いつものおやすみコールを忘れてたわけじゃない。
・・・ただただ、昨晩のあの一瞬が忘れられなくて、眠れなかったのだ。

 

 

 

 

思い込み=すれ違いは突然に

 

 

 

 

興奮すると眠れない、だなんて、小学生の遠足前にはよく聞くことだ。
普通の子供と違ってあまり感情を表に出さない俺にとって、それは未知の世界の出来事であり、
まさか大人になってそれを体験することになるだなんてさえ思ってもみず。

身体が熱を帯びてるとはいえ・・・して過ごさなかったことだけが唯一の救いというか言い訳というか・・・

「・・・バカ!俺、何考えてんだよ・・・っ」

ベッドの上で何度目かの寝返りを打った時、よぎった邪な思考に喝を入れた。
こんなことを考えてしまうなんてカガリに知れたら・・・恐ろしい。
ついでにカガリの兄弟あたりに知れたらもっと恐ろしい。
カガリにそっくりなキラを思い出して、ちょっとだけ申し訳ない気持ちになりながら天井を見つめた。

雀の泣く声が静かな朝にうるさいくらい響いて、朝の始まりを告げている。
どんな時も朝日は昇ると、偉人は言ったらしい。まさしくその通りである。

だから俺はそれが何故なのか少し考えたのだ。


「・・・・・・・。」


 

例えどんなに俺が寝不足だろうとまだこの気持ちに浸っていたかろうと、無情にも朝はやってくる。
それともこれは、また君の笑顔に出会える新しい日の始まりなのかな・・・?


 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ってダメだぁぁぁ!!!!こんなメール送れない・・・っっ」

 

携帯片手にベッドでごろごろ転がりながら昨晩からたまりにたまった未送信メールを確認する。
すると、自分の言葉とは思えないようなクサい台詞の数々にまたのた打ち回った。

 

恋人らしい最初の一言がどうしてもどうやってもどうあがいても見つからず、行き場をなくしたメールはすでに14件。
我ながら、らしくない。
どうもカガリの事となると平静を装う事も普通でいる事もできなくなる。
それが恋だというならばそんな俺が一番好きなのだが・・・あんまりカッコ悪い姿は見て欲しくないというジレンマ。
カガリに会いたい・・・会えない・・・会いたい・・・・・・・・・・って
・・・こんな考えが頭を離れてくれない時点で脳は沸点を超えてるだろう・・・。

 

「あ・・・!やばっ」

偶然目に飛び込んできた壁かけの大きな時計の時刻を見てベッドから飛び起き滑り込むかのように1階へ降りて行く。

今日はすでに母さんは仕事に出てるらしい。
キッチンから人の気配がしないのは寂しいが、
洗面所へ向かう途中に覗き込んだキッチンのテーブルの上に朝食らしき皿が置かれてあったのには気づいた。
このところずっと忙しいみたいで、顔を合わすことも珍しくなってきた。
父さんは暫くの間出張でこちらには戻ってこないから、今のところ俺一人の家である。

 

顔を洗って歯を磨いてもう1度自分の部屋に戻り制服に身を包むと心が引き締まった。
「よし・・・っ」
自分に気合をいれてからキッチンに行き、
用意されてあった朝食を喉に詰まるんじゃないかというくらい手短に済ませると、皿はシンクに持っていく。
ほんとは朝食は撮らない主義だが、
取らなければ取らないでカガリや母からはこっぴどいお叱りの言葉が待っているので、
用意されたものは大人しく口に入れると決めているのだ。

冷蔵庫の中で冷えていたミネラルウォーターを飲みながらも考えるのは彼女のこと。
口がにやけてうまく飲み干すことができないのも幸せに感じてる俺。

「あぁ・・ダメだっ」

こんな顔、カガリには見せられない。幻滅でもされたら2度と立ち直れないと思う。
なんとか飲み込んだ水の冷たさに目を覚ますかのように、
ついでにもっとしっかりしろという意味をこめて頬を叩いてみてから教科書も入ってない指定鞄を小脇に抱えて家を出た。

 

 

 

 

今日は日曜だが本校の学生は午前中だけ学校に出向かなければならない。
昨日のバカ騒ぎの後片付けが完全には終わってないから、そのために全員出席しなければならないのだ。

そのかわり明日の月曜日は休みで、平日もあってかのんびり外出するにはうってつけの日でもある。
俺の頭の中では、すでに恋人となって初のデートプランが完成していた。

犬の散歩をしている人とすれ違うたびに頭をさげてみたり、
緩む頬の理由を、「可愛いですねー」なんて、その犬の可愛さのせいにしてみたり、
古典的なまでのごまかしようにキラが見たら笑い転げるだろうな・・・。と頭の片隅で考えた。

 


冷たいくらいの少し早い朝の時間、それにもちゃんと理由と目的がある。

 

その目的地に辿りつくと、俺は朝の空気を吸い込んで緊張をときほぐし、また両頬を2発ひっぱたいた。
そこは彼女の家の前、彼女が家を出る数分前。

挨拶と笑顔の準備は万全だ。
いつカガリが現れてもいいようにと、ぬかりはない。
そんな俺の前に、待ち望む本人が姿を現したのはすぐだった。

 

「え・・・・?」

門扉によりかかり待っていた俺に驚いたのだろう。待ち合わせの約束などしていなかったからだ。
小さく口から漏れた声が冷たい空気の中で響いた。

「お、おはようっ」

あ・・・少し声裏返ったかも・・・?
聞こえないよう注意しながら喉の調子を整えるため咳払いする。

「・・・・・・おはよ」

俺と同じく緊張してるのか、カガリに笑顔はなく、それでもちゃんと返事をしてくれたから俺は疑問に気付く事もなかったのだ。

 

きっと俺は有頂天になっていたんだ。

カガリとはもうただの幼馴染なんかじゃなくて、
さりげなく手をつないでもキスをしてもいい関係になったって、俺は思い込んでいた。
だから忍ばせるようにして彼女の空いていた右の手に俺の左手を絡ませようとした時・・・

「なんで昨日・・・電話とか、メールとか、してこなかった?」

「あ・・・」

カガリのその一言で俺の動きが止まった。
まさか、君に贈るためのメールの文面のあまりの恥ずかしさに断念した、なんて格好悪いことを言えるはずもなく・・・

「・・・・・あ・・・す、すぐ、寝ちゃって・・・」

ありきたりないい訳で終わらせる。
不信そうな目を向けられて思わず視線を逸らしてしまった。
気まずい雰囲気だってことはわかったけど、
これ以上自分から何か話し出せば言い訳のオンパレードになることは目に見えていた。
行動でごまかす・・・といえば聞こえは悪いが、
繋ぎたいと思った手をぶらぶらさせておくのも勿体無く、俺は「さりげなく手を繋ぐ」ことにもう1度チャレンジしてみた。
カガリはそれに気付いたらしい。
頬を染めてハッとして・・・だからきっとこのまま俺の手にすっぽり収まってくれると思っていたのに、

「や、やめろよっ」

そう言い華奢な指先でぱしんと叩かれる。
痛くなんてなかったがそれは予想できなかったことで、
拒否された手が行
き場をなくして虚しく朝の冷たい空気で冷えていった。

 

さきほど以上に気まずい。

 

「・・・・・・い、イヤ・・・だった・・・?」

 

「そうじゃなくって・・・!」

 

自分から聞いておいて「イヤ」なんて答えが返されたら立ち直れなかったかもしれないが、
カガリが言いたいことはそういうことじゃないらしい。
俺がわからない、といった顔をしていたのか・・・少しだけヒントをくれた。

 

「お、おまえ、何か言う事ないかっ」

 

「な、何か・・・?」

 

何か、を催促してくるカガリの頬が紅かった。
何か、が欲しいらしい。カガリが欲しい、何か。

俺は真剣に考えてみた。すると数学の難しい問いを答えることができたようにぴたり当てはまる答えが見つかる。

 

「えっと・・・その・・・・じゃあ・・・うん」

 

俺のほうが紅くなってしまっているかもしれない。
赤くなった俺の頬を見て、彼女もまた鮮やかな色を染めていく。

あぁ、そうか・・・やっぱりカガリも、待っていてくれたんだ。

期待に満ちていく彼女の瞳を覗き込むように顔を近づけると、はにかむようにやっと笑ってくれた。
だからゆっくり、ゆっくり、そっと近づけていく。
どれくらいの距離だろう。

心臓の音が空気越しでさえ伝わってしまいそうなほどの、距離、で、
俺はカガリが望む、そして俺が望んでる「何か」を言った。

 

 

「キスしていい?」

 

 

「・・・こぉの、バカヤロォォ!!!」

 

 

ぶんと振りつけた鞄を寸でのところでうまく交わす。が、完全にはよけきれなかったみたいだ。
頬にすれる鈍い痛みに口が勝手に動いてしまう。

「っ痛・・・っ」

俺の声にカガリの顔が一瞬苦しそうに歪んだ。
口より手のほうが早い彼女は、きっと今自分が鞄を振り上げたことを後悔してるんだろう。
いつもならごめん、の一言がすっと出てくるその唇は一文字に閉ざされて、
悔いてるその表情が次第に赤くなっていく。それはまるで全ての原因がこっちにあったかのように・・・

 

彼女は駆け出していった。・・・・・って、えぇ!?

 

「え・・・!?か、カガリ・・・待てって・・・!」

 

これまた、予想できなかった。逃げ出されるなんて・・・っ
どうしてこうなったんだなんて・・・理由なんて考えてる暇なんてあるわけなく、俺の足は自然に彼女を追いかける。
こういう時カガリの脚が遅ければすぐにでも追いつけたのに、
残念なことに運動神経抜群なカガリの後を追いかけ追いつくのは至難の技である。
俺もけっこう速いほうだけど・・・、咄嗟に判断できず躊躇してしまったわずかなタイムロスが痛い。

通学路をこれほどまでに全力疾走することがあっただろうか。
時にカガリを見失いそうになり、輝く金色の髪を見つけてまた追いかけたり・・・
人の波はそれほどないものの、通りすぎる人たちは俺を滑稽な目で見ているだろう。
気にしてる場合じゃない。とにかく今はカガリを掴まえて謝ろう・・・!
・・・・謝る理由が見つからないけど、とにかく謝るんだ!!

 

また見失った後、見まわした先10メートルほど前の横断歩道を小走りで渡るカガリの姿を確認すると、俺はそこ目掛けて走り出す。
が、運命とは時に残酷である。赤信号が点滅したのだ。
それは俺の足を止めた。
くせっけの金の髪が弾けるように飛びはねて、俺の前から段々小さく消えて行く。

 

イライラしながら信号を確認するも俺の気持ちを無視して赤く光ってる。
目の前で車がすーっと通りすぎていくことが腹立たしい。そして、時間が経てば経つほど気持ちが沈んでいく。

 

・・・多分、もう追いつけない。

 

信号が青になろうとしている。

立ち止まっているこの時間が俺の頭を冷静にしてくれたのかやっと俺はこうなってしまった原因を考えてみた。

 

ぐるぐるぐるぐる、回る思考回路は、彼女曰くハツカネズミらしい。
まさしくその通りだ。滑車を抜け出す事ができずにいる。
それでもなんとか捜し出した答えは・・・・・俺にとっても相当ショックなものだったらしい。

 

俺は動けないまま、ただ呟いた。

 

「・・・・・・・・・俺・・・キス、ヘタだったのか・・・・?」

 

青になる。信号待ちをしていたおじさんが振り返って怪訝そうな顔をしてからそそくさと横断歩道を渡っていった。

 

 

 

俺は動けないままだった。

 

 

 

 

 

 

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だって男の子だもん(爆)。
・・・このままいちゃいちゃケンカさせておくべきか、
すっと仲直りさせてしまうべきか2択で悩んでます。
どっちにしろいちゃいちゃしてると思うんですが(笑)。
次回もなるべく10日以内更新目指して頑張りますっ

 

 

 

 

 

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