アスラン・ザラの場合A

 

 

 

 

 

 

「な、なんてことだ・・・っ!?」

 

俺は驚愕していた。
いや、目の前につきつけられた現実に、喜ぶべきなのか悲しむべきなのか・・・
まわりきらない思考回路を叩き起こすかのようにして必死に今の状況を整理する。

 

朝早くから生徒会の集まりがあった。
『はいはい、今日はがんばりまっしょいー。えいえいおー!』
なんてハイネ会長のふざけた号令と掛け声でその場は笑いに包まれ、
緊張の抜けた生徒会一同は一通りやるべきことを手際良く終わらせた。
『あ、おまえ自分のクラス見てきていいぞ?今しかチャンスはないからな〜』
なんてことをこれまた会長に言われて・・・、俺はやっとカガリに会えると喜びを隠さず2ーCの教室へと向かった。
あぁ、これでカガリに会える、会えるんだ・・・!

そこまではよかった。
いや、今もいい。すごくいいんだ。

だが・・・っ!

 

「そ、そんなに変か・・・?この衣装・・・?」


膝丈の、紺のスカートをひらりと翻してカガリがおずおずと尋ねてきた。
全体的に紺色をしたこの服装は、月の色をしたカガリの綺麗な金髪によく映え似合っていて、
白いエプロンの純白フリルがそれはカガリの可愛らしさを際立たせていて、
髪を止めているカチューシャも、これまたエプロンと同じ純白のフリル。


これは、まさか、いや、そのまさか・・・!

 

「メイド服って初めて着たけど・・・やっぱり恥ずかしいなぁ〜」


カガリが頭をかきながら、えへへと言葉通り恥ずかしそうに笑っている。
可愛い、可愛すぎる・・・!メイド服カガリ・・・!!

 

「な、なんでメイド服・・・!?」
「あれ?生徒会に通してOKもらったからてっきりおまえ知ってるかと・・・」
「き、聞いてない!」
「・・・会長のお許しはもらってるはずなんだけどなぁ・・・、聞いてなかったのか〜」
「!!」

ハ、ハイネ会長・・・!あの人は・・・ッッ!!
どうせ自分が見たいから軽くOKサインを出したのだろう。
カンタンに想像がつく。

けれど、なんてことだ・・・!!
実際生徒会の人間ではないとはいえ、あれだけ手伝っておきながらこの事実を知らなかったなんて!!
この数週間、生徒会の仕事ばかりでクラスの仕事に手をつけていなかったせいで、
クラスの状態が一体どうなっているのか知りもしなかった・・・!!
まさかこのクラスの喫茶店の制服がメイド服だったなんて・・・っ

こんなことなら去年買ったデジカメを持ってくるんだった・・・!!

「け、携帯・・・っ」

後悔ばかりが襲いそうで、俺は慌てて制服のポケットにつっこんでいた携帯を取り出そうとする。
デジカメは無理でも、今の世の中は携帯電話にカメラがついている。
携帯電話なんかにカメラをつけてくれた人間を、今日ほど偉大だと思ったことはないだろう。
早速自分の携帯で可愛いこのカガリを永久保存しようとさりげなく取り出すつもりが、手が汗で滑ってうまくいかない。

「うわ!バカ!携帯つかって写真撮るなよっ!」
「えぇ!どうしてダメなんだっ!?」
「こんな恥ずかしい格好の写真撮ってあとでバカにするんだろうっ」
「ち、違う!そんなわけないっ」
携帯に撮ったカガリの姿は待ちうけと着信画面にするだけだ!と俺がカガリに伝えようとする前に、

「あ!」

と、そう驚きながらカガリの視線が俺の背後へいく。

だ、誰か来たのか・・・?
イヤな予感がする。とてもイヤな予感が。
その予感はどんぴしゃとなって、明るい声が俺の耳に届いた。

 

「いや〜カガリちゃん、可愛いねぇ!こっち向いてー」

 

「・・・・・・ハイネ会長・・・」

 

俺のイヤな予感はあたってしまった。当たってほしくなかった・・・。
ハイネ会長は右手にデジカメを持ってカガリのメイド服姿の写真をにこやかに撮っている。
俺からしてみればそれは変態と紙一重のような気がしないでもない・・・。

「今、空き時間利用して可愛い女の子の写真撮ってるんだよ〜」

デジカメのシャッターを切りながら言う。
カガリは自分が撮られていることに気付いて瞬間に紅くなって可愛らしい抵抗の声をあげる。

「も、もう!ハイネ会長ってば!やめてください!は、恥ずかしいですよ・・・っ」
「え〜、可愛いのに!もう一枚だけ、ね!」
「・・・・・い、一枚だけですよ?」

カガリが照れて頬を紅くしてこくりと頷きながらそう言った。

「ちょ、ちょっと待てカガリ!なんだその対応の違いは!?」
「え?」
「え?じゃない!俺はダメで会長はいいのか!?」
「いいよね、カガリちゃん」
「あ、はい」
「どうして!?俺と会長の差は一体なんなんだ!?」
「だーから日頃の行いじゃねーの?はっははは〜!」
「・・・・・・!!」

もう1度シャッターを切ったあと、高らかに笑い出したハイネ会長の背中を蹴ってやりたい衝動を必死に抑えこむ。
相手は先輩だ!我慢しろアスラン・ザラ!
俺だってカガリのこんな可愛い、もしかしたら2度とお目にかかれないかもしれないこの姿を、
会長以上にちゃんと残しておきたいと思っている。先ほど取り出そうとした携帯をポケットから探り出す。
やっとのことで姿を表した自分の携帯の画面を開いてカメラをカガリに合わせる。

「か、カガリ・・・!一枚だけ・・・!」
「あらら!もうこんな時間だ〜。行くぞ、アスラン。生徒会はおまえを待っている〜!」
「へ!?」

がしりと首元を掴まれて、俺はハイネ会長に引きずられるようにその場を後にする。

「ちょ、ちょ、ちょ・・・!!」
「アスラーン、がんばってなー」

カガリが笑顔でこちらに向けて手を振っている。
あぁ、可愛い。
せめてその遠ざかる可愛い姿を・・・と、起動させた携帯カメラの撮影ボタンを押した。が。

「・・・・・ぶ、ぶれてる・・・!ハイネ会長ストップ!今ならまだ間に合う・・・!」
「何を言うか!生徒会は時間厳守が鉄則だ!守れアスラン、未来の生徒会長よ!」
「ちょ、ちょ!!・・・カ、カガリ〜!カガリィ〜〜〜!!!」
「アスラーン!ファイトぉー!」

 

噛み合わない会話でも、彼女が笑顔で頑張れと言ってくれればそれだけで頑張れる。

 

 

 

 

 

・・・・・・・・でも、写真だけはこっそり仕事を抜け出しても必ず撮ろうと決めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

キラ・ヤマトの場合

 

 

 

 

 


「こっち向いてー、カガリ♪」

「へ?」

彼女がまぬけな声とともに振り向いた瞬間のシャッターチャンスを逃さずに、僕は携帯のセンターキーを押した。
撮った写真を確認してみると、我ながら綺麗に撮れているではないか。
2週間前、新しい携帯を購入する時、高性能カメラがついてるものを選んで大正解だ。

「保存、保存と・・・」
「わ!こら、やめろよ!」
「いいじゃない〜。可愛いよ?」
「どーせ後でバカにするんだろうっ」
「しないよー、そんなことー」
こんなに可愛いのに・・・バカになんてできないよ。

我が妹は容姿には自信がないらしい。
女の子らしい格好は本当に珍しくって、このチャンスを逃せば次にやってくるのは成人式の晴れ着か、
(カガリのことだから晴れ着どころかパンツスーツにしそうだ・・・)
はたまた最悪の場合ウエディングドレスかくらいだ。
結婚式なんて永遠に来ないでいてほしい僕としては、残り1回あるかないかに賭けるより、
この瞬間をばっちり永久保存しておかなければと勇んだのだ。

そしてこれを後でアスランに見せびらかしちゃおうなんて、ちょっとしたことを企てていたり。

「もう!キラもアスランと同じようにからかうつもりのくせに!」
「え!?アスラン来たの!?」
「あ、あぁ・・・。ついさっき・・・」
「えーーーーーーー!!??」

てっきりアスランは生徒会の仕事の手伝いで走りまわってるからここには来ない・・・
というか来る事ができないとばかり思っていた。
ここに来たってことは絶対、カガリの写真を撮っている・・・。
僕の小さな悪巧みは残念ながら失敗に終わってしまった。

「アスランも写真撮ったのかぁ・・・」
「いや、アスランは撮ってないぞ」
「え?」
「撮らせなかった」

言い切る彼女を見て、僕はすぐにその場の二人の光景を思い描けた。

「アスラン、粘ったでしょ?」
「粘ったけど会長に連れてかれた」

さらにその光景を思い描く。
泣き叫ぶアスラン。
無自覚無情にも笑顔で見送るカガリ。
してやったり満面笑顔のハイネ会長。

 

・・・・やっぱりアスランに見せびらかせよーっと

 

携帯画面に移っている可愛いカガリの写真に目を移してそう思った。

 

 

 


「ところでさーキラ。おまえは自分のクラスに戻って手伝いしなくていいのか?もうすぐ祭始まるぞ?」
「あ、僕は今から昼までが自由時間だから。真っ先にカガリのとこに来たんだ」
「へ〜、じゃ、売上協力よろしくな!」

カガリが僕の腕を引っ張る。
祭はまだ始まってないけれど、何人かここの生徒がすでに飾り付けされている教室の中に入って
飲み物を飲んだりして一息ついていたりする。
カガリのところは喫茶店だから、休憩するにはちょうどいいのかも。
僕もあんまりお腹は空いていないけれど、飲み物と軽いもの頼むことにした。

「カガリが作ったものある?」
「私か?朝早起きしてパウンドケーキをたくさん作りました〜!」

自信満々に答えたカガリのためにも僕はカガリの作ったというパウンドケーキと紅茶を頼んでみよう。

 

 

店内(教室のことだけど)に通された僕は、そこでもう1人見知ったメイドさんがいることに気付く。

「あ!いらっしゃ〜い、キラ〜、久しぶりね!」
「フレイ。こんにちは」
「ね、ね?これ可愛いでしょ?似合うでしょ?」
「うん、すごく似合ってる」

僕とフレイの会話に、カガリがびくりとして心配そうにこちらの様子を覗った。
なんてわかりやすいんだろう・・・。心配しなくても大丈夫なのに。
僕は案内された席の椅子をひいて座ってから、カガリとフレイを交互に見やった。

実は僕とフレイは少し前まで彼氏彼女という関係にあった。
カガリとアスランの友人ということで紹介されたんだけれど、
なんだか何時の間にか付き合ってることになってて僕も流されるままだったけれど、ある日突然別れは訪れる。
「キラ、アタシとアンタって合わないみたい」
続いて、「アンタもカガリが一番だったなんてっ」
・・・と言われたことから推測するに、どうやらアスランにも気があったらしい。

僕がつい、「アスランにふられたの?」なんて聞いちゃったら、
「アーターシーが!ふってあげたの!」と言われたから、そこからさらに深く推測していけば、
アスランに気はあったけど、カガリ一筋の彼を見てあまりの溺愛っぷりに呆れかえり潔くすっぱり諦めたのだろう。
(・・・アスラン、顔はいいから気になったんだろうね・・・。)

けれどプライド高そうな彼女にそんなことを言ってしまえば怒りを買うのは目に見えて、僕は大人しく彼女と別れた。

・・・・というより、ホント、いつ付き合ってることになってたんだろう?

こんな可愛い子だから悪い気はしないけれど・・・それが不思議でしょうがない。
今では僕とフレイは性別を超えた何でも言い合える親友のようになってしまった。
彼女のそういうさっぱりしたところは大好きだ。

だからカガリが心配するような泥沼関係なんて全然ないから安心していてほしい。
僕がそんな意味をこめてカガリに向けて微笑むと、カガリも安心したのか微笑み返す。
フレイが「またか・・・」とため息まじりにそう言ったのが聞こえてきて、そのままフレイは別の生徒のところへ行ってしまった。
フレイが呆れかえるほど僕は妹思いなのか・・・。でも、カガリを心配させたくないんだもん。
幼い時離れ離れになっちゃったから余計にそう思う。


それにフレイは可愛いから、僕なんかじゃなくってすぐにちゃんとした恋人見つかると思うし。
僕は・・・どうだろう。


「20分間の昼食タイムはもらえるけど、自由時間は1番最後なんだよなぁ〜」
カガリが頼んだ紅茶のカップをかちゃりと僕の前に置いて言う。
「でも最後も後片付けしなくていいんじゃないの?」
「う〜ん、どうだろう。手伝わされそう」
「カガリは?自由時間は1人なの?」
「いいや、ラクスと時間が合うから一緒に周ることにしてるんだ!」
「ラクス・・・」
「そう!」


ラクス・クライン。

ピンク色の髪がふわふわした可愛い女の子だ。
本当に可愛い子で、去年新入生カワイ子ちゃんコンテスト(この名前ダサいけど…)のNo1に選ばれていたのを思い出す。
カガリにこの学校で知り合った親友だって言われたときは驚いた。
だってカガリと正反対っぽい子だったから。
僕も話したことあるけどやっぱりカガリとは正反対で、でも柔らかな感じが好印象のいい子だった。


僕は紅茶を一口含んだ。
甘さが感じられず、砂糖をいれ忘れていたことに気付く。
机の上に置いてある砂糖の袋をあけて砂糖を入れる。

さらさらと、紅茶の中に注がれてゆく甘い砂糖を見ながら僕は呟いてしまった。

「・・・ラクス、は・・・」
「え?」
「あ・・・!ううん、何でもない・・・っ」

僕は慌ててソーサーとカップとお揃いの色をしたスプーンで砂糖をかき混ぜた。
ぐるぐる渦巻く紅茶を見ていて落ちついてくる。
未だに僕の発言できょとんとしていたカガリが、気を取り直したのか、
切り分けたパウンドケーキをトングを使ってお皿に上にのせた。
それをまた、紅茶のカップのように僕のところまで持ってきてくれて机に置く。

「チョコが私の作ったやつな!」
「うん、ありがとう。・・・美味しそう!」
「美味しいんだぞっ」
「わかってるよ」

カガリのこういうところが可愛い。
フレイに呆れかえられても、あとで僕とカガリのツーショット写真を撮ってもらおうっと。

 

 


でもさっきから気になってることが・・・


ちらちらと男子生徒がカガリに携帯を向けているような気がする。
隠し撮りってやつ・・・?
僕はそのうちの1人を睨みつけると、彼は慌てて携帯をポケットへと隠した。
まだこの学校の生徒しかいないっていうのにこの状態じゃ、後が大変だな・・・。

 

甘くなった紅茶を飲みながらもう1人の男子生徒を睨みつけた後、僕はカガリの作ったパウンドケーキに手をつけた。
それはやっぱり僕の妹が作っただけのことはあって、ちょっと甘め。でもすごく美味しくて・・・

僕はパウンドケーキに夢中になりながらも、
ちらちらとカガリに視線を合わせてる男子生徒を牽制することも忘れず2−Cでに楽しい一時を過ごした。

 

 

 

 

 

 

 

 

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