キラ・ヤマトの場合A

 

 

 

 

 

 

「えぇ!カガリ、あれ出るの!?」
「うん」

自由時間がはじまって楽しんでいるはずのカガリが僕のクラスにやってきた。
てっきり遊びにやってきたと思っていれば教室の外まで呼び出され、そこで僕は信じられないことを聞いてしまった。
確認すれば、あっさりと頷いた妹に僕は驚愕を隠せない。
だって、カガリはこういうことが苦手で嫌いで興味がないのだ。
惚れた腫れただのよりも、1ラウンドKO勝ちなんて言葉の響きのほうが飛んで喜ぶ子だっていうのに・・・
そりゃ、兄としてはちょっとは色気を持ったような会話をしてほしいとも思っていたし、
そんな可愛らしい会話をキョウダイでしてみたいと思ったことは多々ある。
寝る前に枕を寄せ合って、初恋話に花を咲かせてみたり、とか。
でもカガリはそんな話ができなくても世界一可愛いし、いい子だし・・・

去年のカワイ子ちゃんコンテストだって僕はカガリが出てれば絶対カガリに投票したんだけど・・・
カガリは結局出なかったし・・・あぁ、でもあそこで出てしまってカガリが変な輩に狙われるようになるよりはずっといい・・・
そういやアスランも複雑な表情だったよなぁ・・・
ってなんだか言いたいことがずれてきた。

 

「なんで?誰かに出ろって脅されたの?」
「違う違う!出てみたいなって思ったんだ」

 

楽しそうに笑うカガリ。
何かおもしろいことでもあったのだろうか。
なんにせよ、頑固なカガリの心を動かすことができるほどの出来事だったには間違いない。
・・・これは・・・会長だな。

 

「それで・・さ」
「ん?」
「キラも出てみないか?」
「え?!僕も・・・!?」
「うん」

カガリが言うには女子がカガリを含め新たに2人立候補したせいで男子の数が1人足りなくなってしまったらしい。
自由時間をなんとか作って出場してくれないか、と。
そして、もう1人の子に告白して思いきりふられてほしい、と。
「なんでわざわざふられなきゃいけないの・・・」
「そういう設定になってるんだよ・・・ここだけの話、サクラだって」
僕が拗ねたように言うと、カガリがなだめるように言う。
いつもの立場が逆転したようで僕はなんとなくおもしろくない。
「で、その子って誰?」
「ラクス」
「え!?」
「だから、ラクス」
「・・・・・・」

ラクス・クラインだって・・・!?
ファンクラブまで作られてそうなほどの学園のアイドルに僕が告白して断られるだなんて・・・
大きな赤っ恥じゃないか・・・
僕、そこまで自意識過剰で自惚れやじゃないっていうのに。
カガリはにこにこと笑っている。無邪気に僕を頼ってきてくれる時の顔だ。
ここで断ればどうなるんだろう・・・。

 

あぁ、もう、僕は弱いんだ。

 

「わかったよ・・・」
「ほんとか!ありがとうキラ!大好きだぞ!」
「わ!」

カガリが僕に飛びついてきた。
にこにこ顔の頬が擦り寄るくらい近いところにある。
いい年なんだから男に飛びつくのはやめたらどう、なんてことを言えるはずもないよ。
ほんとにもう、僕はこの笑顔に弱い。大好きなんだ。

 

「ところでさ、カガリ・・・」
「なんだ?」
「カガリには・・・誰が告白するの?」
「会長!」
「へ?」

 

うわ・・・

よりによってアスランが唯一ライバル視している人に告白されるだなんて・・・
もちろん断る事前提に話はすすむのだろうけど、それは・・・

「アスランは・・・知らないよね」
「うん・・・あ、秘密だぞっ」

なんだか浮気している気分だけどな〜と笑うカガリ。
浮気・・・っていうか君達付き合ってないでしょと言うべきか。

「それじゃ、早速体育館に行くぞ!」

いきなり僕の手を掴んで引っ張る。
こういう強引なところは直したほうがいいかもしれない。あとで注意しておこう。
でも今はそれよりも先に、出場するとなるとしなくてはいけないこともある。

「僕クラスの子に言ってからじゃないと・・・」
「あ、そっか。じゃ、外で待ってる」

カガリがぱっと手を離して行って来いと背中を押す。
押された僕は教室内に戻り、クラスメイトに手短に説明して仕事を抜け出す事を許可してもらった。
僕のクラス、子供相手にのんびりと射的場なんてやってたからそれほど大変じゃないし、
外出許可はあっけないほどカンタンにもらえた。
お礼を言ってからまた廊下に出る。

そこに居たのはカガリ、と・・・

 

「クラインさん・・・」

 

僕の声に、カガリとクラインさんが振り向く。

「キラ、こっち!早く行こう!」

元気よく手をあげ僕に向かって声をかけるカガリと正反対に、小さくお辞儀して俯いた彼女。
あ・・・これってもしかして・・・
僕のことイヤ、なのかな・・・・?
なんだか胸がズキンとした。嫌われてしまったらやっぱり苦しいものだよね・・・。

 

「さ、みんなで行こうな!」

 

カガリが元気よく言った。
まるで遠足の引率の先生だ。
さしずめ僕たちは幼稚園児か。
1つ本当の園児の遠足と違うところを探すというのなら、一番はしゃいでるのが先生だってこと。

僕と・・・クラインさんは・・・
何も言わずにカガリの後を付いていく。
その間もカガリは1人で楽しそうにお喋りを続けている。
アスランに会えなかったけれど、ケーキを渡す事ができてよかった、とか、
アスランにケーキ渡したけどちゃんと食事持ってったほうがよかったかな、とか、
アスランの誕生日プレゼントは実はもうこっそり用意してるんだ、とか、
アスランが頑張って生徒会の仕事終えたら今日はいっしょに帰ってやるんだ、とか・・・
ちょっとまってよ・・・!
アスランのことばかりじゃないかっ。

なーんて、そう言うのもあまりにもいつものことすぎて、
僕はため息をついて隣にいたクラインさんにわざとらしく肩をすくめて笑ってみせる。
けれどクラインさんは、そんな僕に対して無理矢理笑顔を作ると、また俯いてしまった。

 

あ・・・僕、本当に嫌われてる・・・。
それがすごく悲しくて、理由なんてわからなくって、そして隣を歩くクラインさんが気になって・・・

 

僕はいつもの僕らしくなくカガリの話を右から左へ聞き流して、
ただずっと、クラインさんの俯いた顔をちらりちらりと見続けていた。

 

 

 

 

 

 

 

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