親友談義 フレイ・アルスター編

 

 

 

 

 


いい男を手に入れるのは、いい女の重要なステータスの1つ。
それにそれはわたし、フレイ・アルスターの合言葉でもあるの。

 

高校デビュー。
舞う桜の花びらが眩しい4月。


それ以上に眩しいはずに決まっているこの私。
この自信もそのはずだと、誰がどう見ても思うでしょう。
自慢の綺麗な長い赤い髪は手入れもばっちりで美しさが風になびき、
この整った顔立ちを見れば誰がどう見ても可愛い!とか綺麗だね!といった形容が出てくるはずだもの。
私は堂々と、校内の桜並木を胸を張って歩いていた。
一歩歩くたびに男子の視線が絡みついてくる。
それを不快とは思わないの。

 

でもごめんなさい。
そこらへんのレベルの男じゃ納得できないのよねぇ。
私くらい可愛かったら、隣に並ぶ男も選ばなきゃいけないと思うの。
それこそが、この可愛さに対する責任だと思うのね。

だから、あの男を見つけた時は運命だと思ったわ。

 


「新入生代表!アスラン・ザラ!」


「はい」

 

壇上にあがった色白の男は、まさしく絵本の中の王子様。
眉目秀麗、容姿端麗、文武両道・・・・・・・・
ありとあらゆる誉め言葉があてはまるような、まさに女の理想をそのまま形にしたような男だった。

周りの子たちが黄色い声できゃあきゃあ騒ぎ出す。
けれど私はそんなレベルの低いことはしない。
本当にいい女ってのは、慌てず騒がず狙った獲物を確実に捕まえるもの。

 

この瞬間をもって、アスラン・ザラはわたし、フレイ・アルスターに思われる男になったのよ。
感謝しなさい。


そして、彼を手に入れる、そのチャンスはすぐにやってくる。

 

 

そう、彼と同じクラスになったの!
入学式の後すぐに張り出された掲示板で、私の名前と彼の名前が同じクラス内にいっしょに載っている。
これはもう、神様が私に与えたチャンスとしか思えない。


やはりわたしとアスラン・ザラは結ばれる運命だったのよ・・・!

 

 


そしてそのチャンスの中でも大チャンスと呼ばれる日がやってきたの。

 


○月×日、日直当番、女子フレイ・アルスター、
日直男子、出席番号6番の男子が休みのため、学級委員のアスラン・ザラ。

 

出席番号6が休んだ時は「でかした!よくやったわ!6番!」と、
顔も思い出せないクラスメイトを心の中で誉めてあげたわ。
その子もわたしに誉められて本望でしょう。
とにかくこの大チャンスを逃すわけにはいかないと、
今日の私は6番が休みというのを聞いた瞬時から気合を入れているの!!
化粧室(トイレなんて言わないわよ!!)に駆けこんで薄くメイクをほどこして・・・
まぁ、こんなことしなくてもわたしの美しさにみんなメロメロでしょうけどね。
素肌美人、っていうのかしら?わたしのこと。

落ちてきた化粧直しをするために、また化粧室に駆け込んだり。
念には念をということで、放課後、ちょっと値がはった新作春色ルージュを唇にひいてみた。
・・・先生にばれるとまずいけど・・・。

放課後から風紀チェックに勤しむ熱血教師なんていそうにないしね。

 

そして今は放課後の誰もいない教室で二人向かい合って今日最後の仕事、日誌を書いているところ。
今までも色々モーションかけてたんだけど、所詮それはクラスメイトの前で。
今は二人きりなんだから、どんなことしたって許されるでしょう?

 

「あっつぅ〜い!!」

 

シャツのボタンは上から2つ外している。
胸元がぎりぎり見えるか見えないか・・・このチラリズムに男は弱いのよ。

 

「ほんっと、春なのにこの天気・・・イヤよねぇ〜?アスラァン」

 

見えそうで見えない角度から、胸元を寄せて谷間を作ってみせる。
机に乗りかかるように前屈みになって、親切に見やすい位置へと持っていってあげて・・・
そしてお手入ればっちりな私の脚は、短いスカートのおかげでさらに魅力が惹き立てられている。
そのすらりとした長い脚を大胆に組めば、当然!彼の視線は私から離れられない。

勝ち誇ったように私が艶やかな笑みをたたえてあげると、彼は視線をはずした。
あら、どうやら私の色気が直視できないみたい。

可愛いところあるじゃない。

さて、次はどんな行動を見せてくれるのかしらと思って挑発的に彼をじっと見つめていれば、
徐にアスランは立ちあがった。
そしてそのまま窓際へ行く。

 

からりと、音を立てて彼が窓を開けた。

 

「これで風が通るかな」
「・・・は?」
「暑いんだろう・・・?」
「え、えぇ・・・」

 

なんだか思っていた反応と違うけど・・・でもまぁいいわ。
どうやら照れてるのね。
それに私を思ってわざわざ窓を開けてくれたなんて・・・これは脈ありじゃないかしら!
やっぱり世の中の男はみんな私の虜なのよ!
入学式で騒いでいた一般人の女子生徒の皆さん、ごめんなさい。

この勝負、私の勝ちだわ・・・!!もらった!!

 

「ねぇ・・・アス」
「教室が暑いとイヤだろうしな〜、カガリ」
「・・・はぁ?」

 

突然おかしな方向へといってしまった会話に私は首を傾げる。
カ、ガリ・・・?何よそれ?

 

「あ、カガリっていうのは俺の幼馴染で・・・今日、いっしょに帰る約束してあるんだ」

 

もうすぐ教室にくるはずなんだけど・・・とアスランが。

 

・・・何よ、カガリって、どこのどいつ?

 

「誰よ・・・カガリって・・・」

 

女の名前、よね・・・?まさか浮気?わたしというものがいるというのに・・・。
わたしの素朴な疑問と質問にふにゃ、と端整な顔を崩したアスラン。
やめてよ、あなたはかっこよくビシっと決めてなきゃわたしに相応しくないのよ?

わたしに嫌われてもいいの?よくないでしょう!

 

「ちょっと!アスラン、あなたねぇ・・っ」

 

こんな可愛い子を前に、他の女の話なんてするんじゃないわよ、と
わたしが言ってやろうとした時・・・

 

 

「おーまーたーせッッッ!!!!」

 

 

人きりの静かな教室に、轟音が鳴り響いた。
思わず耳を塞ぎたくなったほどの。
耳を塞ぐのは間に合わなかったけれど、そのせいで身体がびくりと震えてしまったわ。
とにかくそれくらいの大きな音と声。震度6はあったはず。
一体何事と声がしたほうに顔を向ければ、そこには女子生徒一人。

 

「ごめん、アスラン!遅れちゃった!」

「いいよ、俺も今用事終わるところ」

 

その女子生徒はわたしたちのほうまで遠慮なく近寄ってくる。
せっかくのチャンスにとんだ邪魔者ね・・・。
この甘い雰囲気がわらかないのかしら?

 

「あれ?この子は?」

 

わたしの存在に気付いたこの女子生徒が、視線を向ける。
どうやら可愛いわたしを紹介してほしいみたい。
いいわよ、女友達くらい作ってあげても。

 

アスランがそれを見て、あぁ・・・と、その女子生徒にわたしを紹介し始めた。

 

「今日の女子の日直・・・えと・・・」

 

そこで言葉がつまり、何か助けを求めるように視線が泳ぐ。
きょとんとした女子生徒がアスランの答えをまっているけど・・・
紹介されるはずの私の名前はアスランの口から出てこない。

・・・まさか・・・こいつ・・・

 

「・・・フレイ・・・アルスターよ・・・アスラン・・・」

「そ、そう!アルスターさん!アルスターさん!」

「・・・・・・」

 

こいつ・・・
わたしの名前を覚えてなかったっていうの・・・!?

そりゃ、まだこのクラスになって1週間たつかたたたないか。
わたしだって男子6番の名前なんて覚えてないけど・・・
でも、彼はいわばこのクラスの脇役。
そしてわたしはこのクラスの主役。ヒロイン。

そんなわたしの名前がまだ覚えられていなかっただなんて・・・!
こいつ、実は相当なバカなんじゃないの・・・!?
新入生代表なんて、顔で決められたんじゃ!?

 

「フレイ?よろしくな!私はカガリだ!」

 

イライラしてるわたしに無遠慮な右手が差し出される。
にっこり笑った女子生徒は、その名をカガリと名乗った。
・・・この子がカガリ。

短い金髪を無造作に切り捨てたようなボサボサな髪型。
超高級シャンプーを使って、美容院に月に1度は通ってる、美しい赤毛の私。
どこからどう見ても気品の欠片もないような、その態度。
女らしさが漂い見る者を虜にしてしまう、私。

 

「・・・よろしく、カガリさん」

 

勝った、と思ったわ。

だから笑ってその握手を受けてやったの。
可哀想な子。どうせただの幼馴染か男友達と同じレベル、そんなものでしょう?
アスランは・・・多分、優しい人だから、きっとこの子をほっておけないだけなんでしょうね。

 

「あはは!カガリでいいぞ〜!」

 

敵対心も何もあったもんじゃない。
そりゃそうだわ。多分、一目で勝負を放棄したのでしょうね。
ごめんなさいね。わたしがこんなにも可愛い子で。

あぁ、アスラン。
まっていて。わたしが今あなたを救い出してあげるから・・・!

 

「さてと!帰るか!アスラン!」

 

ちょっと待ちなさいよ。

アスランを今日限りであなたの保護者はやめさせてあげたら?
わたしはアスランのためにカガリに教えてあげようと思いこほんと咳払いをする。

 

「ちょっと待ち」「あ・・・・・!待て!カガリ!」

 

「・・・・・」

 

・・・わたしの言葉を遮ったアスラン。この、わたしの、言葉を遮ったの。
・・・・・・まぁ、仕方ないわ。
アスランから彼女に言うのね。
うん、それが一番いい方法だわ。

 

ごめんなさい、カガリ。

さようなら、カガリ。

 

 

 


ところが、アスランはわたしが思っていたこととは違うことを口にする。


 

「あ・・・・その・・・・・・スカート・・・・」

 

「?」

 

「・・・・・短い。脚が見える・・・」

 

がく。

 

ちょ、ちょっと!!
どういうこと!?スカートなんて・・・!
彼女、膝よりちょっと上なだけじゃない!!

このわたしの脚を見なさいよ。アスラン仕様のスカートの短さ!
こんな綺麗なすらりとした脚が、太ももが出ているのよっ

わたしはアスランのほうにむけて、この脚線美をアピールしてみせる。
けれどこいつは気付かないまま、カガリと会話を続けている。

「スカート短いから・・・もっと長く・・・」

「もう・・・!バ、バカ!エッチ!」

「え・・・っちって!?」

まだまだまだまだわけのわからない会話は続けられる。
わたしが口を挟もうとする前に、マシンガントークのよな2人の言い合い。

「カガリッ、それとボタンは外すな・・・!」

「走ってきたんだ!暑いからしょうがないだろう!」

「暑かろうと寒かろうと!露出は控えろ!」

「バカ!これのどこが露出だ!!」

「俺以外のほかの男に見せるな!」

「バカ!アスラン以外の男に見せたいわけないだろう!もう、アスランなんて知らん!」

「カガリ・・・ッ」

彼女のシャツもボタンが外されていた。
けれどそれは1つ・・・・・・。
私は思わず自分の胸元に視線を落とす。

私のボタンは2つ、彼女のボタンは1つ。私のボタンは2つ。彼女のボタンは1つ・・・

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 

「もぉ!バカ!アスランのバカバカッ、知らない!先、帰るッ」

 

「あ!!カガリ、まて・・・!」

 


カガリ、はこの教室に来た時と同じくらいの勢いで教室を出て行く。
また煩い音が耳に鳴り響いて、今度は耳を塞ぐことができた。

けれどその塞いだ耳を超えて、男の絶叫が。

 

「カガリィィィィィィーーーーッッ!!!」

 

「・・・・・・・・・・・・・」

 

男はその場に項垂れ座りこんでいた。
顔をあげず床に両手をついている。そのため表情は覗えない。
でも覗うつもりもない。
なんだか今彼の顔を見たら、100年の恋も一気に冷めてしまう気がしたの。

でも本当はもう気付いてる。

 

100年どころか1000年の恋も冷め切ったわ、わたし。

 

 

「あぁ・・・カガリ・・・ッ、俺の何がいけなかったんだ・・・ッ」

 

全部。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

どんなに素敵な王子様でも、私の魅力に気付かない男はレベルが低いのよ。

 

「私、来年はあんたと同じクラスイヤだわ」

 

その一言だけ残してわたしは自分の鞄を手に、彼を置き去りにして颯爽と教室を出た。
日直、あとのことはよろしく。
わたしに思われただけでも光栄だと思いなさい。

神様が与えてくれたチャンスは、
この男を手に入れるのを早々と諦めさせるためのものだった。

ありがとう、神様。感謝しています。

 

 

 

 

 

 

そして・・・・月日は流れ、高校デビューから丸1年。
舞う桜の花びらが眩しい4月。
それ以上に、変わらず眩しいはずに決まっているこの私。

そして・・・・・・

 

「あ!フレイ!1年間よろしくな!」

「俺もよろしく」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 

よりにもよってこの2人と同じクラスになる私はきっと、薄幸の美少女ってやつだと思うの。
でなきゃやってらんない。ねぇ神様?そうでしょう?

 

 

 

 

 

 

 

 

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