ラクス・クラインの場合

 

 

 

 

 

 

困りました。
どうしましょう。


今からカガリさんと自由時間を楽しむはずでしたのに・・・。
少し早めにあがらせてもらったわたくしはカガリさんをお迎えにいく途中でした。
白い紙がたくさん廊下に散らばっていて、それを拾い上げている方がいらっしゃったのでお手伝いしてさしあげました。
そこまではよかったんです。
落としてしまわれた方は、ダコスタさんでした。
1年生の時、同じクラスでしたからしっかり覚えてますわ。
真面目で穏やかな、この学校の副会長さんです。
そんな方が「お願い」とわたくしに頭を下げていらっしゃるのです。
だからこそ、できるだけその「お願い」を聴いてはあげたいのですが・・・

「・・・ごめんなさい。わたくし、そういうのはやっぱり・・・」
「そこをなんとか・・・!!」

彼がわたくしに「お願い」したことは、体育館で開催されるイベントに出てほしいということ。
そのイベントが、恋人を作る企画だとカンタンに説明されました。
もちろん、本気ではなくていいし、男の方の告白を断ってもいいようです。
困りましたわ・・・。そういうイベントは、わたくし苦手分野ですのに・・・

本当に深く頭を下げる彼に、どうしていいのかわからなくなります。


以前もこういうことがありました。
1年生の時です。
何かよくわからないコンテストに出てほしいと頼まれたのです。
その時も一度は断りましたが、どうしてもと頭を下げられてわたくしも頷いてしまったのです。
・・・まだ友達になったばかりのカガリさんは上手く断ってらっしゃって・・・羨ましかったのを覚えてます。

 

青い顔のダコスタさん。
そういえば、会長のためにも文化祭は成功させたいと・・・
確か、構内案内図の『生徒会の決意表明』に書いてありましたわ。
困った人は助けなさい、それはお父様のお言葉でもありますし・・・
できるならわたくしもそうしてさしあげたいのですが・・・

でも、こればかりは・・・

「ごめんなさい。本当に・・・」
「お願いしますッ!!」
「・・・・」


なんだか必死な彼に、わたくしが悪いような気がして・・・
思わずまたあの時のように頷いてしまいそうになった、その時でした。

 

「ラクス?何やってんだ?」


「カガリさん・・・!」

 

わたくしとダコスタさんの頭の下げ合いを偶然、カガリさんが発見してくださいました。
・・・でも今更ながらに気付きましたが、わたくしたち廊下でこんなことをやっていて結構目立ってますわね・・・。

 

「自由時間始まったからそっち迎えに行こうと思ってたんだ」
「まぁ、わたくしもですわ」
「そうか!気が合うな、私たち!」
「えぇ」


カガリさんはそう言って笑いました。
とても明るい方です。そういうところがわたくしにはなくって憧れてしまいます。
1年生の時、同じクラスで知り合えたのですが、大好きで大切なお友達なのです。

 

「あれ、誰かと思ったらダコスタだ!」
「アスハさん・・・」

わたくしとカガリさんとダコスタさんはみな1年の時同じクラスでしたの。
だからカガリさんもダコスタさんとお知り合いで、頭の下げ合いをしていたもう一人の方が
ダコスタさんだと気付いたカガリさんは、いつもの人懐っこい笑顔でダコスタさんにお話し掛けました。

「2人で何やってたんだ?」
「その・・・」
「おまえ顔青いぞ?大丈夫か?」
「いえ・・・」


切羽詰ってらっしゃるのか、青い顔のダコスタさんをカガリさんも心配しているようです。
やはり・・・わたくしが出て差し上げるのがよろしいのでしょうか。

 

「カガリさん・・・ごめんなさい」
「え?」
「自由時間ごいっしょできないかもしれませんわ」
「え?なんで?用事?」
「えぇ・・・。ダコスタさん、今回の件、お引き受けいたしますわ」
「えぇ!?ホントですか!!」

 

わたくしの言葉に、ダコスタさんの青い顔はいつもの笑顔に戻りほっとしました。
カガリさんだけが何が何だかわからない様子で・・・それに気付いたダコスタさんがわたくしのかわりに説明してくださいました。


「カップルを作るイベントの女子が足りなくて・・・クラインさんにお願いしてたんです」
「え!?ラクス、アレ出るのか!?」
「え、えぇ・・・」

乗り気ではないせいか、わたくしの答えがはっきり出てきてくれませんでした。
だからいけなかったのです。
カガリさんは、すぐにそういうことを見ぬける優しい人だということを、この時忘れてしまっていたのです。

 

「・・・まて、私が出るぞ!」


「え?」


「私が出ても問題ないんだろう?」


「それはもちろん・・・」


「じゃ、決定だな!」

 

カガリさんはまた笑いました。
こういうイベント、カガリさんも苦手のはずですのに・・・
むしろわたくしよりも苦手のような気がします。
そして何よりも、カガリさんには愛する方がいらっしゃいますし、その方とはもう恋人も同然です。
それなのにこんなことを言い出すはずがなく、カガリさんはわたくしのために申し出てくれたのは一目瞭然です。
とても優しい方です。でもその優しさに甘えすぎてはいけません。

「カガリさん、わたくしが出ますわ」
「いや、私が」
「ダメです、わたくしが」
「いや!私が出るぞ!」
「わたくしが・・・!」
「いや!私が!!」

わたくしらしくもない大声でカガリさんと言い合っていると、ダコスタさんが狼狽し始めました。
それに2人とも気付いてダコスタさんに向き直ります。

 

「「どちらが出ればいいんだ!!(いいのですか!?)」」

 

「あ、あの・・・!ど、どちら様でも・・・っ」

 

ダコスタさんがまた青い顔になって答えてくれました。
何がそんなに苦しいのでしょうか。
けれどとにかくわたくしは、カガリさんを出場させないようにすることで頭がいっぱいでした。

どうすればカガリさんは発言を撤回してくださるのか・・・そう考えていたのです。

 

「いいじゃん!2人とも出ちゃえば!可愛い子、大歓迎!」

 

『どちらが出場するか』に夢中になっていたわたくしたちの声に被さるように、とあるお方が・・
ダコスタさんの背後から、とても有名な方が現れました。
そう、生徒会長です。
そんな、見事なタイミングでいらっしゃった生徒会長に向かってダコスタさんは呟きました。

「・・・ぼ、ボウフラですか・・・っ!?」
「ん?なぁーにか言ったかぁ〜?」
「いえ・・・」

ダコスタさん、後で苛められなければよろしいのですが・・・。
わたくしがそんなことを考えれば、会長がこちらをじっと見ているではありませんか。
そうしてにっこり笑ってこう言いました。


「2人とも可愛いから、出場決定!」
「「・・・・」」

わたくしとカガリさんは目を見合わせました。
これは・・・よかったのでしょうか?
でもなんだか会長の言う事には逆らえません。
できれば二人とも出場しないにこしたことはなかったのですけれど・・・
そんなわたくしの気持ちに気付いたのか、ハイネ会長がまた微笑んで言ってくれました。

 

「本当にイヤだったら出なくてもいいよ。でも気軽に考えてくれたら嬉しいけどな」


「・・・・」


別に脅されてるわけではないみたいです。
生徒会長は女性には優しい方とお聞きしてますし・・・
本当にいやなら出なくていいと、優しく言っていただけました。
それが逆に、なんだか出たくないという頑なだった心をほぐしてくれるような気がしました。
「今回、3年で本気で告白したいやつがいるんだって。あとはぶっちゃけるとサクラ」
「え!?そうなんですか!」
ダコスタさんが驚いた声をあげました。
・・・ダコスタさん、知らなかったのでしょうか?副会長ですのに・・・っていけませんわ、失言でした、ごめんなさい。
「そう。だから後はみんな気楽!メインはそいつらだからな。バカ騒ぎするのも楽しいぞ」
言ってることはけっこう滅茶苦茶な感じもしますが・・・
でもその態度はまるで紳士でした。
怖がらせないように不安にさせないように、とても素敵な笑顔で言ってくださったんですもの。


「私・・・出てみようかな」


カガリさんがぽつりと零しました。
それに子供のように無邪気にはしゃぐ会長。


「マジ!?ありがと、カガリちゃん!」


両手をとられてぶんぶんと上下に握手されてるカガリさんを見て・・・
わたくしもなんだかたまにはそんな雰囲気の中で楽しんでみたいと思ったのです。

 


「わたくしも・・・出場させていただいてよろしいですか?」

 


カガリさんもダコスタさんも、会長までも一瞬驚きで目を見開いていらっしゃいました。
恥ずかしくて顔を伏せると、先ほどのカガリさんのように両手をとられます。


「ありがと、ラクスちゃん!」


まぁ・・・ラクスちゃんだなんて、そんな呼び方、初めてされましたわ。
殿方にこんなふうにされるのも、恥ずかしくも嬉しいものですのね。


「宜しくお願いしますわ」
「こちらこそ!」

 


こうしてわたくしとカガリさんの出場が決まりましたの。

でも・・・ほんのちょっとだけ・・・
わたくしがカガリさんに告白するのはいいのか聞こうと思ったことは・・・秘密ですわ。

 

 

 

 

 

 

 

BACK

 

SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送