アスラン・ザラの場合C

 

 

 

 

 

 

「カガリ・・・会いたい・・・」


迷子放送とは、一人孤独に耐える仕事だと思っていたが、思っていた通り今の俺は1人きり、
この部屋に閉じ込められてしまっている。まるで監獄だ。
そもそも迷子がきたらどうすればいいのだ。
その迷子の面倒を見るのも俺なのだ。
子供は嫌いじゃないが、得意ではない俺にとってこの仕事はかなり心的負担が予想される・・・。

こんな時カガリなら、泣いてる子供たちに笑いかけてその子を笑顔にするくらいの力を持っているんだろう。
あのメイド服姿で天使の微笑みを向けられたら、どんな男でもイチコロだぞ・・・って

「・・・・男じゃない、男じゃない!子供だよな・・・」

先ほど会ったカガリのことを思い出す。
初めて見たメイド姿・・・あんなの着て出迎えてくれたら・・・・あぁぁぁぁああ!!!カガリ!!!!

 

俺の頭の中でカガリが微笑みながら出迎えてくれる。
ご主人様、なんて言葉はいらない。でも結婚してからあんな恰好で出迎えてくれたら・・・!!


「うわぁぁ!!可愛い、絶対可愛い!!」


1人深けこむ妄想に身体が熱くなってくる。
熱くなった身体は動いていないと落ちつかなくって、俺は放送室の中を行ったり来たりし始めた。
ぐるぐると壁沿いに歩いてみる。我ながらバカだが、こうしていないともう落ち着かない。


ここにキラがいたら、「君ってほんとバカだよね」とか、「結婚してから言ったらどう?無理でしょ?」
なんて言われてしまいそうだけれど、カガリと結婚することは俺の人生設計の一部なのだから、絶対叶えてみせる!
あぁ!なんだかもっとドキドキしてきてしまった・・・!


壁に沿いながら小走りに移動する。脚が動いていないと頭の中がどんどんどんどん新たな妄想でいっぱいになりそうだ!
ウエディングドレスのカガリ、真っ白なエプロン姿のカガリ、笑顔で出迎えてくれるカガリ、カガリ、カガリ。

 

「うわ!俺、どうしよう!?」


もう止まらなくなってしまった妄想は、とうとう高校生には相応しくない演出までしてくれる。
舞台は夜。大きめのベッドの上。しなやかに動く白い肢体が鮮やかに微笑む。それに覆い被さる、俺。


「わ、わー!ダメだってばカガリ・・・!ダメだ!!俺たちキスもまだだろーーー!!」


あまりにも卑猥な妄想に胸を躍らせながらも自分を許せなくなった俺は壁をバシっと叩いてみる。

手にヒリっと痛みを感じたが、それ以上に俺を飛びあがらせる出来事が、放送室の扉をガラリと開いて現れた。

 

「・・・あ、あのー・・・すみません・・・」


「えぇぇぇぇ!!??」

 

文字通り、飛びあがった。
まさか人がやってくるなんて・・・!
いや、一生ここで1人きり過ごしているわけではないとは思っていたけれど、
よりにもよってこんな状態の時に誰かやってくるなんて・・・!

 

扉を開けたのは、黒髪の赤い瞳をした少年。
その赤い目を見開いて、ほうけた表情で哀れんだ目でこちらを見ている。
・・・・間違いなくさっきの台詞を聞かれた・・・ッ。

「え・・!あ、そ、その・・!これは・・・っだな!あの!」
「・・・いえ・・・誰にも言いませんから・・・」

少年は視線を逸らした。
あぁ!誤解されてる!可哀想な頭の悪い男だと思われてる・・・ッ!!

混乱した頭の中を整理しようにも混乱だけが広がって、俺は自分の服の裾を掴んだ。
ちょうどそれはエプロンの裾で・・・・


・・・・エプロン!?

 

ばっと自分の恰好を確かめる。
先ほどハイネ会長に無理やり身に着けさせられたエプロンは、やっぱり不気味なクマのアップリケで
とても高校生男子が身に着けるようなものではない。
混乱した頭に、今度は恥ずかしさが湧き上がる。
エプロンを掴んでいた手を離して上手い説明をしようとじたばたしていると、
少年はちらりとこちらを見て、また申し訳なさそうにぱっと視線を逸らす。


完璧誤解だ。


バカな独り言の多い、趣味の悪い変な人間だと思われていることが確実だ・・・。
それでもせめて、このエプロンの誤解だけは解いておこうと、俺は必死になって叫ぶ。


「あ、あの!君!このエプロンは・・・俺の趣味じゃないんだ・・・っ」
「いえ・・・大丈夫です・・・。そーいうの、俺んちにもありますから・・・・・俺は着ませんけど」


と言ってまた哀れみの表情をしてみせる。

 

終わった・・・。

 

「・・・えっと・・・そんなことは今どうでもいいんです!」
「・・・・・そう・・・どうでもいいことなんだね・・・」
俺にとっては自分の名誉と人生とプライドがかかった重大な事件だけれども・・・。

 

少年は気にせず部屋の中に入ってくる。
変なやつがいると通報されないだけましと考えることにした。
カガリとキラといっしょに居て鍛えられたポジティブ思考。二人に感謝しよう・・・。

「えっと・・・この子なんですけどね、ほら・・・」
「?」

よく見れば、少年の後ろに1人、金髪の女の子が隠れていた。
少年が声をかけるとひょこっとそこから顔をだして、心配そうな表情でこちらを見ている・・・。
この子も俺を変な人間だと思っているのか・・と落胆しそうになった時、
少年が落ちこむよりも先に俺に向かって言った。

「この子、どうやら迷子みたいなんです、放送で家族呼び出してくれません?」
「へ?」


この子、が?


金髪の女の子は見たところ14.5歳だ。
迷子というと年齢が高くても7.8歳だろうと思っていた俺は拍子抜けする。
迷子になる年ではないだろう・・・。


つい俺の口からそんなことが出てきてしまいそうになったが、この子の不安そうな顔を見てぐっと堪えた。
そうか・・・こんな顔をしているのは、俺がバカでまぬけでどうしようもない変な男だからじゃなくって、
純粋に家族とはぐれたことが怖いのだろう。
金髪の女の子は少年の服をぎゅっと握り締めて、まだこちらの様子を覗ったままだ。

「わかった。呼び出しをかけてみるから・・・君の名前は?」
これ以上不安にさせないためにも精一杯優しく声をかけたつもりだが、
その子はそれでも口を開こうとせず、俺は困り果てる。
それを見ていた少年が、「名前は?君の名前は?家族の名前と」と尋ねると、
「・・・ステラ・・・ルーシェ。いっしょに居たのはスティング・・・」とすぐに返事をしたではないか。
俺、負けたのか?やはり変な男だと思われているか・・・?

「ステラ・ルーシェさんね・・・ちょっと待っていて」

名前を確認した俺は、先ほど覚えた放送室内の機械を早速動かしてみることにした。
マイクに向かって喋る時、少し緊張するかなと思ったのに、不思議とそうではなかった。
・・・・・・これは、会長との校内放送のおかげだろうな・・・。

心の中で感謝しながら、俺はスイッチを入れた。

 

 

 

 

 

 

 

 


それから暫くしてから緑の髪の俺と同じ年くらいの男が1人、放送室内へ駆けこんでくる。
誰だなんて聞く前に、ステラという金髪の女の子がその男に飛びついたので、
その緑髪の人がスティングさんだとすぐにわかった。

「心配かけさせやがって・・!」
「スティング・・ごめんね・・・ごめんね」

まるで10年も離れ離れになった親子の再会のようだ。
ステラさんの瞳からはぼろぼろ涙が零れていて、俺は不覚にももらい泣きしてしまいそうになった。
この涙もろさも、カガリとキラのがうつったのかもしれない・・・。
俺と同じく、この子を連れてきた黒髪の少年も、瞳を潤ませてその光景を見ていた。

「お世話になりました」
スティングさんが頭を垂れて礼を言う。
ステラさんもスティングさんの真似をして頭を下げる。
そうしてから、黒髪の少年に向き直って、また頭を下げた。
「ありがとう、えっと・・・」
「シン、シンだよ。俺。」
「うん、ありがとう!シン」
「へへへ」
微笑ましい光景に、今度は俺も微笑んでしまう。
あぁ、こういう素直な心もカガリとキラに学んだことかもしれない。
・・・それにしても、シン、ってどこかで聞いたことがあるような・・・気のせいか?

「じゃ、行くぞステラ」
「うん!・・ばいばい、シン!」
「あ・・・」

スティングさんがステラさんの手をとって放送室から出て行く。
シン、が名残惜しそうな顔をしたので、俺はその背中を押してやった。


するとシン少年はばっと放送室を飛び出していく。
まだそれほど遠いわけではない、彼女の去り行く背中に大きな声をかけた。

 

「ステラー!ステラはどこの学校の子!?」


「・・・ステラ、来年ここー!」

 

シン少年の声に、二人は振り向いてステラさんが笑顔で答える。


「俺もー!受けるから!」


「うん!!」


にこりと互いに笑って、そうして彼女は手を振り、背を向けてまたスティングさんと歩き出した。
シン少年の頬は赤い。
なんて微笑ましいのだろうか。若い二人の恋路を応援しよう。

 

 

しかし、温かい気持ちの俺の耳にとんでもないスティングさんと彼女の二人の会話が聞こえてくる。

「ステラ、大丈夫だったか?」
「うん。シンが優しかった・・・。変なエプロンの人が変だったけど・・・」

去り行く、二人の小さな声は、悲しいかな俺の耳にばっちり届く。
その声はだんだん小さくなって、その姿も見えなくなって・・・

 

「・・・・・・・・・・・」

 

ふと俺がシン少年に視線を合わすと、先ほどまで赤い顔で微笑んでいた彼はまた、
こちらに向けて哀れみの視線を向けていた。

 

 

「・・・大丈夫です・・・。そーいうの、俺んちにもありますから・・・・・俺は着ませんけど」

 

 

やっぱり君も変なヤツだと思っているんだな・・・。

 

 

 

 

 

 

 

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