シン・アスカの場合C

 

 

 

 

 

 

ポップコーンを一粒空へ投げて口の中へと放りこんだ。
お行儀が悪いと隣にいた幼馴染に言われてしまう。
ごくんと飲みこんだところで、俺は先ほどまで客として参加していたアレを思い出した。

「すっげーアホな企画だったなー」
「そう言わないでよ・・・」

げっそりとした表情のルナ。
携帯メールの返信「1時からなら」通りルナと待ち合わせて奢ってもらった俺は、
2人でぶらぶらしながら校内を周ったあと、たった今体育館で開催されたイベントに顔を出していたところだ。
こういうのが好きなメイリンがいるんじゃないかなぁと思って、覗いてみただけだったんだけど・・・
ルナに最後まで見ていこうといわれ付き添ったんだ。
まぁ、企画としちゃ面白かったんじゃないか。俺はあんまり興味ないけど・・・。
最後のカラオケがよかったよな。

 

真横で心労で疲れ切ったルナを見ていると、生徒会も色々大変なんだなぁと思う。
俺、絶対生徒会になんて入らないでおこうっと。

 

あー、でも、あの金髪のメイドさんが誰だかわかったのは大きな収穫だった!

カガリ・ユラ・アスハ先輩。
制服姿も可愛かった。

もっとも告白も何もないまま、アスランとかいう男に負けてしまったのだが・・・。
あんなに綺麗な人の好きな人だ。ものすごく素敵な人なんだろう。
背が高くて男前で真面目で誠実で運動神経も頭もよくて性格もまともで・・・
少なくとも変なエプロンつけてたり、途中彼女の名前を叫んだ変な男のような、あんな変態じゃないだろう。


だから俺は諦めなくては。潔く、そう、あの人のような男になろう!

「あの金髪の生徒会長!かっこよかったよなぁ!」
「・・・またですか・・・また金髪ですか・・・」
「?」

ルナが余計にげっそりと疲れた顔をしてみせた。
俺、何か変なこと言ったか?
俺が不思議そうな顔をしていると、気を取り直したのかふっと笑って言う。

 

「ま・・・会長はかっこいいけどね〜」

 

アスハさんに殴られてしまった会長は、あの後舞台下へ降りて女の子たちの輪の中へ。
ちょっとお軽い気もしないでもないが、会場の盛り上がりはすごかった。
それに俺が思うに、なんだかその行動も逃げ出してしまったアスハさんのためのような気がして・・・


だってほら、アスハさんが逃げたあと客席はすごかった。
会長に告白されたのに殴るだなんて!とか、羨ましい!とかそんな声がうるさいくらいに。
女って怖いなぁ・・・。
そう思っていたら、会長は舞台下へ降りていって、そんなことを叫んでいた女の子たちに声をかけていった。
それがあったから、逃げ去ったアスハさんのことは皆綺麗すっかり忘れ去って、
最後にはなぜだか会長のカラオケ大会が始まっていたのだ。
しかもこれまた上手い。そこらへんのプロよりずっと歌が上手い。盛りあがるのも当然だ。

 

「すげー先輩・・・」


「でしょ?シンってば、受験する気になったでしょ?」

 

にこにこと笑い出す。そうだな、本当に。受けてやるさ!受かってやるさ!


笑顔のルナ。・・・あ、そっか。たしかルナは会長に憧れてたんだ。
好きなのか?って聞いたら叩かれるから言わないでおくけど・・・。
好きなんだろうなぁ・・・。あれ?ちょっと悔しいかも・・・?

 

 

 


「あ、おねえちゃーん!シーン!みーつけたッ」
「メイリン!」

赤毛のツインテールがひょこひょこ揺れている。
メイリンがこちらに気付いて駆け出してきていた。
俺たちの傍で止まると。ぜーはーと荒い息をしながらも強がりは忘れない。
「シンってば、わたしほったらかしでお姉ちゃんとデート!?」
「ちょ、・・・メイリンが勝手にどっか行ったんだろうがー!」
そうだ、先にどっかへ消えていったのはメイリンだ!
俺はずっと探してたんだぞー!
小さな喧嘩が始まりそうになったら、ルナがその間に割って入ってきた。
「はいはいはいはい!喧嘩はうちに帰ってからどうぞー」
「むー!お姉ちゃんってばどっちの味方よー!」
「はいはい、どっちの味方でしょうねー?」
さすが姉。メイリンの扱いには慣れたもんだ。
ま、俺もホーク姉妹の扱いには慣れたもんだけど・・・いや、こっちが慣れられてるのか?

 

 

ルナは生徒会の仕事がまだ残ってるらしい。
生徒会の仕事がなくても、毎年恒例の生徒だけの後夜祭には出たいらしく、
俺とメイリンだけ先に家に帰ることになった。

校門前まで送ってもらった俺とメイリン。
ルナに別れの挨拶をしようとした時、そこでメイリンがお腹すいた!と一言。
どうやらかっこいい先輩探しに夢中で何も食べてなかったらしい。
・・・よく今まで動けてたな。俺じゃ考えられない。

 

ふと、まだ食べ掛けのパウンドケーキが残ってることを思い出して、

「フルーツパウンドケーキが残ってるから、それ食えよ」と言ってやった。

美味しかったからもったいないけど、
このままだと帰り道の途中で何か奢らされそうと思った俺はそれを取り出す。

リボンをほどいて袋を開けた。

 

「・・・・あれ?チョコだよ・・・?」

メイリンが呟いた。
開けた袋の中身は、確かに俺が食べたフルーツケーキではなく、チョコだった。

「あれ?なんでだ!?」

どこからどう見てもチョコのケーキに、俺は本気で驚いてしまう。
だって、本当にフルーツがチョコにかわったんだぞ!!
しかも食べかけもなくなってるし・・・。

 

そんな俺を見て、ルナがぼそりと呟く。

 

「・・・まさか・・・ね」

 

何が「まさか」なんだろうか?
俺が尋ね返すよりも先に、メイリンの手が伸びてきてチョコケーキを手にとり口にする。
ついでに、とルナの手も伸びてくる。

「あーーー!俺のケーキ全部食うなよールナまで!」
「だって、すっごい稀少価値高いのよー、このチョコ!」
ルナが笑いながら言う。

そしてホーク姉妹は見事に声を揃えてこう言った。

 

「「ごちそうさま!」」

 

俺の500円の大半はホーク姉妹の胃の中へ、文化祭の淡い思い出とともに消えていったのだった。

 


 

 

 

 

 

 

 

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