第6話:おんなのこの秘密

 

 

 

 

 


カーテンをあけると朝の光が眩しい。
自分の心がうきうきしてるのがわかる。
なんて単純なんだろう。そう思っても止まらない気持ちが動き始めた。
これが何ていうものかはわからないけれど、
アスランに会いたいって思うこの気持ちが、とても大切なものだということはわかってるんだ。

 

珍しく早起きしてしまった私は、眠気覚ましに軽くシャワーをあびて、マーナの作ってくれた朝食を口に運ぶ。
紅茶をいれてくれたマーナが、目を輝かせて何か聞きたそうにしていたけれど、
そのきらきらした視線をうまくかわして私は会話をすすめていく。

だって…

1日たてばちゃんと話そうと思ってたんだけど、胸の高鳴りがまだ収まらなくて…
もうすこし、この気持ちを1人で味わいたいんだ。

何も言わなかったけれど、そんなことをわかってくれたのか、
瞳を輝かせたままのマーナも私に問いただす事はしなかった。

 

 


今日は1日ずっと休みで、私は久しぶりに買い物に行く事にしお気に入りのバッグ片手に家をでた。
「いってきます!」
「いってらっしゃいませ〜」
いつもと変わらないマーナの声を聞きながら外に出て直接朝の光を浴びた。
何を買いにいこうか?今はまだ特には決めていないけれど、
お目当てのものになるのはきっと、次にアスランに会う時の洋服。
…マーナのためにも可愛い格好しなくちゃ可哀想だしな…
昨日、女らしくないせいで泣かせてしまったマーナを思い出して笑ってしまった。

「…アスランも仕事お休みだよな」
今日は少し遠出しようと、いつもの電車ではなく地下鉄に乗りこんだ。
いつ電話がかかってくるんだろうってそう思って、どうしても携帯電話が気になってしまう。
地下を走る電車は携帯電話の電波を遮ってしまう。
そればかり気にしてしまって、地下鉄をつかったのは失敗したかもしれないと後悔してしまった。
自分からかけたいけれど…まずはアスランからの連絡を待とうと、目的駅についたらすぐに地上に出ようと決めた。
昨日の晩も実はずっと携帯を抱きしめたまま彼からの電話を待ちつづけたんだけれど…
結局かかってくることはなかった。

疲れちゃってもう寝ちゃったのかも…
ちょっとだけ沈みそうな気持ちを浮上させるため、そういう理由をつけて私も眠りについた。
でも全然、不安とか、そういう気持ちにはならなかった。
だって、言ってくれた。
アスランから言ってくれた。

また、電話する…って。

あの言葉を思い出せば、沈んでなんていられない。
ドキドキして幸せな気持ちが蘇ってくる。

 

アスランが好きだなぁってそう思う。

 

 

「……え?…好き…?」

 

 

突然自分の中から現れた答え。そんなことを考えてしまった、らしくない自分にどきりとした。
まさか、自分がアスランを・・・?まさか・・・。
けれど、深く考えようとすればするほど頭の中は混乱してしまう。
好き、の違いがわからない。
だからきっとこの気持ちは、大切な友人に贈る「好き」なのだ。
そう、きっとそうなんだ。


・・・・・きっと、そう・・・。

 

 

 

 

 

 

階段を上がりきって地上に出てすぐ、また携帯を見た。
そこには私がずっと待っていた相手からの不在着信履歴が残っていたんだ!

「アスラン!」

わずか1分前、彼がかけてきてくれたのだ。
やはり地下鉄なんか使うんじゃなかったと思う。
少しだけ、荒い息とともに心臓の音がまた跳ねあがったような気がしてしまったけれど、
これもまた勘違いだと言い聞かせ、けれど嬉しさは自覚し、私は早速アスランの携帯へと電話をかけなおした。

『・・・・もしもし・・・っ』
「アスランっ。さっきはごめんな!でられなくって」
『いいえ。すみません、お忙しかったですか?』
「いや!大丈夫だぞ?」

電話機を通じて聞こえてくる、彼の声。
嬉しさは膨れ上がるばかり。

『昨日はありがとうございました。すごく楽しかったです』
「ふふ、私も楽しかったぞ?」
『あの・・・・・』
「ん?」
『・・・・・えっと・・・』

どうしたんだろう?何か言いたそうだな?
先に声をかけようか迷ったけれど、今はじっとその言葉をまつことにした。
私が黙りこんで数秒後、アスランが大声を張り上げる。

『・・・よ、よければ・・・!俺が美味しいお店、ごいっしょします・・・っ!!』
「へ?」
『・・・・・あ!!よければ・・・ですが・・・!』

突然のアスランからの誘いに私は素直に驚くだけだった。
まさか、また誘ってもらえるなんて思ってもみなかったんだ。
静かな時間が流れて行くと、次第に自分が嬉しさでいっぱいになっていることに気付いてくる。
アスランが、また一緒に食事に行こうと誘ってくれたのだ。
とくり、と先ほどまで荒かった心臓の音が、今度は優しく鳴り始めた。
「・・・・よし!それじゃ一緒に出かけような!」
その心臓の音色に促されるまま、答えを返す。
『よかった・・・。すみません。本当は昨日その時に言うべきだったんですが・・・』
昨日から?ずっと言うつもりだったのだろうか。
少しおどおどしながら自分の様子を覗う彼の姿を思い出して、ちょっとだけ笑ってしまう。
「ははは。本当にへタレだよな!おまえって!」
そんな姿もなんだか可愛いのだけれども。
「・・・・・・すみません・・・。本当にへタレです・・・」
しょげかえった彼の姿が安易に想像できて、また笑ってしまった。なんて可愛いんだろう。

 

愛しくてたまらない。

 

・・・・・・いと、しい・・・?

 

『・・・・・あの・・・アスハさん・・・?』


「あ!ご、ごめん!今ぼうっとしてた・・・!」

 

黙り込んでしまった私にかけられた彼の声に、電話中なのを思い出し慌てて謝る。
そのせいか、愛しい、の意味と理由を謎とく間もなくって・・・。

その後2人は少しだけ他愛もない話と、
いつでも連絡事項を送れるようにメールアドレスを教えて電話を切った。
もう少しだけ喋っていたかった気もしたけれど、彼が電話をかけてきてくれたということだけで
これ以上ない幸せを感じてしまっている。

スキップしそうな気分で、私は気付けばまた軽く駆け出してしまう。


そのうきうきした気分のまま、メールでフレイとミリアリアを呼び出して3人でショッピングを楽しんだ。


「えぇ!?うそ!アンタ、これ買うの?!」

いつもは絶対見向きもしないキャミソールに手をのばしたとき、フレイが驚愕の声をあげた。
恥ずかしくてたまらなかったけれど、正直になって小さく頷く。
それを見たフレイとミリィは何かを察知し、あれやこれやと可愛い服を私のために選んでくれた。

「あ!これ、これいい。アンタにぴったりよ!」
「カガリは可愛いんだから、こういうのも似合うわよ?」

着せ替え人形にされるのは恥ずかしいが、どこまでも世話を焼いてくれる友人達に身をまかせ、
その中でも二人が最終決定してくれたものを数点購入した。
可愛い服がほしくても、そういうセンスに自信がなかった自分にとって本当に頼りになる友人たちだ。
・・・その後の『噂の彼』についての質問攻めはいただけなかったけれど。

 

 

二人がすすめた服を購入した後、フレイとミリィが化粧室へ。
私だけがその場に取り残されて、1人でぼうっとしていた。
ふと携帯が鳴っていることに気付き慌てて鞄から取り出してみる。
弟である、キラからだった。

「もしもし!キラ?」
『あ!カガリ?今どこ?何してるの?』
「えっと・・・フレイたちと服買いにきてる」
『そうなんだ。ふふ、またTシャツ?』
「違う!今日はいろんなもの!・・・なんか薄っぺらい・・・キャミソール?とか・・・」
『・・・・タンクトップ?』
「キャミソール!!」


『・・・・・な、なんで?!ねぇ、なんで!?あのカガリが・・・!』
「・・・・悪かったな」

なんて失礼な弟だろうか。
たった1人の姉が初めて自分で可愛い服を選んで購入したというのに。
別にお祝いの言葉がほしいわけじゃないけど、これはあんまりだ。
そういえばあのワンピースを贈ってくれた時も、せめて飾ってねと言っていたような・・・。
私が唇をとがらせて電話の向こうの弟をイメージし睨みつけると、キラは何かに気付いたかのように尋ねてきた。

『・・・・・もしかして、男?』
「えっ!!??」
『男だね・・・』

しまった・・・!声が裏返ってしまった・・・!
キラは目ざといんだ。いつもはすごく優しいのに、男の話になるといつも拗ねたように怒りだす。
自分には彼女がいるくせに、だ!

『・・・・デートするの』
「ち、ちがう!デートじゃない!いっしょにご飯食べに行くだけだ・・・!」
『ふーん・・・』

あぁ、もう!本当にデートじゃないんだってば!
ただご飯食べにいくだけだってのに・・・!
私はなんとかこの場をやりすごそうと色んな台詞といろんなパターンを考えだすも、
いい案が思い浮かぶ前にキラが一言言い放った。

『僕も行く』
「は!?」
『だから僕も行く』

キラの発言に、私の頭は少しついていけなかった。
キラは強情だ、頑固だ。1度言い出したら聞かないし、文句は言わせない。
同じ血が流れているのだから、そういうところは自分にもあるが、こうなるとほとほと困ってしまう。

「えっと〜・・・まだ日にちも決まってないし〜」
『いつもでいいよ。だからついて行くね』
「ちょ・・・キラっ」
『じゃ、よろしく』

うまく断る最後のチャンスさえ奪われ電話は切られてしまった。・・・さすがキラ。


「なぁに?愛しのダーリンから?」
「バカっ、フレイ!違うってば!キラだ!」

化粧室から帰ってきたフレイの第一声に、私は反論の声をあげた。
ミリィもそのすぐあと私たちのもとにきて、私とフレイを交互に見た。
また小さな喧嘩を始めたと思ったのか、いつものように私とフレイをなだめる。

その時ミリィの携帯が鳴った。

「鳴ってるぞ、出なくていいのか?」
「あ・・・うん・・・」
「?」
気乗りしないのか戸惑い気味に答えるミリィ。
鞄から携帯電話を取り出し内容を確認するとすぐに折りたたみ式の携帯電話を閉じた。
いつもならものすごい早さで返事を打つのに、文字を打った形跡は見られない。
けれどいつも温和なミリィらしくないほどにイライラしてるのがわかり、この話題をふることはもうなかった。
きっと女の子の秘密だろう。

その後はフレイとミリィの行きたいという店につきあって、二人が新作のルージュに夢中になってるところでこっそりアスランにメールする。
キラがついてきたい・・・ということを伝えるのが何だか申し訳なくて気が重かったが、快く了承してくれた。
だから私も、暗い雰囲気にならないよう、できるだけメールの文面を明るくしてみた。
ふだん使わないような・・・「v」とか・・・!
あぁもう!・・・これは私らしくなかったよな・・・?どうしよう、変だったかな?
似合わないって思われてたらどうしよう、どうしようどうしよう・・・

「カ・ガ・リ〜」
「うわぁ!!」
突然背後からかけられた声に、私は驚いて大語を出してしまった。
振り向けば、フレイが有名らしい化粧品を買いこんで機嫌がいいのか、にやけたような笑顔で私を見ている。
「アンタやっぱり携帯画面じーっと見つめちゃって、ダーリンとラブラブね!」
「も、もう!そんなんじゃないって・・・い、言ってるだろうっ」
私の必死の説明も、ごちそうさま、の一言で片付けられてしまった。

 

 

 

 

 

家に帰ってきてからはすぐにお風呂に入り、マーナが準備してくれていた夕食でお腹をいっぱいにした。
歩き回って、体力に自信のある私も結構疲れた。
これならきっとフレイとミリィも即ベッドへダウンしてることだろう。
自室に戻って購入したものを紙袋から取り出す。値札を外し、手にとって空に掲げるように見てみた。
「センスいいよなぁ、あいつら・・・」
自分じゃ絶対選べなかった。これは感謝しなくては。
お礼のメールを打とうと携帯を手に取ると、キラからメールが来ている事に気付いた。
「・・・・・・・なんだろ」
キーを押して内容を確認すると・・・


<その男と会う日決まった?楽しみだなぁ・・・ふふ>

「・・・・・・・・・・・・・・・・・」

な、なんだか寒気が・・・っ
アスラン、キラに会わせて大丈夫だろうか・・・?


でもキラと仲良くなってくれたら嬉しいな。


だって、そうしたら・・・・

 

 

「そうしたら・・・?」

 

そうしたら、どうなるって言うんだろうか。
私、今朝からずっとおかしい。変だな。

 

アスランのことを考えると、いつもいっぱい不思議な気持ちが溢れてくる・・・。
これって何だ?って、フレイやミリィに聞いてみたいけど聞くのも怖いような気がする。

 

だから、これはまだ私だけの秘密。

 

 

大きく深呼吸をしてみた。
そうしたら、そのとき初めて、私の心臓が嬉しさで激しく鳴っていることに気付いたんだ・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

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