カガリ・ユラ・アスハの場合A

 

 

 

 

 

 

時計の針が12時をさした。

「カガリー、昼休みとっていいわよー」

フレイのその声を合図に、私はばっと頭にくっつけてるカチューシャをとった。
正直、フレイが考えたこのメイド服、恥ずかしい上に頭にリボンやカチューシャなんてつけない私にとっては、
こう、上に引っ張られるような抑えつけられるような・・・そんな感覚で気持ちが悪かった。
さらに本当は着替えたいところだけれど、そんなことをしていれば20分間の休憩時間はあっという間に終わってしまう。

 

「フレイ、チョコパウンド、2切れほど包んでくれ!」

 

時は一刻を争う。
自分だって昼食をとらなくてはいけないし、
次の自由時間までに売上好調なパウンドケーキは売り切れてしまいそうな勢いだ。
早目にアスランに持っていく分を取り分けておかなければ。
ところが私の考えを覆してくれるフレイの一言が。

 

「あ、チョコパウンドさっきのお客さんで売り切れ」


「えぇ!?」

 

そんなはずはない。
だってまだ祭が始まって2時間ちょっとだ。昼休み後はどうするんだ?
売り切れたのはすごく嬉しいし、私の最終目標だし、絶対売ってやるぞという意気込みだった。
でもこんなに早く売り切れるだなんて、誰が予想しただろうか。
少なくとも、早起きしてパウンドケーキを焼き続けた私にとっては予想外のことだ。

「ど、どうしよう・・・まだ残ってると思ったのに!」
「家庭科室に少し余ってるんじゃない?」
「え?どうして?」
「・・・うちのクラスの男子数人がこっそりとってたから」
「は?どうして?」
「・・・・・・あんたって救いようのない鈍感よね」
「意味がわからん!」
「・・・どーせ想いが通じないなら、せめて彼女手作りのものを〜!って気持ち」
「はぁ?」
「ご愁傷様・・・」

肩をすくめてフレイはそう言う。
フレイの言う事はいつもちょっと難しい。
でも今はこの意味を詳しく教えてもらうよりも何よりも、家庭科室に余っているかもしれないケーキを
確保しにいくことが私の使命だ!

 

「フレイ・・・、私、家庭科室行ってくる!」
「はーい。休憩20分だからね、守ってよね!」
「あぁ!わかってるって!」

 

念をおされてから教室を出た私に視線が注がれる。
そりゃそうだよな・・・。こんな恰好してたらイヤでも目立つってば。
恥ずかしくなって私の足は自然に速まる。
廊下に張られてある「走らないでね」。
ごめんなさい!と心の中で謝るも、視線に耐えられず今度は走り出してしまった。

 

 

 

1階にある家庭科室に辿りつくと、うちのクラスの男子が居た。
クラスの人間がすぐに見つかって助かった。ほんとに1秒も無駄にできないから。
その男子にチョコパウンドケーキは残っているかと聞いたら、言葉を濁しながら頷くではないか。
それを譲ってほしいと言うと、これまた言葉を濁す。


「なぁ、頼む!お願い!」


必死だったから両手を合わせて頼みこむと、
なぜか赤くなった彼は家庭科室に入ってテイクアウト用の袋に包んだチョコパウンドケーキを持ってきてくれた。


「ありがとう!」


嬉しくて彼の手をとり握り締めて握手をすると、また赤くなる。
一体どうしたんだろう・・・まぁ、どうでもいいや。

 

お礼を述べてから私は2年C組の教室ではなく放送室に向かう。
きっとアスラン、お腹ぺこぺこでマイクの前で項垂れてるだろう。
そんなアスランを思えばなんだかちょっと笑ってしまう。
可愛くって、ぎゅって抱きしめてあげたくなる。

それに今日はアスランの誕生日。特別な日なんだ。
そういや今日はどたばたしちゃってて、毎年顔を合わせて「おめでとう」って伝えてるのに・・・
それがまだだよな・・・。
アスランもやっと17歳。私に追いついたな!

 

パウンドケーキ、喜んでくれればいい。ちょっと甘いけど・・・それでもやっぱりアスランならきっと喜んでくれる。
私の足取りは軽く、彼のもとへ向かった。


 

 

 

 

 

 

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