して行ったら遅れちゃう!』
「もう!」
どうせ昨晩、休みだからと言って大好きなテレビゲームかパソコンに夢中になって朝まで遊んでいたのだろう。
弟の行動が手に取るようにわかって私はふぅっとため息をついた。
まったく計画性ってもんがないのか。ついてくるって言ったのはそっちなんだぞっ。
それならもう来ないでくれたほうがありがたい。
『ごめんねぇ、カガリ〜。遅れてでもちゃんと行くから!』
「・・・・・・・・・・・」
私の心を見透かしたのだろうか。
私がこいつの行動が手に取るようにわかるのと同じように、きっとキラも私の言動なんてお見通しなんだろう。
「・・・・・・・はぁ・・・わかったよ。メールでお店の地図添付するから・・・」
『ありがと、カガリ!じゃね!』
会話はこれで終わり電話は切れた。
キラの勝手だけど憎めない行動にはいつも振りまわされてばっかりだ。
せっかく二人きりで食事ができるかなと思ったのに・・・

「ふたり・・・きり・・・」

二人きり、という言葉が頭の中で流れた。
どうしてかわからないのに、最近よく頭の中でいっぱいになる。
こんなアスランへの気持ちを振り切るかのように、私は歩きにくいミュールで走り出した。
 

 

 

 

 

最悪だ。


「・・・ごめん・・・!遅れた・・っ」
「いえ、全然大丈夫ですよ」


最悪だ最悪だ最悪だ・・・!!
またしても遅刻だなんて・・・!!
時間にルーズってわけじゃないんだ。むしろけっこうきっちりしてるほうだと自分でも思う。
けれどこの靴が、歩きにくくって・・・それは言い訳だとわかってるのに、言いたくなってしまう。
情けない。こんなことなら1時間は早めに出るんだった!
「・・・ごめ・・っ」
なんだか泣きそうになってくる。
マーナのくれた靴はとっても可愛いし素敵だし、私も気に入ったけれど、
おしゃれにばかり気を使ってしまって彼に不快な気分を与えてしまう自分は最悪最低だ。
「だ、大丈夫ですよ、本当に・・・」
「でも・・・っ」
悪いのは完全にこちらなのに、アスランのほうがずっと申し訳ないように言葉を優しくかけてくれる。
情けなさに顔をあげて彼の瞳を直視することもできず、ずっと俯いていたら、アスランの口からびっくりするような言葉が聞こえてきた。
「その・・靴、可愛いです・・ね・・・」
あまりにも驚いて、がばっと顔をあげ彼の顔を見る。
彼が赤くなって、さっきまでの私のように視線をそらして泳がせている。
その姿に私も素直になれた。
「・・・ありがとう」
可愛いといわれて嬉しくて、私が微笑むとアスランも微笑返して・・・
彼の優しさが心に染みこんで、ぎこちない時間はすぐに終わった。

「あ、弟さんは・・・?」
「ごめん!・・・あいつはもっと遅れるって・・・。店で待っていよう?」
弟まで遅刻決定を伝えるのはちょっと気が引けたが、ここで黙っていてもどうせばれてしまうのだ。
キョウダイそろって遅刻魔だなんて笑えない。
キラのバカ!と心の中で悪態もつくも、考えれば私が遅れてきていたから、
キラがもし早めにここに着いて彼と二人きりだったらそれこそとんでもないことになっていたに違いない。
それはそれでよかったのかも・・・と思うようにして、アスランと私は並んでお店に向かって歩き始めた。

 

 


ミュールが歩きにくくて、私はいつもより意識してスピードをあげて歩き始める。
この人ごみの中では背の高いアスランがすっと通りぬけるのはちょっと難しいらしい。
歩きにくい私よりも、周りを注意しながらゆっくり歩く彼。
時々私は振りかえった。
それに気付けば微笑み返してくれる。そのたびにどくりと鳴るこの心臓。


「あっ…」


アスランが急に声をだして私の手を掴んできた。
「え!?」
本当にいきなりのことで、私はびっくりして、掴まれた手をどうしていいのかわからないまま
彼の瞳をじっと見つめる。


微笑み返してくれた時以上に鳴る心臓。
何を言われるんだろう?何をされるんだろう・・・?何を・・・


「……ぶ、ぶつかりそうだったので…っ」
「あ、ご、ごごめん!ちょっとぼうっとしてた!…あ、ありがとう」


前を向くと、ポールが私の前に立ち塞がっていた。
恥ずかしい。恥ずかしい恥ずかしい。
自分のまぬけさが恥ずかしい。
何かを期待した自分が恥ずかしい。
ゆっくり離された手が寂しく、彼も笑っているかなと思い表情を覗えば、笑うというより優しく微笑んでいる。
あ、また心臓が鳴った。
「・・・並んで歩かない・・か?」
「・・・・は、はい!」
心臓の音をごまかすべく、提案してみせた。
でも心臓の音なんて関係なく、隣に居たかった。

 


店に着いて予約していた名前を伝えるとすぐに店内に案内される。
席はけっこう3人が座るにしては大きめでゆっくりできそうだった。
「とりあえず、先に頼んでおくか」
「あ、はい」
「料理、アスランの好きなもので!」
「いえ!悪いので・・・」
相変わらず礼儀正しく、アスランは断りをいれる。
この間は私の好きそうなものばかり選んでくれたんだ。
今回はアスランが食べたいものを食べさせてあげたい。
「・・・・でも、おまえの好きなものに・・・」
そう言ってメニュー表をアスランのほうへ向けた。
アスランはにこりと笑ってそれを受け取る。
「それじゃ・・・」
そう言って、彼がたくさんあるメニューから好きなものを選ぼうとしたその時だった。

「ごめんごめん〜」
この、遅刻したくせに全然そうは思わせない軽い声は・・・
「あ、お待たせしてしまってすみません〜」
キラだ。
女性ウケのよい笑顔でにこにこと、キラがやってきた。
「あ、いえ!大丈夫です!」
アスランがメニュー表から顔をあげてキラに頭を下げる。
・・・・本当に頭を下げなきゃならんのはキラだぞ、アスラン。
「まだメニュー決まってないんで大丈夫ですよ」
そう言ったアスランは、メニュー表をこちらに向けて見やすいように差し出す。
「あぁ良かった。勝手に君の好きなもの頼まれたら困るしね。あ、カガリ奥座って」
「え?う、うん・・・」
キラが私が座っていた席にどしりと勢いよく座った。
なんだよ、こっち座ればいいのに。まったくもう。
「どうも〜はじめまして、アスランさん。僕はキラ・ヤマトです〜」
「こちらこそ初めまして・・・ッ!」
二人は軽い自己紹介を始めた。
またしてもアスランは頭を下げている。
「お話は色々聞いてます・・・色々、ネ・・・」
アスランを物色するかのようなキラの視線に、私は咳払いしてみせた。
まったく、こいつって時たま不躾だ!
でもアスランは気にするふうでもなく、キラを嗜めていた私に笑顔を向けてくれた。
そんな彼に嬉しくなって、私はこちら側に向いていたメニュー表をアスランのほうへと差し出し返し尋ねる。
「なぁ、アスランはどれがいい?何食べたい?」
「これがいいよね、うん」
横からキラが自分の好みそうな料理を指差す。
「もう!おまえには聞いてないだろう?」
「え?これでいいですよね?アスランさん?」
「は、はいっ」
人がいいアスランはキラの言葉に大人しく頷いた。
こうして料理は全てキラの独断で決まったんだ。

 

キラが選んだものばかりだけれど、ここのお店の料理は全ておいしかった。
アスランも味付けが好みだったらしく美味しそうに食べていてくれてほっとした。
これで味も気にいらなかったらどうしようかと思ったけれど・・・その心配は無駄だったようだ。
食事前と食事中と、話題は専らアスランのことだった。
私とアスランの出逢いとか・・・キラってばアスランに「情けないよね」とか言い出して・・・。
しょげ返ったアスランに慌てて「そんなことない!」ってフォローしてあげたり・・・。
もちろん自分も最初はキラのような感想を持っていたことは内緒だ。
第1、キラはこんなふうに言ってるけど、絶対あの紫男を見たら同じようにびくびくするって!
これを言ったらキラは不機嫌になってアスランに何を言うかわからないから黙っておいたけど。

その他にもいろんな話をした。
似ている芸能人、とか・・・。
私はあんまり若い芸能人の名前を知らないから・・・誰に似ているかとかわからず
キラの話にうんうん頷くだけだった。
「カガリの可愛さはそこらへんのアイドルも適わないよね〜」
と言われた時には、恥ずかしさで逃げ出したかったぞ。
アスランの様子を覗うのが恥ずかしくて、顔を見ることができないでいたら、
「アスランさんって、アレに似てますよね!ほら!あれ!」
なんてキラが言い出した。
「あれ・・・?」
「あ、思い出した!毛並みがいいだけで芸のできないレトリバーにそっくり!」
「・・・・・・・・・・・」
黙り込んだアスラン。
「キラ!もう馬鹿!おまえなんてパソコンオタクのチワワのくせに!」
「え・・・ち、チワワ・・・?」
「そ、そうだっ!」
自分でもわけのわからない例え方だったかもしれない。
アスランを見てみれば、笑いを堪えてるような姿が目に入った。
もう〜〜〜・・・。でも笑ってくれればそれでいいや。

 

暫くするとアスランがお手洗いに行くために席を立つ。
うろうろして迷ってる姿が私とキラの目に飛び込んできて、二人で顔を見合わせて笑ってしまった。
戻ってきたアスランにキラが
「もしかしてさ〜君って天然?」と。
「たまに言われます・・・・」
「え?しょっちゅうじゃなくって?」
キラの鋭いツッコミに、今度は失礼ながら怒ることなく笑ってしまった。
だってアスラン可愛いんだもん。
「話には聞いてたけどさぁ。結構きびしめだよねぇ」
「そういうヤツ、なかなかいないからいいじゃないか!」
素直で純粋で真面目で可愛くって・・・優しくて温かくて、傍にいると幸せな気持ちをいっぱいもらう。

私はそんな彼がとても好きだ。そう・・スキ・・・。

「え〜?そう?カガリとは180度違うタイプだよね!似合わない!」

キラの言った言葉に私はびくりとしてしまった。
似合わないって・・・
やっぱりそうかな。
私みたいなガサツで可愛くない子なんて、アスランみたいな素敵な人と並んで歩くのって似合わないのかな・・・。
沈んでいきそうな気持ちが重くのしかかる。

「アスハさん・・・?」
急に黙り込んだ私に、アスランが優しく声をかけてくれた。
「あ・・うん、ごめん。なんでもないっ」
首を横にふって笑顔を向けた。
せっかくの食事会なんだ。暗い顔なんてしてちゃダメだよな!
私が笑顔を見せたら、アスランも笑顔を返してくれた。
それが嬉しくて、私ももっと笑ってみせたんだ。

 

 

食事が終わって店を出ることにした。
財布を取り出そうとした私の手を遮ってキラがアスランに言う。
「もちろん、君の奢りだよね?」
「は?」
キラの突然の発言に、私は驚く。
「3人で食べたんだから3人で割り勘だろ!」
「えぇ〜。僕財布もってきてなーい」
「キラ!」
どこまでも不真面目な弟の態度に、さすがの私も本気で怒りかけた。
けれどそれを今度はアスランが遮るようになだめるように、言う。
「あ・・・いいですよ、俺が払います」
「でも・・・っ」
「わぁ!ありがとう!アスランさん!」
・・・・負けた。またしてもキラに負けた。
後でキラはたっぷりこってり叱ろう。
そしてせめて私の分はアスランに払おうと心に決めて、会計に向かったアスランの背中をじっと見る。
私とキラだけ先に店をでたあと、無言でアスランが出てくるのを待った。
私は不機嫌だぞ、というオーラを出して・・・。だってキラには少しは反省してもらわなくちゃ。

「ねぇ・・・カガリ・・・」
「ん?なんだよ」
きっとこんな私を見て声をかけてくるだろうと思っていた通り、キラは声をかけてきた。
けれど、次に言う事は予想してなかった。
「意地悪してごめんね」
「え?!」
あまりにも予想外の言葉で、視線を外していた私はキラへと振りかえる。
いつものように穏やかに微笑むキラ。
「・・・・悔しくなっちゃったんだ。カガリとられるような気がして」
「・・・・・え・・・」
「いつだって、カガリに1番近い男って僕だと思ってたから・・・ごめんね」
わずかに顔を伏せて謝るキラ。
こういう謝り方の時は、心からの気持ちを白状している時だと知っている。
それにキラの顔が寂しそうだったから、本当なんだとわかった。
その表情ひとつで先ほどまでのアスランへの無礼を全て許してしまいたくなる、甘い私。
「もういいよ・・・アスランもちゃんとわかってくれてるさ」
「うん。ありがと」
えへへと笑ってみせたキラに、私も笑い返した。
こういうところがキラの可愛いところだ。
とても素直でまっすぐで、やっぱり憎めない。
もう許してあげよう。
キラはごめんなさいと謝ったら2度と同じことはしない。
優しいアスランも許してくれるはずだ。
「ねぇ・・・カガリ」
「なんだ?」
キラが穏やかな笑顔のまま私をじっと見て何か言いたそうにしている。
今度は一体何を言うんだろうと思っていたら、また次も予想外の言葉だった。

「好きなんでしょ・・・?アスランさんが」
「え・・・っ」
「好きなんだ」
「・・・・・・・・っ」

私の顔が熱くなった。
絶対赤い。どうしようもないくらい赤い。
そんな私を見てか、キラが笑っている。ずるいぞ、おまえ。
アスランのこと好きだなんて、そりゃ好きだ。大好きだ。
でも・・・この好きがキラの言うような好きなのか・・・そんなのわからない。
「カガリのことだから、わからないなんて言いそう」
くすくすと笑いながらキラがそう言う。・・・心の中、読まれてる。
それを否定する言葉も、私の口からは出てこなかった。
気付いていたのかもしれない。

彼が好きだってこと、もうずっと前から知っていたのかもしれない。

 

「お待たせしました」
「!!」
急にかけられた声に、私は飛びあがるほど驚いて次に緊張してしまう。
キラの言葉がリフレインして頭の中でぐるぐる回る。
「アスランさん、僕仕事が急にはいっちゃって帰りますね!」
「え?」
「キ、キラ・・・!」
こんな時間から仕事だなんて、嘘がばればれだ。
まるで・・というより完全に二人きりのお膳立てだ。
「カガリをどうぞよろしく・・・」
最後に言った台詞、今までの意地悪は許してよ、に聞こえて私は笑いそうになってしまった。
「それじゃ、またね!」
そう言ってキラは駆け出して去って行く。
去り際、私にウインクしてみせた。
それを見て、やっぱりまたキラの言葉を思い出して・・・少し身体が熱を帯びた。
「さ、騒がしくて…悪かったな!」
「いえ。楽しかったですよ」
自分の中で芽生えて気付いた気持ちはまだ彼には知られたくなくて・・・取り繕うように話題を探す。
がなかなか見つからない。
いつまでも店の前で話しこむわけにもいかず、とりあえずと駅に向かって二人で歩き出した。

 

「あ、さっきはご馳走様!」
「いいえ」
「・・・私の分は払うから!」
そう言って財布を取り出そうとしたら止められる。
「気を使わないでください。かっこつけたかったんですから」
笑いながらそう言ってくれて、私も今回はアスランの優しさに甘えることにした。
ありがとうと伝えるとアスランは笑って、私が話しやすくするためか早速違う話題を口にする。
「キラさんはお若いのに仕事っていうことはコーディネーターなんですね」
「あ、あぁ。キラはな。私はナチュラルだけど」
「へぇ・・・珍しいですね、キョウダイで違うのって」
しかも双子なんだぞと伝えると、アスランはもっと驚いた。
ナチュラルとコーディネーターの双子って、別に私たちだけじゃないけど、それでもかなり珍しい。
18歳ということも伝えたら、もっと若いかと思っていた、だって。
そんなに子供っぽいかなぁ、私。

 

アスランについていくかのように歩いていたら、いつもの道ではないところを通っていることに気付いた。
いつもより、明るく華やいでいる道だ。
オーブの国花であるハイビスカスが花壇に植えられている。
そういえば、今ちょうど満開の時期だ。
赤い花が暗がりの中、わずかな街灯と月の明かりで照らされてとても綺麗で、私は感嘆の声をあげた。
「すごい!綺麗だな!」
「・・・・えぇ・・・とても・・・綺麗だ・・・」
アスランがじっとこちらを見て言った。
アスランもハイビスカスが好きみたいだ。
この赤い花、アスランの蒼い髪に映えそうだな。
何より優しく微笑んでくれているアスランがとても綺麗。

ドキドキする。けれど、痛いくらいに高鳴る心臓とは反対に、身体はふんわりとした気持ちで包まれる。

 

好きなんでしょ?

 

キラの言葉がまた頭の中を駆け巡る。

 

あぁ・・・そうだよ。好きなんだ。
この優しくて綺麗で真っ直ぐな瞳が大好きなんだ。

芽生えた気持ちを自覚してしまえば、あとはもう高鳴りで空へ舞いあがりそうなくらいで・・・。
初めて訪れた恋という感情は、私の胸をいっぱいに幸せという名で満たしてくれる。

 

「ここ、アスハさんが喜んでくれてよかった」
微笑む彼を見て、幸せは次の幸せを求めた。
「・・・・なぁ・・・名前で呼んで・・・?」
「え!?」
「カガリって・・・そう呼んで・・・?」
いきなりのお願い、イヤな顔をさせてしまうかなと思った。
でももう戻れない。
どうしても名前を呼んでほしかった。

彼の、その綺麗でドキドキする声で、私の名前を・・・。

 

アスランの口がゆっくり開く・・・。

 

「・・・・・・・カ・・・カガリ・・・・・ッ」

・・・・・・!!」

 

自分からお願いしたことなのに、実際にそう呼ばれると身体が急激に熱くなる。
心臓はもうバクバクしてて、顔はもう絶対絶対真っ赤だ。

「カガリ・・・・・」
「・・・・・・ん」
「・・・カガリ・・・・・」
「アスラン・・・」

気恥ずかしい雰囲気に、アスランも赤くなっていた。
私が笑うと、アスランもおんなじように笑ってくれて・・・
いつもそうなんだ。
私が笑うとアスランも笑ってくれるんだ。

 

私たちは真っ赤なお互いの顔を見て、笑い合った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第8話:告白はいつですか?

 

 

 

 

 

 

『今日はどうもありがとう。ごちそうさま。

すごく楽しめたぞ!

・・・・・・また、いっしょに食事しような?』

 

 

 

目覚めがこんなにすがすがしい日なんて、いつ以来だろうか?
ううん。本当はきっと、あいつと出会ってからずっと毎日が眩しい。
思いきりよく開いたカーテンから零れる朝日を体に浴びて、深呼吸。
高鳴りは、一夜を超えてなお今も響く。

好き、と自覚してしまった自分が愛しくて堪らないなんて、
これが初めての恋の私には貴重な体験なのかどうかもわからない。

今まで肌身離さず持っていた友人との想い出がつまった携帯は、さらに宝物になった。
だって、アスランと私を繋げてくれる。
いつメールがくるか・・・いつ電話がくるか・・・いつ・・・いつ・・・。
待ち望む瞬間が高鳴りをさらに激しくして、でもそれが心地よい。
世の中の女の子は皆こんな恋をしているのだろうか?
思い切ってフレイやミリィに聞いてみようか?
また少しからかわれるかもしれないけれど、きっと喜んでくれる。

宝物になった携帯電話を開いてみた。
昨晩、寝るまでの間の二人のメールのやりとり。

『よければ明日も会いませんか?』

無機質な携帯のメールの文字が、なぜだか踊ってるように思える私は重症だ。
私の答えはもちろんOK!
嬉しさで手が震えてしまって、いつもより返事を打つのが遅くなってしまった。
アスランの返信はもっと遅いけれど。
会社でパソコンは使うって聞いたけど、携帯のメールは苦手そうだもんな。
見たことなんて1度もないのに、真面目に仕事している彼の姿を思い浮かんで1人頬を緩めてしまう。

あぁ、どうしよう。

この気持ちの正体がを知ってからもずっとどうしようって気持ちがいっぱい!

待ち合わせをアスランの仕事が終わる時間から1時間後にしてから最後におやすみなさいと送ってその日のメールは終了した。
携帯を握り締めたまま、いつものようにベッドへダイビング。
・・・して気付く。
メールより電話のほうがよかったかな?
必死にメール返信をしているアスランを思い浮かべて、緩んだ口元を大きく開いて今度は笑ってしまった。

そうして眠りについて・・・どんな夢を見たかは忘れたけれど、
目覚めがよかったからきっとアスランの夢を見たんだ。
夢の中まで幸せ者だった私。
そして目が覚めてからも、眩しい朝日が私を祝福してくれているかのようで・・・


今日も新しい、幸せな一日が始まったのだ。

 

 

 

 

 

 

 


「告白はいつ?」

フレイお気に入りのカフェでロイヤルミルクティーを飲みながら談笑。
賑やかな雰囲気にのるようにして「私、好きな人ができたんだ!」と大好きな友人二人に伝えた。
心構えはできていた!
誰が好きなの?とか、いつから好きなの?とか・・・
私の描いていた初恋談義は、そんな小さなことから始まると思っていたのに「告白はいつ?」だなんんて・・・
思いきり予想を覆されてしまった。
そしてそんな言葉を言われる準備なんてしてなかったから、私は暫くの間その意味を理解できないままぼうっとしていた。

「もう!カガリ、告白よ!こ・く・は・く!」

フレイが声を荒げて言った。私もその声にやっと我に返る。

「・・・・そ、そんなのまだ先の話だ・・・!」
「何言ってんの!すぐにしなさい!好きですって言って唇奪えばこっちのもんよ!」
「ば・・・!バカっ!無理言わないでくれ・・・!も、もう・・・っ」

フレイの大胆発言に私はお決まりの言葉で反論してから黙り込んでしまう。
それを傍観していたミリィが、うんうんと頷いてるのが目に入った。
一体どっちの意見に頷いてくれているのか・・・聞くのが怖い。
だから私は、尋ねるよりも自分の予想していた話を持ち出してみることにした。

「・・・・それよりさ・・・普通はもっと・・・こう、あるんじゃないのか?」
「何?」

ミリィが尋ね返してくれた。それが嬉しくて私は1度咳払いをして話し始める。

「・・・・・だからさ・・・『えー?だれだれー?きゃ〜!好きな人って!いつから好きなの〜?』・・・って」

こういうのにちょっと憧れてたのだ。
周りの友人たちは異性の話を、それこそませた早い子なら12歳くらいから知ったか顔で話していたりしていた。
何組の誰々くんが素敵、とか優しくされてときめいちゃった!とか・・・・
自分でも驚くほどにアスランと出会うまで異性や恋愛に興味のなかった私の初恋談義とは、
その頃の幼いながらの憧れと印象が強くて・・・内容さえも幼いものなのかもしれない。

「中学生じゃないんだから!」

やっぱり思った通りの反応だ・・・。
私はため息をついて諦めた。

遅すぎたのだ、初恋が。
今更ながらに、12歳でアスランと出会っていたらと思ってしまう。
そうしていれば、今の私はきっと恋愛のエキスパートだったのかもしれない・・・。
それこそフレイが言うように、好きと伝えて唇を奪うことくらいカンタンだったのかも・・・
けれど想像してしまえば、やっぱり私にはまだ早かったらしく・・・

「ちょっとぉ!な〜んで頬が赤いのかしら〜?」

にやにやとフレイが笑いながらそう言った。そしてそのまま言葉を続ける。

「カガリならなんて言って告白するのがいいかしらね〜」
「やっぱり、好きです、が妥当かしら?」
「女らしさで迫ってみるのがいいわよ!」

私の告白の台詞とシュチュエーションを考えはじめたフレイとミリィの女の子らしいはしゃぐ声を耳に、
好きと伝えてキスをするという想像だけでもひどく鳴る心臓は本当の告白の瞬間までもってくれるのか・・・・
なんてことを、恥ずかしいことにぼんやりと考えてしまった。

 

 

とりあえず・・・アスランを見てみたい!と言い出しそうなほどはしゃいでる二人の前で、
今日、会うことは内緒にしておこう。

 

 

 

 

 

 

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