シン・アスカの場合A

 

 

 

 

 

 

「なぁーんか勿体無いよな〜」

手のひらで先ほどもらってしまった206円をちゃりんと鳴らす。
なんだか全財産を奪いとってしまった変な気分も残っているが・・・。
そのせいかこのお金を使うのが勿体ないような気がする・・・。

もし、この学校、あの金髪が受けること前提で、俺がやっぱりここを受験することになって、
もし、二人とも受かったら・・・・・・その時にこの206円を返そう。
俺は小銭をジーンズのポケットにつっこんだ。

 

「さて・・次はどこ行こうかな」


1人で周るのも楽といえば楽だけど、話し相手がいないから自然に独り言になってしまう。
なんだか寂しいやつだな・・・。
メイリンはまだまだアクセサリーとかそんなものの買い物だろうし・・・それに付き合うのはイヤだ。
そういえばルナはどこだろう?生徒会の仕事があるからそうカンタンに自由な時間はとれないだろうけど・・・
俺は携帯を取り出してメールを打ち始めた。
直接電話をかけてもいいけれど忙しいと出る事もできないだろうし、メールならいつでも返事ができるはずだ。

ルナやメイリンと違って苦手な携帯メールをルナ宛てに打つ。
こんなちっちゃなボタンでよくあんな高速で文字が打てるよな・・・。女の子ってすごい。
何度もどんな文章にするか悩んで結局簡潔なメールを書き終わった。
それをルナに送信してから俺はまた校内案内図を広げてみる。
さて、次はどこだ。
たこ焼きって気分は削がれてしまった。それならばヤキソバか。
どのみち飲食関係全部を制覇する予定だから、どこからどう周ろうとあんまり関係なかったりする。


「えっと・・・ここから一番近いのは・・・」


俺は地図に集中していた。食べる時間を増やすために歩きながら。
それはまるで先ほどのたこ焼きのように・・・だから今回もやっぱり前が見えていなかったのだ。

 

「うわ!」


「・・きゃ」

 

目の前の、何かに直撃してしまった。
さっきと違うのは俺はひっくり返らず、目の前の<何か>が転んだことくらいだ。


まったく、今度は一体誰なんだ!!と大声で怒鳴ってやろうとして、口を大きく開いたところで、そのまま俺は止まってしまった。
目の前には、華奢な1人の金髪の可愛い女の子。
転んだせいか地面に尻餅をついたまま痛そうに顔を歪めている。


「う・・わ!ごめん!俺・・・!」


もしかしたら女の子に怪我をさせてしまったかもしれない。
いつも母親から「女の子は大切にしなさい!」と言われ続けてきたせいもあってか、俺はけっこうフェミニストだ・・・多分。
慌てて彼女に駆け寄り、その身体を支えて立たせてあげる。
ふらつきながらもその金髪の子は俺に身をまかせて立ちあがった。


「ごめんね!大丈夫・・・?」
びくびくしながら表情を覗きこむ。
「・・・だいじょうぶ」
「そ、そうか・・・!」
ほっとした。どうやら怪我もなさそうだ。一大事にはならなくて本当によかった。
「ほんとにごめんね!俺、前見てなくって・・・!」
「ううん・・・」
金髪の女の子が首を振りながら答えた。それを見て、彼女を支えていた手を離す。
ところが、その金髪の子は離した俺の手を掴み返してきた。


「え!?」


どきりとした。
いっつもルナやメイリンに引っ張られ引っ叩かれぶん殴られ・・・女の子に触れられると言えばそんなことばかりだったので、
こんなふうにそっと、でもしっかりとぎゅっと自分の手を握られることなんてなかったのだ。
初めての感触に、俺の心臓が大きく鳴る。


「え?え・・?あ、あの!」
「・・・みんな、いない」
「へ!?」


何を言われるかドキドキしていたのに、金髪の子が言った言葉は意味がよくわからない言葉。
・・・正直、ちょっと期待してしまっていたのに・・・。
ほら、少女漫画だと、ぶつかって恋が始まる〜!とかってよくあるし・・・。
どうせあんなのは漫画だけの世界なんだよな・・・。よくわかった。


それにしても、みんないないって・・・この子、まさか・・・

 


「君、迷子、なの・・・?」

 


金髪の子は静かに頷いた。

 


ま、まさか・・・!
だってこの子、俺と同じ年くらいだろう?
この年で迷子になるもんなのか!?


「け、携帯は・・・?」
「・・・ない」


一番有効な連絡手段の携帯を持っていないとは・・・。
どうすればいいのだろうか。
ここでこの手を振り払って見捨てるのも、なんだか子犬を捨てるような気分だ。
そんなことをしてしまえば、後ですごく後悔してしまうはず・・!
まっすぐな瞳がこちらをじっと見ている。
あぁ、俺、迷子のおまわりさんでも何でもないんだぞ〜!

 

「そ、そうだ!」


「?」

 

確か校内案内図に、迷子関係のことも記載されていたような・・・何となくだけどそんなことを思い出す。
俺は校内地図を広げてみた。
端から一教室ずつチェックしていくと、放送室のところに迷子案内と書かれてあるじゃないか。

「こ、ここ!ここに行こう!ここ行けば大丈夫!」
「・・・うん」

地図のそこの場所を指差して言うと、金髪の子はまた静かに頷く。
俺は繋がれたままだったその子の手を引っ張る。
やっと安心したのか、その金髪の子は微笑んだ。
その笑顔がすごく可愛くて、ルナやメイリンに感じたことのないような感覚が湧き上がる。


なんだこれ。
・・・守ってあげたい感じ。
なんだかマユみたいだな、と、今日は家で留守番中の妹を思い出す。
でもやっぱりそれとはちょっと違う気がして・・・

 

その答えはわからないまま、ドキドキしながら俺はその金髪の女の子の手をひっぱって、放送室まで案内した。


 

 

 

 

 

 

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