遠く遠くで声が聞こえてくる。
<<只今から後夜祭を開催いたします。生徒のみなさんは校庭に集まってください>>
誰もが喜ぶ知らせを、俺は1人、生徒会室の片隅で聞いていた。
10月29日 後夜祭
カガリとマイムマイムの夢は絶たれた。
いや・・そもそもマイムマイムを踊るのかどうかもわからなかったのだが・・・。
ファイヤーストームの焚き上げられた炎が揺らめき夜空に昇っていく・・・
なんて詩人のようなことも思ってしまう。
つまりは現実逃避中。
目の前におかれた書類の山。
今日、各クラス・各部活動の売上記録だ。
ここから20%が青十字に寄付されることになっており、
計算は少しでも早くしておくほうがいいだろう?と会長は言った。
その計算を俺にまかせたぞと言ってるも同然の台詞だ。
それならば自分がやったらどうですか?という勇気も持てず、俺は今1人きり生徒会室で電卓と格闘しているところだ。
そもそもこういうのは会計の仕事じゃないのか?・・・会計は女子だから多分免除だろう。
今ごろ会長は、後夜祭を楽しんでいるはずだ。
会計も会長も、3年生だから最後の文化祭と後夜祭。
2年生である俺がこんな仕事を引き受けるのは当然のことだ。
けれどため息が混じる事くらいは許されるだろう?
後夜祭の伝説、伝統、
炎のそばで告白すれば成功、二人で踊れば永遠に幸せになれる・・・
それを確かめることもできないまま俺は1秒でも早くこの仕事を終わらせようと躍起になっていた。
とにかく、それならばせめて後夜祭が終わるまでにこれを終わらせて2人でのんびり帰宅したい。
そこで俺は・・・
カチカチ鳴る時計の音が俺を急かしている。
10月29日は残り6時間ほどだった・・・。
「カガリ・・・」
そこで俺は?彼女に想いを告げるのか?
・・・告白する勇気もまだないくせに、そんなことを思う。
自分でもバカだってことはわかってる。
何年そう思い続けてきただろうか。
両思いだという気持ちに寄りかかってすがり安心しきっている、俺。
「はぁ・・・」
動き続けていたシャーペンを机に置いた。
静かな部屋には、そんな小さな行動も音をたてる。
それとは別に、外から軽快な音楽が流れてきたのが耳に入った。
どうやらダンスは始まったようだ。
キラはきっと・・・ラクスといっしょに踊ってるんだろう。
あれにはびっくりした。キラがラクスを好きだったなんて聞いたことがなかったぞ。
そしてそれよりもっとびっくりしたのが・・・カガリだ。
カガリが出場するなんて知らなかった。
ああいうイベントは嫌いだろうと思って、思いこんで大丈夫だと言い聞かせていたのだ。
でもカガリは出た。そこにどんな理由があったのかは知らないけれど、
俺の知らないカガリだったことには間違いない。
いつだってそうだ。
俺はカガリのことわかってるつもりでわかってなかったりする。
大切にしすぎているのはカガリではなく、自分の想いだということに気付いていながら、
いまだに1歩を踏み出せる勇気さえもない。
カガリは自分のものじゃないのに、そうだと思いこんでるのだ。
机の上に転がっているシャープペンシルを指でさらに転がした。
こんなことをしてる場合ではないのだ。
早く仕事を終わらせて、カガリに・・・カガリに・・・
「カガリちゃんに、どうしたんだ?」
「!!」
俺は飛びあがるほどに驚いた。
誰もいないはずの生徒会室のドアには、見なれた金髪の男が1人・・・
「か、会長・・!?」
「よ!」
ドアに寄りかかり、缶コーヒーをすすっている。
外は寒いようで、コートも羽織っていた。
「お疲れさん、仕事はどうだ?」
「・・・まだまだ、まだまだまだまだです・・・」
ちょっとだけ嫌味をこめて言ってみた。これくらいは絶対許されるさ!
でも・・・会長はなぜここに来たんだ?
後夜祭はすでに始まってる。
そろそろ花火が上がる時間帯だ。
女の子たちに騒がれて、その輪の中心で笑っているとばかり思っていた。
「何か聞きたそうな顔してんな〜」
「べ、別に・・っ」
心を見透かされたかと思って、俺は言葉を濁してしまった。
会長はこういうところが鋭い。
絶対何か言われる・・・と思ったのに、俺の予想は外れて、会長はコートのポケットから何かを取り出した。
「ふーん・・・そっか、よし」
「え?」
何回かその「何か」を手元で放り投げては受け止めるを繰り返した。
そして何を思ったか、今度はそれをこちらに放り投げた。
「ほれ、俺からのプレゼント」
「へ!?わ、わ!」
空中に投げ出されたそれは俺の手元あたりに落ちてきて・・・俺はなんとか落とさずにキャッチする。
落としたら何を言われるか・・・。
受け取ったものが何なのか確かめてみると・・・
「・・・箱・・・?」
白い包装紙・・・というより会長お決まりのノートの切れ端で包んである。
「よく見てみろ」
そう言われたからよく見ると、包まれてある包装紙代わりのノートの切れ端にはこう書かれてあった。
『裏庭にて、プレゼントが待っている』
プレゼント・・・?プレゼントはこのわけのわからないものじゃないのか・・・?
「今日頑張ったご褒美だ。優しい俺に感謝しろ」
それでもまだ理解できていない。
けれど、彼はこう言った。
「ほら、さっさと行け!カワイ子ちゃんを寒い中、待たせてんじゃねーぞ!」
カワイ子ちゃんが待っている・・・なんて古い台詞、よくも会長は真面目な顔で言えるもんだ・・・。
いや、それよりも、その可愛い子が誰かって、もう聞かなくてもわかる。
俺にとって可愛い子は、世界中探しても一人しかいない。
まさか、まさか会長がこんなプレゼントを用意してくれているだなんて・・・!
それでもいきなりの優しさで混乱してしまったせいか、すぐにでも駆け出したいくせに
口からはいい訳のような言葉が出てくる。
「・・・し、仕事・・・ッ。計算が・・・っ」
「アホなおまえが何人いたって終わんねーだろ?それなら天才1人で十分だって」
なんとも酷い物言いも、嬉しさで気にならない。
「あ、ありがとうございますッ」
もう、迷わず身体が勝手に動いた。
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