シン・アスカの場合B

 

 

 

 

 

 

金髪の女の子、ステラを見送ったあと、俺は放送室にいた変な先輩にお辞儀をして礼を述べて
そしてまた校内をぶらついている。
放送室にいた男、顔はいいんだろうけどホントにおかしなやつだった。
やっぱりこの学校、変だ・・・。

変な先輩ばかりで・・・そういやルナはまだ忙しいのだろうか。
そう思い、携帯にメールがきていないかチェックしてみるも、ルナからの返事はきていなかった。
「ほんとに忙しいんだな・・・」
生徒会っていうのは想像以上に大変みたいだ。
ルナもわざわざそんなところに入らなくたっていいのに・・・。

なんでルナって生徒会入ったんだっけ?

あぁ・・・そうだ、思い出した。

すごく素敵な先輩がいるから、だったな・・・。
生徒会長やってるいい男だって、ルナが声高らかに話してたような・・・

その時俺が、「そいつが好きなの?」って聞いたら、なぜか「バカ!」と言って引っ叩かれたけど・・・
今思えばなんであそこで叩かれるんだ・・・!?

 

むしゃくしゃした思いを紛らわすかのように、俺はまた携帯メールを打ち始める。
とにかく送っとけばいつか返信はあるだろう。
そうしたら・・・生徒会の権限をつかって何か食べさせてくれるかもしれないし。

ひもじい思いをしてるとか、悲壮感を漂わせておけばルナもほっとけないだろうし。

 


メールを打ち終わったあと、気を取り直して俺はまた校内案内図を広げてみる。
たこ焼きはもういいや。
さすがにおんなじものは飽きてしまう。
まだまだ飲食関係はたくさんあるのだ。

「あ、喫茶店!ここ行ってみよ!」

2年生のクラスに喫茶店があるのに気付いて、俺は校内地図をくしゃくしゃに折りたたんでズボンのポケットにつっこむ。
喫茶店ならいろんなもの置いてあるだろう。
もうすぐ昼食時だし、歩きながらじゃなくってゆっくり食事するのも悪くない。
すでにたこ焼きは胃の中で消化されて跡形もなく消え去っている。
メイリンがいれば、相変わらずの胃袋ね!!なんて皮肉られるんだろうけど、成長期の男にとったら当然のことだ!
年中ダイエット中のメイリンの前だとなんか食べにくいし・・・
これを機に自分の胃袋が泣いて喜ぶほどに食べ尽くして満たしてあげよう。

そんなことを考えながら、俺は喫茶店のある2ーCに向かった。

 

 

 

 

 


ガヤガヤと教室前は騒がしかった。
「?」
2−Cに到着した俺は開けられている教室の窓から中の様子を覗きこむ。
覗きこめばわかる。この喫茶店は大盛況中だった。
なんせどの席にも客が座っていて、どうやら教室前の騒がしい雰囲気は順番待ちの客の列だろうと推測できる。
それにしても男が多い。その理由もすぐにわかった。


「め、メイド・・・!?」


教室内で接客をしている女子生徒はみな紺色のワンピースのような服に白いエプロン。
これが何て言うものか、興味はなくとも知っている。
ここ、メイド喫茶なのか!?


「あ、あのーー・・すんません」
「はぁい!」


俺は窓際の一番近くにいた赤毛のメイドさんに尋ねてみる。


「・・・満席、ですよね・・?」
「そうなのよー。ごめんねぇ、僕。また今度お相手してあげるわ〜」
「・・・」


年下だってことが一目でわかったせいか、ちょっとコバカにしたような物言いに、俺はむっとした。
それなのに窓際にいた客数名が「フレイさん、素敵!」だなんて調子にのるような声をかけるから、
赤毛の、フレイさんというメイドさんは鼻高々に笑っている。
・・・てか、これはメイドさんっていうより女王様じゃん・・・。

 

飲食関係制覇の夢はここで絶たれるのか、とため息をつくと、それに気付いたのか。
高らかに笑っていたフレイさんがにこりと、今度は可愛らしく笑って言ってきた。


「パウンドケーキならテイクアウトできるけど、どうする?」
「え・・・と、じゃ・・・それください」


先ほどまで高慢ちきっぽかったフレイさんの優しい言葉に、実はこの人、根はいい人なんじゃないかなぁと思った。
チョコが売り切れたらしく、フルーツパウンドケーキでいいかと聞かれ俺は頷く。
そうしたらフレイさんはすぐにパウンドケーキを包みにいってくれた。
あぁ・・・やっぱりいい人だ。


そしてケーキの包みを持ってきてくれたフレイさん。
教室内に貼られていた値段表を見てパウンドケーキがいくらか確認すると財布から小銭を取りだす。
テイクアウト2切れ300円と書かれてあって俺が300円を取り出そうとすると、


「500円」


「え?!」


そう言ってフレイさんが右手を差し出した。


「ちょ・・・!300円じゃ!」
「アタシが包んであげたサービス料込み500円!」
「ちょ・・・そんなのぼったくりじゃん!」


というより、サービスってタダだからサービスなんじゃ!?
俺が抗議の声を荒げると、先ほどフレイさんをけしかけていた男どもが一斉にぎょろりとこちらを睨みつける。
それはまさしく、「フレイ様に口答えするんじゃないぞ」と脅しである。
恐怖を感じた俺は俺は渋々500円を取り出す。
そして500円玉を渡すと、それを確認してからパウンドケーキを手渡された。


「ありがとうございましたぁ!」


あぁ、俺の500円・・・。
くそ!なんて先輩だ・・・!!
ヒューヒューと口笛と拍手を鳴らし始めた男どもの輪の中で、勝ち誇ったように笑うフレイさん。
そんな光景をいつまでも見ていたいはずもなく俺は早足でその場を後にする。


「またきてねぇ〜!」


誰がくるか!!!

 

 

 

 

 

 


混雑している廊下を、うまく人を避けながら手渡されたパウンドケーキの包みを開けてみる。
そこにはパウンドケーキが3切れと、小さな紙が入っていた。
たしかテイクアウトのパウンドケーキは2切れだったはず・・・。
そう思いながらいっしょに入っていた紙きれを手に取ると文字が書かれてある。

【1切れ余りそうだからお・ま・け】

この丸文字は女の子の文字だ。
・・・多分、さっきの女王…いや、フレイさんだな。
500円を奪われてしまったのは3切れだったからか。
でもおまけのくせに金をとるのはおかしい・・・。それに普通に考えても3切れは450円。
・・・やっぱりあの人、悪徳商売ぼったくり、だ。


はぁっとため息をついてフルーツパウンドケーキを一切れ摘んで齧る。
あ、うまい。
ごくんと飲み干すと、喉が乾いた。
どこか飲み物を売っているところはないかと、食べかけのケーキを包みに戻してリボンでくくる。
きょろきょろと見まわして喉を潤してくれる場所をさがすがどこにもなさそうだ。


その時だった。2つ前の角をツインテールの赤毛の子が通りすぎそこを曲がって見えなくなった。
・・・あの赤毛の子、どこかで見たことある・・・・っていうか、メイリンじゃん!!


「ちょ・・・!メイリン・・・!」


遠目の上ちらりと見えただけとはいえ、視力がものすごくいい俺が見間違えるはずもなく、俺は慌てて追いかけた。

 

 


2度あることは3度ある。

 

 


2つ向こうの角に気をとられすぎて一番こちらに近い角が死角になっていたなんて。
あえて自分を擁護するというのなら、今回は食べ物は関連していなかったということか。
まさか、本日3度目の衝突事故に遭遇するなんて。

 


「きゃあ!」

 


「うわ!」

 


何かが俺にぶつかって、転げたのがわかる。
俺は倒れなかったけれど、手に持っていたケーキの包みが床に落ちたことだけはわかった。
幸い、袋に包んであったおかげでケーキ自体に被害はないようでほっとした。
でもいつまでも床に落ちてるのも気分が悪いと思いそれを拾おうとするが、目の前で倒れた子が声を出す。


「いた・・・た・・」


ぶつかった時には気付かなかったけれど、その声がちょっと低いとはいえ女の子のものだと気付く。
俺はケーキを後回しにして声の主を見てみた。
そこにいたのは・・・


「げ!メイド!!」


思ったことが素直に口に出てしまって、メイドは不思議そうにこちらを見上げた。
ぱっと口元を隠す。どうしよう、女王クラスの人間にまたお目見えしてしまった。
俺の苦い思い出が蘇る。
ここでカツアゲされたらどうしよう。なんて、よくよく考えればバカらしいことも考えてしまって・・・。
とりあえず、女の子を転げさせたままだなんて悪いと思って手を差し出そうとしたが、
それより先にその人は1人で立ち上がり、俺に向き直る。
何か言われる・・・!財布の場所がわからないように、俺の手は自然に臨戦体勢に入る。が、
「ごめん!すっごく急いでて・・・!ほんとに悪かった!」
拍子抜けするような、彼女の声。
「あ・・・いえ・・・こちらこそ・・・すんません」
本気の謝罪の言葉に、なんだか女王様ってわけではなさそうでほっとした。
落ちついてから彼女をじっくりと見ると、金髪と琥珀の瞳の、すごく綺麗な人だった。
胸にある白いネームプレートには「アスハ」と書かれてあった。
アスハ、さんをもう1度見てみる。


・・・うわ・・・本当に綺麗で可愛い・・・。


「怪我・・・してないか?」


大きな瞳がくりっとこちらを向いて、その表情が申し訳なさそうに少し沈んでいて・・・
俺は首をぶんぶん振って彼女の言葉を否定した。


「そうか・・・よかった。悪かったな!ごめん・・・!」


また謝ったあときょろきょろ床を見渡していた。何かを発見したのか笑顔に戻り、それを拾いあげる。


「あった!」
「え?」
「じゃあな!」


軽く手をあげてまた忙しく走り出す。
それじゃまたどっかでぶつかるぞ、と声をかけようかと思ったが、
あっという間にメイドさんは去っていった。
その後姿が見えなくなるまでじっとその場にいたけれど、ふと、
落としてしまったパウンドケーキの存在を思いだし、床に落ちているそれを見つける。

・・・あれ?さっき落ちていた場所と違ってないか・・・?

そんなことも疑問に思ったりしたが、やっぱり床に落ちたたままでは心地よくなくて拾い上げた。

 


さっきのアスハさんは間違いなく2年C組の人だろう。
今更ながらメイド喫茶の良さを感じてしまう。俺も男だしさ。
まぁ、女の子らしくない喋り方もどこか高貴に感じて、さっきのフレイさんとは違った意味でやっぱり女王様だったけれど。

 

「アスハ先輩かぁ・・・綺麗な人だったなぁ・・・」

 

この学校、いいかも。

 

 


なーんて思っていた俺は、メイリンのことはすっかり頭から抜け落ちていた。ごめん!

 

 

 

 

 

 

 

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