ルナマリア・ホークの場合

 

 

 

 

 

 

携帯が鳴った。
そこでメールが何通か溜まっていたことに気付く。
想い人からの本日1通目。

『ルナどこだ?さっき金髪のすごいいいやつにあった。この学校、けっこういいな』

2通目。

『ルナどこだ?腹減った。さっき金髪のすごい可愛い子にあった。この学校、けっこういいな』

3通目。
『ルナどこだ?昼飯奢ってくれ。さっき金髪のすごい綺麗な人にあった。この学校、けっこういいな』

 

私の手がふるふると震えているのがわかる。
この携帯に罪はない。
この携帯に向かって言ってやったところで意味がないことをわかっていても言わせてほしい。

 

 

「おまえは金髪フェチかーーー!!!!」

 

 

 


らしくない叫び声をあげてしまった。
ダコスタ先輩を手伝っていたらゆっくりする時間がなくて、今からやっと自由時間ってところにこのメール。
飯か金髪か、それしか頭にないの!?
どうせ私は赤毛よ!!悪かったわね!!

廊下を歩く足もどことなく乱暴になってしまう。
私の幼馴染は、本当に子供で困ったものだ。
たった1つしか違わない年の差がネックになって微妙な距離を作り出しているような気もする。
彼と同じ年の妹のメイリンが羨ましくなったりもして・・・
そんな微妙な乙女心にも気付いてくれない、私の好きなシンはそんなやつだ。

怒りとも呆れとも寂しさとも似つかない思いにきゅっと口を閉じて、私は立ち止まる。
目的の場所に着いたのだ。
その扉を、これまた乱暴に開けた。

「アスラン先輩ッッ!!!」
「え!?」

扉の向こうにいたのは、アスラン・ザラ先輩。
私の形相に心底驚いた顔でぎょっとしていた。

「交代します!お昼休みとってきてください!」

ズカズカと乗り込んでいく。
言ってることは迷惑どころか先輩にとっちゃありがたいことだろうけど、
私の雰囲気が怖いのかしどろもどろで返事を返さずにいる。
男って情けない・・・ッ!!なんて先輩にまでヤツ当たりしちゃいそうになって、それはなんとか抑えこんだ。

「20分くらい、昼食時間あったほうがいいでしょう?私、その間ここにいますから」
「え・・・でも・・・」
「い・い・か・らッ!!!」
「は、はい!!」

座っていた椅子からずっこけるように先輩が立ち上がり、放送室を出ようとした。
先輩が部屋を出る前、

「好きな人に会ってきたらどうですか?1年の間でも有名ですよ?」
「・・・っ」

なんて言ってちょっとからかってしまったら真っ赤になってしまった。
いいなぁ・・・。本当に大好きなんだ。思われてる人が羨ましい。

「ありがとう・・・20分で戻ってくるから」
「はーい、まってますね」

がらっと扉が閉まって、その場に1人になった。
先ほどまで先輩が座っていた椅子に今度は私が座りこむ。
放送機材は以前使ったことがあるから使い方はわかっている。
できればこの20分間で使うことがなければそれにこしたことはないが、一応、どこに何のボタンがあるかチェックしてみた。
そんな作業も所要時間は1分も必要ではなくて・・・
することがなくなってしまった私がイヤがうえにも思い出すのはあいつのこと。

もう1度携帯を取り出してメール画面を開く。

返事はまだ出していない。
なんて出せばいいのかわからない。

『奢ってあげるわよ』
なんて、こんな気持ちを黙っていてあげて言ってしまうのがちょっと悔しい。

・・・アスラン先輩に想われてる人ってどんな人かな?
ちらりと見たことはあるけれど、実際会って話したりしたことはないからどんな人かってことはわからない。
すごく綺麗な人だってことは知っているけど・・・。
あんなに人気者の先輩の心を射止めているのには、きっともっと別の理由があるかと思うの。
私にもそんな理由があったらいいのに・・・。

 

 


ふうっとため息をつくと、部屋の扉がノックされていることに気付いた。
いやだ、気付かなかった。
私は立ち上がって扉の前へ。
がらりと開ければ、そこに居たのは、


「メイド!?」


驚きに失礼な言葉が口から出てきてしまい、私はぱっと口元を抑える。


「・・・あ・・・仕事中にすまない・・・」
「え、いえ・・・」


バツの悪そうにメイド服の女性は頭を下げた。
私もつられて頭を下げる。
あ、たしか・・・アスラン先輩のクラスってメイド喫茶だったわよね・・・?
ハイネ先輩が嬉しそうに騒いでいたから覚えてる。
ちなみにアスラン先輩には絶対秘密にって言われてたけど・・・。

「あの・・・アスラン、いるかな?」
「え、アスラン先輩ですか・・・今ちょうどお昼休みとりに出ていって・・・」
「え!?そ、そうなのか・・・」

見るからにしょげたメイドの先輩。
悪い事をしてるわけじゃないのに何故か私が謝りたい気分になる。
おろおろしながらメイドの先輩をじぃっと見ると、あることを思い出しそうになった。
あ・・・この人・・・そうだ!
どこかで見たことあるなぁと思ったら、思い出した!
アスラン先輩の彼女だ!!・・・まだ彼女じゃないだろうけど。

「えっと・・・でもすぐ戻ってきますよ!10分もあれば・・・!た、多分」

アスラン先輩も会いたいだろうし、なんとかこの場に止めておいてあげようとそう言った。
けれど
「私もあと10分くらいで戻らなくちゃいけないんだ・・・」
「そ、そうですか・・・」


あぁ、なんてついてない先輩なんだろう。
このメイドさんじゃなくって、アスラン先輩のこと。
どうせこのメイドさんに会いたくて走って教室に戻っただろうに、すれ違いだなんて可哀想。
・・・なんだか私とシンみたい。
1つ違うのは、二人のように両思いじゃないってこと。
たった1つの違いなのに、その差はすごく大きい。

「仕方ないよな・・・それじゃ、これ」
「え?」
「渡してくれるかな?私が作ったチョコパウンドケーキなんだ」

可愛らしい包みに入ったものを受け取る。
リボンでくくられていて、まるでバレンタインの贈り物のよう。

「フルーツのはいっぱい残ってて・・・チョコを探すの大変だったって言っといてくれないか?」

恥ずかしそうに笑いながらメイドの先輩は言う。
手作りのケーキをわざわざ届けにきたんだ。
物の言い方はどこか男の子っぽい人だったのに、そんな女の子らしい言動に、女の私も胸が鳴った。
これは嬉しいだろう、男なら余計に、すごく。
喜びで舞い踊る先輩を思い描いて、私は噴出してしまった。
それを不思議そうな顔で見つめる、メイドの先輩。

「わかりました。ちゃーんと渡しておきますから」
「ありがとう・・・!」

その言葉に安心したのかやっと笑顔になった先輩にまたお辞儀してから、放送室の扉を閉めた。

 

なんだかほっこり、私の気持ちが楽になっている。
不思議な人だ。
言葉にできない魅力を持った人だな。
私もあぁいう先輩になれたらいいのに・・・。

もうすぐここを受験するはずの妹と、想い人を思い出す。
年下で鈍感で情けなくって頼りなくって食いしん坊で・・・、それでも好きでしょうがないあいつに、

 

『1時から会おう。昼飯奢ってやるわよ!』

 

と返信を打ってみた。

 

 

 

 

 

 

それから14分後、アスラン先輩は戻ってくる

 

「・・・ただいま・・・」


見るからに憔悴しきって絶望の淵を漂ってる顔を見て、会えなかったんだとわかる。
これはこのケーキを渡した時の先輩の反応が楽しみだ、と、早速ケーキが包まれてある袋を先輩の目の前に差し出した。

「彼女からの贈り物です!」
「え・・・!?」


アスラン先輩の目に生気が戻った。
・・・つきあってもないのに彼女が彼女ってわかるのがすごいと思うわ・・・。
目を子供のように輝かせるその姿は、幼馴染とだぶってしまう。
さっきは情けない先輩だなんて思ってごめんなさい!男の人ってみんなこんなに可愛いものよね。

差し出した包みをアスラン先輩が手にしたその時・・・

 

「アスランくーん!バリバリ働いてっかー!?」


「か、会長!!」


「!」

 

がらっといきなり開いた扉。
アスラン先輩の笑顔が消えた。
そして包みをエプロンのポケットにつっこんで隠す。
あぁ・・・そうよね・・・。そうしなきゃ取られちゃうわね・・・。

ぽこりと膨らんだエプロンはどう見ても怪しいけれど。

「あれ?ルナ、どうしてここに居るんだ?」
「ちょっとだけお手伝いしてました」
「女の子はそんなことしなくっていいってー!」
「いえ、大丈夫です。それにもうここ出るので・・・」

私もアスラン先輩に協力してあげたくってなんとかここから会長といっしょに出ようと企てる。


けれど、さすがは会長。めざとさにかけては超一級だ。

 

「あ、さっき走るカガリちゃんを見たんだけど、何か持ってた。それは?」
「!!」


わかりやすいアスラン先輩の顔色がかわった。
あぁ、もう・・・おしまいね、これは。

「そのエプロンの膨らみは何かなぁ〜?」
「な、何も・・・っ」
「嘘はよくないぞ〜。正直に言えば取り上げたりしないから!」

にこにこと押し迫る会長。
こうなったら先輩に逃げ場はない。
ため息をついてから、そっと大切そうにパウンドケーキの包みをエプロンから取り出した。
・・・さすがの会長も、こんなに大切そうにしているケーキ、やっぱり取り上げるなんてことはしないわよね・・・?

取り出した包みを、今度は開けてみろと言い出した。
先輩、全部はともかくとして一切れくらいは会長の胃の中にゆくことは覚悟してくださいね、と視線で伝えると、
わかっているらしく切ない顔で頷かれた。
大丈夫ですよ!全部はさすがに取られませんって・・・!全部は、ね。

包みは、アスラン先輩の手で開けられる。

 

「チョコパウンドケーキらしいです。アスラン先輩の彼女の手作りらしくて」
リボンの紐をといたところで横から私が説明する。
「フルーツは有り余るほど残ってたみたいですけど、
残り少ないチョコを探すのはそりゃーもうすっごく面倒くさいくらい大変だったとか」


言ってほしいと頼まれていたことをちょっと大げさに表現してみた。
アスラン先輩の顔が、ハイネ会長の前ってことも忘れて嬉しさでまた輝き始める。
そうよね、嬉しいはずよ。
大好きな女の子手作りで、さらに自分のためにケーキを持ってきてくれるなんて・・・
だからこそ私は大げさに表現して感動を高めてあげたの。


・・・まさか、これが次の瞬間、先輩の悲劇にかわるなんて。

 


第一声は私。
「あれ?・・・これチョコ?」
「・・・フルーツだ」
それに会長も答える。


開けた包みの中から出てきたのは、どこから見てもドライフルーツたっぷりのパウンドケーキ。
しかも一切れ食べかけ。なぜ?


「・・・・・・・・」


放心状態の先輩。けれど首を横に振って正気を取り戻していた。
さっきチョコが彼女手作りだって言っちゃったから・・・ショックだったのかも。
でもフルーツも彼女が作ったかもしれないですよ、と弁護してあげようとしたら、私よりも先に会長が爆弾を落とした。

 

「すごく面倒くさかったんだな」

 

「・・・・・・・・・・」

 

「・・・・・・・・・・・・・」

 

ご、ごめんなさい、アスラン先輩!!


 

 

 

 

 

 

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