キラ・ヤマトの場合B

 

 

 

 

 

 

「キラ!私に告白に変更だ!」


「へ?」

 

そろそろ幕があがるというその時、カガリがいきなりの段取り変更。
僕はクラインさんに告白の予定だったのだが、
カガリが言うにはラストの大トリ、ハイネ会長のかわりにばーんと私にふられてこい!と。


女の子の順番は決まっている。1番から3番までが3年生の女子。
4番目がクラインさん、5番目がカガリ、だった。
1番から順に、女の子は告白されていく。
どうせなら5番手に本当に告白したい人たちにすればいいのに・・・どうやら本人たちが恥ずかしがってるらしい。
まったくはた迷惑な。
そんな中、トリにラクスは可哀想だ!とカガリが男前に5番を引き受けていた。優しいなぁ、カガリ。

 

そしてその5番手に告白する大トリはもちろん、ハイネ会長だった。

 

「ちょ・・・!ちょっと待ってよ!僕が最後!?会長のかわり!?」
「そうだ!なんだよ、私じゃ不服なのか〜?」

カガリが笑いながら言う。
笑いながらってそりゃそうだ。僕たちは正真正銘の双子でキョウダイだ。
僕はカガリが大好きだし本当に大切で愛しいけれど、
昼ドラのようなドロドロの恋愛劇を繰り広げている、そんなキョウダイ仲では決してない。
ここであらぬ噂を立てられようと立てられまいと、笑って過ごせるくらいの余裕はある。

 

・・・アスランからは恨まれそうだがまぁいいや。

 

問題なのはそこじゃないのだ。
カガリに告白することくらい、僕は毎日寝る前に「大好きだよ」とメールを送ってるのだから、
今更声にだして言うのなんて恥ずかしくもなんともない。

 

「僕、会長のかわりなんて荷が重いよ〜!」

 

そうだ、ひっかかるのはここだ。
ラストを会長が派手にふられてくれるから、自分はそれほど目立たなくていいと信じていたのに・・・。
あのハイネ会長のかわりに大トリだなんて・・・!そんな軽々しく引きうけられることではないのだ。
この学校で過ごしている生徒はみなそう思うだろう。
あの、ハイネ会長だよ?

 

「大丈夫大丈夫!私だって緊張してるんだぞ?キラ、頼む!」


「・・・う」

 

カガリからのお願い攻撃に僕は弱い。弱いと自覚してても弱いんだ。

 

「・・・わかったよ」

 

こうして僕は、あの、ハイネ会長のかわりを引きうけてしまったんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「【第1回ねるたね運命団ーー!!!】」

ダコスタくんの開催の合図に、わぁぁぁと会場になっている体育館に拍手が響いた。
そこに口笛が混じっている、なんてガラが悪い・・・いや、ノリのいい生徒たちだろう。
副会長が必死にマイクを使って趣旨を説明してはいるのだが、会場のお客さんたちは
騒ぎ立てていてあんまり聞いてないような気がするよ・・・。がんばれ、ダコスタくん。

「それでは早速、野郎どもを紹介しますッ!」

野郎どもって・・・。会長が書上げたんだね。その司会進行表。
本当に女の子以外には手厳しいなぁ。

なんてことをぼけっと考えていながら、先頭の1番手から順に舞台の上へ。

「頑張れよ、少年!」
「あ、はい!」

舞台にあがる瞬間、ハイネ会長が僕に声をかけてくれた。
会長の期待に答えたい!なんて使命感が燃えあがる。
僕も男だ!やる時はやってやる!!振られる時は振られてやるさ!!!

・・・カガリのことだ。平手つきで豪快に振ってくれるだろうし・・・。
あの手の早さだけはキョウダイとしても何とかやめさせたいところだが・・・。

 


ハイネ会長が舞台にあがり、次は僕の番。
わぁっと騒ぎ立てられている舞台上へと僕は胸をはってそこへ1歩ずつ歩いていった。
けれど緊張感で足元がおぼつかない。ふらふらしてる。

ハイネ会長の横の椅子に座ると一斉に視線を浴びた。
これが快感になると舞台俳優にでもなれるのだろうか?
隣ではきゃーきゃー騒いでる女の子たちに笑顔で手をふる会長。・・・彼ならばきっと世界一の俳優になれる。
けれど僕はなんだか気持ち悪くなってくる。
やっぱりこういうの苦手だと思っていると・・・ハイネ会長が肘で僕の腕をそっと突ついた。
ちらりと目だけで会長に振り向くと、会長の視線は体育館の後ろの席へ。
・・・舞台上ではよくわかる。体育館の後ろ。フラガ先生がラミアス先生の腰に手を回してるところだ。
先生ってば・・・誰かに見られたらどうするんだ!
僕は噴出しそうになった。フラガ先生のラミアス先生への想いはこの学校じゃ有名だ。
・・・あ、ラミアス先生に叩かれた。フラガ先生ってば!
僕が笑いを堪えながらも頬を緩めていれば・・・

 

「その調子。リラックス、な」

 

小さい、小さい声。会長の声だ。
僕の肩の力がゆっくり抜けていたことに気付く。
あぁ・・・すごいなぁ、この人。
さっきは女子にだけは優しい人だなんて思ってすみませんでした。

 

 

 

「それでは、次は女の子たちに登場してもらいましょう!!」

女子だけはちゃんと一人ずつ紹介されていく。
あ、音楽が鳴り出した。・・・これ、アスランかなぁ・・・?
たしか音響まかされてるっぽいことをさっき聞いたから・・・。カガリが出てるって知ったらどうなるだろう・・?
想像するとちょっと怖い・・・。だから僕は潔く忘れる事にした。

音楽と合わせて会場の盛りあがりは最高潮。
僕は知らない人たちばかりだったけど、
3年生の先輩たちも綺麗な人が選ばれていて、話題にならないほうがおかしい。

しかもあのラクス・クラインまで・・・
予定にはなかった大物が紹介され舞台上にあがれば周りはさらに騒ぎ出す。
次にカガリだ。
舞台袖から見えた彼女の顔が緊張感で強張っている。
頑張れ、カガリ!!僕が助けてあげるからね・・・!!!

 

「それでは最後の女の子は、2年C組、カガリ・ユラ・アスハさんでーす!!」

 

ダコスタくんの声が体育館にマイク越しで響いた。


それと同時に・・・

 

 

 

ピィィィーーーーーーーッ

 

 

 

と、ものすごいハウリング。
僕も舞台にいる人も会場も一斉に耳を塞ぐ。
カガリなんか、立ち止まっちゃったじゃないか。

 

・・・・・・・・アスランだ。
絶対アスランだ。

 

耳障りな音が消えたと思ったら、カガリは慌てて用意されてあった椅子に座る。
けれど今度は音楽が鳴りっぱなしだ。
次の段取りは音楽が鳴り止みカンタンな自己紹介が始まるのだけれど・・・
ダコスタくんが必死に手で大きく音楽を止めて、とアピールしている。
が、鳴り止む事はない。

 

・・・・・・・・・アスランだ。
間違いなくアスランだ。逃げ出したかもしれない。

 

次は乱入か?と思っていれば、音楽はぴたりと止まった。
綺麗に音が小さくなっていくはずなのに、ぶちりと切れてしまった感じだ。

 

と、思えば・・・

 

 

<<か、カガリィィィィ!!!>>


<<こ、こら!落ちついてッ!!!!>>

 

 

ピーーー・・・・・・・・・・・・。

 

スピーカー越しに聞こえてきた、親友の切羽詰った声。それもハウリングとともにぶちりと消えた。
多分後から聞こえてきた声は生徒会の会計さんだ。声に聞き覚えがあったから多分。

 

ざわざわざわ、とより一層騒ぎ出す会場。そして爆笑。
多分笑ってる大半はうちの生徒だ。
だって有名なんだもん。アスランとカガリの仲って。
特にアスランが会長におっかけられて以来、それは広まっちゃった。
それでも2人とも人気ものだったから告白は絶えなかったみたいだけど・・。

 

僕は頭が痛くなった。
カガリを見れば同じく頭が痛そうだ。でも耳まで真っ赤で・・・
アスラン、君この後カガリから本気で怒られちゃうよと同情した。

 

そういえば・・・会長はこの事態をどう思ってるんだろう・・・と
そっと横目で確認する。

すると・・・
笑っていた。
そりゃもう、笑顔だった。何があるのかわからないくらい怖い笑顔。

 

・・・・・・・僕はこの後のアスランに本気で同情してしまった。


 

「えーー、気を取り直して〜・・・自己紹介お願いしまーす!」

ダコスタくんが笑顔でその場を取り繕う。
まだ笑いが収まらない会場も、その一言でみんなの視線は舞台に集中した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おめでとうございますーー!!!」

不測の事態を乗り気りたった今3年生のカップルが誕生した。
差し出した赤い薔薇一輪を受け取ったのがカップル成立の証。
会場のボルテージは一気に上がる。
あぁ、あなたたちの、おかげ、で、僕やカガリはここにいるんだよ・・・。
恨めしそうに見つめるも、気付かず幸せそうな二人・・・。
ま、しょうがない。僕は拍手を贈った。隣では会長が口笛を鳴らしている。
きっと思い出に残るようなことしたかったんだ。
この学校って目立ちたがり屋で明るい先輩ばかりだもん。
花束を受け取った新しい恋人たちが笑顔だ。うん、お幸せに。

次は2番の女性に告白する人が名乗り出る。

ここからサクラなんだよなぁ・・・。
やっぱり告白したい人たちは最後にすればいいのに・・・
恥ずかしいからだなんてホントにはた迷惑だ・・・。

「残念でしたーーー!!」

あ、今2番の先輩に告白した人がすっぱりふられちゃった。
これも予定通り。
次は3番・・・あぁ・・だんだん僕の出番が近づいてくる・・・。

 

カガリになんて告白しようか?大好き!って言えばいいのかな・・・?
あ、でもこれだと振られたら辛いな・・・。いっそのこと付き合ってくださいのほうがいいのかも・・・。

カガリが今どんな顔をしてるのかちょっとドキドキしながら僕は視線を合わせようとした。

 

けれど・・・カガリに合わせる視線がなぜだか1人の少女のところへ・・・

 

青空の色をした瞳が、僕の視線と重なる。
ラクス・クラインだ。

 

彼女はばっと顔を下げ僕の視線から逃げた。
でも確かに今、彼女は僕を見ていた。
どうして?なんで?
キライなんじゃないの?僕は嫌だったんじゃないの?
イライラしてくる・・・。
僕をからかってるのかな?

 

「さぁ!それでは4番の女の子・・・ラクス・クラインさんに告白したい人ーーー!」

 

ダコスタくんの声に、会場がさらに騒ぎ出した声と音を、遠くに感じて僕はうつむいた。
「はい!俺がいくぞ!」と会長の声が響く。わぁっと客席から悲鳴と歓声があがった。
それがなぜだか余計にイライラする・・・。
椅子から立ち上がった会長が、ラクス・クラインのもとへ。
僕は顔をあげてその光景を見ていた。見ていたくないのに、見ていた。

 

会長の向こう側で、彼女が瞳を揺らした。
また、こっちを、向いている。
僕を見てるんだ。

 

どうして?なんで?そう思うのに、答えだけは見つからない。

 

揺れる、蒼い瞳が、僕を捉えて離さない。
僕は、彼女しか見えていない。

 

 

 

 

その、答えなんて見つからないまま、僕は、立ち上がった。

 

 

 

 


「ま、待ってください・・・!!!」

 

 

 

 

 


シンとなる体育館。会長が振り返って僕を見る。
その目に、立ち上がったまま、僕は固まる。
一体、ここからどうすると言うのだ。
どうしたらいいのかわからないくせに、このままじゃイヤだと思った。

唇を噛んで下を向く。
ぱっと顔を上げると、カガリが見えた。

 

ごめん、カガリ。
僕は初めて君のお願いと約束を破ってしまうかもしれない。

 

だって、彼女は僕を見ていてくれている・・・
そして僕は彼女を見ていたんだ。


それに理由があるとするなら、1つだけ―――

 

僕は意を決して歩き出す。
蒼い瞳の、彼女のもとへ・・・

 

 

 

 

「クラインさん・・・、好きで・・す・・・っ」

 

 

 

 

叶わないことだってわかってる。でも黙ってることなんてできなかった。
どうせ振られるのだ、言ってやるさ・・・!
恥ずかしさで顔を見ることができない、頭を深く深く下げて、薔薇を差し出す。

 

「おもしろいじゃねーの」

 

会長が呟いた。

 

わかってるよ、会長に適わないってくらい。
でもイヤなんだ!会長だろうとなんだろうと、イヤだったんだ!!

「ラクスちゃん、よろしくっ」

会長も頭を下げ薔薇を差し出した。
2人とも、1人の女の子に深深と頭を下げたまま。
どくりどくりと心臓が鳴っている。こんなに緊張しているなんて・・・
舞台にあがった時と比べものになんてならない。

 

振られても構わない。

ただ、今ある気付いた想いを伝えたかったんだ。

 

 

 

 

 

 

 

「よ、・・・よろしくお願いいたします・・・・わっ」

 

 

 

 

 

 


会長に、そう言ったのだろうか・・・?
僕は怖くて顔を上げることができず目を瞑って耐えていた。

ふと、僕の手にあった、薔薇が自分の手からすり抜けた。
緊張で、落としてしまったかとゆっくり目をあけ舞台の床を確認しても、何も落ちてない。
次に、これまたゆっくり顔をあげた。

白い指が、赤い薔薇の花を手にしているのが見えて・・・
その白い指の持ち主が、白い肌を赤く染まらせているのが見えて・・・・・

 

 

「よ、宜しくお願いします・・・ッ」

 

 

ぺこりとお辞儀した彼女のその行動と言葉、それが僕へのものだったのなんて、

気付くのに軽く10秒はかかってしまった。

 

 

 

 

 

 

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