10月28日金曜日。

あの日、から2週間と3日。
あの日、とは可愛いエンジェルとへタレ男の仲直りの日だ。
そしてハイネという美形で文武両道の男が影ながらに二人の背中を押した日でもある。
その男の活躍は世間に明るみにはされていないが、それはそれは素晴らしい活躍、助言をしたらしい。
けれどその男は、それをひけらかすことさえなく二人をただ温かく見守っている。
人望厚く、真面目で穏やかで優しい素晴らしい男・・・・

「そいつをおまえは知らないのか!?」
「そんな男はどこにもいませんから」

 

 

 


決戦前日 10月28日

 

 

 

 


今日もダコスタくんが淹れてくれたお茶を啜りながらやっと訪れた安息の時に談笑していたのだが、
俺の素晴らしい説話もこいつは涼しい顔で一蹴しやがる。

「おまえ、少しは感激しろよ!まぁ、すごい!そんな素敵なお方がいらしたなんて・・・!」
「ひけらかしてる時点でおかしいと思いません?」
「ひけらかしてるんじゃない!後世に伝えているんだ!」
「・・・・・・・・・・」

呆れた視線を投げかけながら帰り支度をしてる可哀想な男は無視することにして、俺はまた茶を啜る。
明日やってくる俺の最後の大仕事でもある文化祭の準備はほぼ終えた。
あとは明日を待つばかり、今はのんびりと生徒会室でお茶しているところで、辺りはもう暗闇の時間だ。
こいつの想い人で可愛いエンジェルは、とっくに下校しているらしい。
この学校に残ってるのは生徒会関係の人間と教師くらいだろう。
とは言え、他の生徒会メンバーも女の子を筆頭に先に帰した。
茶を淹れ終えたダコスタには、女の子たちのナイトになれと見送りを命じて、
今じゃ俺とアスランだけがこの部屋で最後まで居残っていた。
それをつまらなさそうにしながらも文句1つ言わず付き合ったアスラン。

いやはや、実にこの2週間こいつはよく働いたと思う。
そのうち「カガリに会いたぁい!俺もう我慢できなぁい!」なんて言い出してここから逃げ出しやがったら
どんな制裁を与えてやろうかと(考えると楽しかった)思っていたけれど、それは(残念ながら)無駄骨だったらしい。


帰り支度を終えたのか、アスランはコートを身に纏おうとしているところだった。
10月も末になると、夜風が身に染みる。
太陽も沈み切ったこの時刻は、特に冷たい風が身体の体温を奪っていくだろう。
ダコスタくんのお茶が冷える身体を温めてくれる。
今日はもう彼は居ないから、湯のみを洗うという大仕事も残ってしまったが。

「それじゃ、俺は帰りますんで」

学生鞄を手にアスランが俺に一礼した。
こういうところは相変わらず丁寧なやつだとは思う。

「おぉ、気をつけてな。可愛い子にアメもらっても付いてくんじゃねーぞ」
「・・・ついていきませんし」

そう言って呆れた視線をまたこちらに向ける。
そんなことはわかってる。
おまえがカガリちゃん以外興味がないってことくらい、イヤというほどわからされているのだ。
それが男として健全な身体と思考なのかはわからないが・・・

アスランが生徒会室を出ようと鞄を持ったままドアまで歩いていく。
俺はその後姿に向かって軽く手をふりながら別れの挨拶をかけようとしたら・・
やつがぴたりと止まって振りかえらないままで、小さな声が聞こえてくる。


「明日・・・最後ですね」


どこか寂しそうなその声。
何か言いたいことを溜めこんでいたのか。何が言いたい。


「頑張りますから」


カガリと遊べるように自由時間をください、なんて言ったら絶対そんな時間を与えるのはやめようと思っていた俺も、
殊勝で先輩思いのその言葉に、少しくらい厳しい心を解いて優しさをを見せてあげようと思った。
可愛いところあるじゃないか。

「俺が好きなら好きとそう言えよ〜」
「違いますッ!・・・じゃ、失礼します!」
「お、若人よ、明日がんばろーなー」
「・・・はい」

アスランはまた小さくそう言いながら扉を開けて生徒会室を出た。

ガラッと音を立てて閉まった扉を見て、さて、明日のあいつの仕事はどうしよう、
何を減らしてあげようかと考えた時・・・

 


「え?!カガリ・・・!どうして?」

 


素っ頓狂なアスランの声が廊下から響いてきた。

 

「お疲れ様・・・待ってたんだ。いっしょに帰ろう?」

 

アスランに続いて可愛い天使の声が。

あぁ、なるほど。
カガリちゃん1人で帰らず、この寒い中ずっとアスランを待っていたんだな・・・。
なんて健気な子なんだ・・・!アスランにはもったいない!

 

「ご、ごめん・・・!カガリ、あぁ・・・冷たい!」
「平気だぞ?きゃ・・!もう、くすぐったい・・・!こーらぁ!」

 

・・・おいおい、こらこら。一体おまえは何をしてやがる。
そしてそんな風にできるのは一体どこのどなた様のおかげだと思ってやがる。

 

「アスランもちょっと冷たい・・・」
「カガリのほうが・・・・・」

 

廊下から響く甘い男女の戯れた声は次第に小さくなっていく。
どうやら二人とも移動し始めたらしい。


俺は火照りかけた身体を冷やすため、窓をあけて夜風を身体にあびた。
さっきまでは寒いくらいだった外の空気が今は身体にちょうどよい。

 

明日は10月29日。文化祭の前に可愛い後輩、アスランの誕生日。
先ほどの、鼻の下のばした容易に想像できるあいつのその顔に、俺は微笑んでしまう。

 

「素敵な先輩は我が後輩を千尋の谷に突き落とす・・・か」

 

俺からのたっぷり愛情込めた誕生日プレゼントはたくさんの仕事に変更・決定!
君の愛しのエンジェルと遊べる時間を与えてあげるなんて中途半端な優しさはやめようと、微笑んでしまったのだ。

 

「いや〜明日が楽しみだなぁ〜」

 

我ながら独り言が多くなったと自覚しつつ、俺は湯のみに残ったお茶を一気に飲み干す。
湯のみの底のわずかな茶葉が口内を苦味でいっぱいにしたが、やっぱり俺の笑いは止まらなかった。

 

 

10月29日に向けて。
俺の笑いは止まらないのだ。

あぁ、もうほんと、あいつといると毎日が飽きない。

 

 

 

 

 

 

 

 

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