マーチン・ダコスタの場合

 

 

 

 

 

 

「ど、どうしよう・・・!!」

 

俺は焦りでパニック状態だった。
尊敬してるも人遣いの荒い偉大な会長を思い出す。
そのためにも絶対これは成功させなくてはいけないのだ。

 

うちの生徒会長は実に立派な方だ。
成績優秀、運動神経抜群、人望も厚い上、先生方からの信頼も得ている。
その上かなりのエンターティナーで、将来の夢は大統領、なんて
本気か冗談かもわからないことをさらりと言ってしまうような大物だ。
ちなみに夢は聞くたびにかわっていってるからやはり冗談なのだろうが、彼が口にすれば全て叶えてしまいそうで怖いものだ。


そんな会長とは対称的に、地味な道をひたすら堅実に生きてきた俺が会長に出会った事は、
ある意味、この上ない、とてつもない衝撃だった。
そしてそんな明るい生徒会の華々しい会長に憧れて自分も生徒会に立候補したのだ。
いざ生徒会に入ってみると、華々しさの裏はひたすら地道な裏方作業。

けれど、華は光を失わない。
どんな雑用でもその笑顔を絶やさず苦労の欠片も見せない会長に、やはり俺は憧れ信頼した。
だから俺もそんな会長の頼れる相棒になれればと願っている。

 


10月29日文化祭。
【第1回:ねるたね運命団】開催のお知らせ。

今、俺はこの企画に出場する生徒のかんたんなプロフィールが掲載された紙と、
これからの段取りを掲載している紙の束を抱えている。
ちなみにこの『ねるたね運命団』とは、その昔深夜でやっていた番組をもじった、要はフィーリングカップルを作ろう、
つまりは可愛い学園の女の子に男子が告白するという、お堅いPTA当たりからは苦情がきそうな企画だ。
体育館を使って4時からの超目玉イベント。
監修、演出、構成、ついでに出演者ハイネ・ヴェステンフルスとなれば、
絶対成功しなければ後が恐ろし・・・いや、偉大な会長のためにも絶対成功させてあげたい。

その助監督とも思える立場を半ば強制的に任せられてしまった俺は現在途方に暮れている。

何に途方に暮れてしまっているかといえば、出演者だ。
ハイネ会長選考のもと、選ばれた4人の男女。
ほとんどが「恥ずかしい」を理由に辞退してしまっていたのだが、ノリのいい3年生を中心に
なんとか4人が集まってくれた。
・・・実はここだけの話、こっそり未来の生徒会長の彼女さんにも打診したらしいのだが、
きっぱり断られてしまっていて会長は暫く目に見えて落ちこんでいた・・・。
まぁ、それは過ぎたこととして置いておくとして・・・問題は今。
4人のうちの美女1人が風邪で欠席というなんともありきたりなオチがついてしまったのだ。

 

「・・・ど、どうしよう・・・!」


男の1人や2人や3人欠席したところで会長なら


「俺1人占めなんて最高じゃないか〜!」


なんて暢気なことを言ってくれそうだが、メインとなるはずの可愛い女の子がいないとなれば・・・
「ど、ど、どうしよう・・・!!」
余りの焦りから手に持っていた書類数枚を落としてしまった。
慌てて拾い上げようとするその手も滑ってうまくいかない。
何かいい案を何かいい案を・・・
誰か女装させるか・・・!?
なんてふざけたこともいっぱいいっぱいの頭の中では妙案として出てきてしまうから泣けてくる。
あの会長が女装の女性で喜ぶはずもなく、
もし女装をさせられるとしたら間違いなくバツを受けて俺になるだろう。


「どうしよう〜!!」


「あら、何がどうされましたの?」


落ちていた白い紙を一枚、それと同じくらいに白い指が拾い上げる。
どうぞ、と手渡されてはっとなり、癖でお辞儀とともにお礼を述べる。
けれど突然のことできょとんとしてしまっていた俺がその白い指の持ち主を確かめれば、


「く、クラインさん・・・!」
「はい?」


目の前で微笑んでいるのはこの学園の桃色の妖精や微笑の天使と呼ばれる、ラクス・クラインさん。
去年の新入生カワイ子ちゃんコンテスト(当時の会長・副会長命名)で見事優勝した子だ。
なんて適任者が俺の前に現れてくれたのだろう!まさに天使だ!


「クラインさん・・・ッッ!」
「は、はい?」


ダメでもともと、当たって砕けろ、砕けたあとは散るだけだ。
会長の名言集からそんな一言を思い出して俺は言う。

 

 

「お願いがあります・・・ッ!!」

 

 

 

 

 

 

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