prologue T  -Kira-

 

 

 

 

 

 

歓声とともに炎の粉が夜空に舞いあがり、同時に軽やかな音楽につられて踊り出す。
毎年恒例の後夜祭が始まった。

友達同士騒ぐもよし、好きな子を誘って思い切って告白してみるもよし、この学園の人間だけに許された文化祭の後の一大イベント。
僕のダンスのお相手は、いつもカガリだった。
アスランとカガリと僕の3人で、よくわからないダンスを大きな声で笑いながら踊っていた。
カガリがはしゃいで曲に合わせた自作自演の舞いを見せれば、負けじと僕は見事なまでに真似っこして、
アスランが遅れて変なステップを踏む。運動神経いいくせに、こういうのは全然ダメだったりするところがまた笑えて・・・。
そのうちカガリが友達と踊ってくる!と3人の輪から抜けていく。
残った僕とアスランは、男2人で虚しく空を見上げて文化祭の思い出を語るのが恒例だった・・・

その時の、僕たちの次のカガリのお相手がラクス・クラインだった。

そして今、僕の相手をしてくれているのは・・・揺らめく炎と同じくらい紅い頬で僕の目の前に立っているクラインさん。

「おい・・・ラクス・クラインだぞ・・・・」

3年生の先輩2人の一人がこっちを見て言った。
クラインさんを見てるってことは間違いなくその目の前にいる僕も見てるってこと。
・・・もしくはクラインさん視線が釘漬けで僕なんてそこらへんに飛んでる蚊くらいにしか思われてないかも・・・。
それはそれで悲しい。

「・・・可愛いよな、ラクス・クライン」
「あぁ。・・・で、あいつだろ?」

あぁ・・・視線が痛い。どう考えてもその声は僕じゃ彼女の相手にふさわしくないという恨みが込められている。
そりゃそうだよ、学園のアイドルだよ?
2年生で飛びぬけて可愛い子3人選べって言ったら、クラインさんか、僕のカガリか・・・フレイ?くらい?

あ・・・・・全部、僕と関わりがある・・・。

変なところで恵まれて、いや、恨まれそうなこの関係に僕は今考えたことを忘れたくなった。
ちらちら周りの様子を覗うと、この3年生の先輩たちだけじゃない。
さっきからじろじろと僕とクラインさんの様子を覗う人たちがたくさんいて僕はクラインさん以上に何もしないで突っ立ってるだけだった。

手を差し出して踊り出せばいいのだけど、あいにく毎年カガリ振り付けのカガリダンスしか拾得してなかったせいで、
みんなが普通に踊るようなステップなんて踏めそうにない。
・・・なんて都合よく理由をつけてるだけで、ホントはそんな勇気がないだけなのだ。
今でも不思議でしょうがない。
あのラクス・クラインが会長じゃなくて僕を選んでくれたことが・・・。
ねるたね運命団後の体育館の大騒ぎは、会長がうまく沈めてくれた。
カガリや僕に対する嫉妬の声も罵声も、会長の見事な歌声で吹っ飛ばしてくれたのだ。
アドリブでカラオケ大会の司会を任されたダコスタくんにはご苦労さまと言うしかないけど・・・
その後僕とクラインさんは逃げ出すようにして体育館を後にし、
暫く何も話さず中庭を行ったりきたり、時折共通の話題となるカガリの話をしたり・・・していた。

『後夜祭が始まります』
というアナウンスで初めて、どれだけの時間がたっていたかってことに気付いたんだ。

「・・・行ってみる?」
ぶっきらぼうなまでにかっこよく上手く彼女の顔を見てさえ言えなかったそんな僕の言葉に
彼女はただ黙って頷き、2歩くらい遅れた距離で着いてきてくれた。
グラウンドに向かえば生徒たちのはしゃぐ声が聞こえてきて、わずかな2人きりの時間は終わりを告げた。

そうして今、炎の前で何もせずに向き合ってるのだ。

 

 

・・・ど、どうしよ・・・っ

手のひらから汗がにじみ出てきてるのがわかる。こんな手で彼女の手を取るなんてできないじゃない。
ポケットの中にハンカチなんて、生憎僕はアスランじゃないし持ち合わせてない。
でも持ってたとしても汗を拭く姿なんて格好悪くて見せられないから、どのみちちょうどよかったのだ。

あれやこれといろんなことを考えていると、クラインさんがそっと僕に言った。

「あの・・・やっぱりご迷惑だったんじゃ・・・」

「へ?」

それはとても小さな声で、周りの声の煩ささのせいで、気をつけてなければ聞き取れなかったかもしれない。
炎がぱちぱちと粉を舞いあげ空に向かう姿の音のほうが大きいような気もしたほどにか細い声に、
もう1度聞き直そうとすると、クラインさんは何も言いたくないというように瞳を伏せた。

僕の周りにいた女の子たちの中には、こんな反応をする子なんていなくて、どう対応していいかわからなかった。

それに僕とクラインさんの会話を、興味ないふりして聞き耳をたててる生徒がまだ何人も居て居心地が悪い。
ひそひそ話が耳元に届いてきて、はっきり聞き取れないけど絶対喜ばしい会話でないことだけはわかる。
どうせ、僕なんかじゃクラインさんと釣り合わないとかそんなことだろうからもう詮索するのもやめた。

それどころじゃなくって、僕にはクラインさんに伝えたい事、山のようにあるんだ。
それなのにこれじゃ何も言えないじゃないか・・・

「「あ、あの!」」

僕とクラインさんの声が重なって、またもや沈黙の時が流れる。
そちらからどうぞ、とさえ言う事もできずまた下を向き、せっかくの楽しい祭がこのまま終わるんじゃないかとさえ思った。
ホントに、こんな日のためにもダンスレッスンでも習っておけばよかったと後悔してももう遅い。
こんな日っていきなり来るものだって実感してしまった。
好きな人ができて、思いが通じる日が、こんなに早くやってくるなんて。

好きな人に、好きだって伝える事がどれだけ難しいか・・・僕は知ってる。
だって僕のそばにはずっといい見本がいたし。
想い合ってるのに言葉を伝え切れずすれ違うのに離れられず無自覚でいちゃつく2人を・・・。
あ・・・そういえばアスラン、カガリと会えたのかな・・・?
デジカメ撮影のカガリを、アスランの誕生日プレゼントにしてあげよう。・・・お金ないし・・・。
でも一番いいショットは僕だけのものにして・・・・・・・・・・

「あの・・・キラ・・・?」

「あ!?ご、ごめん!・・・カガリのこと考えてた!」

「カガリさん・・・?」

「・・・あ!」

条件反射で答えてしまいハッとする。
いくら兄弟とはいえ彼女の目の前で別の女の子のこと考えてました!ってすごく失礼な話じゃないだろうか・・・!?
謝るタイミングも逃して僕がおろおろしていると、彼女は僕が想像してたのと違う反応をしてくれた。

「どんなことですか?わたくし、聞きたいですわ!」

気にする様子もなく嬉しそうに尋ねてくれたのだ。
それだけのことがほっとした。ううん、そういう言葉じゃ片付かないくらい心の底が温かくなっている。
彼女と居ると素直にそう思える。

 

大きな瞳も珍しい髪色も全てが可愛くて、僕にはほんとに勿体ないくらいの人だけど・・・あぁ、やっぱり言いたい。

ちゃんと伝えたい。

 

 

 

アスランみたくなってたまるものか!

 

 

 

 

「こ、ここじゃなんだから・・・」

 

彼女の手をとった。

 

「い、行こう・・・!」

 

「きゃ・・・!」

 

小さな悲鳴をあげたのも気にせずにこちら側へ引っ張る。
少し強引かもしれないけど、そんなこと気にしてる暇なかった。
白くて柔らかな手は、カガリと違って僕の心臓を激しく鳴らす。
女のコの手って・・・こんなにドキドキするものだったんだ。

僕は初めてそれを知った。

 

今、初めての恋に落ちているんだ。
心がふわふわしてまるで羽が生えたように、飛べそうな気がした。

 





軽快な音楽が鳴り始めて、僕たちに興味のない人たちが照れた仕草を見せながら踊り出す。
その中をすり抜けていって、まるで駆け落ちするカップルみたいだなんて・・・恥ずかしいことを考えてみた。


自分の世界に浸っていて、だから気付かなかったんだ。


 

「ま、まってくださ・・・、きゃ・・・!」

 

僕の手から柔らかな感触がするりと滑り落ちるかのように離れると、ザッと地面の砂がすれる音がした。
前を向いて走っていた僕は何が起きたのか見ていなかったけれど、その音でなんとなく予想がついた。
青くなったと思う。
振り向けば、やはりその予想は当たって欲しくないのに当たってしまっていて・・・

「・・・あ・・・っ」

地面に肘をついて倒れ込んでるクラインさんが目に飛びこんできた時は、心臓が止まったかと思った。
目の前で起きている出来事は頭ではわかっているものの身体は瞬時に理解し難く、
棒立ちになっている僕はきっと情けない顔をしていたに違いない。

どうしよう・・!?僕、カガリと走るスピードで走っちゃった・・・!最低だ!

「い、た・・・っ」

「ご、ごめ・・・っ、ごめん・・・!」

上半身だけ起こし両膝を地面について顔を歪めた彼女に罪悪感しか浮かばなかった。
あれほど軽やかだった心が一転、あまりに突然の出来事に頭がついていけそうにないほど混乱してる。
血が出てるかもしれないけれど、その白い脚に触れるのはもっと失礼な気がして・・・
それならばハンカチを差し出せばいいものを・・・やっぱり僕はそんなものを持っていなかった。

怒らせてしまったかもしれないと思うと恐怖で声をかけることもできやしない。
ぼうっと突っ立ってる場合じゃないのに、どうしていいのかわからなかった。
カガリだったら、傷を舐めてそれで終わりなのに――カガリ以外の女の子にそんなことできるわけないじゃない!?

あれやこれでもないと宙に浮かせた手をおろおろとさ迷わせることしかできず、
そのあまりの情けなさに自分のほうが泣きたくなってきた。
愛らしい表情にそぐわない怒りの言葉を素直に受け止めることしかできず、それを覚悟したのに・・・
・・・それなのに彼女は、走る前と変わらない穏やかな笑みをたたえていた。

「走って転んでケガをしたのなんて初めてですわ!」

真面目な顔で、こっちが驚くくらい嬉しそうにそんなことを言って僕は返す言葉につまってしまった。
先ほど以上にどうしたらいいのかわからないって顔してたに違いない。
そんな僕を前に気にする事もなくクラインさんは何故だか楽しそうに語り始める。

「カガリさんはよく膝をすりむいていらっしゃって、どうしてかってお聞きするたびに走って転んだって言うのですよ?」

あぁ・・・わかる。遅刻しそうになった時とか急ぎの用事とかいつもダッシュで、そうして転んでケガするのはしょっちゅうだ。
そのたびに何故かアスランのほうが自己嫌悪に陥ってて、
カガリの肌に傷をつけるくらいならおぶって走ってやるのに・・とバカみたいに嘆いていたことを思い出した。

「だからわたくしも同じ経験をしてみたくって走って転ぶ練習をしてみたのですが・・・なかなか転びませんの!」

「え・・・?こ、転ぶ練習・・・?」

「はいっ」

転ぶための練習なんて聞いた事ない。
誰が好き好んで転んで喜ぶのだろうか・・・。
・・・・・・・・・・・・クラインさんだけだろう。

「やっぱり、50メートル走を18秒で走るわたくしは転べないんでしょうか・・・?」

「じゅ・・・18・・・!?」

彼女から次々に暴かれていく秘密は愛らしい声にぴったりの武勇伝ばかりで僕は耳を疑った。
カガリはたしか7秒後半だったはず・・・。調子がいいと僕より早いタイムで走ることもある。
・・・18秒、それはそれですごい記録かもしれない・・・。
別の意味で世界記録を狙えるかもしれないなんて考えてしまった。

そして彼女は意外と強い子なのかもしれないと思う。

「お、怒ってないの・・・?」

「まぁ!どうして怒らなくてはいけないのですか?」

恐る恐る尋ねた僕に、驚いた様子の返事。

「ケガ・・させちゃったし・・・」

「キラと走るほうがずっと面白かったですもの!」

彼女の目を見てさえ言えない僕の言葉にも屈託ない笑顔を見せるところは、カガリに似ている気がする。
彼女からしてみれば双子の僕のほうがずっと似ているんだろうけど・・・
でも僕の心をとらえるような笑顔って、こんな笑顔だ。
カガリの満面の笑みと、クラインさんの優しい笑みは違うようでとてもそっくりだ。

「・・・痛くない・・・?」

「はい」

さすがに脚に触れることはまだ許されない気がした。
だからその手をとり座り込んでいた彼女を引っ張り立たせてあげる。
スカートの砂を払ってあげたかったけど、そんなことも変に思われたらイヤだったし、
いくら彼氏・・・って言っても・・・ホントに彼氏なのかどうかも怪しいし・・・。
でもしてあげるべきなのか、やっぱりやめておいたほうが無難な選択か・・・
僕がそんなことを考えてるうちにクラインさんのほうがさっと自分のスカートの砂埃を手で払い、それは僕の杞憂に終わった。
そして何事もなかったかのようにまた微笑んで言った。

「わたくし、カガリさんみたいに速くは走れないですけど、頑張って追いついてみせますわ!」

18秒台の彼女の宣言に、失礼ながらも僕は笑いそうになってしまった。
そんな無理しなくたっていいのに、そんなことしなくても・・・

 

 

「僕が君の歩幅に合わせて歩くよ・・・?」

 

 

今、自分でも不思議なくらいさらりとこんな言葉が出てきてしまった。
クラインさんは綺麗な青い瞳をまんまるくしてきょとんとしている。
次第に言ってしまった僕のほうが間違った発言をしたのかと恥ずかしくなってきて、話題をかえるために別の言葉を探した。

「・・・あの!ど、どうして・・・僕を・・・選んでくれたの・・・?」

ありがちな質問だったかもしれない。
もしかしたら二者択一で僕のほうがマシだった、って消去法の選び方だったかもしれない。
・・・でもあの生徒会長より僕を選んでくれたのなら、
僕にもそれなりに胸をはって自慢していいところの一つもあるのかも、と期待した。

「さぁ・・・?」

彼女からの答えはこっそり望んでいた答えじゃなくがっくりと肩を落としてしまっただろう。

 

けれど、ふいうちに彼女は言う。

「・・・でも、わたくしカガリさんより先にキラを好きになったのですよ」

「え!?カガリより」

「ふふふ、はい!」

クラインさんはごまかすようにして僕より先に歩き始める。
薄暗い闇に校内の明かりだけ灯るその中でふわふわ舞っているクラインさんの髪。
その後を追いかけるように僕は声をかけた。

「いつ・・・?教えてよ、クラインさん・・・!」

振り向いて答えをくれると思ったのに、

「そうですわね・・・キラが、クラインさん、じゃなくてラクス、と自然に呼べるようになったら教えてさしあげますわ」

なんて、くすくすと笑い声が聞こえてきて、その可愛らしい表情を想像したら僕の頬は赤くなってしまった。
初めて見たちょっとだけ意地悪なところも、そんな姿も全部可愛くて、僕はゆっくり追いかける。

「ではキラは・・・わたくしのどこを好きになってくださったのですか?」

突然くるりと振り返り、桃色の髪が僕の目の前で舞った。
僕の瞳に彼女が映り、まっすぐに純粋な感情で尋ねてくる彼女の瞳に嘘はつけないとそう思った。

 

「・・・見た目・・・かな・・・」

 

桃色の髪もとても綺麗だし、青い瞳は吸い込まれそうだったし、白い肌なんか僕と全然違っていて・・・
そんなところから興味を持ったのは本当のことだったから・・・。
我ながらバカ正直すぎるかもしれない。

でも・・・・・

 

 

 

「でも、今はもう、ラクスの全部が好きだ」

 

 

「まぁ!」

 

 

僕はこの夜、僕の答えに嬉しそうに微笑んでくれたラクスと、初めての恋に落ちた。

 

アスランの誕生日ってことは少しだけ忘れちゃってた(ごめん!)10月29日の後夜祭、
僕とラクスは手を重ね合わせていつもの家路につく道のりを、彼女の歩幅で帰った夜だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 


『カガリ〜!!聞いてよ、ラクスと手、繋いだ!!』

っていつものようにおやすみコールで可愛いカガリに興奮気味に報告した夜でもあった。

 

 

 

 

 

 

 

>>学園話第二部カガリプロローグに続く。

 

 

 

 


はい!続きます!
次回はプロローグ・カガリでそれが終わり次第ハイネ会長大活躍(!?)アスラン苦難(!?(笑))の第2部です!
アスラン出てない話ではありますが、アスランはプロローグ終わってから頑張ってもらうので!

第一部終わった時に「2人はチューしたけどまだ付き合ってナイアルよ〜」と発言してしまったことにインパクトを与えてしまって申し訳ないですが、
そのへんも踏まえ第2部ではアスカガ真のラブラブをお見せするべくハイネ会長に背中押してもらいつつの、
大人の階段踊り場まで引っ張っててもらいつつの(昇るのは自分でしろ!(笑))
あ、この台詞なんだかキュンときたのでハイネさんに言わせようっと(笑)。

えー、この学園話はハイネ会長卒業くらいまで考えてるのですが、
最後の最後の最終的にはへたれラブコメディと見せかけて・・・べ・・・ど・・・い・・・ん・・・まで頑張りたいな、と!(爆)
アス(カガ)シン兄弟話のザラ家アスハ家両家の見事に呼吸ぴったしな暑苦しい精神で頑張りますっ(爆)。

 

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