ストロベリー×バニラ

 

 

 

 

 

生徒会の手伝いを終えた後、俺は暫くその場でぼうっとしていた。
夕焼け色に染まっていた空もすぐに暗闇へと変わるだろう。
そろそろクラスにいる生徒たちも作業を切り上げてる頃のはず。
まだ文化祭までは時間があるし、急ピッチですすめなくてはいけないことでもない。

今ごろ帰宅準備でもしているのだろうか・・・と愛しい彼女の姿を思い出す。

思い出せば切なさはさらに増し、俺はため息をつくしかできなかった。
いったい、カガリと喧嘩してからどれほどのため息を使ったのだろうか。
そんなどうでもいいことを考えていたら、生徒会室の扉がノックされる音が聞こえた。
まだ生徒会の人間でもないのにそのノックに返事をしていいのかどうかもわからなくて俺が黙り込んだままでいると、
3度ノックの音が響いたあと、自分がよく知っている声が聞こえてくる。
「・・・失礼します」
「カガリ・・・!?」
扉が開いたのと同時に、俺が会いたくてしかたなかった人がそこに居た。
それに驚いて慌てて席を立ちあがる。
勢い余って椅子は大きな音を鳴らしたのと同時に、カガリが生徒会室に入ってきた。

「・・・・・あ、・・・おまえ1人・・・?」
「あ、あぁ・・・・」
「そっか・・・・」
「・・・・・・・・・・・」

会話が続かない。

沈黙だけがこの部屋を支配して、俺は逃げ出したくなった。
会いたくてたまらなかったというのに、いざ会ってみればどうすればいいのかわからない。
そもそも、この喧嘩の原因がいまだにわからないのだ。
もちろん、先ほど頭を掠めた思いに対して、もしかしたらという気持ちはある。
けれどはっきりしないうちは謝罪しようにもできない。
喧嘩というなら、あのメロンパン事件のほうが理由がわかっていた分ずっと解決しやすかった。
今は一体、何をどうしたらいいのだろうか。

でも、「どうして怒ってるんだ?」と聞くほうがもっと彼女の怒りに触れそうな気がして、何もできずにいる情けない俺。

「仕事の手伝い、お疲れ様」

俺がぐるぐる考えを張り巡らせていると、カガリが労いの言葉をかけてくれた。

「あ、あぁ・・・・」
「大変だったか?」
「あ、あぁ・・・・」

せっかくの久しぶりの優しく愛しい会話も返事はどこか曖昧で半端なような・・・そんな感じになってしまう。
カガリがくすりと笑った。
その笑顔を見て、俺は心の中で安堵のため息をついた。
毎日数え切れないくらいため息をついていた俺も、安らぎにため息をつくのは久しぶりだ。

そして・・・その笑顔のおかげで心のつかえがすっと取れ、自分の中にあった思いが素直に口から出てくる。
先ほどの、全幅の信頼を受けた会長の姿を見て思ったことが。

「俺・・・・生徒会、真剣に取り組もうって・・・思、う・・・」

静かな夕暮れの生徒会室に、俺の決意が響いた。
喧嘩中なのに何を言いだすんだろうと、自分で思ってしまう。
でも芽生えた思いを一番最初に知ってほしいのはカガリだ。

「撤回はしないのか?」

厳しい表情でカガリが問い掛けてきた。
それは少し意地悪な質問かもしれない。
カガリがそんなことを言うなんて・・・。試されている気分だ。
けれどごめん。

「・・・しないよ」

カガリの瞳を見るのが怖かったけれど、ここで逃げてはダメだと思い真っ直ぐに見据えて決意を伝えた。
そういえば、どこかこんなことが前にもあったような気がする。
喧嘩したあの日じゃない。
もっと前・・・そう、この学校に入って間もない頃・・・

中学の時から続けていた剣道部をやめると言った時、カガリは今と同じ厳しい表情で俺を見ていた。
その時に、やめるなよと言った彼女の言葉を聞き入れなかった。
高校生活はせめて少しでも多くカガリとの時間を作りたいと思っていた俺の勝手だ。
そのあと少しだけ悲しそうな顔をしたのを覚えてる。
それでも、喜んでくれると思ったから、悲しそうなその理由がわからなくて・・・

今度はあの時より悲しい顔をさせてしまうかなとも思い胸が少し痛む。
カガリの言葉を大人しく待っていると、険しい表情だったカガリがふっと、笑った。

「怒ってごめんな」
「・・・・・え?」

呆けた答えしか返せずにいた俺にむかって、1度目を見開き今度は少し声を出して笑うカガリ。
笑われても、その理由がわからず俺はそんなカガリを見ているだけだった。
暫くするとカガリの笑い声が静かになり、俺のほうをじっと見つめてくる。
久しぶりに合わせた視線に胸が苦しくなるような、躍りだしてしまうような・・・
彼女にしか与えてもらえない感情でいっぱいになる。

また柔らかかに微笑むカガリが、わずかに頬を染めて言った。

「今のおまえ、かっこいいぞ」

にこりと笑った彼女が眩しいくらいに俺の目に映った。
この幸せにくらくらとしそうな身体と頭。
あんなに怒っていたカガリは今、許してくれている。
この笑顔が、彼女の心からのものだと知っているから・・・。
だから、怒ってないのか?とか、どうして許してくれたのか?なんて・・・
そう聞くのも野暮のような気がしたから・・・何より俺が少し考えついた「理由」が当たっているような気がして、
俺はあまりちゃんと機能してなさそうな頭の中を叩き起こして、ありがとう、と小さく呟いた。
我ながら、なんて返事のしかただと思ってけれどカガリはそんな俺にまた微笑んでくれた。

「私、今日やる分の仕事は終わったんだ」

そう言って恥ずかしそうにまたこちらを見る。
手がもじもじと動いているのを見て、いつも強気の彼女もやっぱり女の子なんだなぁと実感する。
そんな彼女を見せつけられては、胸の中が新たな甘い感情でいっぱいになる。
そして気付く。
上目遣いの照れた頬、彼女の瞳が俺の言葉を待っていてくれているのに。
赤くなりそうな頬を・・・きっともう赤いんだろうけど、それを隠すことなく
彼女が待っていてくれている言葉を、俺がずっと言いたかった言葉を。

「俺も生徒会の手伝い・・・終わったんだ」
「うん」
「・・・・今日、一緒に帰ろう」
「・・・うん!」

カガリが手を差し出した。
それは俺の役目だったのに先手を取られたのが恥ずかしい。
でもそれ以上に嬉しさが勝って、俺は小さなその手を握り締めた。
夕焼け空が赤い頬を隠してくれているかもしれない。
でもカガリの赤い頬がはっきりわかったから、きっと俺の赤さも隠してくれてなんていないんだろう。

 

そして、夕焼けの眩しさのおかげであの時の約束を俺は思い出す。

「駅前の、アイスクリーム屋さんに行こう」

アイスクリームという単語を出せば、カガリの頬が喜びで染まる。
そんなところも可愛らしい。
ずっと前からの約束だ。今日こそ叶える。

「カガリの好きなストロベリーで。俺はバニラな?」

「・・・・・・うん!!」

あぁ、やっぱり・・・この笑顔が好きでたまらない。
もう喧嘩はこりごりだ。
この笑顔が見られなくなるのは耐えられない。
この笑顔が1年先も10年先も50年先だって俺のものになるように・・・。
今この瞬間と同じように大切にし続けたい。

 

 

・・・・・でも、やっぱりこんな喧嘩をする日もあるんだろうけれど。

せめてもうすぐやってくる自分の誕生日までは気をつけよう!

 

 

 

 

 

 

 

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