アスラン・ザラの場合D

 

 

 

 

 

 

あの忌々しいエプロンから解放されたのは、装着から5時間半ほど後のこと。
軽いはずのエプロンが鉄のように重く感じられたのは心の問題か。
ともかく今は軽い体を思いきり動かしたい。
けれどそんな暇さえ与えられずに次の仕事を命じられる。

目の前に置かれた真っ白な紙には、ボールペンで書かれた文字が並んでいる。
間違った部分もボールペンのインクで字を潰してごまかしてきちんとは消されていない。
見えにくい読みにくい理解しにくいの三拍子が揃った素晴らしい文字、
いかにも、会長が俺のために用意したもの、らしい。

もはや虐げられていて怒りがわからなくなってきたのは心が広くなったからなのか、神経が麻痺してきたからか・・・。

 

これから体育館で大イベントがあるからおまえには音響をまかせる!

 

そう言いながらこの紙を叩きつけられるように渡される。

「・・・『ねるたね運命団』・・・?なんですか、これ」
「文字の通りだ!絶対成功させるからな・・・!」

この人のこのノリからしてどうせ自分が楽しみたいからなんだと思ったら、
本当に出演者のところに会長の名前があって、俺もだんだんと生徒会に馴染んできたなと感じた。
後からやってきた副会長も怯えながら「絶対に成功させましょうね・・・!」と訴えかけるように言ってきたので、
彼のためにもなんとかやり遂げないといけないなと思った俺はやはり生徒会と深い絆ができたのかもしれない。


司会は会長と副会長が・・・多分ほとんど副会長が、やるらしい。
俺はあくまで音響で、場面場面でハイネ会長選考の曲を流せばいいだけだ。
手元にある紙にはどこでこの音楽を、と事細かに指示されてあり、会長作成のこの指南書で失敗は許されない。
司会業を任された副会長と比べれば随分楽な仕事である。
でもだからこそ、もし何かミスを起こせば後でどんな罰が待ちうけてるのかと恐ろしい・・・。

 

「・・・頑張ろう・・・」

 

諦め半分意地半分、ついでにやる気はあるわけない。


どうせ1時間足らずのイベントだ。
このまま平穏無事に終わってくれれば・・・そう、やっと文化祭が終わるのだ。
そうすればこの悪夢のような数々の仕事から解放され、カガリとゆっくり2人きりの時間が持てる。
文化祭が終われば後夜祭。
毎年この学園は後夜祭はグラウンドにキャンプファイヤーのように火を焚き上げて、
その周りを生徒たちが踊り出すという伝統を受け継いでる。ほぼバカ騒ぎも同然だ。
炎のそばで告白をすれば必ず恋が成就するという噂や、好きな子と踊れば両思いになれるなんて噂が後を絶たない。
それならば、俺だってカガリと楽しくマイムマイムを踊りたいさ!


・・・2人でも踊れるだろう。マイムマイム。

 

この時の俺は、そんなことをのんびり考えていた。
これが大きな勘違いだったのだ。
けれど、俺はそんなことを考えなければ、今この辛い現実を乗り切る事もできなかった。

 

なんせ願うはカガリとの平和な2人きりの時間。それだけだ。
なんて健気でつつましい願い事だろう。

そのためならイベントのアナウンスだろうと音響だろうと何だろうとやり切ってみせる!

 

出場者らしい名前の掲載されてあるプリントを見た。
ここでカガリの名前が出ていたりなんかしたら、俺は乱入しているだろう。
でも残念、カガリはこういうのが苦手なのだ。
それに・・・俺のことが好きだしな!うん、そうだ!
これは自惚れじゃない。俺たちは両思いだ。

カガリがもし、もし出場するというのなら、俺だって出場するさ!
そうして全校生徒の前で・・・恥ずかしいがちゃんと告白して、カガリは俺だけのものだって証明してみたい。
恥ずかしがりやのカガリは最初こそ顔を真っ赤にしながら怒るのだけれど、
そのうち、その真っ赤な理由が怒りだけじゃなくなり、頬を膨らませながらも俺に笑いかけてくれる。

 

『アスラン・・・怒ってごめんな?恥ずかしかっただけなんだ・・・っ』


『いいさ・・・カガリのことなら何でも知ってる・・・』


『本当に?』


『あぁ、もちろん』


『嬉しい・・・!私もアスランのこと、たくさん知ってるぞ!』


『カガリ・・・』


『あ、アスラ・・・ん!』

 

・・・・・・。

 

ダメだ、カガリに会えない時間が長すぎて禁断症状がでている。

 

俺は首を横にぶんぶん振って頭の中を整理し妄想を吹き飛ばした。
そもそもあり得ないことを想像したってしょうがない。
だって告白は2人きりで、だ。
そのほうがカガリも喜んでくれるだろうし、俺もそんな喜ぶカガリを見てみたい。

 

「・・・カガリ・・・ッ!」

 

禁断症状がまたもや再発しそうで俺はいっそう頭を勢いよく振って煩悩を追い払う。
除夜の鐘を聞きたい。
108つどころか数え切れないほどのカガリだけへの煩悩を拭い去ってほしいものだ。

 

「集中集中・・・!」

 

頬を叩いて、俺は来るべき時に備えた。

 

 

 

 

 

 

 

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